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神凪の鳥  作者: 紫焔
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第八十話

 全員で折半し、金貨一枚を支払って支度を終えた一行はミシェイレイラとの国境付近にあるジーンダームと呼ばれる街の冒険者ギルドの一室に転移してきた。

 元々国境沿いの街はどれも掘りや壁で囲まれたりしていたが、この街は輪をかけて物々しい。

 城塞都市と言った方が伝わりやすいかもしれない。

 街の中心部近くにある冒険者ギルドの窓から外を見て、志希は感心していたが声をかけられ直ぐに移動を開始する。

 初めて転移をすると目眩や吐き気を催す者もいるのだが、今回は適度に緊張をしているせいか誰もそれを起こさなかった。

 移動する足取りもしっかりとしており、支度をしてもらった馬に乗った時も誰一人ぐらつく事は無かった。

 ただ、困った事に志希は馬に乗れないのだ。

 その為、志希はイザークと相乗りをして一先ずマリール村を目指す事になった。

 相乗りは馬の体力を消耗するのでこういう時は倦厭する物なのだが、ギルド職員に渡した封書に良い馬を仕立てるように指示を出されていたようで体力のある足の速い馬が用意されていた。

 また、志希自身が小柄なので体重もそれほど重くない。

 なので、相乗りをしてもそれほど馬の負担にならないだろうと言う結論に達したのである。

 イザークの前に乗せられ、マリール村まで徒歩で大体三日の距離を休憩を取りながら馬を駆り何とか翌日の昼に村の外れに到着した。

 初めての乗馬で体のあちこちが筋肉痛になっている上に、お尻と内腿の皮がずる剥けになっていた志希は意識的に体の治癒力を高めそれら全てを癒す。

 馬の乗り方自体は“知識”があるので分かるのだが、体が覚えていないので馬に体を預ける事しか出来なかったのだ。

 無理やり体調を万全にした志希は、乗馬で疲れている筈の面々を見る。

 イザークは全く疲労の影など無いが、他の面子が若干疲れた表情を浮かべている。

「少し休憩してから、村に入るぞ」

 イザークはそう言って、周囲を見回す。

 それなりに大きな村だからか、畑が整然と並んでいる。

 畑の向こうには木造建ての家が並んでいるが、閑散とした雰囲気を醸し出していた。

「なんか、ちょっと寒くねぇ?」

 カズヤが馬を木に繋ぎ、呟きながら周囲を見回す。

 すると、今まで微塵も無かった霧が出始めており、視界が僅かに悪くなっていた。

 ミリアは疲労の色を残しながらも、険しい表情を浮かべて村の方を見ている。

「霊気だわ。この辺りに来てから、急に感じ始めるなんて……何かが邪魔をしているのかしら」

「だとすれば……この間の神官よりも手だれの可能性がありますね」

 アリアは眉を潜めつつ、畑の方を見る。

「この時間なら農夫が畑を耕してる筈なのに、人がいないのはやはり襲われたのでしょうか」

 暗い声音での呟きに、志希は顔を上げて告げる。

「……此処で少し休憩するんだよね? それなら、私が様子を見に行くよ」

 いつものように精神体で村の中の様子を見に行くと志希が言うと、珍しくイザークが難色を示す。

「いや、止めておくべきだろう」

「でも」

「わたしも、イザークの意見に賛成だわ。以前の様にバンシーが居た場合、厄介な事になるでしょう?」

 イザークの意見に賛成だとミリアは頷き、志希を見る。

「精神体の時にダメージを受けたら、落ち着く為に休憩を取るべきだと言う話になってしまうわ。それを防ぐために今回は精霊の視界を借りる程度で済ませるべきだと思うの。一々足止めをされるのは、この村にとっても良くない事でしょうしね」

