過去編12 Hello new me(ハロー・ニュー・ミー)
深夜零時。
マカミ:「っ――」
赤髪の男に殴られ、意識を失ったマカミが目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
マカミ:「…………」
起き上がったマカミの眼にまず入ったのは自分の膝の上で突っ伏して眠っているユウの姿。
マカミの首には包帯が何重にも巻かれていた。
???:「目が覚めましたか」
マカミ:「…………ポラリス」
少女の穏やかな声につられ、視線を動かすとそこにはわずかな時間でゴブリンのアジトを突き止め、帝国の神人類――童を紙一重で退けたマカミたちの保護に成功した信正騎士団の現トップにして創設者、ポラリスが椅子に座ってマカミたちの様子をニヤニヤしながら見守っていた。
ポラリス:「その子、さっきまであなたのことをずっと心配そうな顔で見守っていたんですよ。手を握って」
言われて、マカミは今もユウに手を強くギュッと握られていることに気づいた。
ポラリス:「いい子ですね。あなたを守るために一人であの強面のシュラの前に立ちはだかったんですよ」
シュラ――赤髪の男がマカミを思いっきり殴ったのを見て、ユウはポラリスたちがマカミを傷つけようとして自分たちの前に現れたと勘違いし、マカミを、身を挺して守ろうとした。
ポラリス:「恐怖で体を震わせながら、それでもあなたを守るという強い意志をその瞳に宿して…………本当にいい子と巡り合えましたね」
マカミ:「…………そうだな」
マカミのこの答えを聞き、ポラリスは内心驚いた。
基本、他人に無関心、誰にも興味がないマカミが誰かを良い悪いと評するのはポラリスが覚えている限り、これが初めての事だった。
ポラリスは内心驚き、そして微笑ましい気分になった。
ポラリス:(ほんの少し見ない間にずいぶん成長したみたいですね)
一瞬、母のように穏やかな笑みをしたポラリスはマカミに気づかれるよりも早く、笑みを消し、代わりに信正騎士団という組織のトップの仮面を顔面に貼り付けた。
ポラリス:「それでは信正騎士団正騎士――真上英次君」
マカミ:「…………」
いつの間にか、組織のトップの仮面を貼り付けていたポラリスを見て、マカミは――
マカミ:「似合ってないぞ」
至極真面目な顔でそう言った。
ポラリス:「ちゃかさないでくださいっ」
すぐに普段の、素のポラリスになり、マカミはフッと頬を緩めた。
ポラリス:「コホンッ、それであなたは、どうして私たちと今争っている敵国の神人類に私たち信正騎士団の内部情報を漏洩していたのですか」
マカミ:「それは…………」
組織のトップであるポラリスがマカミたちを追ってゴブリンのアジトに現れた理由。当然、ゴブリンのアジトに単身乗り込んでいったマカミを助けるためではない。
マカミが何かしらの理由で裏社会の何でも屋であるゴブリンを追っていることを知ったのはついさっきのこと。
まだ表沙汰にはされていないが、マカミには信正騎士団の内部情報を敵国である帝国に漏洩している疑いがかかっていた。
そしてそれは今朝方――厳密に言えば昨日の朝、ほぼ確証に変わった。
ポラリスがマカミたちの前に現れた本当の理由、それは――信正騎士団(組織)の裏切り者を確保するため。
マカミはしばらくの間考え込み、そして口を開いた。
マカミ:「生きるためだ」
ポラリス:「生きるため…………ですか」
いくら聡明な彼女でも、この言葉だけでマカミの言わんとしている事を完璧に理解することはできなかった。首をかしげるポラリスにマカミは一つ息を吐いた後、再度重たい口を開いた。
マカミ:「俺はずっと生きるために信正騎士団の正騎士をやってきた」
ポラリス:「…………なるほど」
幼いころのマカミを知る、マカミを信正騎士団に勧誘した当の本人であるポラリスはマカミのこの発言でようやく得心がいった。
マカミは生まれてすぐ生みの親に捨てられ、ポラリスと会うまでずっと天涯孤独な路上生活をしていた。
ポラリスに勧誘されマカミが信正騎士団に入ることを決めた一番の理由は、日々の食事と寝床を確保するため。信正騎士団の正騎士になってしまえば、日々の食事のため盗みをすることも野生の鳥やトカゲを捕って食うこともしなくていい。夜中に野犬に襲われることも寒さで凍死する心配もしなくて済む。
