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神凪の鳥  作者: 紫焔
フェイルシア王国
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第六十八話

「ただいま~」

 志希はそう声をかけながら、マティアスの店に入る。

 昼間に壊された扉は既に修復されており、これをした少年たちはかなり手慣れている事がうかがえる。

 それ程までならず者が店を荒らしに来ているのかと思うと、流石におかしいと志希は感じる。

 いや、そもそもこの店の環境がおかしいのだ。

 衛士が様子を見に来ない上に、ギルドで依頼を断られる。

 何故、どうしてと言う疑問を抱くが、今のところその辺りが全く分からない。

 ならば、調べるしか手はない。

 志希がひとり頷くと、奥からカイと呼ばれていた少年が出てくる。

 カイは志希を一瞥してから、後に続いて入って来るマティアスに駆け寄る。

「親方、お帰りなさい。どうでした?」

「ダメでしたよ。一体何が悪いのか……全く分からないです」

 疲れたように笑うマティアスに、カイは表情を曇らせ志希とイザークをほんの少しだけ睨む。

 ギルドに依頼を出した方が良いと言い出したのは、イザークだったからだ。

 ダメでした、と言う話を聞けば睨まれるのは当り前だろう。

 だが、カイは文句を言う事なく直ぐにマティアスを気遣う。

「取り敢えず、上でヨルンさんが待ってますので上がりましょう」

 この言葉にマティアスは頷き、疲れた表情で二階へ上がりヨルンと仲間が待つ部屋に入る。

 志希とイザークも後に続いて入り、深く息を吐く。

「で、マティアスさんの表情を見て思うんだが……ダメだったのか?」

 カズヤがそう、単刀直入にイザークに問う。

「ああ」

「その割に遅かったけどよ……アレ使ったのか?」

「その通りだ」

 カズヤの問いにイザークが頷くと、そうかと彼は嘆息を零す。

 一体何の事かと不思議そうな表情を浮かべ、二人を見る志希達。

 カイがお茶を淹れながら訝しげに二人を見て、マティアスと志希、イザークの前にカップを置く。

 それに目礼をしてから、イザークは椅子に座りカップを手に取る。

「いただきます」

 志希は椅子に座ってから、カップをとり一口飲む。

 イザークもカップのお茶で喉を湿らせてから、口を開く。

「今回のこの店を取り巻く事件には、ギルド内の人間が関わっている可能性がある」

 突然のこの言葉に、皆驚いたようにカズヤ以外の人間がイザークを見る。

「依頼の受理に口を出せる様な地位に居るのは、間違いないだろう。受付した者が、何故この依頼が受けられないのか腑に落ちないと言う表情だったからな。また、他にもギルドの推薦印を貰っている武具店が荒らされていると言う話もあるが……」

「そっちは、衛士が来てお仕事しているんだって。どう考えても、おかしいよね」

 イザークの言葉を引き継ぎ、志希は肩を竦める。

 その言葉に頷きながら、イザークは言葉を続ける。

「衛士の管轄は、国だ。その行動に干渉できるのは、王族や貴族である事は間違いないだろう」

「それじゃあ、ギルドの方は?」

 ミリアの疑問に、イザークは一口茶を飲み喉を潤す。

「ギルドは、国の管轄外だ。だが、不正があればまずギルドマスターに一報入れる事になっている。ギルドマスターが腐っていなければ、必ず調査をする筈だ」

「確かに、そうね……でも、どうやって知らせるの?」

 続けられたミリアの問いに、イザークは頭を振る。

「手段は知らない方が良いと、俺は言っておく」

 イザークの言葉にミリアは不満そうな表情を浮かべるが、直ぐに頭を振る。

「そうね。知った所で、どうしようも無いでしょうしね」

「それじゃ、この先どうするの?」

 志希は取り敢えず、話題を修正する為に問いかける。

 このままミリアが突っ込んで質問するとは思えないが、アリアの方が色々と問いたそうにしているのが見えたからだ。

 アリアは若干恨めしそうな表情を志希に向けるが、直ぐにイザークを見る。

 あとでいくらでも話しを聞けると判断したからだ。

「取り敢えずは、店に来るであろうならず者対策でオレ達が交代でこの店に詰めた方が良いだろうな」

 カズヤはそう言いながら、マティアスとヨルンを見る。

 二人は驚いた表情を浮かべ、カズヤを見ている。

「依頼としてギルドを通す事は出来なかったと兄が言っているのだから、これ以上ボク達に関わるのは危険ではありませんか?」

 ヨルンが困惑した表情で、カズヤに問いかける。

 カズヤはヨルンとマティアスの表情に苦笑し、肩を竦める。

「まぁ、確かに危険かもしれねぇが……ほうっておくのも後味が悪いだろう。それに何より、親方推薦の腕のいい職人を見捨てる方が俺達にとっては不利益だって思えば良い」

 な? と、カズヤは笑いながら言う。

 この言葉に納得できないと言う表情を浮かべる兄弟に、イザークが口を開く。

「何よりギルドが不正にかかわっている等と言う事が知られれば、この国で活動している他のギルドにも飛び火してしまう。冒険者としては、それを避けたい」

「そうそう、オレ達の仕事に影響が出る訳なんだよ。今回の事件の様に貴族が関わっているのが分かっても、ギルドに責任を押し付けてくるとかあるからな。それをさせない為に、関わった冒険者は調査に動いたりもするんだわ」

 カズヤとイザークの言葉に、マティアスとヨルンは何とも言えない表情を浮かべる。

 それはそうだろう。何せ、二人が言っているのは国とギルドが対立しているというふうに聞こえるからだ。

 その疑問を抱いた志希は、二人に問いかける。

「国とギルドって、仲悪かったっけ?」

 志希の素朴な疑問に、カズヤが苦笑する。

「そんなには悪くない、筈だ。だが、国って言う組織に冒険者ギルドって言うよその組織が絡んでくるのは、元々ある組織には面白くねぇだろ? 最初、それでごたごたしたみたいだしな」

