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神凪の鳥  作者: 紫焔
皆に追いつく為に
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第四十五話

 採寸が終わった後、一度荷物を置きに行く為に解散した。

 報酬の分配は夕食後にカズヤがするので、それまで公衆浴場へ行って旅や諸々の疲れを落としてからいつもの宿に集合した。

 その後は久方ぶりの普通の料理に舌鼓を打ち、報酬の分配をしてからどうするかを相談していた。

 今回は四人の人間が鎧を新調する事となった為、短くとも一月はこの街に足止めされる事となった。

 鎧が仕上がり次第街を出る訳なのだが、徒歩の旅にするか乗合馬車を利用するか、キャラバンの護衛を受けて依頼ついでに移動するか候補は三つあがった。

 だがしかし、どの結果に落ち着くにしても、志希は鎧が出来るまで近所の採集依頼や街中で出来る依頼をこなして行く事で暫く日銭を稼ぐ事になる。

 イザークやカズヤは基本貯金があるのでゆっくりとしているわけだが、志希はそんな訳にはいかない。

 と言う事で、翌日から志希は一人でギルドにある街中の依頼が張られた板を凝視していた。

「うーん……この、ペット探しっていつも見る気がするんだけどどうなんだろう」

 腕を組みつつ、呟く。

 他の依頼用紙を見ながら、自分に出来そうなものを探す。

「庭の石を退かして欲しいって、無理無理。力無いし。んー……」

 外に出る依頼で、採集系が集まっている物も物色し始める。

 街から余り遠くに離れると、野生の動物だけじゃなく魔獣も出る。

 防具が無い状態で、出来るだけ遠出する様な依頼は受けたくない志希。

 しかし、早々良い条件の依頼など無い。

 もう一度街中の依頼を見ると、端っこの方にちまっとした紙が張られているのに気が付く。

 志希はそれを手に取り内容を確認して、眉根を寄せる。

 依頼内容は、下水に落としてしまった指輪を探して欲しいと言う物であった。

 たとえ下水の水が死んでいても、志希には好きな精霊を召喚する事が出来るので特に関係ない。

 関係ないがしかし。

「臭そう」

 嫌そうに呟き、小さく嘆息してから受付の所へと行く。

「シキさん、お一人ですか?」

 ミラルダが笑顔で問いかけてきたので、志希は頷く。

「うん。イザーク達はイザーク達でやる事あるし、私は日銭でも良いから稼いでおかないとって思ってさ」

「そうですか。でも、良い事ですよ? シキさんとイザークさん達のランクが違いますから、少しでも依頼を受けて評価を稼がなくてはいけませんからね」

 ミラルダは笑顔で言いながら、受注の手続きをする。

「イザークさん達は、シキさんが一人で依頼を受けるのを知っていらっしゃるのですか?」

「あ、うん。一応街中のを受けるって言ってきてる」

「それは良い事ですよ。あ、下水に入るには衛兵の詰所からお願いしますね。あちらの方は、下に降りる階段などがありますから。それと、アリアさんとミリアさんに伝言をお願いします」

「あ、はい。何でしょう?」

「お二人の評価が基準に達しましたので、ランクアップの試練を受けてくださいと。シキさんもかなりの評価を受けていらっしゃいますから、殿下の最速記録を抜いてしまうかもしれませんね」

 ミラルダはにこにこしながら言い、志希ははぁとしか返事が出来ない。

「殿下は冒険者登録をしてから半年で銅に上がったのです。シキさんは最初の依頼から始まって、先日のレッドウルフの変異種と戦った事に寄り大分評価が貯まっているのですよ。このままいけば、一月か二月で銅に上がれますよ」

「そ、そうなんですか」

「はい、そうなんです」

 ミラルダの言葉に何とも言えない表情を浮かべて頷き、受付から離れてギルドを出る。

 志希はそのまま真っ直ぐに詰所に行こうかとも思ったが、止める。

 今着ている服が汚れるのは、ちょっと嫌だと思ったからだ。

「新しい服を汚すのは、流石に避けたいよねー」

 思わず独り言をつぶやき、志希は一人でうんうんと頷いて宿に戻る。

 こういう時の為に、以前から着ている飾り気の無い服があるのだ。

 汚れて帰って来た時の為に、志希は着替えの服と下着も用意しておくべきだと頷く。

 防水用の袋に入れて持って行けば、真っ直ぐ公衆浴場へ行ってお風呂に入って帰れるだろうと言う算段もある。

 足早に宿の自分の部屋に戻り、服を着替えてから変えの服と下着を防水用の袋に入れて背負う。

 手にはいつもの長棍を持ち、その他何かあった時様に手拭いその他を懐や袋に入れて準備を終わらせる。

「シキ一人で依頼か?」

 宿の主人が顔を出し、訪ねてくる。

「はい。下水の落とし物探しをしてくるので、着替え持って行く所です」

「ああ、下水かぁ」

 何とも言えない表情をして見てくる主人に、志希は苦笑する。

「はい。帰りに公衆浴場に寄ってくるので、遅かったらイザーク達に下水に潜ってくるって事を言っておいてください」

「はいよ。あいつらが帰ってきたら、そう伝えておく」

「ありがとう」

 志希は笑顔で礼を言い、張りきって出て行く。

 初めての一人依頼で、密かに興奮しているのだ。

 足早に衛兵の詰所へ行き、依頼を受けていると証明書を出して下水へと降りる。

 下に着くまで衛兵の一人が付き添ってくれたが、降りた時点で注意事項を述べられる。

「たまにここに棲み着いたネズミが巨大化して襲ってくる事があるから、気をつけろよ。ネズミ以外の魔獣とか野獣が居たら、数を確認して後で報告してくれ。そのまま倒せるようだったら倒しても良いけど、無理だけはするなよ。水中にも何か棲んでるって話も聞くから、よっぽどじゃない限り中に入るな」

