泣きながら、前を向こう
柔らかいパン。
それだけで、幸せをもたらす。
幸福な食べ物。
ほんのりとりんごの香る、ふっくらと柔らかな食感。
噛めば噛むほどとろけるようになくなる甘やかな食べ心地。
それだけで、完結するほどの幸せをもらたす食べ物。
お祖父様は驚きすぎて、これまで見たことのないようなお顔をされていた。
お祖母様も、うっとりとでもしっかりと食べすすめている。
お兄様には、一つだけ。
たくさんはあげない。
悲しそうな目をしたって、知らない。
そんな光景を見ながら、私は幸せに笑った。
この、パン。
領地であれば、これからはずっと食べることができる。
まずは、孤児院のバザーから。
そして、レシピを携えて孤児院の子どもたちは旅立っていく。
もちろん、このパンの作り方は国に登録する。
このパンをこれからもこの品質で作り続けることができるのは、私が許可した人間だけになる。
ここから、みんなで力を合わせて出発しよう。
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りんごを発酵させた酵母を使ったパンは、我が領地を中心に一大ブームを巻き起こす。
皆のアイデアにより、パンに刻んだ果物を混ぜ込んだ甘いパンは毎日大行列である。
レシピを公開していないがため、我が領地に人が押し寄せた。
やがて、レシピを身に付けた孤児院出身の子どもたちが他領へと旅立っていく。
オランジェットブランドのパン屋が国内に展開していく。
もちろん、ある程度は計算していた。
それにしてもである。
ここまで大きくなるなんて、本当に驚いた。
他領へと旅立った子どもたちが安易にレシピを漏らさなかったのも良かったようだ。うちの真似をしようとしたパン屋は、すべて残念な結果に終わっている。
こんなに上手くいくと、嬉しいと同時に不安になるのは前世日本人の性かなぁ。
あの日
泣きながら兄が食べたパンは
私たちを幸せな未来へと導いてくれた。
ありがとう。
水っぽい果物は混ぜ込めないけど
りんごやパイナップルって良いですよね。
お読み頂きありがとうございます。
また、明日の19時に更新します。
よろしくお願いいたします。




