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神凪の鳥  作者: 紫焔
皆に追いつく為に
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第四十四話

こそっとエピソードをちょっとだけ変えました。

 報酬は一人当たり銀貨三十枚と言うかなりの高額になり、全員の懐はそれなりに温かくなった。

 レッドウルフの毛皮は当初の予定通りの用途に使用する事となったのだが、カズヤは成長が終わっているのでかなりかっちりとした形で作る事になる。

 革のブーツも作る余裕もあるらしく、どうやらカズヤは全身赤い色の革製品で身を固める事になるようだ。

 その為に、カズヤはいつもの革鎧を脱いで全身を採寸されている。

「まるで、全身鎧を作るみたいだね」

 志希の呟きに、イザークが小さく笑う。

「そこまでかっちりとした物を作れば、盗賊としての動きを阻害されてしまう。まぁ、今作っているのはある程度体に合わせた物を、鎧下で調節する形だな」

 イザークの説明に、なるほどと志希は頷きながらカズヤを見ている。

 すると、採寸を羊皮紙に記入していた男性がおもむろに口を挿んでくる。

「俺としては硬革鎧にするつもりなんだが、予算は大丈夫か?」

 いかにも職人と行った壮年の男性の問いに、イザークは頷く。

「カズヤには悪いが、今まで同様前衛として扱う予定だからな。それでいて、盗賊としての指の感覚を損なわずに養っていてもらわねばならん」

「まったく、無茶言うよなぁ。その分期待されてると思って、頑張るつもりではあるけどな」

 イザークの返答にカズヤはぼやきつつも、にやりと笑う。

「まったく、この筋肉のつき方で盗賊が出来るカズ坊の方がどうかしている。その才能は、天性のもんだな」

 採寸をしている男性が呆れた様な声音でカズヤの返答に茶々を入れ、笑う。

 その言葉にイザークは低く笑い、そうだなと同意する。

「盗賊の才能ねぇ……まぁ、素直に喜んでおくか」

 カズヤは苦笑しながら言うと、奥から法衣を着たミリアが部屋に入ってくる。

 その手には先日まで身につけていた鎖帷子を持っているが、表情は暗い。

「やっぱり、ダメみたい」

「当たり前だ。金具自体が歪み、いくつか部品がなくなっている。良い品である事は確かだが、これでは修繕するよりも新しいものに買い換えた方が早かろう」

 ミリアの後ろから部屋に入ってきたドワーンの職人が憮然と言い、鎖帷子をミリアから受け取る。

「品物としては良いからな、かなり安くなるが下取りしてやる。これと同じぐらいの鎖帷子と、その他の鎧を持ってきてやるから選んでくれ」

 職人の言葉にミリアはおとなしく頷き、深いため息をついてしまう。

 そこに、今までカズヤの姿を見ていたアリアが口を開く。

「姉さん、鎖帷子じゃなくもう少し硬い鎧を購入した方が良いと思います」

 唐突なアリアの提案に、ミリアがむっと唸る。

「こちらで取り扱っている防具はかなり質が良い物が多いようですし、気に入ったモノがないのでしたらわたしの鎧に使用する予定の毛皮を使えばいいと思います。前に立って戦う訳ではないわたしより、姉さんがしっかりと防具を着こまなければいけないと思いますし……」

