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神凪の鳥  作者: 紫焔
神聖国に蠢くモノ
109/112

幕間

 物凄い追い風に、背中を押されると言うよりも運ばれると言った状態でエルロイと彼を護衛する仲間達は駆ける。

 エルロイを護衛する仲間の一人である冒険者で精霊使いのデトレフが言うには、強力な精霊使いが結界内で王城へ向かう全てのパーティに向けて風の祝福を願ったからだと言う。

 デトレフは風の祝福を願ったのはクルトであろうと言うが、エルロイは直ぐに違うと直感した。

 思い出されるのは、マリール村で見た自然への畏怖や脅威を内包した美しく神々しい存在。

 神々と似て非なる神聖さを内包したその存在は、精霊王と呼ばれる神にも匹敵する存在であった。

 そしてその存在が愛おし気に声をかけた人物。何よりも、彼の人が無意識に召喚したと言っても過言ではないとその存在自らが明言していたその人。

 アルフの様な髪と目の色を持ちながら、美しいと言うよりは愛らしい容姿をした少女にしか見えない女性。

 シキという名の彼女は、精霊たちに愛された者であった。であればこの程度の祝福を願う事も造作ない事なのではないかと思う。

 そんな彼女が聖女ミリエリアの側にいる事は、運命以外の何物でもない。

 聖女ミリエリアの力も未知数だが、それ以上にシキの能力も謎に包まれている。

 そこに思いを馳せかけていると、市街地の中で神官としての感覚に訴えるモノがあった。

 何事かと素早く周囲を見回していると、軽装の騎士が声を上げる。

「あちらの方に、随分とアンデッドが集まっているな」

「その様だが……この瘴気の中で生きた人間でもいるのか?」

 最初に声を上げたのはグレゴリーという、フェリクスの精鋭部隊の騎士の一人だ。

 そして、それに応えたのはボリスというグレゴリーの同僚だ。

 この二人はエルシルではなく、ヴァルディル神を信仰しているという法を愛する騎士たちである。

「いや、そもそも聖人の加護が無いんじゃ生きてられねぇんじゃねぇのか?」

 リュックというデトレフと組んでいる盗賊が疑問を呈すると、彼の後ろを走る紺のローブを纏った壮年の男性が口を挟む。

「アンデッドが集まっている方向は、冒険者ギルドがある。聖王都というだけあって、かなり大きな支部だ。ギルドマスターは高名な戦士で、彼の部下にはワキュリーの司祭がいる。彼女がいるなら、この瘴気の中でも結界を張るくらいはできるはずだ」

「それに、冒険者ギルドなら司祭とはいかなくても神官は居るはずです。そうであれば、結界維持の為に神官たちが交代で祈りを捧げればどうにでもなります」

 エルロイは男性の言葉を引き継ぎ、仲間達に告げる。

 マリール村ではそうやって、アンデッドの襲来を凌いだのだ。

「経験者が語るのであれば、それで間違いはあるまい」

 エルロイの言葉に壮年の男性は言い、視線であっているかを問いかけられる。

「ええ、カルロス導師。司祭か侍祭の地位に立っていられる方なら、その事を知っておられるはずです」

 そう応えたエルロイは、走りながら提案する。

「少々骨かも知れませんが、ギルドの方に寄りたいのですが」

「はぁ!? この非常時に、お前何言ってんだよ!」

 リュックが抗議の声を上げ、それにグレゴリーが同意する。

「一刻も早く王城に行き、この結界を解く方が先だろう」

「ええ、分かっています。ですが、希望が無いまま結界の中に籠っていると焦燥にかられる事があります。今、まさに救いの御手が差し出されている事を教え、奮起していただきたいのです」

