過去編11 信正騎士団正騎士――真上英次(まかみえいじ)
マカミ:「…………」
童:「…………」
互いに居合の構えをとり、睨み合うマカミと童。
独特の緊張感が二人の体にまとわりつく中、動き出したのはほぼ同時だった。
マカミ:「っ――」
童の刀がマカミの剣よりも早く、マカミの首筋に迫る。
マカミ:(あぶねっ)
自身の剣が童に届くよりも速く、童の刀が自分の喉元に届くと悟ったマカミは全身を急停止させ、間一髪、童の刀を躱した。
カンッ、カンッ
その後、繰り広げられる二人の激しい剣戟。
最初は一気呵成に攻めるマカミの剣を童が捌いて凌ぐ、(童目線)防戦一方の展開がしばらく続いた。
童:「その年にしては中々。数多くの修羅場を潜り抜けてきたようだな。だがしかし――」
マカミ:「っ――」
やがて、状況が逆転。マカミの剣筋は童に読まれ始め、マカミの攻撃は空を斬るばかり。逆に童の太刀筋は鋭さを増していき、マカミはソレの対応に追われ、徐々にマカミ防戦一方の展開となっていった。
童:「私はこの国、いや人類史上最強の剣士に刀の指南を受けた。貴殿が勝てる道理などあるわけがない」
さっきのゴブリンたちと違い、童(敵)は幾度も最前線で刀を振って来た正真正銘の強敵。
マカミも信正騎士団の正騎士として活躍する中で幾度もの修羅場を潜り抜けてきた立派な戦士なのだが、それでも二人の間には、途方もないほどの実力の差があった。
ついに、童の刀身の先がマカミの首筋を捉えた。
マカミ:「ぐっ」
ユウ:「エイジ」
二人は事前に示し合わせていたかのように同じタイミングで距離を取った。
マカミ:「掠り傷だ。心配するな」
童:「果たして、ソレは本当に掠り傷で済む程度の傷かな」
マカミ:「どういうことだ」
童は自身の神器の刀身をサッと滑らかに指先でなぞった。次の瞬間――
マカミ:「っ――(なん、だと)」
わずか数ミリだったマカミの首の傷が、一瞬にして十倍にも広がっていったのだ。
神器でつけた傷を三倍に広げることができる童の神の御業――刀傷破紋。
ユウ:「エイジっ」
マカミはすぐさま手に持った黒い直剣を消失させ、新たに自身の影から手のひらサイズの弾力性と粘着性のある黒い塊を具現化、自身の首元に押し当て、傷の応急処置をした。
童:「勝負あり。であるな」
マカミの投影実像(神の御業)で具現化させていられる物体は一個、のみ。
再度、影の剣を具現化させるためには、首の傷を塞ぐために具現化させている影を消す必要があるのだが、血が固まっていない今、それをしてしまうとすぐさま首から血が噴水の如く噴きだし即、あの世行き。
ユウ:「大丈夫っ」
慌てて、マカミの元へ駆け寄るユウ。
自身の勝利を確信し、童は一歩、一歩とマカミの元へ近づいていった。
ユウ:「や、やめて、来ないで」
身を挺してマカミを守ろうと、マカミに覆いかぶさるユウ。
当然、コレで童が歩みを止めるはずもなく…………
マカミ:「…………」
マカミは身を挺して庇うユウの肩に手を置くとそのまま、体制をクルッと反転させ、そのままユウを押し倒した。
ユウ:「きゃ」
二人の体勢が変わり、今度はマカミがユウを自身の背後から近づいてくる童から身を挺して守る体勢となった。
童:「武士の情けだ。苦しまぬよう、一刀のもとで斬り伏せてやろう」
マカミの背後で、童は静かに刀を振り上げた。
マカミ:「ユウ……」
刀が振り下ろされる寸前、マカミはユウの名前を呼んだ。
ユウ:「…………」
マカミに名前を呼ばれ、ユウの視線が自分の眼をジッと見つめるマカミの瞳に集まった。
童:「ふんっ」
童が神器を振り下ろすと同時に、
マカミ:「ごめん」
マカミはそう言って自身の唇を目の前のユウの薄ピンク色の唇に近づけた。そして――
ユウ:「っ――」
マカミはユウに口づけをした。
人生で初めての、突然のキスにユウの頭の中が真っ白に――直後、ユウの影が童の背後へとのびていき――
童:「何っ」
童の背後から巨大な漆黒の顎が現れ、童に襲いかかった。
童:(何だ、この怪物は)
慌てて、突然背後に現れた顎の怪物に刀を振るおうとした童だが、
グシャッ
それよりも早く、オオカミのような獣の顎の怪物は童の上半身を噛みちぎった。
残された童の下半身から血の噴水が勢いよく噴き出す中、ユウの視界には自分に口づけをする、マカミの顔だけが鮮明に、瞳に映し出されていた…………
マカミ:「…………」
ユウ:「…………」
投影実像で具現化できる物体は一個のみ。今、傷の応急処置のため影を具現化させているマカミは新たに投影実像で影を具現化することはできない。
投影実像では…………
光呑み込む陰――自分以外の影に神意に纏わせ、影の怪物を具現化。影の主や影の近くにいる誰かを攻撃することが出来る神の御業。
影自体を動かすことはできないため攻撃できる範囲が狭く、影に神意を纏わせることで容易に対策可能なため、使い勝手は決して良くない。
歴戦の猛者である童はもちろん、ユウもマカミの指示で神依の際は自分の影にも神意を纏わせるよう意識している。
マカミを、自分の身を挺して守ろうとした際、ユウは再び神依を発動していた。当然、自分の影にも神意を纏わせていたが――
マカミがユウにキスした瞬間、ユウの集中が乱れ、発動していた神依が解除。影に纏わせていた神意も剥がされた。
マカミは自身ではなく神意が剥がれたユウの影を操り、童を攻撃したのだ。
マカミ:「ユウ、大丈夫か」
ユウ:「ひゃ、ひゃい」
マカミが唇を離すと顔を真っ赤にして、目を見開くユウの顔が目の前にあった。
マカミ:「っ…………」
それを見て、一瞬マカミの思考が停止した。
ギュィーン
時間にして数秒、二人の体感時間では一分ほどの時間が流れた後、部屋に一つしかない扉がゆっくりと音を立て何者かに開かれた。
マカミ:「っ――」
ユウ:「っ――」
敵の増援を警戒し、マカミはとっさにユウを守るよう、臨戦態勢をとった。
しかし、扉から入って来たのは見知らぬ敵の増援ではなくマカミのよく知る小柄な白髪の少女だった。
小柄な白髪の少女:「あらあら、どうやらお邪魔してしまったみたいですね」
マカミ:「ぽ、ポラリス」
マカミたちの顔を見て、白髪の少女――ポラリスは明るく楽しそうに笑った。
ユウ:「ポラリス、って確か――」
続けてガタイの良い赤髪の男とスタイルの良い金髪の男が部屋の中へと入ってきた。
マカミ:「っ――」
ポラリスと共に部屋に入って来たガタイの良い赤髪の男はマカミと視線が合った瞬間、
赤髪の男:「…………」
無言でズカズカとマカミの元へ歩いていき、そして――
バゴンッ
思いっきり、マカミの顔面を殴り飛ばした。
ユウ、ポラリス:「っ――」
地面に思いっ切り頭をぶつけ、マカミの意識はここで完全に途絶した。