「まぁ、確かになぁ。ただ、どこまで重くして良いかって言うのが問題じゃねぇ?」

 採寸が終わり、鎧下姿のカズヤが言う。

「そうだなぁ……カズ坊もだいぶん筋力が付いてるからな、どこまで無理できるかを少し調べるか」

 職人たちが頷きあい、数人がミリアが出てきた扉とは違う扉へと入って行く。

「そこのお嬢ちゃん二人の筋力も図って、どれくらいの鎧を着れるか調べるぞ。良いな?」

 どうやらこの工房の頭らしい壮年の男性がイザークに問いかける。

「ああ、構わん。ただ、シキとアリアの二人はギリギリより軽めにしてくれ。その上からローブを着る事になっているからな」

「ああ、それは分かってるよ」

 男性が頷くと、奥からぞろぞろと沢山のポケットが付いた革のベストと、チェインメイルの材料らしき小さな鉄の輪を持って帰ってきた。

 それを見たアリアとミリアはきょとんとした表情を浮かべるが、志希とカズヤは若干嫌そうな表情を浮かべている。

「こりゃ、長期戦になるな」

「だね」

 志希とカズヤの二人が分かり合っているのを見て、アリアが問いかけてくる。

「何の事ですか?」

 純粋に分からないのであろう問いかけに、志希は引きつった表情で笑う。

「この革のベストを皆さんに着てもらい、ポケットに重りを入れて少し走ってもらうのですよ」

 にこやかな顔で壮年の男性は言い、さぁさぁと急かし始める。

 何か言いかけたミリアも、急かされて慌てて革のベストを着る。

 全員が革のベストを身につけた時点で、志希とカズヤの二人は以前と同じだけの重りを入れられる。

 ミリアとアリアの二人は、以前着ていた鎧と同じだけの重さを入れられる。

 そのまま店の裏側へと連れて行かれ、模擬専用の武器を渡されながらドワーンの男性に試合をするよう指示を出される。

「疲れてるのにぃ」

 志希が思わずぼやく訳だが、ドワーンの男性はかんらかんらと笑うだけで取り合わない。

「さぁさぁ、良い防具を手に入れる為には苦労が必要。頑張れ」

「わぁーん!」

 志希は声を上げながら、ドワーンに渡された棍を構える。

 カズヤは志希のその様子に苦笑しながら、模擬専用の木剣を素早く彼女の棍に打ち込む。

 突然の事に戸惑う双子は、ドワーンにせっつかれて渋々と試合を始めた。

 以前の志希であれば直ぐに息が上がっていたのだが、二十合ほど打ち合ったがそれほど息も上がらず疲れていない。

「おお……私、体力付いたんだぁ!」

 今さらの様に実感し、密かに喜ぶ志希。

「そのようだな。じゃ、あと二つ……三つほど入れても良い位だな」

 そう言って、ドワーンが重り代わりの鉄の輪を志希に手渡す。

「重くなる……」

「それが鎧の重さだ。カズヤは四つ、そっちの眼鏡の嬢ちゃんは三つで神官の嬢ちゃんは四つ足してまた打ち合ってくれ」

「はーい」

 志希は憮然と頷き、それぞれのポケットに一つずつ輪を足しボタンで中身が零れないようにする。

 全員が作業を終わらせてから、再び打ち合いを始める。

 それぞれの武器が打ち合わさる音が響くが、時間が経つにつれて武器がぶつかる音がだんだんとまばらになり始める。

 頃合いを見て止める役目のドワーンは、四人の試合を見ながら感嘆の息を吐いていた。

 志希の成長が顕著で、ドワーンが見積もっていた時間よりもカズヤと長く打ち合いをしていたのだ。

「そろそろやめていいぞ。しかしカズ坊も白い嬢ちゃんも、随分と体力つけたなぁ」

 汗を掻きながらそばに寄って来た四人を見て、ドワーンが感心したように言う。

 ちなみに、アリアは既に息を切らして辛そうである。

「眼鏡の嬢ちゃんは、そのベストから輪を一個取ってくれ。神官の姉ちゃんは一個足して同様だ。白い嬢ちゃんとカズ坊はあと二つ」

「す……少し、休ませてください」

 アリアは息も絶え絶えに申し出る。

「ん? ああ、そうだな。じゃ、一旦全員で休憩してくれ。ただし、さっき言った重り分は足してからな」

 そう言って、ドワーンが中に引っ込む。

「これ、結構きついわね」

 ミリアはアリアのベストから重りを一つ取り、自分のベストに入れながら言う。

「だよなぁ。オレ達、仕事して帰って来たばっかりだぜ? それでこんなハードな事させられるんだから、きついよなぁ」

 カズヤは深いため息をつき、志希は苦笑する。

「まぁでも、自分の体もそうだけど体力とか考えて作らないと大変じゃない。重い鎧着て、戦闘早々へばっちゃうのとか危険だし」

 志希の言葉に、そうねとミリアは頷く。

「そこまで考えた鎧を作るなんて、ここは凄いのね」

「ああ。まぁ、親方の師匠が考えた方法なんだってよ。使用者の体力を考慮して鎧を作るっていうのは、その師匠の人が初めてなんだって。で、それに共感した弟子達が師匠に真似をして良いかの許可を貰って、やり方を真似てるんだそうだ」