 ミリアの説得に、志希は素直に頷く。

 迅速に動くべき時に自分が足を引っ張るのかもしれないと言われたら、控えざるを得ないだろう。

「なら、休憩が終わるまで風の精霊の視界を借りて村を見てるね」

「気になる事があったら、直ぐ教えてくれよ。あと、出来れば生きている村人が何処にいるのかとかも教えてくれ」

 カズヤが頼むと、志希は微笑みを浮かべて頷く。

「もちろん、分かってるよ!」

 カズヤの気持がわかるとまではいかないが、想像できる志希はそう言って目を閉じる。

 風の精霊が志希の意を汲み、村の中に風となって駆け抜ける。

 その一瞬で、志希は思わず口を押さえる。

 村の中にいたのは、歩く死体だけだった。

 白く濁った眼で虚ろに前を見て、ずるずると足を引きずるように歩く死体達。

 老人や大人だけでは無く幼児や少年、少女達まで居るのが見えた。

 どの死体も血に塗れ、無残な傷跡を晒している。

 首が半ばまで取れかかっている者、顔の半分程削ぎ落ちている者。

 あまりにもひどい傷に、志希の喉が思わず鳴る。

 しかし、まだ精霊との同調を切らずに村の中を見たいと願い、風の精霊は志希の意に従い村の中を駆け抜ける。

 建物の中の様子までは分からないが、この村は殆ど死に絶えているように思えた。

 だがしかし、村の中心部へ近づくにつれ歩く死体の数が増えている。

 村の中心部にはヴァルディルとエルシルの聖印を高く掲げた神殿があり、その神殿には精霊の目を通しても分かる程の強い法力を宿した結界が敷かれているのに気がついた。

 至高神としての位置づけが強いヴァルディルと、その妻として描かれるエルシルを同居させているからか、かなり大きな神殿だ。

 その入り口には、怯えと戦意をないまぜにした表情を浮かべるヴァルディルの聖印を首から下げた神官が立っていた。

 祝詞を唱え、死者を浄化しようと必死で祈っている。

 しかし、浄化される死者は一体しかおらず、焼け石に水と言った状況だ。

 そんな絶望的な状況だと言うのに、神官は己を奮い立たせて死者を浄化する祝詞を繰り返し、繰り返し唱えている。

 だが、奇跡を乱用すると精神の力がどんどんと削がれていく。

 神官は祝詞を唱える度に血の気を失い、顔色を悪くしていく。

 すると、後ろの扉が開き杖を持った老人が現れ神官を何事か諭し、中に入るように促した。

 長い白髪と、髪ほどもあるのではないかと思う程に長い白い髭。

 何かの映画に出てくる、絵に描いたかのような魔法使いの姿だ。

 その所作も、全てにおいて無駄のないものだと志希には感じられた。

 神官は老人の言葉に頷き、悔しげな表情を浮かべながら神殿の中へと入っていく。

 老人は一人残り、ついっと空を見上げる。

 丁度、志希が視界を借りている風の乙女を見上げるように。

「ふむ? 近くに精霊使いでもいるのかのぉ。そうであらば、風の乙女よ……この村の惨状を伝えジーンダームに応援を寄こして欲しいと伝言してくれないかのぉ? 村の周辺には結界が張られていて、わしの使い魔ですら抜けられぬ。外への転送儀式も行えぬので、窮状を知らせる事が出来んのじゃ」

 老人の言葉に、志希は言葉を伝えようとしてやめる。

 目の前にいる様に錯覚しているが、この老人との距離はかなり離れているのだ。

 此処で何か言っても、聞こえるのは仲間だけなのだ。

 老人は自身で伝言を頼んでおきながら、自嘲するように笑う。

「無理難題か……精霊に伝言など、無意味な物よ。わしが精霊使いでさえあればのぉ……」

 ふいっと視線を外し、老人は神殿の中へと戻る。

 それを見送ってから、志希は己の目を開く。

「この村の中心にヴァルディルとエルシルを一緒に祭ってる大きな神殿があって、そこに村の生き残りの人達がいるみたい」

 振り返り、志希は皆にそう告げる。

 その言葉に喜色を浮かべるカズヤは、しかしすぐに俯く。

 志希はその彼に問いかける。

「あのね。白髪と髭の長い、杖を持ったお爺さんが居たよ。それって、カズヤのお爺さんでしょう?」

「あ……ああ! 何でそんな事、分かったんだ?」

 驚き、思わず問いかけるカズヤに志希は真剣な表情を浮かべて告げる。

「神殿の前で、風の精霊に伝言お願いされた。ジーンダームに応援を寄こして欲しいって。村の中も、凄い数のリビングデッドだった。この村の人間だけじゃなくて、近隣の村で殺してリビングデッドにしたのをこっちに呼び寄せて、村を襲わせてるんじゃないかと思う」