 賛成しかねると言った二人に、エルロイは告げる。

 エルロイは実際、マリール村での出来事でそれを目の当たりにしているのだ。

 絶望にかられ、いっそのことアンデッドの群れに飛び込もうかと言い出した人間は一人や二人ではない。

 絶望こそが、彼らの敵だ。

 冒険者ギルドに一般人が避難しているのであれば、誰かしらが宥めたり希望を口にしてはいるだろう。

 だが、今まさに助けが来ているのだと彼らに示し、希望をもってもらわねばならない。

 そして何より、神々の力をより強く感じるために皆で祈らなくてはならないのだ。

「絶望に駆られ、アンデッドの群れに飛び込めばこの結界の主の思い通りです。そうならない為に、そうしない為に必要な事です」

 きっぱりと言い切ったエルロイの言葉に、カルロスはなるほどと小さく笑う。

「では、走りながらですがギルド前に立ちはだかるアンデッドどもを一時的に薙ぎ払いましょう。ただ、詠唱しながら走りますので少々速度が落ちますがよいですかな?」

「無論。では、皆さんお願いします」

 エルロイはカルロスの言葉に頷き、パーティの面々に告げる。

 確認ではなく決定事項な事にリュックはひくりと頬を引きつらせるが、仕方ないと嘆息する。

 グレゴリーとボリスは長剣を抜き、それぞれ先頭と殿に分かれる。

 真ん中にエルロイとカルロスを入れ、左右をリュックとデトレフが固め少々速度を落としながら地面を蹴る。

 少なくない数のアンデッドが周囲に居るので、それらを警戒するための陣形だ。

 アンデッド達の呻き声に紛れるように、小さくカルロスが詠唱する。

 魔力が凝り、カルロスの意図する形へと構築されたそれを、力ある言葉を発する直前で止める。

 高まった魔力の中、エルロイは小さく祈る。己が信仰する光と秩序の神ヴァルディルの加護を高める祈りだ。

 しばしそのままの隊列で走っていると、カルロスが杖を掲げる。

 それを見たエルロイは、グレゴリーに声をかける。

「横に退けてください!」

 エルロイの合図にグレゴリーは素早く場所を開け、リュックの隣につく。

 それと同時にカルロスは真っ直ぐに、近くに迫っていたアンデッドの群れの背面に向けて杖を向ける。

「奔れ雷光!」

 杖の先端から迸る太く真っ白な閃光は、一直線にアンデッドの群れを消し炭に変える。

 余りの威力にアンデッド達の体の一部が蒸発し、肉が焼ける臭いを発している。

 冒険者ギルド前まで一直線にできた道を、全員で一息に駆け抜ける。

 強い風の加護のおかげでそれほど疲れる事無く、冒険者ギルドの前までに貼ってあった結界にたどり着く事が出来た。

 しかし、唐突な攻撃魔術の行使に警戒しているのか、ギルド前に張ってあるバリケードから警告が飛ぶ。

「それ以上こちらに近づくな!」

 バリケードの土嚢の裏には、クロスボウや弓を構えた者達がいた。

 エルロイは顔色の悪い彼らを見て、状況はぎりぎりなのだろうと推測する。

「我々は聖女ミリエリア様の要請により、王城の結界を破壊に向かう途中の者だ」

 カルロスが魔術師の証である杖を掲げながら、そう彼らに告げる。

 告げられた言葉にざわりと声が上がり、クロスボウや弓を構えた者達の後ろで慌ただしくなる。

 エルロイは首から下げた聖印を掲げ、口を開く。

「私は未熟ながら、光と秩序の神を信仰している神官です。私の住む村も数月ほど前にあなた方と同じようにアンデッドの群れに襲われました」

 この言葉に、動揺するように僅かに警戒する者達の矢じりが動く。

「それは、本当の事か?」

「お疑いでしたら、マリール村の事をギルドの方々にお聞きください。フェイルシアとミシェイレイラの両方に、ギルドからの緊急依頼が出ていた筈です」

 土嚢の向こう側からの問いにエルロイが応えると、数人がギルドの中から出入りし始める。

 事実確認をしているのだろうと待つ態勢を取ろうとすると、カルロスが小さく息を吐く。

