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神凪の鳥  作者: 紫焔
初めてのパーティ
27/112

第二十六話

 カズヤとミリアが大盾の騎士鎧を引きつけてくれたおかげで、イザークはハルバートを持つ騎士鎧と一対一となった。

 大きな得物故に本来ならば動作が遅くなりがちなのだが、騎士鎧とイザークの攻防は早い。

 イザークが体重をかけて振り下ろす大剣をハルバートが受け止め、押し返す。

 その事によりイザークの体勢を崩そうとする意図があったようだが、イザークはその力に逆らわずむしろ利用して後ろへと飛び退き間合いを取る。

 しかし、ハルバートの間合いは長く、騎士鎧は前に出ながら横薙ぎの攻撃を仕掛けてきた。

 イザークはその攻撃を慌てずに大剣の刀身で受け流しながら、前に出る。

 がりがりと金属と金属が擦れ会う音が響き、火花を散らしながらイザークは間合いを詰めていく。

 そのまま騎士鎧の膝を足掛かりに上に飛び、空中から大剣を振り下ろす。

 勢いのついたその速い攻撃に騎士鎧はついて行けず、かろうじて体を動かして刃が当たる場所を変える事が出来ただけだった。

 本来なら叩き潰すだけのその大剣が、鋭利な刃物の様に肩口から脇までの板金を切り裂く。

 身軽に石床に着地したイザークは、振り向く勢いを利用して大剣を横薙ぎに振る。

 その攻撃を片腕だけの騎士鎧がハルバートで受け止めるが、力が弱かったのか体勢がかすかに傾ぐ。

 その様にイザークは金の目を細め、更に猛攻をかけるべく足を踏み出そうとして止める。

 ぎりぎりと音を立てながら、イザークは大剣に体重をかけて鍔迫り合いをする。

 その金の目は、鎧の向こうにいる己の物より甘く潤む金の目を見据えていた。

 志希はイザークのその目に体を震わせ、次いで頷く。

 カズヤ達三人が連携して闘っている以上、志希はイザークの補佐をしなくてはいけない。

 何もしないままイザークの戦闘を見ているのも、ある意味勉強にはなるだろう。

 だがしかし、ここでぼうっと見る為にこの場にいるわけではない筈なのだ。

 先ほどの戦闘の様に自分の頭で考え、自分でどの様に皆と連携していくのか実践していかなくてはならないだろう。

 それならばと、志希は口に出して願う。

「お願い!」

 志希の言葉に応じ、水の精霊達が集い騎士鎧の脚部に拳大に凝縮した水弾をぶつける。

 この攻撃で脚部の板金部分がへこみ、僅かに体勢を崩す。

 元々傾いでいた体勢が更に崩れた事により、ハルバートを支える力が弱くなっているのだ。

 イザークの並外れた膂力に対し、片手の騎士鎧がひたすらに堪えるという図式が出来ている。

 世間一般では生ける鎧とは物凄い力を持っていて、駆け出し冒険者が一対一で戦った場合高確率で死ぬ相手である。

 その相手を易々と押しているイザークは、ハッキリ言ってかなりの腕を持つ戦士だ。

 何故そんな人が銅冒険者なのかと小一時間ほど問い詰めたい衝動に駆られながら、志希はイザークの動きをじっと見ている。

 彼は一旦大剣を押す力を緩め、急に力が抜けたが故にたたらを踏む騎士鎧は完全に体勢を崩す。

 その瞬間、イザークは左手でがっちりとハルバートの柄を掴んで脇に挟み、右手で握った大剣を強い力で横薙ぎに振るう。

 あまり良い体勢で放たれたその一撃は、信じられない事に騎士鎧の胴半ばまで大剣を食いこませていた。

 この一撃に、騎士鎧はぐらぐらと体をよろめかせる。

