第三十二話
イザークの鍛錬によりカズヤと志希がある程度得物の扱いに慣れた頃合いを見計らって、あまり強くない魔獣退治などの小さめ依頼を受けるようになった。
実戦経験のない志希と、得物が変わったばかりのカズヤの為だけではない。
これから長期的に組むのであれば、どの様に動けば最適なのかを五人で探して行かなくてはならない。
同時に、パーティメンバー達の戦闘でもっとも重要な信頼関係も構築していかなくてはならないのだ。
その為に、小さめの依頼でまずは互いの戦闘の癖などに慣れる事にしたのである。
ある程度慣れたと判断した後は、徐々に強めの魔獣退治などへとランクを上げて行った。
そのころには志希の体力もだいぶん付き、一番最初の時の様に頻繁に休憩を取ると言う事も無くなった。
また、長棍の扱いもそれなりに出来るようになり、依頼を受けていない時は毎日一刻は触って手に馴染ませるようにしていた。
これ以外にも体力づくりと言う事でアリアと二人、毎日街の中をウォーキングしていた。
研究等で寝不足をしている時は無理をしないが、それでもほぼ毎日行うのはどうやらミリアのスタイルの良さに触発されているらしい。
目標となる物があれば、人間は頑張れるものなのである。
また、この期間の間にイザークがベレントの伝手を頼り、精霊の揺り籠を首飾りに加工してもらった。
形はチョーカーで、仄かに青く光る小さな宝珠は銀色の台座で留められ、首に接触する部分も銀色の紐の様な物で出来ていた。
宝珠の台座も銀色の紐状の物も全て、ミスリル銀で出来ている。
精霊の揺り籠と言うの希少物を加工するには、普通の貴金属ではダメなのだ。
ミスリル銀は精霊が最も好む金属で、精霊の揺り籠と言う品物の特性を最大限発揮できるのだ。
もっとも志希の持つ小さく青い宝珠は『神凪の鳥』の力を封じ込めている物なので、どの様な金属であろうとも関係ない。
だが、それをわざわざ彫金師に伝えるのを志希は嫌ったのである。
未だアリアとミリアの双子やクルト達に自分の正体を教えていないと言うのに、接点の無い人間に『神凪の鳥』の話をするのが嫌だったのだ。
これにより、ミスリル銀が入荷するまでかなり待たされた上に、志希が稼いだ金額では貯金を合わせてもまだ足りず、イザークに更なる借金をしてしまったのである。
思わずがっくりと両手両膝をついてしまうのも、仕方が無い事であろう。
この後からは志希はますます気合を入れて、仕事に精を出すべく冒険者ギルドに足を運んでいた。
「どんな依頼があるかなぁ~」
志希は鼻歌を歌いながら、ボードの前に立ち依頼を探す。
「出来れば、魔獣退治の類が良いだろう。依頼料は、そちらの方が良いからな」
イザークの言葉に、志希は頷く。
「私はちょっと苦手なんだけど……そうも言ってられないよね」
そう言いながら、志希は魔獣退治の依頼を探し始める。
魔獣退治の依頼は、生き物を殺すと言う内容だ。
初めてそれを請け負った時、志希は精霊を行使するのを躊躇ってしまいイザークに若干の怪我を負わせてしまった。
ミリアの神聖魔法で治る程度の物だったが、志希はイザークに怪我を負わせてしまった事に驚き、無意識にイザークを傷つけた魔獣を風の精霊を行使し過剰な力で切り裂いた。
真っ二つに割られた魔獣とイザークの怪我にその場に胃の中の物を吐き出してしまうほどのショックを受けてしまった。
しかし、この先冒険者として生きるのであればそんな事で挫けられては困るとイザークは志希に言い聞かせ、彼女が慣れるまで魔獣退治の依頼を続けて受けていたのである。
志希は自分で選んだ以上、逃げ出す事はしないと必死で歯を食いしばり、間接的にとはいえ生き物を殺す事に慣れようとしている最中なのである。
