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神凪の鳥  作者: 紫焔
凱旋と借金と……
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第二十八話

 鑑定を終えてギルドの出入り口付近に移動すると、カズヤが一人で待っていた。

 ミリアとアリアは荷物を置きにそれぞれ神殿と塔の学院に戻っているらしく、一度自分達も宿に戻ろうと持ち掛けられた。

 街に帰りついたのは昼過ぎだったのだが、食事を取っていないので身綺麗にしてから遅い昼食を一緒にとると言う事で話が付いていたらしい。

 それならばと三人も荷物を宿に置き、公衆浴場でゆっくりと旅の疲れと垢を落としてから宿の食堂に入り、食事を注文する。

 そこに丁度良いタイミングで、ミリアとアリアが姿を現す。

「お疲れさま、先に荷物を置きに行ってしまってごめんなさいね」

 ミリアはまず、先に休んでしまったことを詫びる。

「いえ、こちらこそ長引いてすいません」

 志希は思わずそう返事をすると、アリアがくすりと笑う。

「鑑定は時間がかかる物ですから、気になさらないでください。それより、お食事の方を先に済ませてしまいませんか?」

 アリアの言葉に、カズヤも頷く。

「ああ、そっちの方が良いな。飯食ってからの方が気力もわくしよ」

「そうだね」

 カズヤの言葉に、志希は同意する。

 何せ、お腹がすいて今にも鳴りそうなのだ。

 アリアとミリアも側を通る店員に飲み物と料理を頼み、椅子に座る。

「取り敢えず、俺が預かってた報酬だ」

 カズヤはそう言って、懐から小袋を取り出してテーブルの上に置く。

「報酬は元々一人銀貨五枚だけど、枯れた遺跡の新しい入り口を見つけた報告で少し色をつけてもらえた。と言ってもまぁ、銀貨五枚だけどな」

 合計で一人当たり銀貨六枚となったと説明してから、カズヤは小袋の中身をテーブルの上に開けて分配する。

「ありがとう」

 志希はカズヤから手渡され、お礼を言いながら受け取りイザークを見上げる。

 今現在、志希はイザークから借金をしている状態だ。

 銀貨五十枚と言うかなりの大金を返す為には、取り敢えず分割して返すのが一番だろうと頷き口を開こうとするが。

「報酬はこれだけではない。取り敢えず、食事が終ってから俺達の部屋に移動しよう」

 イザークが遮るように、これで終わりではないと告げる。

「ああ、そうよね。今回持って帰ってきた戦利品の方も、皆で分配する事になるものね」

 依頼の報酬とは別に遺跡探索で手に入れた品物を皆で分けて、更に売り払って分配すると言う作業もあるのだ。

 そんな事を考えていると、店員が志希達が先に頼んでいた物を運んでくる。

 カズヤとイザークはエール酒を、志希はプルの実のジュースを頼んでいたのでまずそれがテーブルに置かれた。

 直ぐにミリアとアリアが頼んだワインが運ばれ、皆それぞれ飲み物に口をつける。

「しかし、今回の報酬は新調する武器で殆ど消えるんだよなぁ……オレ」

 カズヤがため息をつきつつ、ぼやく。

「今回拾った長剣でも使えばよかろう。ベネットから良品と言う太鼓判を貰っていたぞ」

「うお、マジ!? あ、いやでもよ……オレ、長剣使った事ねぇぞ?」

 イザークの言葉に顔を輝かせたが、直ぐにカズヤは肩を落とす。

「ならば、手に馴染むまで使うしか無かろう? 手解きなら、俺がしてやる」

 落ち込むカズヤにイザークはそう言ってから、志希を見る。

「無論、シキもだ」

「わ、私!?」

 突然話を振られ、志希は驚く。

「ああ、うん。シキちゃんも護身用に何か身につけておいたほうが良いと思うわ。アリア見たく、護身術一つも身につけないで出歩いて、変なのに目をつけられたとかあったら困るじゃない?」

「ね、姉さん……!」

 恥ずかしそうにアリアは頬を染め、ミリアの肩を叩く。

「ああ、アリアさんと初めて会った時ってそうだったもんな」

 うんうん、と頷きながらカズヤは呟く。

 アリアはますます赤くなり、ワインを口に含んで誤魔化そうとしている。

「それでだ。今回の戦利品のうち、長剣と長棍はこちらで引き取りたいのだが」

 良いか? と確認するように、イザークはミリアを見る。

「それに関しては良いのだけど、ちょっとその前に話と言うか……お願いがあるのよね」

 ミリアは居住まいを正して、イザークだけではなく志希とカズヤを見回す。

 真剣なミリアの表情に、志希とカズヤも思わず居住まいを正して話の続きを待つ。

「もし良ければ、わたし達とこのままパーティを組んでもらえないかしら?」

 突然の申し出に、志希はきょとんとした表情を浮かべてイザークを見上げる。

 カズヤとイザークのパーティに入ったばかりの志希には、ミリア達の言葉に対する発言権は無い。

 そう判断しての行動だ。

 カズヤはこの申し出に対し考える様な表情を浮かべ、イザークは目を閉じて無言のままだ。

「今すぐお返事を、と言うわけではありません。持ち帰った書物をわたしが調べ終え、それをどうするかと言う相談もありますし……持ち帰った品物に関する処遇が決まり次第、と言う形でも全く構いません」