 志希はこの瞬間を好機と思い、もう一度願う。

「もう一度、お願い!」

 志希の言葉に応じ、水の精霊が再び水弾を形成し撃ち出す。

 その攻撃は、今度はハルバートを持つ手首に命中した。

 先ほどよりも大きな音を立てて籠手は大破し、ハルバートの柄が解放される。

 イザークはその瞬間にハルバートを離し、大剣の柄を両手で掴み騎士鎧から引き抜いていく。

 がりがりと金属と金属が擦れる音を響かせながら大剣を騎士鎧から引き抜くと同時に、イザークは再び、渾身の力を込めて大剣を横に振る。

 再度の攻撃に騎士鎧は回避するべく動こうとするが、それよりも早くイザークの大剣が開いた板金の裂け目に食い込み、そのまま両断する方が早かった。

 胴と下半身が分かれた瞬間、フッと騎士鎧が纏っていた威圧感が消える。

 同時に、少し離れたところで戦っていたカズヤ達の方も終わったらしく金属が床に落ちる甲高い音が聞こえてきた。

 志希はその音で緊張と一緒に足の力が抜け、思わずぺたりと床に座り込む。

「おっしゃ、片付いたな」

 カズヤの言葉にイザークは無言で頷きながら大剣を一振りし、鞘に納める。

 志希が出した光の精霊が煌々と輝き、室内をくまなく照らしているので動きだすような敵がいないのはすでに確認している。

 そうでなければ、志希がへたり込んだ時点でイザークが注意を促しているだろう。

 志希と同じように緊張から解き放たれたらしいアリアもまた、へたり込んではいないが杖に凭れる様に立っていた。

 そんな二人と対照的に、イザーク、カズヤ、ミリアはしゃんと立ち室内を見回している。

「おいおい、だらしねぇなシキ」

 へたり込んでいる志希に、カズヤはにやにやと笑いながら言う。

「むぅ、仕方ないじゃない」

 志希は唇を尖らせながらそう返事をするが、相変わらず床に座りっぱなしである。

「まぁな」

 志希の言葉に苦笑してから、カズヤは手にしている小剣に目を落として渋面を浮かべる。

「くそ、この鎧かてぇんだよ。オレの小剣刃毀れしちまったじゃねぇか」

 カズヤの小剣はボロボロに刃が毀れ、殆ど使い物にならない状態になっている。

「今回の報酬で修繕するなり、買い換えるなりすると良い。それこそ、そろそろ小剣から長剣に変えても良いだろうしな」

 イザークはそう言いながら、志希の前に膝をつく。

「立てるか?」

 静かな問いかけに、志希は顔を上げて困った笑みを浮かべる。

「立てないかも……」

 安心して気が抜けたが故に、志希は腰が抜けた状態になっているのである。

 そんな彼女の様子にイザークは苦笑し、頭をポンと撫でる。

「良く頑張ったな」

 優しい声音で労われ、志希は嬉しそうだが恥ずかしそうな笑みを浮かべる。

 イザークは目元を和ませ、志希の頭をもう一度撫でてから口を開く。

「もう少し休ませてやりたいが、まだ罠がある可能性がある。立てんのなら、悪いが抱えるぞ」

 そう言ってから、イザークは軽々と志希を小脇に抱える。

 志希は突然の事にきょとんとした表情を浮かべ、次いで真っ赤になりながら硬直する。

 その姿にイザークはくつくつと喉を震わせて笑い、カズヤはそんな彼に驚愕してしまう。

「イザークが、声を出して笑ってる!?」

 長い付き合いの彼でも、滅多に見られない姿らしい。

 そんなカズヤの姿にイザークは笑いを収め、いつもの表情に戻る。

「俺の事より、さっさと罠の有無を見ろ」

 若干憮然とした声音で言うイザークに、カズヤは肩を竦める。

「へぇへぇ、分かってるよ」

