表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第3話

 宿泊フロアには各階に備品置き場があるので、昼ご飯はそこで食べることになっている。


「谷さん、いつもお弁当ですよね」


 向かいに座り、保存容器に詰めた弁当を広げている谷さんに話しかけた。


 俺に相棒が出来て3カ月。谷さんは平日メインでシフトが組まれているが、宿泊客の多い休前日などは俺と2人体制で業務を行うことが多い。かなり年上の後輩という不思議な存在にも慣れた。


「奥さんに作ってもらってるんですか」


 一瞬箸が止まった後、谷さんがちょっと恥ずかしそうな顔で笑いながら教えてくれた。


「これ、僕が自分で作ってるんよ。料理そんな得意でもないんやけど、節約できるとこからしなあかんよなぁ、て」


 玉子焼き、赤ウィンナー、ほうれん草の胡麻和え、ミニトマト。ごはんの上には鶏そぼろと海苔が一枚。不得意と言いながら、緑、黄、赤の三色がしっかり使われていて十分美味しそうだった。


「陸くんはいつもおにぎりだけやね」


「どでかいヤツですけどね。ふりかけ混ぜたらおかずっぽくなるかなと思って」


 ラップに包まれたおにぎりが2つ。

 せめておにぎりぐらい握れるようになりなさいという親の命令で、バイトの日は自分で作るようにしている。


「もっと野菜とかお肉とか、バランスよう食べた方がええよ。自分が食べたもんで身体って作られるんやなぁって、年取った今、しみじみ思うもん」


「じゃあその玉子焼き、ひとつ下さい」


 そう言うと俺は、谷さんの弁当から玉子焼きをひとつ奪い、口の中に放り込んだ。


「わ、なんかじゅわっとする。もしかして出汁入ってます? 旨ッ」


 俺の素早い動きに一瞬驚いた谷さんだったが、褒められたのが嬉しかったのか、くすぐったそうに笑った。


 あ。この笑顔はなんとなく本当っぽい。


 俺はじんわり広がる優しい出汁の味を、口の中で転がした。


「ありがとう。他人様(ひとさま)に食べてもらうつもりで作ってなかったから、何や嬉しいわ」


「いやだって本当に美味しいし」


 胡麻和えはほうれん草にシャキシャキとした歯ごたえがあって、毎回茹ですぎてくたくたにさせる母親の作るそれと比べて3倍ぐらい美味しかった。


 そうだ。

 俺はおにぎりをひとつ手に取り、提案する。


「俺が谷さんの分のおにぎりを作って、谷さんは俺の分のおかずを作る。で、お互いに交換するんです。どうですか」


「え、僕の作るモンなんてそないええモンちゃうし、そんなん食べさせるやなんて主任に申し訳ないわ」


「俺が谷さんの作るごはんが好きだからいいんです」


 そう言うと、谷さんの顔がぶわっと赤くなった。


「えぇ……そんなん……ほんまにええんかな。なんか緊張して失敗しそうや」


「はは。それもまた面白そう。じゃあ谷さん、連絡先交換しましょうよ」


「なんで」


「おにぎりに混ぜるふりかけ、どれがいいか聞くんで。谷さんもお弁当の写真、送ってください。『今日はコレ食べられる』て思ったら、仕事サクサク進みそうでしょ」


 仕方無いなぁという感じで笑いながら、谷さんはスマートフォンを取り出す。


「わかった。改めて、昼ご飯もよろしくな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