「何も感じるなとは言わん。何かを殺す事に対する罪悪感は常になければ、人として壊れたモノになるからな。だが、魔獣と人は基本的には殺し合う関係だ。害獣などと言う生易しい物ではない」
イザークの言葉に、志希は頷く。
獣であればある程度飼いならしたり、こちらの恐ろしさを教えて近寄らせないように工夫は出来る。
だがしかし、知恵の無い魔獣は魔道具で作られた首輪をつけない限り飼い馴らす事は人間では不可能で、人間を餌と見做して襲ってくる恐ろしい獣が大半なのである。
それを肝に銘じておかなければならない。
油断は即座に死へと繋がり、自分だけではなくパーティ全員の命を奪う事態を引き起こしかねないのだから。
志希はもう一度頷き、気合を入れて依頼が書かれた用紙を見る。
「まぁ、慣れるのは難しいだろ。オレは未だに魔獣や妖魔退治は気分悪くなるからなぁ……一番気分悪くなるのは、賊退治だけどな」
カズヤはボヤキながら、依頼用紙をめくる。
志希はカズヤの言葉に顔を歪め、何とも言えない表情を浮かべる。
しかし、二人の話を聞いていたイザークは静かに口を開く。
「いずれ受けるかもしれないとは思っておけ。仕事が無かった場合、手を出さざるをえまい」
イザークの言葉に志希はますます嫌そうな表情を浮かべるのだが、彼は言葉を撤回しない。
志希自身も理解している。
賊退治とは、一般の人間を襲う犯罪者を捕縛ないし処罰する事だ。
それらの人間は基本的に騎士団や、警邏隊が相手をする物だ。
だがしかし、騎士団や警邏隊に届け出しても手が回らず、どうにもならないとなった時にはギルドに討伐依頼が来る。
そうなった時には、傭兵経験のある冒険者が優先で事に当たることが多い。
何故かと言うと、人間や妖魔と戦った経験がある方が対人戦では有利になるからだ。
傭兵経験を買われてイザークとカズヤが招集された場合、必然的に志希達も行く事になる。
「でも、そうそう賊退治の依頼なんて来ないから大丈夫よ」
ミリアはそう言って、志希の肩を叩く。
「あ、うん」
励まされたのだと分かった志希は、一つ頷く。
人間の被害以上に、魔獣や妖魔の被害の方が多いのが現状なのだ。
だがそれでも、人間と争う可能性は依頼によっては高くなる。
何せ、賊の類は多い。
冒険者ギルドで言う盗賊は盗みを行うのではなく、潜入と探索を主としたどちらかと言えば密偵の様な職業だ。
近年スカウトに名前を変えようと言う動きがあるらしいが、長年使われてきた名称の為それが難しいらしい。
基本的に冒険者ギルドに所属する『盗賊』以外の盗賊は、犯罪者である。
冒険者証を持った盗賊が盗みをする為に家に入ると、犯罪行為を行ったとしてかなり厳しい罰則を与えられる。
その為、冒険者の『盗賊』は余程でない限り犯罪に手を染める事がない。
しかし、それ以外の盗賊や賊と名のつく者たちは闇に潜み人を狩ったり盗みをして生計を立てる。
たまに魔獣と渡り合える冒険者崩れが群れになり、山中で根城を作って人を襲うと言う事もある。
その山中に足を踏み入れれば、必然的に戦う事になる。
だからこそ、戦うかもしれないと言う覚悟は常に持って居なくてはいけないのだ。
志希はそう思いながらも、人と戦うのは嫌だと感じていた。
それはやはり、志希の世界の倫理観を持っているからだ。
基本的に人を傷つける事、動物を傷つける事は悪だとされてきた。
この事を鑑みれば、志希が人や動物を間接的に傷つけてしまう事に忌避感を持つのは当たり前である。
しかし、この世界ではそんな事を言ってはいられない。
死活問題が掛かっている以上、何としてでもある程度は慣れなくてはいけないのだ。
「そう肩に力入れんなって。なぁ?」
「ああ」
カズヤのフリにイザークが頷き、ふっと手を止めて依頼用紙をみる。
「これはどうだ? ここから七日ほどかかるが、そこそこの強さだ」
