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神凪の鳥  作者: 紫焔
神聖国に蠢くモノ
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第百一話

 大規模な戦闘から数日後にファシス軍をうち破り、洗脳されていたファシス辺境伯を解放する事が出来た。

 以降、ミリア達聖女軍は真っ直ぐにミシェイレイラの王都へと進軍し、阻もうと立ちはだかるアンデッド交じりの国軍を退けて往った。

 国軍を指揮する者達の殆どは洗脳されているだけだったのだが、ヴァンパイア化しているという事態もあった。

 それを中立の立場を取っている下級貴族を取り込むための布石として、フェリクスは冒険者ギルドを使って下級貴族達を揺さぶりをかけた。

 冒険者ギルドもフェリクスを支援し、戦場の情報を連絡が取りあえる冒険者ギルドの支部で共有し資料を作り、下級貴族達に提示していたのだ。

 冒険者ギルドもまた、目の前で国一つが滅ぶのを傍観するつもりが無かったのだろう。

 また、ミシェイレイラの冒険者ギルドを統括しているギルドマスターがいる王都と連絡が付かないため、如何にかしたいというのも各地のマスターの総意でもあったようだ。

 その為には、ミリアに王都を解放してもらわねばならないのだ。

 様々な人たちの思惑に気が付きながらも、ミリアもアリアも彼らの助力を受け入れ迅速に王都へと軍を進めて行った。


 眼前の光景を凛々しく見据えるミリアを眺めながら、志希は思う。

 国の存続にかかわる危機である以上、清濁併せ呑む覚悟も必要である。

 その心構えは為政者の物だと理解していても、今のミリアは愛する国が自分を蹂躙したヴァンパイア・ロードに良い様にされるのは我慢できないのだろう。

 その心情は、志希では推し量る事が出来ない物であるのは確かだ。

 下手な慰めの言葉などかけられないと唇を噛む志希の頭を、大きな掌が撫でる。

「シキ」

 静かな声に名前を呼ばれ、志希は手の持ち主を見上げる。

 黄金の目を静かに光らせ、ゆるく頭を振るイザーク。

 志希は頷き、改めて前に意識を戻す。そこには、壁画を刻まれた強固で美しい城壁が広がっていた。

 ここに描かれているのは、ミシェイレイラと言う国の成り立ちを描いた聖画だ。

 そしてその聖画を穢すように、瘴気を孕む邪悪な結界が覆いかぶさっていた。

 結界内部には兵士の姿をしたリビングデッドやグワルが待ち伏せ、結界内に入ってくるモノを食い殺そうと待ち構えている。

 美しく整えられた聖都の城壁を蹂躙するように配置された不死者達の姿は、まさに現在のミシェイレイラの姿を現していた。

 ミリアが率いる聖女軍は、既にミシェイレイラの王都を望む位置までたどり着いていた。

 ミリアとアリアの横にフェリクスが並び、これをどの様に攻略するか議論している。

 この邪悪な結界がどの様な効果があるのか、そしてどのように解除するべきかの調査が必要なのだ。

 だがしかし、志希はこの結界を見た事でその性質や解除に必要な手順は既に知識の中から引き出す事が出来ていた。

 だが、どう説明するかが非常に悩ましい。

 ここで結界の全容をいきなり説明しても、何故知っているのかと突っ込まれた場合言葉に詰まってしまう。

 高位司祭や魔術師が居る現状、彼らが知らない物を何故志希が知っているのかと詰問されるのは必至だ。

 口を開きたいが開けない状況にもどかしさを感じていると、アリアが強い声を発する。

「これ以上議論しても仕方ありません。わたしは手持ちの魔道書に何か手がかりが無いかを調べるつもりですから、皆さんも手分けして魔道書を持っている魔術師や資料になりそうなものを持っているであろうギルドに繋ぎを付けてください」