マカミとほぼ同時期に入隊した正騎士たちが、我が物顔で暴れる神人類から弱い旧人類(者)たちを守ろうと、間違った世界の在り方を正し、少しでもマシな形に世界を創り直そうと日々正騎士として奔走する中、マカミはただ今日を生きるために正騎士の任務をこなしていった。
正直、マカミはそんな彼らを内心馬鹿にしていた。
この世でたった一つしかない命を、未来だの正義だの信念などと、そんなあやふやで不確かなモノのために自分の全て賭けるなんて頭に花が咲いているとしか思えなかった。
だが、ユウとの出会いが、ユウと過ごしたわずか一週間の日々(思い出)がマカミの考えを変えさせた。
マカミ:「俺はずっと他の奴らはみんなその日その日を真剣に生きていないもんだと思っていた。労働者(他者)に支えられ、国(強い者)に守られ、のほほんとただ現象として今を生きているもんだと思い込んでいた」
ポラリス:「…………」
マカミ:「でも違った。俺みたいに生まれながら不条理に耐え、それでも必死に歯を食いしばって一日を生きている奴がいることを俺はユウから学んだ」
ポラリス:「…………」
マカミ:「ポラリス――」
ポラリス:「…………」
ポラリスは何も言わず、ただ真剣なまなざしをマカミへと向けていた。
マカミ:「俺はそんな奴らが必死で積み重ねてきた頑張りを自分の都合で身勝手に踏みにじる奴らを許せない。俺は――」
ポラリスは出会ってから初めてマカミから心の底から真剣なまなざしを向けられた。
真っ直ぐで純粋で曇り一つない透き通った眼。
マカミ:「ユウみたいな奴を守るために、正騎士として戦いたい」
ポラリス:「そう、ですか」
初めて見る、マカミの真剣なまなざしにポラリスは思わず、少しだけ見惚れてしまった。
ポラリス:「あなたは、本当に優しい子ですね」
ユウ:「…………」
椅子から立ちあがる直前、マカミの足に覆いかぶさるユウの耳が真っ赤に染まっているのに気づき、ポラリスは噴き出すのを必死に堪え、病室を出ていった。
マカミ:「はああああああああ」
緊張の糸が解け、再びベッドに勢いよくマカミは倒れ込んだ。
マカミ:「やっぱ俺、首になるのかな」
消灯時間を優に過ぎた室内を、満面の月が仄かに明るく照らしていた。
│─\│/─│
赤髪の男:「…………」
金髪の男:「何をしてるんです、シュラ」
病院の外――建物の入り口近くで腕を組み、仁王立ちしているマカミを殴り飛ばした赤髪の男――シュラを見て、ポラリスたちと共にゴブリンのアジトへ突入した金髪の男――ペルセウスは呆れて息をこぼした。
シュラ:「何って、見りゃ、分かるだろ……見張りだよ。見張り。敵があの馬鹿と嬢ちゃんを狙ってまた来るかもしれねえだろ」
厳つい見た目と裏腹に段々ぼそぼそ声になるシュラを見て、ペルセウスは再び大きなため息を吐いた。
ペルセウス:「だったら病院の中ですればいいでしょう。なんで、建物の外で見張りしてるんですか」
シュラ:「そ、それは…………」
言い淀むシュラを見て、ペルセウス今日三度目となるため息を吐いた。
ペルセウス:「心配しなくても彼はもう信正騎士団にはいられませんよ」
シュラ:「っ」
ペルセウス:「むしろそれだけで済むならまだ軽い方ですけどね。事の大きさを考えれば最悪処刑も――」
シュラ:「っ――」
その言葉を聞き、シュラは渾身の力でペルセウスの襟を掴んだ。
強い意思の宿るシュラの瞳をペルセウスもまた真正面から強い意志の宿る眼で見返した。
ペルセウス:「当然でしょ。敵と内通してたんですよ。しかも、現在戦争真っただ中の敵の戦士と」
シュラ:「くっ」
ペルセウス:「目の前で力いっぱいの折檻をして見せポラリスの同情を誘い、彼の情状酌量を図ったようですが、その程度の浅知恵、彼女はすぐに見抜いていますよ」
シュラ:「っ…………」
ペルセウス:「仮に見抜いていなかったとしても、彼女がそれで彼の情状酌量を許すわけないでしょ。彼女は今、対神人類最後の砦――信正騎士団のトップに立つ身の上なんですよ。彼女の肩には全正騎士の命運と世界の命運その全てが乗っかっているんです」
シュラ:「…………あの馬鹿が」
ペルセウスの非の打ち所がない正論をシュラはただ黙って聞くことしかできなかった。
ペルセウス:「…………もしもの時は彼の介錯は僕がしてあげますよ。あなたには、荷が重すぎるでしょうから」