イザークはそう言いながら、依頼用紙を示す。
「ん~……何々。アイワナ山の辺りにレッドウルフの群れが住み着いたのか。しかし、珍しいな。レッドウルフとは」
カズヤは示されたその用紙の内容を読み上げつつ、感想を零す。
「レッドウルフはもう少し南の方が生息地ですから、こんな所に来るなんて本当に珍しいです。何かあったのでしょうか」
アリアはカズヤの呟きに同意しながら、考えるようなそぶりを見せる。
「まぁ、何にせよ。わたしはレッドウルフ退治で異議は無いわ」
ミリアは考え込むアリアの隣で賛成の意を示し、皆の動きを見る。
「あ、わたしも異議はありません」
慌ててアリアもミリアの意見に頷き、イザークとカズヤ、志希を見る。
「もちろん、私も無いよ」
志希もまた同意し、イザークは了承したと頷いて依頼用紙を持って受付へと移動する。
その間にと、アリアがこれから退治する魔獣の説明を始める。
「レッドウルフは、結構強めの敵です。炎系の魔法は抵抗されやすいですし、毛皮がかなり厚いですから斬るのも大変です。毛皮の色が赤く、また炎属性の魔法に対する抵抗が高い為レッドウルフと言う名前をつけられたそうですよ」
アリアの説明に、志希はこくこくと頷く。
未だ知識を識っていても直ぐ様引き出す事の出来ない志希は、アリアや受付のミラルダの説明を大人しく聞く癖が付いている。
「あと、レッドウルフの毛皮はかなり良い値で売れるから、倒したら出来るだけ綺麗にはぎとって持ち帰るのが主流なの。防具として加工する事も出来るけど、レッドウルフの鮮やかな赤い色って言うのが貴族とかに凄い人気なのよ」
ミリアはそう言ってから、どこか自嘲気味に笑う。
「どれだけ上等な毛皮を身につけるかって言う事で貴族の令嬢や子息、ご婦人や当主まで躍起になるほどなのよ。バカみたいよね……」
いつにないミリアのその様子に、志希は思わず困惑してしまう。
カズヤも同様に困惑した表情を浮かべ、どう声をかけるかを迷っていると。
「姉さん、話の腰を折らないでください」
アリアは苦笑浮かべながらミリアに呼び掛けると、彼女ははっとした表情をしてから直ぐにいつもの明るい表情に戻る。
「ごめんごめん。それよりシキちゃん、わたし達と今度服を買いに行かない? 女の子なんだから、もう少し可愛らしい服を着ても良いと思うのよ。もちろん、安くてそれなりに良いお店を知っているから、安心して」
ミリアの唐突な誘いに、志希は違和感を覚えて戸惑う。
だがしかし、実際問題志希はそろそろ新しい服が必要かもしれないとは思っていた。
以前イザーク達と買った服だけだと実用一辺倒で、女の子としての華やぎが無いのだ。
無論、冒険者である以上華やかさとは無縁だ。だがしかし、下着が物凄く実用的すぎて何となく悲しいのだ。
服がどうにもならないのなら、見えない所である下着を少しで良いから艶やかに装いたいのである。
また、あまり肌に合わないのかたまに下着でかぶれたりもしていたので、大変ありがたい申し出なのだ。
なので、違和感から目を逸らす事にする。
「う、うん。行きたいかな……」
志希の若干控えめな返事に、ミリアは目を丸くする。
どうやら、乗ってくれるとは思わなかったらしい。
「それじゃ、この依頼が終わってからにする? それとも、イザークに頼んで少し出発を遅らせてもらう?」
うきうきと嬉しそうに顔を輝かせ、ミリアが言う。
「姉さん……もう受けちゃっているんですから、後回しにするのは良くないですよ?」
呆れたアリアの言葉に、ミリアは残念そうな表情を浮かべる。
「そう、よね。残念だわ」
ほんの少しだけ拗ねたように言うミリアは、先ほどの違和感など無かったようにふるまっている。
それに対して突っ込みたい志希なのだが、自分も色々と抱え込んでいる事を考えれば言いだす事は出来ない。