「すまんが、少し休ませてくれ。走りながらの魔術行使なぞ、ここ数年していなかったのだ。まして、道を作る為に威力を上げていたからな……」

 若干顔色が悪い彼に、ボリスが慌てて手を貸す。

 その彼を、ギルドの中から出てきた魔術師が見て目を丸くする。

「カルロス導師!? なぜこんな所にいるんですか!?」

 魔術師の言葉に、ギルド側の人間が戸惑ったように彼を見る。だが、カルロスは彼を見て表情を明るくする。

「おお、お前がここに居るとは丁度良い。お前、魔石を数個融通してくれ。ここに来るまでの間に、一つ使い潰してしまった」

「ええええ!? 導師が持ってるのって卵くらいの大きさのでしょう!? そんな大きな魔石、使い潰すなんてよっぽどですよ!?」

「虎の子を使い潰すのは、この後だ。おそらく足らん」

「あの魔石でたりないって!?」

 驚愕と言った彼の姿に、周囲の人間が戸惑いながら声をかける。

「おい、あの魔術師と知り合いなのか?」

「知り合いも何も、本来ならミシェイレイラの塔の学院のトップに立つ方ですよ! ただ、エルカーティス伯に請われ、あちらの方に出張していらっしゃるはずでしたが……」

 魔術師の言葉にカルロスが口を開こうとするが、それより早くギルドの扉が開く。

 中から出てきたのは大柄な男性で、騎士然とした仕草で鋼の鎧を身にまとっている。

 その少し後ろには、長い髪を高く結っているワキュリーの聖印を持つ女性が従っている。

 女性はちらりとエルロイを見てから、聖印を握り小さく祈りの言葉を唱え言葉を紡ぐ。

「フォティス、彼らは朗報を運んできてくれたわ。わたくし達はこの中にいる街の住人の皆さまと共に絶望と戦い、神々に祈りを捧げましょう」

「唐突だな」

 フォティスと呼ばれた男性は、ワキュリーの司祭らしき女性を見る。

 しかし彼女は男性を無視してエルロイの前へと真っ直ぐ進み、膝を折る。

「自らを未熟とおっしゃる御方、どうぞ我らの祈りを受け取り御方達と共にこの聖王都を御救いください」

 神託を受けた彼女の姿に、エルロイは背筋を伸ばす。

 彼は司祭の前に膝をつき、はっきりと頷く。

「その為に、我々は聖女ミリエリア様の元に集いました。必ずこの邪悪なる結界を退けましょう。ですが、邪悪を断つのは我々白き怒りではなく、緑の慈悲です。彼の御方でなくては、あの邪悪を倒す事はできません」

 きっぱりと告げるエルロイに、女司祭は頷き立ちあがる。

「魔術師を集め、王城へと道を開きましょう。このお方たちは希望の一つです。ワキュリー様よりの御言葉に、間違いはありません」

 女司祭の言葉に、男性は問いかける。

「事情説明はしてもらえるのだろうな?」

「もちろんですが、彼らはこちらに寄られた事で時間を取られています。それを補うためにカルロス導師には魔石をお譲りし、王城への道を開くのが最善です」

「わかった」

 男性は頷き、近くにいた冒険者に声をかけて奥へ行かせる。

 その間、デトレフが顔を宙に向け小さく精霊語で精霊に語り掛けていたが、驚いたように目を瞠り仲間に告げる。

「風の加護は、王城へ着くまでという条件付けがされているようだ。道を開いてもらえば、一気に駆け抜ける事が出来るぞ」

 破格と言って良いほどのその術に、どれほどの魔力を与えればそのような事が出来るのかとデトレフは興奮気味に呟いている。

 その言葉を聞けば、やはりシキという女性が破格なのだろうとエルロイは内心で頷く。

 だからこそ、彼の聖女の側で助けとなる事が出来るのだろう。

「カルロス導師、今疲れを癒します」

 そう言って、奥からクミルの神官が魔石を持って現れる。

 女性らしい細い腕をカルロスの手に重ね、小さく祈りの言葉を捧げる。

 魔術は魔力を制御する為に神経を使うので、精神的な疲れが蓄積しやすい。まして、先ほどの魔術は走りながらの構築だ。体と魔術構築の両方に気を配れば、必然的に疲れが増してしまう。