シュラ:「っ――」
シュラは掴んでいたペルセウスの襟を乱暴に、八つ当たり気味に離した。
シュラ:「その時は、俺がやる…………」
しばらくの間、気まずい沈黙が二人の間に流れた。
ポラリス:「はい、はーい、ケンカはだめですよ。正騎士同士の争いは正式な試合を除き、基本御法度。これを破ったら即、信正騎士団除隊ですからね」
ペルセウス:「ぽ、ポラリス」
シュラ:「っ…………」
マカミとの話を終え、病院から出てきたポラリスが気まずい雰囲気の二人の間に割って入った。
シュラ:「あいつの様子は…………」
ポラリス:「命に別状はないそうです。すぐに傷を塞いだのが良かったんでしょうね。先ほど意識も戻りました」
シュラ:「そうか」
マカミの容態を聞き、シュラはあからさまに胸をホッと撫で下ろした。
ペルセウス:「それで、ポラリス。帝国に我々の情報を漏洩していた彼の処分についてですが」
シュラ:「っ――」
だがすぐに、シュラの全身の緊張の糸がピンッと張り詰めた。
ポラリス:「そうですね。彼がやったとされる、信正騎士団の内部情報漏洩の件。事実であれば、信正騎士団除隊はもちろん、漏洩させた情報の内容によっては最悪、処刑も――」
シュラ:「ま、まってくれポラリス。あいつは――」
途中までは先ほどペルセウスが言っていた内容と同じ話をするポラリス。だが――
ポラリス:「ですが――」
ペルセウス:「で、ですが」
ポラリス:「彼が内部情報を漏洩させたって確固たる証拠はないんですよねぇ」
シュラ:「っ――」
ペルセウス:「……………………は」
予想だにしていなかったポラリスの発言に、理解が全く追いつけない男二人。
ポラリス:「肝心の取引相手も死んじゃいましたし…………疑わしきは罰せず。今回の件での彼の処分は一旦保留っ、ということにして、みんなでおいしいものでも食べに行きましょう」
シュラ、ペルセウス:「…………」
まさかの判断(判決)に二人はしばらくの間、間の抜けたキョトン顔を晒し続けた。
ポラリス:「それじゃ、早速、夜の街にレッツ――」
ペルセウス:「ちょ、ちょっと待った」
このまま勢いに任せてこの話を流そうとしているポラリスを当然、ペルセウスは呼び止めた。
ペルセウス:「これだけの事をして、お咎めなしっ」
ポラリス:「無罪放免ではありません。今は帝国との戦争の真っ只中、ここは一旦判断を保留にして、後で追々――」
ペルセウス:「あなたの場合、同じことでしょ」
一旦保留と言って、棚上げしている問題がポラリスの机の上にどれだけ山積みになっているか、そしてそれらをポラリスが解決する気がこれっぽちもないこと、わざと保留にして問題を有耶無耶にしようとしていることをシュラと同じくポラリスと長い付き合いであるペルセウスは知っている。
ペルセウス:「一歩間違えていれば信正騎士団そのものが崩壊していたかもしれない大事件なんですよ」
ポラリス:「でも実際崩壊してないじゃないですか」
ペルセウス:「そういう問題ではありません」
ポラリス:「ペルセウスは彼の事が嫌いなのですが」
ペルセウス:「好きとか嫌いとかそういう問題じゃなくて」
危機感を全く感じられない、ポラリスの、いつもの、のほほんとした口調につい、ペルセウスは普段のかしこまった紳士的な口調からポラリスたちと出会った当初にしていた少し生意気な少年の口調へと原点回帰してしまっていた。
ペルセウス:「ルールを破った者にはしっかり重い懲罰を与えないと他の真面目な正騎士たちに示しがつかないって言ってんの」
ポラリス:「うーん、でも確固たる証拠がありませんから」
ペルセウス:「彼がデータベースに不自然にアクセスした形跡がちゃんと記録に」
ポラリス:「でもそれって、状況証拠ですよね」
ペルセウス:「っ~~~~~~~~~~~~~」
ペルセウスは突如強烈な頭痛に襲われ、頭を抱えた。
シュラ:「…………」
交渉や外交が大の苦手な自分が下手に話に首を突っ込めば、ポラリスの邪魔をするかもしれない。そう考えたシュラはここまでずっと無言を貫いていた。
完璧には二人の話についてこれていないシュラだが、諦めていたマカミが信正騎士団を去らずに済むかもしれないというまさかの展開にほんの少しだけ期待で胸を膨らませていた。
シュラ:(頼むポラリス。このまま、うまいことやってくれ)