自分の秘密を言えないのに、相手の秘密を教えてくれと言うのははやり非常識だからだ。
だから、志希は笑顔を浮かべて頷く。
「うん、残念。可愛い服とか見るの好きだしね」
「見るだけなんて、勿体無いですよ。志希さん可愛いんですから、もう少しお洒落しても良いんですよ?」
アリアがそう言って、もうと腰に手を当てる。
志希はうっとつまり、次いで不思議そうに首を傾げる。
「そうかな?」
「そうよ!」
「そうです!」
双子に物凄い勢いで肯定され、志希は気恥ずかしくなりどうにかしてもらおうと思わず周囲を見回す。
そこで初めて気が付いたのは、カズヤの位置だ。
何とも言えない表情で若干距離を取り、三人を眺めている状態だ。
カズヤは志希の視線を感じたのか、視線を逸らせつつ口を開く。
「レッドウルフの話……あれだけで良いのか?」
カズヤの声は、物凄く小さい。
どうやら、女の子三人のかしましい会話に割り込むのが気恥ずかしい様だ。
カズヤのその疑問に対し、はっとした表情を浮かべるのはアリアだ。
「あ、そうですね。カズヤさん、ありがとうございます」
まだレッドウルフに関する話が終わっていなかったらしい事に、二人のやり取りで気が付いた志希。
内心、物凄く助かったと思いながら問いかける。
「レッドウルフはまだ、何かあるの?」
志希の問いかけにアリアは苦笑し、眼鏡を少し指で押し上げる。
「実は、あまり詳しい事は分かっていないんです」
アリアの返事に、志希は拍子抜けした表情を浮かべる。
「そうそう、毛皮の色が鮮やかであれば強い位しか分かっていないの。魔獣の事が書かれているのは、だいたい古代魔術師の研究資料くらいしかないしね」
ミリアの説明に、志希は成程と頷く。
現在の魔術師で、魔獣に関する生態系を研究している物が居ないらしい。
「魔獣の事を調べる為には、巣穴を探したり色々としないといけないから大変なのです」
それ以上に研究費が足りなくて、手を出す人が居ないのが現状なのだろう。
魔獣の生態系を調べる為には、恐らく檻に入れて飼育しなくてはいけない。
その檻だけではなく、飼育や維持費に一体どれだけかかるか分からない。
資金その物を工面するのが難しいのだ。
「説明は終わったか?」
イザークが若干うんざりした表情で声をかけてくる。
どうやら女の子三人で話をしている間に戻ってきたようで、話題の切れ目を狙って声をかけて来たようだ。
「あ、はい」
こくりとアリアは頷き、背筋を正す。
「ごめんなさいね、お話が長くなっちゃって」
ミリアは苦笑しながらイザークに言い、志希の背中を押す。
「わわっ」
驚いた声を上げる志希を無視して、ミリアは彼女をイザークに押しだす。
「それじゃ、支度をしていつもの宿に集合する? それとも、西外門前?」
ミリアの問いかけに、イザークはやや不機嫌そうに口を開く。
「レッドウルフ退治なのだが、出来れば皮も持ち帰ってこいとの事だ。その分、報酬を上乗せしてくれるらしい。その為、今回は馬車を借りての出発になる」
イザークの言葉に驚くのはカズヤだ。
「マジかよ。群れだったら何頭分あるかもわかんねぇんだぞ……それを出来るだけって冗談じゃねぇ。皮を剥ぐのとかだって、すげぇ重労働じゃねぇか」
カズヤが猛烈に文句を言うが、イザークは緩くかぶりを振る。
「譲歩は無し、だそうだ。どうやら依頼のあった村からの追加注文らしい」
イザークの言葉に、カズヤは思わず顔を顰める。
「依頼用紙に書けよなぁ、そう言うの」
カズヤの嫌そうな言葉に。
「書いたら、誰も受けてくれないからでしょう?」
ミリアはそう言って、肩を竦める。
「何にしても、毛皮の全部を引き渡すわけじゃないなら数枚は別にしても良いかもしれないわね。寒い地方に行けば高く売れるし、何より外套にしたら凄い暖かいし。シキちゃんみたいな色の白い子だったら、凄く似合うだろうし!」