「無論、そのごたごたの後は住み分けが出来ている状態だ。冒険者ギルドは何でも屋、国の衛士は治安部隊と言う様にな」

「なるほどぉ」

 カズヤとイザークの説明に志希はこくこくと頷き、納得する。

 しかし、責任問題を押し付け合う可能性があると言うのは、何とも言えない気持ちになってしまう。

 志希はそう思い、口をへの字型に曲げていると。

 ミリアが苦笑しながら、確認をする。

「取り敢えず、今日から交代って事なのよね?」

 イザークはミリアの問いに頷き、兄弟を見る。

 この二人が要らないと言えば、イザーク達がやる気になっても手を引かざるを得ないからだ。

「……それでは、お願いします。私としても、この店を閉める気はありません。ご迷惑をおかけしますが、この店と私達を護ってください。そして、何らかの解決をお願いいたします」

 マティアスは腹をくくったのか、そう言って頭を下げる。

 この言葉に全員で頷き、マティアスの依頼を受理する。

 ヨルンはマティアスの言葉に驚くが、直ぐに表情を改め兄に倣って頭を下げる。

「ボクも、この店を護りたいのです。ここで頑張ってきたから、ここでこれからも頑張っていきたいんです!」

 真剣なヨルンの言葉にカズヤは立ち上がり、仲間の顔を見ながら言う。

「オレ達も事件解決の為に頑張るぜ! な!?」

 カズヤの気合の入った言葉と声に、志希は思わず笑みを浮かべて頷く。

「もちろんです! わたしも、精一杯お力になります!」

「わたしも、出来る限りの事をさせてもらうわ」

 イザークは双子の言葉を聞いてから、お茶を飲み干し口を開く。

「では、今日からこちらに詰める事になるが……色々と調べるにしても店に人を残しておいたほうが良いだろう」

「んだな。店には二人か三人置いておいた方が良いと思うぜ。あと、情報収集は慣れている人間がした方が良いだろう」

 カズヤとイザークはそう話しをしながら、女三人を見る。

 情報収集が慣れていると言えば、イザークとカズヤの二人だ。

 だがしかし、相手がならず者である事を考えれば、男が一緒に居た方が良いであろう事は明白だ。

 志希の容姿は可愛らしすぎて迫力が乏しく、ミリアとアリアの二人は美人であるが故に侮られやすい。

 むしろ、変な方向に発展するかもしれない。

「わたしとアリア、そして志希が留守番で良いわ。相手がイザークやカズヤ程の腕じゃなければ、武器が無くてもどうにでもなるから。それに、シキの長棍があれば相手を生捕りにも出来るでしょうしね」

 ミリアはそう、雰囲気を読んで発言する。

「そうですよ。それに、身を守る為になら魔術を使って眠らせても麻痺をさせても良いんですから」

 アリアも胸を張り、心配しなくて良いと笑う。

「だけどよ……」

 カズヤが微妙な表情を浮かべて何かを言おうとすると、こんこんとノックが響く。

 店舗に続く扉を一斉に見ると、扉が開いてカイが顔を出す。

 いつの間にか、彼は部屋から出ていたようだ。

 困惑した表情を浮かべたカイが、口を開く。

「あの……あんたらを訪ねて人が来てるんだけど」

 カイの言葉にイザークは瞬きをしてから、頷く。

「俺が顔を合わせる、少し待っていてくれ」

 それだけ告げて、イザークが扉を閉じて行ってしまう。

 一体誰が来たのかと志希は扉を眺めていたが、カズヤが小さく咳払いをする。

 志希は思わずカズヤを見ると、柔らかい笑みを浮かべてマティアスとヨルンに話しかける。

「取り敢えずマティアスさんとヨルンさん、椅子に座って待ってましょう。オレ達は貴方達の依頼を受ける事にしたんですから、もう依頼人ですよ」

 カズヤの場を和ませる様な言葉に、二人は小さく微笑み椅子に座る。

 二人は皆にお願いをする為に立ちっぱなしだったのを思い出し、志希は座る事を促しもせず放置していた事を恥じる。

 依頼人にとんだ失礼をしてしまったと反省をしていると、イザークが戻ってきた。

 しかも、後ろに人を連れて。

 温和そうな表情を浮かべ、若干くたびれた感じのする服を着ている男性だ。

「うわ」

 彼を見たカズヤが、小さく声を上げる。

 それに気がついた男性は小さく会釈をして、マティアスとヨルンに顔を向ける。

「僕はギルド職員のデヴィと言います。今回、お話しをお聞きしたくて足を運ばせて頂きました」

 人の良さそうな雰囲気がある男性は簡単に自己紹介し、マティアスとヨルンに用件を告げた。

 この言葉に、ヨルンもマティアスも不快気な表情を浮かべる。

 同じ様にアリアやミリアも不愉快な表情を浮かべ、口を開こうとするがカズヤが先んじる。

「二人とも気分が悪いだろうけど、いつからこんな事をされているのか話してやってくれないかな。あと、その前後にならず者ではない客とか商売人とか……とにかく、訪ねて来た人の話しも」

 カズヤの突然の言葉に兄弟は怪訝そうな表情を浮かべるが、頷く。

「分かりました」

 協力してくれると確約してくれたカズヤの言葉だからこそ、二人は不承不承ながら引き受ける。

 この事に、デヴィと名乗ったギルド職員の男性は安堵した表情で頭を下げる。

「ありがとうございます。それではさっそくですが……」

 と、志希の目から見て事情聴取としか思えない様なやり取りが始まった。

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