そんなシュラの希望をペルセウスはいとも容易く打ち砕いた。
ペルセウス:「わかりました。内部情報漏洩の件は一旦保留としましょう」
ポラリス、シュラ:「…………(ホッ)」
ペルセウス:「しかし、同じ正騎士――ヒカルへの不当な武力行使の件はどうします」
ポラリス、シュラ:「っ――」
シュラ:(しまった、まだそれがあったか)
ホテルの一件、ヒカルはしっかり上層部に報告していた。
ペルセウス:「ヒカルの報告によると情報漏洩疑惑のある彼に任意聴取を試みたところ、とても同じ正騎士(同士)に向けるものとは思えない殺意溢れる攻撃行動をとってきたと報告書に記載されています」
シュラ:(あのクソ真面目め)
情報漏洩の件が一旦保留(お咎めなし)でもマカミにはまだ同じ正騎士であるヒカルを攻撃したホテルでの一件がある。
マカミを信正騎士団から追放してしまえば最低限、信正騎士団(組織)としての面子は保てると考えたペルセウスはこちらの件でマカミを断罪しようと試みたのだ。
ペルセウス:「先ほどポラリスも言った通り、同じ正騎士同士の争いは基本御法度。破れば、即信正騎士団除隊。情報漏洩の件は証拠不十分で保留だとしても、こちらの件は証人がたくさんいます。残念ながら、監視カメラ等は設置されていませんでしたが、これだけの証言があれば――」
シュラ:「っ――(やっぱり、ダメか)」
わずかに見えた光明が、いとも容易くかき消されてしまった。
空に浮かぶ明るい月が分厚い雲に覆い隠され、ポラリスたちの姿が暗い闇の中へと呑み込まれていく――
ポラリス:「確かに正騎士同士の命をかけた、本気の戦闘はご法度。これを破れば即信正騎士団除隊です。例外はありません」
ペルセウス:「でしたら――」
そして再び、雲の切れ目から顔を出した月がポラリスたちを明るく照らし出した。
ポラリス:「ですが、それはあくまで正式な試合ではない場合です。信正騎士団の規則に則った正式な試合であれば、正騎士同士の研鑽のため、正騎士同士の試合も認められています」
ペルセウス:「ポラリス、あなたは一体何を――」
ポラリスが一体何を狙っているのか、この話をどこに落とし込もうとしているのか、一拍遅れてペルセウスは気づいた。
ペルセウス:「あれは、死合ではなく試合であったと」
互いが了承し、審判(立ち合い人)――危険があればすぐに戦っている二人を止められる実力のある正騎士(実力者)がいる状態で、致命傷は与えない寸止め方式でのみ、研鑽目的として正騎士同士の戦闘(試合)は認められている
互いの了承というのは基本口約束のため、了承をした・していないの客観的証明は難しい。寸止め方式も、実際に相手の攻撃が直撃して大ケガをする例はよくある。実際は、死なない程度に加減をするという意味で拡大解釈されている。
あれがちゃんとした、手順を踏んだ正式な試合であったかどうかを決める、最大の論点(決め手)は――
ペルセウス:「立会人はっ、立会人はどこにいたと言うのです」
立ち合いの有無。
ペルセウス:「いくら正式な試合であったと主張しても、立会人がいなければその試合は不正。味方正騎士への裏切り行為とみなされます」
ヒカルとマカミ、年齢こそ信正騎士団の中でも若輩の二人だが…………
ペルセウス:(実力は信正騎士団の中でもすでにかなり上に位置する二人。特にヒカルは次期、最高幹部候補有力視されている正騎士の一人。そんな二人をたった一人で止めれられるほどの実力者が都合よくあの場にいるわけが…………)
ポラリス:「あの場にはポセイドンがいました」
ペルセウス:「っ――(あいつがいたか~~~~~~)
ポセイドンの名前を聞き、ペルセウスは頭を押さえた。
ポセイドンはシュラやペルセウスと同じ信正騎士団創設時のメンバーの一人でシュラと並び信正騎士団トップの肉弾戦の専門家。
最高幹部ではないが、実力は最高幹部に十分匹敵する。立ち合い人として申し分ない。
しかもポセイドンはマカミやヒカルと同じシュラ直属のチームの一人。
何かとマカミを敵視しているヒカルと違い、仲間想いのポセイドンならマカミを信正騎士団から追い出されないため、話を合わせる可能性が非常に高い。
ペルセウス;「っ~~~~~~~~~~~~~」
ペルセウスの話(目論見)はここで完全に詰んだ。