 そう返事をして、カズヤは足音も無く罠感知の為部屋の隅や壁を調べ始める。

 床に罠が無いのは、生ける鎧が居た事で証明されている。

 門番をも攻撃するような罠を仕掛ける者は、まずいないからだ。

 と言う事で、部屋の隅や壁が怪しいと言う事で調べ始めているのである。

 アリアは姉の肩を借りて呪文を詠唱し、魔力を持つ何かが無いかを探知する魔法を使用している。

 一方肩を貸しているミリアは、カズヤとイザーク、そして志希のやり取りを苦笑を浮かべながら眺めていた。

「子供みたいね」

 苦笑しながら呟くと、隣のアリアが杖をおろしくすりと笑う。

「長いお付き合いらしいから、仕方ないんだと思います」

 アリアの声音には、若干の羨望が含まれている。

 それはカズヤと志希、イザークの仲が良いからなのか、それとも志希の様に自分も接して欲しいと思っているのか。

 ミリアは、その両方なのだろうと思いつつ頷く。

「そうね」

 言葉短く同意したのは、ミリア自身も彼らに対して羨望の気持ちがあるからである。

 長く二人で冒険していたが故に、殆ど他の冒険者とは接触を持っていなかった。

 今まではそれで良いと思っていたが、こうして共に過ごしてみるといかに自分達が狭い世界にいたのかを感じられた。

「そろそろ、潮時なのかもね」

 ミリアはポツリ、と呟く。

「姉さん……?」

 アリアはミリアの言葉に、不安げな声音で呼びかける。

「ああ、大丈夫よ。問題は、何も無いわ。そろそろ二人きりはやめた方が良いのかしらって、事」

 ミリアの言葉に、アリアは一つ頷く。

「それは、同意します。わたし達だけでは……」

「冒険者としては、まだまだ未熟だっていうのもわかったしね」

 アリアの言葉を遮るように、ミリアはそう言って妹を見る。

「そう、ですね」

 アリアは何か言いたげな表情をしていたが、小さく頷いてから姉の肩から手を離し自力で立つ。

「カズヤさん、魔法感知をしました。魔力がこもっている物はそこにある幅広剣とハルバート、そしてそこの壁の向こう側くらいです」

 アリアの言葉に、罠を探していたカズヤは頷く。

「んじゃま、そこの武器は持ち帰り決定だな。罠の方も探してみたが、どうにも見当たらない感じだ」

 アリアが指した壁の方を見ながら、カズヤはさてと室内を見回す。

「今度は、本格的に部屋ん中を調べるか。皆も、頼んだぜ」

 カズヤの言葉に頷き、アリアとミリアは室内を調べ始める。

「イザーク、シキをからかって遊ぶのも良いけど動けよー」

 ミリアとアリアが動き出したのを確認してから、イザークに一言釘を刺してカズヤは室内を漁り始める。

「分かっている。立てるか?」

 イザークの若干不機嫌そうな問いかけに、志希は困ったように頭をふる。

 立ちたいとは思っているのが、下半身に力が入らないのだ。

 そんな志希に小さく苦笑して、イザークは志希を抱え直す。

 今度は小脇ではなく、片腕で子供の様に抱く形だ。

「わぁ!」

 志希は思わず声を上げ、羞恥で更に顔を赤くさせる。

「じゃ、邪魔になるよ!?」

 咄嗟にそう突っ込むと、イザークは肩を竦める。

「気にするな。一人で離れている方が危険だ」

 さらりとそう宥め、イザークは室内をぐるりと見回す。

 実は、この部屋はかなり広い。

 何せハルバートを持った騎士鎧と大剣を持ったイザークが戦える上に、少し離れたところで大盾と幅広剣を持った騎士鎧と大鎌を持ったミリアと小剣で相手をしていたカズヤが戦闘していたのだから当たり前だ。

