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そして、青空を見上げる

 イデア山採掘場跡軍研究所分室への強襲は、私が戦闘の素人だという事を加味すれば呆気なく終ったと言って良いと思う。ミードによって兵器化された身体は、体力、筋力、スピード、敏捷性に優れていた。確かに軍が注目するのも頷ける。


 又、世界を渡れるようにはなったが、意識は中立の状態で強襲を決行した。身体の特異性を活用すれば、相手する人数が増えた所で大して手間が変わらなかったからだ。相手から見れば、誰も居ない場所へ攻撃している様に見えただろうが、私の知った事では無い。


 神速で侵入し、邪魔する者は力任せにを昏倒させ、ひたすら、目的地を目指す。私は戦闘の素人なんだ。これ位単純な方が良いに決まってる。


 碌に見取り図もない状態での強襲だったが、それも体力任せでなんとかした。全フロアの全ての部屋を襲ったのだ。

 一般兵は体力と筋力で何とかなる。

 ミードが開発したD兵器で兵器化された兵やその実験体、アンプルだけはキュベレイ9を使って消滅させた。そう、消滅なのだ。ミードの話に、処分するには原子レベルで分解するしかない、というのがあった。キュベレが開発した装置/D兵器にはそれが出来るのだ。何故そうなるのかは、キュベレイ9に何回説明してもらっても理解できなかったが。


 また、キュベレが開発したD兵器への対処は更に容易だった。向こうの兵器の効果——時空位相変調と言うらしい——を無効化——時空位相復調と言うらしい——した上で破壊するだけだったからだ。


----


 その部屋を訪ずれたのが最後になったのは多分偶然だったのだと思う。その部屋の机の向こうに座る、高位将官と思われる人物は私に、警戒心を覚えさせた。その将官にはズレを感じなかったのだ。

 今の私は二つの世界を同じ重みで感知している。同一人物だとしても、世界が異なればその言動は異なるのが普通だった。しかし、その将官にはそれが無かった。

 私をじっと見詰める将官は徐に私に話しかけてきた。

「ふむ、この世界で独自にここ迄の事を成し遂げるとは、感動したよ」

 何を言ってるのだろう。

「あの二人の科学者を見出した時には、その萌芽は見られたと満足したが、完成までには未だ時間が掛ると思っていたのだが」

 ますます何を言ってるのか訳が分らない。そもそも誰に話しているのだろう。目の前には私しか居なかったので私に話しているのだと思っていたが、どうも違うようだ。


「何の話ですか。全然意味不明なんですが」

 目の前の将官は、今迄私を見ていた筈なのに、やっと私に気付いた風に話し初める。

「失礼した。君にも興味は有るが、それよりも君を君たらしめた奇跡に感動していた所でね」

「奇跡って何ですか。私を私たらしめるってどういう事ですか」

「ふむ、それは次の楽しみに取っておこうではないか。直に答えが得られるといのは、案外詰らないものだよ」

 答える気の無い危険臭一杯のこの将官はこのままにはしておけない。と感じた本能に従ってキュベレイ9に消滅を指示しようとした時、「消滅は御免だよ、君。また何時か何処かで逢おうじゃないか」と捨て台詞を残して、彼は目の前から消えてしまった。

 こうして最後の最後で、不思議で危険な人物に遭遇してしまったが、私はミード達の遺志を完遂したのだった。


 一人分室を出た私は目の前に広がる採掘場跡を眺めて独り言ちる。

「これから、何処へ行けば良いんだろう」


----


 今私はイデア山山頂に立っている。登って来る途中で目にした険しい渓谷や、美しい湖、歴史ある遺跡は、今は折り重なる尾根の向こうに隠されている。あの採掘場跡も尾根に隠れて今は見えない。南の方角を望む。遥か先には鮮緑色の海に囲まれた諸島がある筈。