 カズヤはそう言って、深呼吸を繰り返している。

「個人的には、ミスリル銀かオリハルコンで編んだ服が欲しいんだよなぁ。アレ軽いし、半端ねぇ防御力だし、魔法で更に硬くなるしで良い事ずくめなんだよ」

 深い溜息を吐いて、カズヤは今最も欲しい防具を口にする。

「アレは、中々出回らないですよ」

 アリアは苦笑しながら頭を振り、無理だと言う。

 ミスリル銀やオリハルコンは、かなり貴重な金属だ。

 それらを糸状にして織り、布にして服を仕立てるのはドワーンではなくアルフが得意としている。

 ミスリル銀やオリハルコンは鉱山から産出されるが、見つけるにはそれなりの技術が居る。

 鉱脈を傷つけず取り出す技術に長けているのはドワーンだが、繊維状にする技術をアルフは持っていた。

 これらは秘伝で、なお且つ熟練の腕を持つ者でなくては出来ない。

「だよなぁ。よっぽどじゃない限り、アルフは市場に流さねぇよなぁ」

 カズヤは重いため息をつき、頭を振る。

「まぁ、ない物ねだりしたって仕方ないよ。取り敢えず、現状のこの重り試合が早く終わらせる事に従事した方が良いと思う」

 志希の言葉に、カズヤはだなぁと頷く。

「この後は、シキのローブを見る予定だものね。休む間もなく動きまわるなんて、イザークは本当に体力が有り余っているのね」

 ミリアは肩を竦めて言い、ため息をつく。

「まぁ、あいつは鎧の新調もねぇからな。その分、オレ達より楽な筈だぜ」

「あ、確かに」

 志希はうんと頷くと、カズヤが苦笑する。

「つーかあいつも硬革鎧なんだけどよ、尋常じゃねぇ堅さと重さなんだ。何の皮で出来てるのかしらねぇが、ありゃ相等だぜ。服も滅多に破れねぇし……まぁ、長生きしてる分そっち系の装備は充実してるんだろうな」

「わたし、あの鎧は金属系の物だと思っていました。とても硬革鎧の光沢に見えませんでしたし……不思議ですね、ちょっと材質を聞いてみたいです」

 息が整ったアリアがカズヤの言葉に思わず呟き、好奇心で目を輝かせている。

 志希もまた材質は気になるのだが、それよりも今は別の事の方が気になっている。

「まぁ、その前に試合が待ってるわけで……」

 思わずうんざりと言った表情浮かべて志希が呟くと、ドワーンが中から出てくる。

「よし、大分休めた様だな。親方に聞いたら、今の重りでやったら中に戻って来いとよ。今日の所はこれで終わりだと思って、頑張って模擬戦頼んだぜ」

 とてもいい笑顔のドワーンがさっさとやれと合図を出し、四人は深いため息をついてから打ち合い始める。

 休憩したばかりだと言うのに、やたらと革のベストが重く感じる。

 先ほどよりも早く息が切れ、腕が重くなってきた所でドワーンが止める様に指示する。

「あぁー……きつかった」

 息を切らしながら呟きつつ、ドワーンの指示通り防具屋の中に入る。

 部屋の中で出迎えてくれた親方らしい男性は志希をまじまじと見て、一つ頷く。

「ギリギリより軽くって言うんだったら、荷物の分も考えて重り四つ分軽くするか」

 その後にアリア、ミリア、カズヤの順番に疲れた表情で入ってくる。

「こいつらは重り三個分軽く作るの方がよさそうだな。良いか?」

「ああ、任せる」

 イザークは頷き、ふらふらになりながら革のベストを脱ぐ四人を見る。

「んじゃま、眼鏡と白の嬢ちゃんの採寸するぜ。そっちの神官のねぇちゃんは、取り敢えず鎖帷子にするのか何にするのか、決めてくれ」

「はい」

 親方の指示に息を切らせながらもミリアは立ち上がり、少しふらつきながらドワーンの後をついていく。

 アリアよりも比較的息も整ってきている志希は、先に採寸するべく先ほどカズヤが採寸していた所に進み出る。

「嬢ちゃんは、これから成長があるからな。こんな良い皮で鎧作っちまったら、後から着れなくなるぞ」

 親方の言葉に、志希ははっとした表情を浮かべる。

 実は、志希はこの姿から全く変わらない。

 身長が伸びる事も、体型が変わる事もないのだ。

「ふむ……」

 イザークが考えるようなそぶりで頷くと、志希は慌てて口を開く。

「前みたいに、ベストみたいな形にしてくれればいいと思うんだけど。大きくなった時の為に少し大きめに作って、革紐で調節できる感じ。余る部分は服とかで如何にかすれば良いと思うし……ダメかな?」

 だがしかし、もしかしたら胸ぐらいは大きくなるかもしれない。

 むしろ大きくなって欲しいと言う願望があるのだ。

 志希の言葉に、なるほどと頷くのは親方だ。

「そうだな。首はその首飾りがある事を考えれば十分補えるだろうしな。どうだ?」

「ああ、それで良い」

 イザークは頷き、同意する。

 ほっと安堵する志希は、ふっと自分が年を取らない事を皆に話をしたか考える。

 死なないと言う話はしたが、不老でもある事や月経などがこない等の話をした覚えがない。

 全部話したつもりになっていたのに、すっかり忘れていたこの話題に志希は愕然としてしまう。

 恥ずかしいが、後できちんと話そうと志希は一人でうんうんと頷きながら採寸が終わるのを辛抱強く待つのであった。

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