 そんな広い部屋の壁の三方には棚が作りつけられているが、アリアが示した壁の方には何もない。

 いかにも何かありますと言った雰囲気がある訳なのだが、壁を探ったカズヤは隠し扉が見当たらないと頭を振る。

「仕掛けがあるのかもな」

 ぽつりと呟き、カズヤが室内にあるテーブルや本棚を探す。

 そんな中、志希はそろそろ腰の方も回復してきたような気がするので、どうにか降ろしてもらおうと考えつつ棚を眺めていると、目の端に鮮やかな青が見えた様な気がした。

 思わずそちらに顔を向けると、棚の中に少し変わった形をした置物が鎮座ましましていた。

「これなんだろう」

 小さく呟き、惹かれるように手を伸ばす。

 志希の様子に気が付いたイザークが彼女より先にそれを掴んだ瞬間、ごとりと音が響く。

 イザークがとっさに身を引き素早く身構えるのと同時に、何も置かれていなかった壁が音も無く消える。

 壁の向こう側には長剣や長棍が飾られた棚が置かれ、その横には大きな台が設置されていた。

 台の上には金属鎧が二人分放置されており、表面には錆びが浮いてる。

「武器の方は保存の魔法が掛けられてるが、鎧の方はかけられてなかったんだな」

 カズヤは台の上の金属鎧と棚に飾られている武器を見て呟く。

「おそらく、そちらの武器をこの二体分の鎧の武器にする予定だったのではないでしょうか」

 アリアはカズヤの呟きに推測を交えて答え、部屋をぐるりと見回す。

 室内には本棚も並べられているが、それよりももっと目を引く物が部屋の奥にあった。

 そこには青白く輝く、大きなガラスの筒状の物が円状にいくつも並べられていた。

 円の中には大きな魔法陣が床に書かれており、陣の中央には青く輝く小さな宝珠が嵌めこまれていた。

 それを見た志希は、思わず息をのむ。

「これって……」

 志希の呟きに、アリアが口を開く。

「この魔法陣はおそらく、合成獣の比重を調節する役目と、生ける鎧を作る魔法陣を兼ねた装置なのだと思います」

 アリアは真剣な表情で魔法陣の前に立ち、そっとそれに触れる。

 すると魔法陣の線が仄かに光り、まだこの装置が使える事を示している。

「まだ、この装置は生きています」

 感嘆の色を滲ませ、アリアは装置を見上げるがすっと眉を潜める。

「ですが、個人的には生命をもてあそぶ研究は好みませんね」

 アリアは憮然と言い、ミリアも頷く。

「そのとおりね。神から与えられた物を歪めるのは、どんな人であろうとも赦される事ではないわ」

 大地母神の神官戦士であるミリアには、生命を弄ぶような研究を赦す事など出来ないのは当然だろう。

「まぁまぁ、ここの主は何百年も前に死んでんだ。この装置さえ不用意にいじったり、使ったりしなきゃ良いもんだろ?」

 カズヤはミリアを宥めるように言いつつ、室内を物色する。

「イザーク、私もう立てるから……降ろしてもらって良い?」

 志希の言葉にイザークは無言で頷き、志希を床に降ろす。

 少しだけふらついたが志希はきちんと床を踏みしめて立ち、装置を調べているアリアの方へと行く。

 志希が息をのんだのは、魔法陣の用途ではない。

 魔法陣に組み込まれている、小さな宝珠に驚いたからだ。

 見ただけで分かる、『神凪の鳥』の力の波動。

 これは、この世界で人として生きるために『神凪の鳥』の力を封印された品物だ。

 志希達『神凪の鳥』の力が籠められた品物はかなりの力を持っており、剣や武器に宿って居れば聖剣や魔剣と呼ばれ、それ以外は聖遺物などの呼称を得ている。

 無論、これらの物は普通の人間が扱える物ではないため、神凪の鳥以外が扱えば命を削る結果となる。

 古代の魔術師たちはこの力に注目し、何らかの形で有効利用しようとしたが故にこのような形になっているのだろう。

 しかし、志希としては『神凪の鳥』の力を命を歪める為に使われるのは許容できそうもない。

 なので、調べているアリアの横をすり抜け魔法陣の中に足を踏み入れる。

「シキさん!?」

 驚く声を上げるアリアに、志希は手を合わせる。

「ごめん、アリアさん。私、これがこんなふうに使われるの嫌なの。だから、外しちゃうね」

 志希の突然の言葉に、アリアは小首をかしげる。

「その宝珠が、なんなのですか?」

 思わずと言った問いかけに、志希はどう応えるべきか一瞬考える。

 しかし、志希の唇は思考とは裏腹に言葉を紡ぐ。

「精霊の揺り籠、なの」

 己が紡いだ言葉に志希自身が驚くが、直ぐに間違っていないと確信を抱く。

 精霊の揺り籠とは、精霊が何らかの物品に惹かれて集まり、精霊界へと繋がる門が自然に発生した物である。