 私がこの世界に確実に居たという記憶の数々でもあった。

 今は見えないそれらを思い浮べながら、私はキュベレイ9に訊ねた。

『ねぇ、世界は二つだけじゃないんでしょ。ミードやキュベレさん達が生きてる世界だってまだまだあるよね』

『その可能性は否定できません』

『そこへ行けないかな、私』

 キュベレイ9は酷く人間臭く考え込んだ後こう答えた。

『そこに、わたしと同種の装置があるのなら』

『じゃぁ、あなたが居ない世界でD兵器が作られたとしても、私には何も出来ないんだ』

 少し気落ちしながら尾根尾根を眺める。

『基本的にその世界の、その時代に立ち合った人間が解決すべきだと考えます』

『そうだよねぇ。私、私のノルマを果したって事だよね。これからどうすれば良いのかなぁ』

 そう、この二つの世界の、多分最後のD兵器である私は、自身の身の振り方を考えなければいけない。私自身を何如なる組織にも利用されない為には、私は私自身を消滅させなければいけないのだった。

 それでも良いか。私の半分は一度死んでるのだし、この二つの世界に私を繋ぎ止めるものはもう無いのだから。


 そして、山頂からの眺望を堪能した私は、青空を見上げる。

 雲一つ無い、何処迄も続く鮮やかな青空は目に沁みた。目尻に、涙が溢れそうで溢れない珠になっていくのが分った。


『私を消滅して』

『はい……』

 D兵器達を消滅させた時空位相変調が、私を包み込んで行くのが感じとれた。不思議と痛みは無かった。私が手に掛けたあの人達も苦しい最後を遂げたのでは無いと分って、少しだけ安堵した。


 直ぐに死ぬのかと思っていたのだけれど、何故か私の意識は途切れなかった。

『ねぇ、未だ意識があるんだけど。こんなに時間掛ったかな』

 キュベレイ9は、何故か申し訳なさそうな雰囲気を醸し出す。

『最初に意識の融合が起ってしまった訳ですが、その時意識と肉体の分離が始まった様です。世界を渡る度に分離が進行した様で、今となっては……』

『身体が無くなっても、意識は無くならないと……』

『はい』

 それは、ちょっと、想定外過ぎる事態だ。

『分離したなら、何で今迄動けてたのかな。全然違和感無かったよ』

『分離した事で逆に肉体を完全支配していた様です。無意識にされてた様でしたが』

 意識が分離して、無意識に支配って意味が分らない。

『はぁ、それで。このまま、あなたと二人で牢獄にず〜っと閉じ込められる訳』

『このまま意識が続くのかどうかは分かりませんが、二人だけではありませんよ。例えば、あそこに同じ様な意識体が居ます』

 確固とした何かがある訳では無いこの場所で、あそこ、と言われても何処よと文句を言うしか無いと思っていたのだが。


 あそこ、としか言いような無い所に、それ、は居た。そして、それ、は私に挨拶してきたのだ。

『ふふふっ。御機嫌よう、で良かったかしら。ここにへは初めて来たのかしら』

 言葉が通じるっ。

『初めましてっ。私はゾーイと言います。私は、ちょっと突拍子も無いんですけど、世界を滅ぼす兵器が作られてる世界の住人で、その開発者っていうのが親友だったり、親友の姉だったりしたんですけど、それの廃絶運動に巻きこまれてしまって、で、最終的に私がその兵器になてしまったりしたんですけど、自分自身が消えなきゃと思ってそうしたら、ここに来てしまってたんです。支離滅裂だったかも知れませんが、お分り頂けたでしょうか。

 それで、良かったら、貴女の事教えて下さいっ』

『わたしは、○○というの。私の居た世界はもう滅亡してしまったの。人類はもう殆ど残っていなくてね。最後の望みも人類自身の手で断ってしまったのね。わたしはその時の為の最終手段を実行したのよ。だからわたしが世界を滅ぼしたことになるのだけれど。

 そして、気付いたら何故か私と後二人、ここに居たのよね。後で紹介するわね』

 とても朗らかに答えているのに、その内容は中々重いものだった。

『○○さんは、ここ長いんですか』

『ここ時間経過が分らないみたいだから、長い短いって主観的なものになるのよね』

『退屈しませんか』

『そうでもないわ。慣れてくれば意識を向けるだけで、別の世界を眺める事が出来るようになるの。少しだけだけど、その世界に関与できる様にもなるし。今の所、退屈はしてないわね』

 良い事を聞いたと思った。ず〜っとこのままという訳では無いらしい。

『是非っ。ご教示下さいっ』

『ええ。勿論です』


 私の、人間として生きる道は断たれたのかもしれない。でも、幽霊みたいなものだけど、まだ暫くは私は世界と関りを持つ事が出来るらしい。この希望を胸に、○○さんに師事しようと心に誓った。



最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

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