ペルセウス:「どうしてあなたは、そこまでして彼を信正騎士団に残そうとするんですか」
これは下心の一切ないペルセウスの心からの純粋な疑問。その疑問にポラリスは――
ポラリス:「今は帝国との戦争の真っ最中。戦力は少しでも多い方が良いでしょ」
対外用の建前で返答した。
「それが一番彼のためになると思ったから」というポラリスの純度百パーセントの感覚的な回答をしても、恐らくペルセウスには理解してもらえないだろうと思ったのだ。
ペルセウス:「確かに彼の実力は認めますが、今回の一件。組織内での指揮の低下は否めません」
シュラ:「…………」
ポラリス:「でしょうね」
ペルセウス:「それでも彼には、組織に残すだけの価値があると」
ペルセウスの問いにポラリスは満面の明るい笑みで応えた。
ポラリス:「可能性はあると思いますよ。未来は良くも悪くも無限の可能性がありますから」
シュラ、ペルセウス:「っ――」
それはポラリスがよく口にする口癖のようなもの。
ポラリス:「私は、彼らが創(生き)る未来を信じています。あなたたちも、信じてあげてくれませんか」
シュラ、ペルセウス:「…………ふっ」
今まで何度も聞いたポラリスの言葉にシュラとペルセウスは思わず頬を緩めた。
その顔を見て、ポラリスもまた月にも負けない満面の笑みになった。
ポラリス:「さあ、さあ、今回の件はこれで一件落着。みんなでおいしいものを食べに夜の街にくりだしましょう」
ペルセウス:「あ、ちょ」
ポラリス:「レッツ・ゴー」
猛烈な勢いで話を終わらせ、ポラリスは夜の街へと走り出した。その後ろを慌ててシュラとペルセウスが追いかけていった。
シュラ;(さすがだな、ポラリス)
これが、信正騎士団創設者にして初代信正騎士団当主――正騎士たちの頂点に君臨するポラリスの手腕(剛腕)である…………
★★★
???:「童が…………それは本当かい、ベル」
緑髪の女:「この目でしっかり確認した。上半身をぱっくり」
お昼ごろ、童と広場で会っていた童と同じ帝国の神人類、ベルと呼ばれた緑髪の女は自分たちの国(組織)のトップ――アルサダクに童死亡の報を通告していた。
アルサダク:「あの童がまさか、最高幹部ではない正騎士に一杯食わされるとはね。時代の流れというものは恐ろしい」
ベル:「どうする、アル。ヤる」
ベルは今、マカミが入院する病室の向かいにある建物の屋上でマカミたちのいる部屋の様子を伺っていた。
理由はもちろん、自分たちを裏切った裏切り者を抹殺(粛清)するため。
アルサダク:「うーん…………」
あと必要なのはアルサダクの命令ただ一つ。
考え込む素振りをしながら、アルサダクは視線を近くにいた枯れ木のようにやせ細った老人に移した。
アルサダク:「どうする、かわいい愛弟子の弔い合戦、する」
枯れ木のようにやせ細った老人:「…………」
アルサダクに話を振られ、老人は一言――
枯れ木のようにやせ細った老人:「不要」
と言った。
アルサダク:「だってさ」
ベル:「…………わかった」
そう言って、ベルはその場から退却した。
アルサダク:「本当に良かったのかい」
アルサダクたちがいるのは帝国を統べる王の城の中にある執務室。
枯れ木のようにやせ細った老人:「構わん」
ベルとの通信を切り、アルサダクは再び手元の書類に視線を落とした。国の当主としての仕事に戻ったのだ。
アルサダク:「長い間寝食を共にしてきたのに、結構冷たいんだね」
枯れ木のようにやせ細った老人:「…………人はいずれ死ぬもの。そこに例外はない」
アルサダク:「君が言うと、いまいち真剣味が感じられないというか、皮肉に聞こえちゃうね」
枯れ木のようにやせ細った老人:「何とでも言え」
老人にアルサダクの軽口に付き合う気は殊更ない。
静かに客用のソファから立ちあがると、執務室の扉に向かってゆっくり歩きだした。
枯れ木のようにやせ細った老人:「それに」
アルサダク:「それに――」
執務室を出る直前――
枯れ木のようにやせ細った老人:「縁があれば、いずれ相まみえることがあるかもしれぬ。童の無念はそのとき晴らす」
アルサダク:「童(弟子)の弔いは自分の手でっ、てことね。僕も君の意見に同感だ」
そう言って、老人は部屋を出ていった。
扉が閉まる直前、老人の全身から凍てつくほどの強烈な殺意(神意)が漏れ出ていたのをアルサダクは見逃さなかった。