 志希の真剣な声音に、ミリアの柳眉が逆立つ。

「なんて事を……!」

 怒りに震える声音で呟き、拳を握り締めつつミリアは深呼吸をする。

 此処で怒りにかられて冷静さを欠いても、害しかない事を知っているからだ。

 自身を落ち着ける為に深呼吸をしているミリアをよそに、カズヤは降ろしていた荷物を背負い直している。

「カズヤ、まだ休むべきだ」

 冷静なイザークの言葉に、カズヤは顔を上げ彼を睨みつける。

 志希から状況を聞いて、早く助けに行きたいと気が焦っている状況なのだろう。

 カズヤはイザークを睨みつけていたが、視線を逸らし深く息を吐いて荷物を降ろす。

「分かってる。分かってるさ……冷静にならねぇといけねぇのもな」

 震える声は焦りを押し殺しているのだと、如実に分かる。

 志希はそんな彼に対して痛ましさと同時に、羨ましさを感じる。

 それほどの気持を抱ける第二の故郷とも言える場所を手に入れている、その事に。

 しかし、志希は緩く頭を振り、そんな思考を振りはらう。

 今はそんな事を考えるのではなく、どうやって村にひしめく不死者達を退け教会まで行くかを考えるべきなのだ。

 また、この事態をどの様にジーンダームに届けるのかも重要になる。

 村を周って行ったんジーンダームに戻る予定であったが、これ程まで酷い状況である以上放置して戻ると言う選択肢は無い。

 何より、カズヤとアリアが許さないだろう。

 同じ様に、ミリアもアンデッドキラーとして頷くとは到底思えない。

「現状を、どうやって外に知らせようか?」

 志希の問いかけに、アリアが懐から宝石の様な小さな鳥を二つ取り出す。

「これを二つ借りました。片方はギルドに、片方はもう一組のパーティーに届くように設定されているのだそうです。これを飛ばす際に話しかけると、それを小鳥が記憶してそのまま伝えてくるものです」

「ナイス、アリア!」

 カズヤはそう言って、笑顔でアリアを見る。

 これでどうにか出来そうだと言う笑顔だが、志希は緩く頭を振る。

「……伝言を、どうやってギルドか他パーティーに託すかだね。カズヤのお爺さん、結構高位の魔術師でしょう? その人が、使い魔が結界に阻まれて抜けないって言っていたの」