 アリアがミリアの申し出に補足するように説明し、じっと三人を見つめる。

 暫く、奇妙な沈黙がこのテーブルに漂う。

 志希は妙な緊張感を持った沈黙に困惑していると、イザークが口を開く。

「ミリアはともかく、アリアは不安要素が大きい」

 先の遺跡探索のおり、最も酷い醜態を見せたのはアリアだ。

 冷静な判断を下せず、ある意味パーティを危険にさらした。

 アリアは肩を揺らしたが、その顔はしっかりとイザークを見ている。

 表情は硬いが、次はそのような事などしないと言うように。

 人見知りをしていた最初のアリアの表情とは、見違えて強い。

「んでもよ、その後きっちり動いてくれてるからあんま気にしなくても良いんじゃねぇ?」

 カズヤはアリアの肩を持つようにイザークに言い添えて、笑う。

「それに、今回シキはうまく動けたけど次はどうなるかわかんねぇ。それなら、一緒に面倒見るでも良いと思うぜ」

 カズヤの楽天的な言葉に、イザークは肩を竦めて苦笑する。

「カズヤも手伝ってくれると言うのであれば、吝かではないな」

「げ、オレも!?」

「当たり前だ。俺一人で何もかも出来るほど、優秀ではない。もっとも、今まで二人でやってきたというのだから、彼女達の腕は信頼できる。優秀な神官と魔術師は、居て困る事はないからな」

 パーティとしての有為性を強調しながらも、カズヤの意見を取り入れての言葉である。

「それに、今まで組んだ冒険者の中でもかなりマシな部類だ。二度目の戦闘の時のように動いてくれるのであれば、また声を掛けさせてもらおうと思っていた」

 イザークの本音らしき言葉に、カズヤは苦笑する。

「あぁ~……シキにしても、アリアさんとミリアさんにしても比べようもない位優秀だもんなぁ」

「何かあったの?」

 何やら含みのあるカズヤの言葉に、志希が問いかける。

「ん~……オレらって結構、低ランクでも有名らしいんだわ。腕が良いとか、そう言うので初心者とか一人でやってる女性冒険者とかが組みたいって申し込んでくる事が多くてよ」

 カズヤは言葉を濁すように、選ぶように歯切れ悪く応える。

「要するに腕の良い者によりかかろうとする輩が居た、と言う事だ」

 端的な言葉は冷たく、イザークが過去に組んだ者達に良い感情を持っていないのがありありと分かる。

 相当嫌な思いをしたのだろうと、アリアとミリアは思わず同情してしまう。

「ダメな冒険者と比べられるのは失礼だって思うけど、まぁ良いわ。わたしも、貴方達の腕を買っての申し出だし。あと、女の子一人なのがちょっとかわいそうなんじゃないかしら? っていう不純な動機もあるしね」

 ミリアは志希に微笑みかけてから、ワインを一口飲む。

 志希はミリアの言葉に、なるほどと納得する。

 通常、男ばかりのパーティに女性が一人しかいないとなると色々な意味で困った事になる事が多い。

 志希の場合女性としての問題はある意味無いも同然なのだが、それでも同性が居た方が気が楽なのも確かだ。

「なるほど。その方面は考えていなかったな」

 感心したように言うイザークに、カズヤは苦笑する。

「まぁ、オレらはまともに異性と組んだ事ねぇからな。仕方が無いんじゃねぇ?」

 実際にイザークとカズヤの二人は女性冒険者に色々と嫌な思いをしていたようで、そちらの方にまで気を回す様な事をしてこなかったのだろう。

 だが、これからは志希だけではなくミリアとアリアと言う女性も一緒に行動する。

 基本的にはあまり意識しなくても良いのだろうが、常識の範囲内で互いに気を回さなければいけなくなるのである。

「そうだとしても、これからは男二人じゃないのだから気をつけて頂戴ね?」

 二人に釘を刺し、ミリアはにっこりと微笑む。

「ああ、善処するとしか今のところは答えられんがな」

 イザークはそう言ってエールを傾け、カズヤもまた苦笑して頷く。

「今まで出来ていなかった物を急に出来る様にしろって言っているわけではないわ。お互い、協力していきましょうって言ってるの」

 カズヤの苦笑にミリアはそう言い添えると、丁度店員が料理を運んでくる。

 大きなテーブルに五人が頼んだ料理を並べ、店員は颯爽と去っていく。

「丁度良い時に来たな。先に飯にしようぜ」

 カズヤの言葉に、志希は頷く。

「うん。お腹がすいていたら、良い話し合いが出来ないしね」

 志希の言葉にもっともだと全員が頷き、思い思いに食事を開始するのであった。

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