「い、いや……依頼品を着服するのはどうかと思うんだけど」
志希の思わず呟く言葉に、ああとカズヤが笑う。
「出来れば、だから別に良いんだよ。多分、最低何枚って言うのが決められてるはずだからな。それ以上採れたら、採った人間が好きにして良いんだ。そうじゃないと、横暴だって話が出るからな。無論、多く採った分も全部提出する方が、ギルドの評価が高くなるけどな」
「そうそう。まして、外套はともかく防具として加工した場合かなりの良質品になるレッドウルフの皮はかなり貴重なの。だから、少しちょろまかして革鎧を作る冒険者も多いわ」
ミリアはそう言って、いたずらっ子のような表情で笑う。
「冒険者としては、依頼を達成するのも大事だが自身の身を守る物を手に入れるのも大事だ。ギルドもその辺りを理解しているが故に、規定枚数を決めてそれ以上の物は冒険者に扱いを委ねているのだ」
身を守る物が良い物であればある程、生存率が上がるのだから。
イザークの言葉に、志希は頷く。
志希の真剣な表情にイザークは一つ頷き、口を開く。
「今回の依頼の主眼は、レッドウルフの退治だ。全滅させる方が望ましいらしいが、今根城にしている所から追い出すだけでも良いらしい。その際、出来れば綺麗な毛皮を五枚は欲しいらしい」
正式な依頼内容を語るイザークに、全員顔を顰める。
「随分と無茶言うんだね……」
レッドウルフを倒して、なお且つ傷が少ない毛皮を欲しいという言葉には無理難題を押し付けているとしか言いようがない。
毛皮を綺麗な状態で剥ぐためには、やはり出来るだけ傷をつけないようにするのが一番だ。
しかし、この世界には銃などと言う物はない。
剣で斬ったり魔法を使って倒すとなると、綺麗な毛皮を作ること自体が難しいはずだ。
志希はそう思ったが、直ぐにそれを否定する知識が浮く。
そもそも魔獣を倒すこと自体が大変で、傷を最小限に留めたとしても志希の世界ほど美しく採る等と言う事は出来ないのだが、腕の良い魔術師と戦士なり盗賊なりが居れば別だ。
眠らせて、一撃で殺す事が出来れば最小限の傷で済ませる事が出来るのだから。
しかし、そこまでの腕を持たない人間の方が多いので、依頼のついでで頼まれる場合はそこまで気を払わないのが普通だ。
むしろ、気を払っている方が危険である。
「副次的な依頼だからよ、難しく考えんなって。まぁ、馬車の貸し出しがあるって事はたくさん採って来いって言う無言の圧力なんだろうけどな」
カズヤの言葉に、全員何とも言えない表情を浮かべて頷く。
「取り敢えず、最も大事な事は命を落とさず帰ってくると言う事だ。それだけは忘れずにいろ」
イザークはそう言って、立ち上がる。
「手続きは既に終えているが……馬車の準備が明日の朝にならなければ出来ないらしい」
イザークの言葉に、ミリアは頷く。
「分かったわ。それじゃ、シキちゃん一緒に買い物へ行けるわね!」
嬉しそうな表情で、ミリアは志希を見る。
「あ、うん……そうだね」
いきなり振られて一瞬驚くが、直ぐに頷く。
新しい下着が欲しいと言う気持ちがあるので、志希としては嬉しいお誘いである。
「それじゃ、わたし達とシキちゃんはちょっと買い物に行ってくるわ。イザークとカズヤに、後お願いするわね!」
ウキウキとした様子で、ミリアは志希の手を引き歩きだす。
「わわっ、ミリア足速いよ!」
「善は急げよ!」
物凄い嬉しそうな声音のミリアと、引っ張られて慌てている志希の声がギルド内に響く。
その声でアリアは正気に戻り、イザークとカズヤに頭を下げ、姉と志希の後を追って駆け出す。
後に残されたイザークとカズヤは、顔を見合わせてから嘆息を零すのであった。