 この言葉に、今度は絶望的な表情を浮かべるカズヤとアリア。

 地面を蹴りつけ、カズヤは頭を抱えて座り込む。

 アリアはそのカズヤに寄り添い、俯く。

「まだ、何か方法がある筈よ。諦めてはダメ」

 ミリアはそうカズヤとアリアに言い、元気づける。

 その光景を見ながら志希は冷静に、現状を考える。

 高位の魔術師であるカズヤの養父が持つ使い魔が、結界を抜けなかった。

 しかし、精霊は自由に行き来をしているのを考えたら魔術系の通信等を妨害する効力を持つっていると推測する。

 同時に、霊気を押し留め外へと拡散しないようになっているのだろう。

 精霊に伝言を託しても、精霊使いでも正確に意味を汲みとってくれるか心配だ。

 それに何より、伝言を託して全ての精霊が一斉に精霊使い達の元へと走った場合、志希の異能がばれてしまう。

 なので、この手段は最後だと考えつつ後ろを振り返る。

 前方とは違い、後ろの方は元来た道が見えない程濃い霧が立ち込めていた。

 あからさまに不自然なこの霧に、志希は眉を潜めもっとも霧が濃い方に歩き出す。

 真っ直ぐに霧を抜けようと歩くと、直ぐに目の前が開けた。

 そこには、志希が歩き出したのに驚いて立ち上がったらしいアリアと、目を丸くしているカズヤとミリア、片眉を上げているイザークがいた。

「外に出られない様に閉じ込める効果もある結界って事だね」

 志希はそう言いながら、霧の方を向く。

 濃霧がある所に手を入れ、そこに何も無いのを確認していると。

「多分、そこから空間がねじ曲がって先に進めない様になっているんですね。魔術での通話なども妨害する効力もある、かなり大きな結界……遺失魔術が込められた、貴重な魔道具が使われているのではないでしょうか? 現在、この様な結界を張れる様な魔術師は殆どいませんから」

 アリアはそう言いながらカズヤの隣に腰をおろし、霧を見ながら言葉を続ける。

「結界自体も大規模ですし、維持するための魔力が足りません。魔力の有無は人それぞれですけれど、普通の人間やアルフであってもこれだけの結界を何日も維持するのは無理ですから」

「なるほど……となると、これを破れば外に連絡が取れるんだな?」

 カズヤが問いかけるが、志希は頭を振る。

「結界を破れば村のリビングデッド達が一斉にこっちに来るか、教会を襲うと思うよ」

 志希の言葉に、イザークが同意する。

「だろうな」

「どうしろって言うんだよ!!」

 カズヤが悲鳴の様な声を上げ、冷静なイザークを睨みつける。

「考えろ。何か、外へと知らせる方法がある筈だ。諦めたらそこで終わる」

 イザークは冷静さを欠いたカズヤにそう告げ、志希の隣に並び問いかける。

「この手の結界は、地面の下まで届いている物なのか?」

「……霧が結界の効果だとしたら、地中まで届いていないかもしれなかも……一応、確認してみる?」

 志希の問いに、イザークは頷く。

「頼む」

「分かった。ちょっと離れて、待っててね」

 そう言って、志希は地面に手を着く。

 土に宿る精霊達にこの場所から、元来た道の方に長めのトンネルを掘ってくれるようにお願いする。

 土の精霊達は志希のお願いに歓声を上げ、一瞬で志希の望む物を作り上げた。

「それじゃ、私ちょっと行って確認してくる。少し待っててね」

 そう言って、志希は自分の体より二回りほど大きな穴に飛び込み、匍匐前進する。

 少ししてから出口が見えたのでそこから顔を出すと、見事に結界の外だった。

 思わずガッツポーズを取ってから、そのままトンネルを通って皆の元へと戻る。

 態々トンネルを通ったのは、結界に通った人間を識別する能力があった場合、厄介な事になるからだ。

 それを考慮して、志希は行動したのである。

「向こう側に出れるよ!」

 志希が満面の笑みを浮かべて言うと、カズヤが顔を輝かせる。

「マジか! それじゃ、その……アリア頼む!」

 アリアから小鳥を借りようとカズヤが手を出すと、アリアは頭を振る。

「いいえ、これを起動できるのは魔術師の心得があるものだけです。ですから、わたしかシキさんのどちらかがあちらに行かないと使えません」

 アリアの言葉にカズヤががっくりと肩を落とすと、志希が手を上げる。

「アリア、それじゃ私が行くから貸して。土が剥き出しだから、もう汚れてる私が行った方がいいでしょ?」

 志希の言葉に、アリアは若干戸惑いの表情を浮かべるが直ぐに頷く。

「お願いします」

「うん、任せておいて!」

 志希は笑顔で宝石の小鳥を受け取り、再び穴の中に入り反対側に抜ける。

 穴から顔を出し、小鳥に向けてマリール村の現状の全てを告げ、出来るだけ早く応援を要請する。

 いつからマリール村がこの様な状態なのか全く分からない以上、食料などが何時まで持つか分からないのだ。

 また、自分達がこれから生き残りを探して村の中に入るのも告げておく。

 嘘を吐くのは心苦しいが、村に入る前から生き残りが居るのを何故知っているのか聞かれては困る。

 己の都合を優先させてしまった後ろめたさを感じながら、志希は小鳥を空へと飛ばしトンネルを通って皆の元へと戻るのであった。

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