 彼女にしてはきつい言葉遣いでフェリクスや、その側にいた貴族や神官達に告げミリアを見る。

 ミリアはそれを受け、口を開く。

「アリアの言う通り、まずは情報を。あの結界を調査するのは許しますが、無暗に触れてはなりません。あの穢れはかなり危険です」

 ミリアの言葉に、短く了承の声を上げるフェリクス。彼自身、色々と考える事があるとは思うが今は情報が欲しいというのも確かだ。

 素早く立ち上がり、フェリクスは矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 結界を調べるには魔術師の協力が必要なのだが、アリアよりも高位の魔術師が居る可能性もあるので探すように言っているのだろう。

 何せアリアですらわからないと言っているのだから、当然の処置であろう。

 うんうん、と志希は内心で頷いているとアリアとミリアが連れ立って戻ってくる。

「では、天幕を張ってから中で魔道書を調べましょう」

 そう言いながら、アリアは志希に目配せをする。

「あ、うん。分かった」

 志希は頷き、これから張る天幕の中で結界に関する話を聞きたいという事だろうと解釈する。

 実際、アリアはそのつもりで目配せをしているのだ。

 しかし、志希はアリアの後方に立ってこちらを見ているフェリクスが気になる。

 仮とは言え彼は現在パーティに所属している状態なのだから、こちらの話に加わるのではないかと思ったのである。

 そんな志希の視線を受けたフェリクスは、小さく会釈をして踵を返し部下に指示を出し始める。

 志希はそれを見て、彼は彼の仕事をするのだと理解した。

 ミリアには軍隊を動かすノウハウが無いのだから、最もミリアに近く貴族であるフェリクスが肩代わりするしかないのだ。

 彼の役割は志希達のパーティメンバーである事の前に、聖女であり姫であるミリエリアの補佐だ。

 彼女が出来ない事を肩代わりするのが己の役目であると、フェリクス自身が認識していたのだろう。

 志希はフェリクスに小さく会釈をして、先頭を歩くミリアとアリアの後をついて行く。

 隣にいたイザークも志希と並び歩きながら、口を開く。

「カズヤが既に、天幕を張りに行っている。陣の準備は、既にできている可能性もあるな」

 イザークの言葉にミリアは前を向いたままそうと頷く。

 カズヤは恐らく、陣を張る作業をしながら情報収集をしているのだろう。

 結界の存在を知ってすぐに動き始めたのであれば、瘴気を纏う結界が相当厄介なものであると理解しているはずだ。

 カズヤの直観力、洞察力は高い。それ故、彼は己の出来る最大限の努力をするのだ。


 だがしかし、志希にはそうと頷いたミリアの声音が酷く切なく聞こえた。

 役割分担の為に離れていると理解していても、カズヤに傍に居て欲しかったのだろう。

 恋心を持ってはいても、今の状況ではミリアはその気持ちを告げる事もわがままをいう事も出来ない。

 己の立場を重々承知しているミリアは、アリアと恋の話をしていても今の関係以上になるのを望めないと知っているのだ。

 カズヤ自身の気持ちも分からない以上、余計にミリアは一歩踏み出す事が出来ないのである。

 切ない話だが、志希はそれを傍観する事しかできない。

 二人が盛り上がるように橋渡しをするのは簡単だろうが、本当の意味で結ばれる事は余程の事が無ければできない。

「切ないなぁ」

 小さな声で零すと、ぽんとイザークが志希の頭を撫でる。

 まるで宥めるような彼の掌に志希は何とも言えない表情を浮かべ、次いでこくりと頷く。

 今考えても、栓のない事だ。

 分かっているが、ミリアの心情は志希の心情に重なる部分がある。

 だからこそ、ついその気持ちに寄り添ってしまうのだ。

 ちらり、と志希は隣を歩くイザークを見上げる。

 下から見てもその怜悧な美貌は陰り無く、むしろ惚れ惚れするほど凛々しい彼に志希の胸が早鐘を打つ。

 しかし、直ぐに頭を振り浮ついた気持ちを振り払う。

 今は自分の事よりも、ミリアの問題を片付ける方が重要だ。

 志希は深呼吸をして気を落ち着け、結界に関する情報を頭の中で纏めはじめるのであった。


文字数少ないですが、ぎりぎりで真のラストストックができたので投稿しました。

これから話が動く! というところでまたお待たせする事になり心苦しいですが、まったりとお待ちいただけるとありがたいです。

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