 精霊使いがこれを持てば、どの様な場所であろうと全ての精霊を呼びだし素早く術を行使する事が出来る。

 世の精霊使い垂涎の品物である。

 『神凪の鳥』自体が生きた精霊の揺り籠と言っても過言ではない為、その力が封印された品物が精霊の揺り籠としての機能を得ているのは間違いない。

 一方、驚いた声を上げるのはミリアとアリアだ。

「精霊の揺り籠って……!?」

 滅多に見る事が出来ない、聖遺物と並ぶ珍しい品物だ。

 イザークとカズヤ達もまた、驚きで魔法陣を見ている。

「シキさんが言うのでしたら、まず間違いないのでしょうね……」

 アリアは小さく呟き、じっと魔法陣を見ている。

「聖遺物と並ぶほどの品物であれば、わたしもシキちゃんの意見に賛成だわ。神聖なる物をこんな魔法の為に使われるのは許せない」

 ミリアは志希の意見に同意し、アリアを見る。

 魔法陣の解析をしているアリアに、文句を言わせる気はないとその視線は告げている。

 姉のその表情にアリアは微笑み、頷く。

「もちろん、わたしも賛成です」

 柔らかい声音でアリアは言い、志希を見る。

「魔法陣は生きていますが、その宝珠を取れば機能は停止します。床を削るか何かして、取り出しちゃってください」

 アリアはそう言い、真面目な表情で言葉を紡ぐ。

「だいたいにして、学院からの調査員がこれを見て、変な事を考えないという保証はありません。ですから、この魔法陣は死んでいる方が良いのです」

 塔の学院で禁止されていても密やかに研究し、禁忌に手を出す人間はいる。

 そんな人間達に見せるのも危険なら、肝の部分を潰しておけばいいのだ。

「俺が取り出そう」

 静かに三人の会話を聞いていたイザークが言いだすが。

「いんや、それならオレがやるよ。貴重なもんなら、余計に手先が器用な人間が取った方が良いだろ?」

 カズヤがそう言いながら、音も無く魔法陣の中に足を踏み入れる。

 その手には刃毀れした小剣を握っており、不安げに見上げる志希ににやりと笑いかける。

「シキはイザークの所に行って、見てろって」

 自信たっぷりなカズヤの言葉に、志希は頷いてから魔法陣を出てイザークの横へと戻る。

 志希の動きを確認した後にカズヤは刃毀れした小剣を使い青い宝珠を抉り出そうとした瞬間、魔法陣一面に一瞬だけ小さな雷が走る。

「いっち!」

 カズヤが小さく悲鳴を上げてから、大丈夫だとひらりと手を振る。

「指先が痺れただけだ」

 苦笑しながら言葉をつけたし、カズヤは作業を続行する。

 一瞬だけ走る小さな雷は、生きた魔法陣に組み込まれていて魔力を提供している物品を外そうとしているが故に起きる物である。

 要するに、魔力が反発しているのだ。

 しかし、それとて静電気ほどの痛みしかない為、カズヤの作業を少し邪魔する程度にしかならない。

 石床をカリカリとひっかく音と、時折雷がパリっと鳴る音が室内に響く。

 その間、他のみんなは急に大きな反発が起きてカズヤが怪我をしないかを見守っていた。

「うっし、取れた」

 不意に魔法陣が光を失うと同時に、カズヤが喜びの声を上げた。

「ほら、シキ。これはお前ンだ」

 そう言いながら、立ちあがったカズヤは志希に向かって宝珠を投げる。

「あっ、ありがとう!」

 志希は宝珠を両手で受け取りながら思わず礼を言う。

「そりゃ、こっちの台詞だろう。こんだけお宝が眠った部屋に案内してくれたのは、シキなんだからよ。だから、それはシキが持つべきもんだと思う」

 どうよ、と言わんばかりの表情でカズヤはイザークとミリア、アリアを見る。

「異論はない。拾って帰れるものだけでも、かなりの稼ぎが期待できるからな。シキが一番高価な物を持つのは、発見者として当然だろう」

 イザークはカズヤに同意し、神官と魔術師の双子を見る。

「わたしも賛成です」

 アリアもまた簡潔に同意し、姉を見上げて返事を待つ。

 四人の視線を一斉に受け、ミリアは肩を竦めて笑う。

「反対する気はないわ。だって、ここを見つけたのはシキちゃんだし……精霊の揺り籠だって分かったのもシキちゃんじゃない。当然の事でしょ?」

 そう言って、ミリアはカズヤに頷きかける。

「満場一致か」

 イザークは満足そうに頷き、志希の手のひらの中にある青い宝珠を見る。

「そんじゃま、室内の物色続けるかぁ」

 カズヤの言葉に全員頷き、思い思いに目をつけた場所へと移動していくのだった。

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