 その精神的な疲れを癒す術を、クミルの神官は豊富に持っているのだ。

「ああ、ありがたい。これから行く場所はどう考えても危険だからね、助かるよ」

 カルロスは微笑み、クミルの神官に礼を言う。

「いえ、お気をつけてください」

 クミルの神官は頭を振ってから、手に持っていた魔石を差し出す。

 ギルドの印が入ったその魔石は、卵ほどの大きさのが一つ、それよりも二回り小さいのが三つほどであった。

 色味は深い紫で、かなり質の良い魔石である。

「これは……」

「使い残した場合は買い取ってくれ。流石にそれを無償で提供するのは、赤字になってしまうからな」

 カルロスの驚いた声に、騎士風の男性が言う。

 そう言われたカルロスは小さく喉を鳴らし、楽し気に頷く。

「ギルドマスターからの言葉なら、仕方ありませんな」

「昔なじみだからと言って、特別扱いは無しだ」

 ギルドマスターはそう言って、カルロスに向かって手を振る。

「では、昔なじみの誼で借りていく。フォティス」

 フォティスと呼ばれた彼は嬉しげに笑い、目じりの皺を深くする。

 そこに、ギルドの中から魔術師が十人ほど出てきた。

「カルロス導師、儀式で威力を上げる方式で宜しいですね?」

「ああ。お前たちの魔力、この聖王都を解放するために使わせてもらうぞ」

「はい!」

 魔術師たちは気合の入れた返事をし、全員で円を描く。その中心に一際魔術の腕が高いのであろう青いローブを着た青年が立つ。

「貴方は……」

 エルロイはその青年を見て、思わず呟く。

 彼もまたエルロイを見て目を丸くし、次いで微笑む。

「あんたも大変だな。アンデッドキラーの修業をされていると聞いて居たが、このようなところまで来るなんてな」

「それを言うなら、貴方こそ」

「俺は依頼を求めてこちらに来たから、こうなっただけの事さ。そして……よくこの中をあの銅と鉄のパーティが歩き回ったもんだ」

 そう言って、苦笑する青いローブの魔術師。

「アリア嬢なら単独で放てるであろう魔術を儀式で高めなくてはいけないとは情けないが……俺の全力で撃たせてもらう。皆の魔力が乗る分、威力があるはずだ。安心してくれ」

「ええ、もちろんです。そして貴方の事を、アリセリア姫にお伝えしておきましょう」

 エルロイの言葉にきょとんとする青ローブの魔術師に、彼は苦笑しながら伝える。

「あのパーティの方々は、今私達と別口でこちらに進入していらっしゃいます。そして、彼のパーティの神官こそが聖女ミリエリア様であったのです」

 エルロイに告げられた事実に驚愕の表情を浮かべ、次いで彼は声を上げて笑う。

 内容を聞いて居た魔術師や、周囲の者達は困惑した表情で彼を見る。だが、青いローブの魔術師は笑いを収めて円を作っている魔術師たちを見る。

「おい、気合を入れるぞ! 何せ死霊術師のヴァンパイアを倒した実績を持つ、聖女と魔術の神童であるこの国の姫君方が来てるんだからな!」

 声高に告げ、彼は杖の先を石畳につく。

「大気に満ちる魔力よ……」

 杖を掲げ、青いローブの魔術師は詠唱を始める。

 その声に呼応するように、円を描く魔術師たちもまた詠唱を始める。

 韻を踏み、歌うように詠唱する彼らをギルドの窓から子供たちが覗き見ている。

「随分と……腕のいい魔術師だ」

 カルロスが思わずと言ったように呟く。

 彼の眼には、緻密に編み上げられる魔術構築が見えているのだ。

 無駄な魔力を出さぬ様に編み上げられるその術式は、他者の魔力を含み濃密になっていく。

 魔術式を凝縮し、青ローブの先端に青白い雷光を纏う球が出来る。

 脂汗を掻きながら、構築が崩れない様にと制御した青ローブは口を開く。

「いいか、これからこいつをぶっぱなす。多少どっかの家を削るかもしれねぇが、それは気にしないで行け。真っ直ぐ王城への道を作るからな。それで、あのパーティの奴らの手助けを頼むぜ。多分、あんたが来たのはその為なんだろうしな」

「はい。では……皆さんに、ヴァルディル神の加護を!」

 青ローブの言葉に頷き、エルロイは聖印を握り祈る。

 聖人の加護を増幅し、瘴気に負けない為に。

 ふわりと白い光を纏った仲間達は、青ローブの方を見る。

「行くぞ。……貫け、白雷!」

 杖の先端に維持されていた青白い雷光を纏う球が細長く変形し、衝撃波を伴って飛翔する。

 王城に向けて放たれた白雷はアンデッドを貫き、蒸発させながら真っ直ぐに道を作る。

 衝撃波で他のアンデッド達はもんどりうって倒れ、青白い雷光に焼かれていく。

 その強力な魔術に一瞬気を飲まれかけるが、直ぐにエルロイは地面を蹴る。

 エルロイの動きに正気に戻ったのか、仲間達も一拍遅れて地面を蹴る。

 青ローブの魔術師と、共に儀式を行った魔術師たちは他の冒険者に支えられながら、物凄い速さで遠ざかる彼らを見送る。

 絶望的な現状を打破するように、希望を持って現れた彼らに感謝をする。

「ワキュリーよ、この王都を救うべく動いて居る者達にご加護を」

 フォティスの側にいるワキュリーの女司祭の、朗々とした祈りの言葉に全員が目を閉じる。

 彼女の祈りは、この王都で生きている者達全ての祈りであった。


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