「はい」

 志希は素直に返事をして、光の精霊を呼び出す。

「じゃ、気をつけてな」

「はい、ありがとうございます」

 志希は笑顔で返事をして、奥へと歩き出す。

 衛兵は少しの間志希を見送ってから、階段を上って戻って行く。

 その気配を風の精霊が伝え、うんと志希は頷いて更に周囲を索敵する。

 今回は、風の精霊と水の精霊に協力してもらっていた。

 下水を流れる水は汚いが、水の精霊が辛うじて居るのが見て取れた。

 更に水と風の精霊を召喚して、敵の居場所や下水路の形、更に水中にあるであろう指輪の探索をしてもらっているのだ。

「なんか、悪いなぁ」

 精霊ばかりに働かせているので、志希は何となく何かをした方がいいのではないかと思ってしまう。

 今も、臭いが余りにも酷いので風の精霊が志希の周囲だけ空気を浄化し臭いを寄せ付けないのだ。

 しかし、ここで思い悩んでも仕方がないのでてくてくと歩く。

 水の精霊が示す、金属反応はかなり多い。

 意外に下水道には沢山の金属製の物が落ちていると、これで分かってしまう。

「水洗トイレがあるし、途中で止まってる気もするんだけどねぇ」

 独り言を言いつつ、案内されるまま歩いていると。

 水の精霊の警告と同時に、ざばっと音を立てて水路から何かが通路に這い出てくる。

「……どこの都市伝説だよぉ」

 思わず志希は突っ込みを入れつつ、両手で長棍を構える。

 大きな口を持つ、白いワニである。

「ネズミだけじゃ無いじゃん! あの衛兵さんのウソつき!」

 ぶうぶうと文句を言いつつ、志希はどうするかと考えを巡らせる。

 長棍の特殊能力をあてにして殴るか、精霊に攻撃させるか。

 その逡巡を油断と思ったのか、白いワニが飛びかかってくる。

 志希は咄嗟に風の精霊を行使し、ワニを真っ二つに割ってしまう。

 どうっと音を立て、ワニが二つに割れて通路と水路に落ちる。

 ふうと安堵の息を吐いてから、風の精霊に礼を言う。

「ありがとう」

 すると、もっと褒めて! というかのように風の精霊達は志希の周囲をぐるぐると飛びまる。

 最近、余りお礼を言っていなかったのかと志希は悩みつつ、もう一度礼を言って歩き出す。

 水の精霊が案内するポイントまで行き、棲みついた魔獣や野獣が襲ってこないように見張ってもらいつつさてどうするかと腕を組む。

「うーん、水中で呼吸が出来るようにしてもらうのはありだろうけど……」

 じっと流れる水を見て、顔を顰める。

 今は分からないが、この水は悪臭を放つ汚水だ。

 水中で呼吸を確保できたとしても、確実にこの汚水のせいで髪や体に臭いが付く。

 それに、汚水の中で目を開けるとなると、後できちんと洗わなければ眼病になってしまう気もする。

 だがしかし、汚く濁った水の中にある物を取る為には、潜る以外にすべはない。

 そう思って唸ると、唐突に水の精霊達が張り切り出す。

 何事? と志希が顔を上げると、水路の水が志希に道を空けるように割れる。

「……わぁ、モーゼの十戒だぁ」

 少々現実逃避ぎみに、虚ろな声で呟いてしまう。

 誰もいないから良い物の、志希の事を知っている人間以外がこれを見たら大騒ぎだったであろう。

 水の精霊達はこれで良い? と言いたげに志希を見上げ、褒めて欲しそうにしている。

「あ、うん。ありがとう、凄く助かる」

 気持ち的にはどん引きなのだが、助かった事は助かった。

 意外に深い水路に飛び降り、何かの残骸やらゴミやらを踏みながら探す。

 目の端に光の精霊の光を反射する物を見つけ、それをぼろ布を使って拾い上げまじまじと見る。

 それは指輪で、堆積した泥の様な物が付いているのでぼろ布で拭い観察する。

「うーん……指輪は指輪なんだけど、違うなぁ」

 味もそっけもない、金で出来た指輪だ。

 ギルドの依頼にあった指輪は、大きなサファイアが付いた白金の指輪だ。

 これではない。

「まぁ、拾って衛兵の詰所に落とし物で置いて来よう」

 そう言いつつ、通路に戻ろうとしてむっと唸る。

 降りる為の梯子などついていないので、上れない。

「しまったなぁ……」

 とぼやくと、水の精霊達が器用に汚水で階段を作る。

 これで上れば大丈夫と胸を張り、嬉しそうにしている。

 志希の役に立てることが本当にうれしいとその表情に書いてあり、志希は若干の申し訳なさを感じながら感謝する。

「ありがとう。これじゃなかったから、まだ探す事になるけど皆つきあってくれる?」

 志希の問いかけに、精霊達はもちろんと頷き、楽しそうにまとわりついてくる。

 その間に汚水の階段に足をかけると、精霊が体を支えて持ち上げてくれているらしく中に沈まない。

 世話になりっぱなしだと思いつつ、志希は通路まで上がり水路を元に戻すようにお願いする。

「さて、他のポイントを回りますかぁ」

 自分に気合を入れるように志希は大きな声で言い、水の精霊に案内してもらいながら近くの金属が落ちているらしい所へと歩き出すのであった。

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