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10.鈍感令嬢と街

「わぁー……街……」


 エイジが瞳を輝かせて見渡している。そういえばエイジはここへ来るのは初めてかもしれないわね。私が前に来た時は一緒じゃなかったし。エイジがこんなにも嬉しそうならもう何だっていいわ!! 可愛いもの!! もっと早く連れて来てあげればよかった。

 それよりもここまで来る前に馬車に誰が一緒に乗るかの争いは何だったのかしら。


「じゃあ、リンダ……ほら」

「リオン、お前はどうしてリンダと乗ろうとしているんだ??」

「そうだな、ここは俺が一緒に乗ってやるよ」

「エヴァンもデレルも……何、言っているの?? 僕が誘ったんだから……一緒に乗るのは当然」

「すみません、皆さん、義姉弟で乗るのでそちらも是非、御兄弟で」

「……はぁ……」

「ああー??」

「何でそうなるんだよ」


 なんて……突然喧嘩を始めるんだもの。結構長い間やっていたけれど結局身内で固まるって事で落ち着いたのよね、それもかなり揉めた後。おかげで無駄すぎる時間を使ったわ。

 王子達はすでに馬車を降りていて楽しそうな表情。やっぱりお忙しいのよね、それにしては毎日公爵家に来ているけれど……。


「エヴァン様、デレル様、リオン様、楽しそうですね」

「……随分と久しぶり、だから……かな」

「俺もだな。特に用事もなかったしな」

「お前等もか。でもこうして来てみるとなんかワクワクするもんだな。うん、いい」

「そうですか。ふふっ、エイジも楽しい??」

「うん、リンダ義姉さん。街ってこんなにいろんな物や人がいるんだね!!」


 最初は意味不明だったけれど私もやっぱり街は好きだわ。リオンが来たかったんだから何処かに用があるのかしら。


「リオン様、何処か目的の場所が??」

「……いや、特には、あ……でも……」

「……?? どうされました??」

「新しいケーキ屋が……出来た、みたいで……女性に人気のようだったから」


 女性、って私しかいないわよね……という事は……


「もしかしてお一人では入りにくかったから私を!?」


 何故か驚愕の表情の皆、何か変な事言ったかしら。


「じゃあまずはそこへ行きましょう」

「え、皆……で??」

「ええ」

「僕もケーキ大好きです」

「あそこは紅茶も美味いらしいよな」

「ああ、俺もたまには甘い物食べるのもいいな」


 ニヤニヤと皆がリオンを見ながら言うのに対してリオンは溜息を吐いてから歩き出した。

 一体どうしたっていうのかしら?? やっぱり大人数だから?? でも五人よ、そんなに多いかしら。私は前世からあまり気にしないタイプだからよく分からないわ。何もしていないけれど何だか申し訳ない気持ちになるわね。リオン以外は楽しそうだからあまり気にしないようにしようかな……。リオンも何だかんだで楽しんでいるかもしれないし。


「かっ、可愛いお店っ!!」


 ケーキ屋の前まで着くと物凄く可愛いお店だったのでテンションが上がってしまった……。


「……やっぱり、リンダは可愛い物、好き……だよね」

「うんうん!! リンダ義姉さん可愛い物見ると本当に嬉しそうな反応するよね」

「そうなのか、お前可愛いモンが好きなのか??」

「あ、あー……そうなんですかね」

「へー、知らなかった。というかどうしてリオンが知ってるんだよ。エイジはまだ分かるけれど」

「……見ていれば、分かる……」


 へぇー……自分でさえ気付いていなかった。確かに私は可愛い物が好きっぽい。前世でもそうだったような。


「凄い観察力ですね、リオン様」

「……まあ、人間観察は好きだけれど……リンダは違う」

「え??」

「僕だってリンダ義姉さんの好きな物嫌いな物知っています!! そんなに凄い事ではありません」


 エイジったら……ふふっ。張り合っちゃって可愛いわー。つい頭をなでなでしてしまう、けれどエイジは真っ赤になりながら子ども扱いしないでって怒っちゃうのよね。そういうところも可愛いんだけれど。


「じゃあリンダの好きなケーキ選んだら勝ちにしようぜ」

「デレルも今知ったくせに勝つ自信があるのか??」

「……僕は、いいよ。絶対、分かるし」

「僕もいいですよ!! 負けません」


 何故!? 私が食べるケーキなのに!!

 言っても仕方なさそうなので私は一人席に座り選ばれるケーキを待つ事に。でも内装も本当に可愛らしいお店~。とっても気に入ったわ。リオンにお礼しなくちゃ。

 そして次々運ばれるケーキ、どれも可愛くて美味しかったので同点という事にしておいた。四人は悔しそうにしていたけれど別に勝って何かがある訳でもないのにどうしてこんなに一生懸命なのかしら?? 男性ってそういうものなのかな、勝負事が好きとか……私は素敵な時間を過ごせたから別に何も気にならないけれど。そもそも変な勝負って思っていたし。


「次は負けない」

「俺だって!!」

「……リンダは優しい、から。本当は僕が勝っていた」

「そんな訳ないじゃないですか!!」


 お店を出るとまた喧嘩している……楽しそうね。いつの間にこんなに仲良くなったのかしらね。王子達と義弟は。

 その後、お店にもいろいろ行けて、たくさんの素敵な物を見てとっても充実した日になった。まさかこんな風に思わせてくれるなんて、朝は正直ゲンナリする事も多かったけれど皆で遊ぶとこんなに楽しいものなのね!!


「あ、リオン様」

「どうしたの、リンダ……」

「コレ、今日のお礼です」


 私が小さな包みをリオンに渡すと綺麗な瞳をさらにキラキラと輝かせた。


「開けても?? いい??」

「ええ、もちろん」

「リオンだけずりー」

「デレル、お前だけ何も貰ってないからって拗ねるな」

「拗ねてない!!」

「……あ、うわぁ、凄く……綺麗。雪??」

「リオン様の瞳の色だったので……耳飾りですがリオン様なら似合いそうだったし小さいから大丈夫かなって……女性ものだと思うので嫌なら別に……」

「……嫌な訳、ない。ありがとう」


 うわ、リオンが笑った!! 珍しい、わよね?? 私が驚いているとその場ですぐにリオンは耳に付けてくれた。ぷらぷらとぶら下がる雪の結晶がリオンの儚さを表現しているようで思わず見惚れた。


「とっても素敵です……キレー……」


 楽しい一日の最後にまたいいモノが見れて、本当に来て良かったな。

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