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神人類  作者: maow
番外編 少女A
44/50

過去編7 転換点

│─\│/─│


 あれから一週間が経過した――


浮浪者のような恰好をした男:「これがご依頼のブツですぜ、旦那」

マカミ:「確かに」


 朝早く、マカミは人気(ひとけ)のない裏路地で浮浪者のような恰好をした男、裏社会の情報通――情報屋の男と密かに接触していた。


 情報屋の男が渡したのは、以前にマカミが男に依頼した調査の報告書――ユウを誘拐しようとした組織について書かれた調査報告書だった。


マカミ:「こいつは――」


 マカミは早速、男から受け取った調査報告書の内容に目を通した。


 報告書の中にはユウを誘拐しようとした組織とそのリーダー、ゴブリン・緑川小妖(みどりかわしょうよう)の文字が記載されていた。


マカミ:「ゴブリン」

情報屋:「簡単に言うと、裏社会の何でも屋だな。金さえ積めば犯罪だろうがなんだろうがなんでもする。噂じゃ、リーダーの緑川小妖(みどりかわしょうよう)が大戦で居場所を失い、社会にも受け皿を用意してもらえなかった、はぐれもの連中を集めて作った組織らしいですぜ」

マカミ:「…………そうか」


 一通り情報屋の報告書に目を通したマカミはポケットからライターを取り出すとそのまま報告書に火を付け、跡形もなく焼却した。


マカミ:「ゴブリンにゆ……じゃない、天使優(あまつかゆう)を誘拐するよう依頼を出した奴の名前は」

情報屋:「さあ…………」


 わざとらしく肩を竦める情報屋をマカミは横目で睨んだ。


情報屋:「そこまで調べろとは依頼されてなかったんでね」

マカミ:「…………」


 ニヤッと厭らしい笑みを浮かべる情報屋にマカミは無言で、懐から取り出した札(紙)束を渡した。


情報屋:「これだけですかい。これじゃ、ちと足りませんね。今回は前の依頼よりもかなり危ない橋を渡らにゃいけなさそうなんでね」

マカミ:「ちっ」


 マカミは追加の紙束をポケットから取り出し、ぞんざいに情報屋へと渡した。


情報屋:「まいどありぃ」


 その後、情報屋と別れたマカミはユウと一緒に泊まるホテルへと戻っていった。




│─\│/─│




ユウ:「…………」

マカミ:「ただいま、と――」


 マカミがホテルに戻ると、ユウが部屋の中央で修業僧のように目を閉じて坐禅を組んでいた。


ユウ:「…………」


 これは心を落ち着かせ、あらゆる煩悩を捨て去り己の精神を神(仏)の域にまで昇華させるための過酷な修業、ではなく神意を自在に操るための修業である。


 具体的には、神意を自身の体に纏わせる――神依会得のための修業である。


マカミ:「…………」


 視覚を遮断(シャットアウト)し全身を覆っている神意に集中するユウの隣にマカミはソッと座り、ユウの横顔を無言でジーッと見つめ始めた。


マカミ:「…………」

ユウ:「…………」


 神意を上手く操れるようになれば、ユウが今抱える問題の一つ――他の人の感情が色として視えてしまうユウの能力を自分で上手くコントロールできるのではとマカミは考えた。


 実際、自分と同じ正騎士の中にもユウと同じ問題を抱えている者は、少なくない数いる。


 その中の何人かは、神意の操り方が上達したことで、自然と問題が解消された。


 現在の信正騎士団トップ曰く、ソレは本人も気づかぬ内に発動してしまっている、無意識下で常時発動してしまっている神意を消費しないもしくは神意の消費が限りなく少ないため二十四時間発動可能な神の御業の一つなのではないか、とか…………


 神意の操り方に慣れるのに、神依の修行はうってつけだった。なにより神依を使えるようになれば、それだけで強力な防衛手段になる。


 絶賛、裏世界の組織に狙われているユウには、まさに一石二鳥の修業なのである。


マカミ:「…………(ジーッ)」


 神依の修業を始めてすでに一週間。


 ユウは特段、神意を操る才能(センス)が突出してあるわけではなかったが、寝る時間や食事の時間以外のほとんどを神依の修業に割いたおかげで、神依を最長一時間近くまで発動したままにできるようになった。


 全身くまなく神意で覆えるようになるのに平均で一週間程度かかることを考えれば、これはかなり驚異的なスピードであると言える。まさにユウの努力の結晶だった。


マカミ:「…………(ジーッ)」

ユウ:「…………っ」


 神依の修行に集中するユウ。視界を閉じ、全身に神経を張り巡らせているユウの皮膚感覚は、ここで自分を見つめるマカミの視線に気づいた。


ユウ:「っっっっっ」


 マカミの視線に気づいた直後、それまでほとんど揺らぐことのなかったユウの体を覆う神意が突然、小刻みに波打ち始め、(神意の)揺らぎはどんどん大きくなっていった。そして――


ユウ:「うがあああああああ」


 ユウの集中力が完全に切れると同時に、ユウの全身を覆っていた神意が辺り一帯に拡散――神依が解除された。


マカミ:「だいぶ神依をモノにしてきたみたいだな」

ユウ:「それは、どうも」


 神依が解除された途端、ユウは全身を強烈な疲労感に襲われた。


 ある程度上達すれば神意を自分の手足のように自在に操ることができるようになるのだが、今のユウにとってそれは、まだまだ先の話。


 マカミは冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出すと、それをユウの目の前に突き出した。


マカミ:「飲め」

ユウ:「あ、ありがとう」


 火照ったユウの体をキンキンに冷えたミネラルウォーターが癒していく。


マカミ:「そうそう、お前を誘拐しようとしている組織の正体がわかったぞ」

ユウ:「ぶっ――」


 突然のマカミの衝撃発言(カミングアウト)にユウは思わず、マカミの顔面に向けマーライオンもかくやの如く口に含んだミネラルウォーターを勢いよく噴き出してしまった。


ユウ:「ご、ごめん」

マカミ:「…………」


 今後は、ちゃんと相手が口の中の物を飲み込んでから話をすることにしようとマカミは心に決めた……………………


ユウ:「ゴブリン」


 ここでようやく、ユウは自分を狙う組織の正体(名前)を知ることになった。


マカミ:「聞いたことあるか」


 首を横にフルフル振るユウ。


マカミ:「だろうな」


 ついこの間まで普通(ただ)の女子中学生だったユウがゴブリンなどという裏社会の何でも屋の名前など知るはずもない。


 見たことも聞いたことも、偶然街でばったり出くわしたこともないだろう。


ユウ:「その人たちがどうして私を」

マカミ:「そいつらはあくまでお前を誘拐する依頼を受けた下請けだ。本当にお前を必要としているのはそいつらに依頼をした、依頼人(誰か)、だな」

ユウ:「それって、つまり――(誘拐させてでも私のことがほしい誰かが、この国のどこかにいるってこと)」


 当然、ユウに心当たりはない。


マカミ、ユウ:「…………」


 しばらく考え込む二人。そして――


グゥゥゥ


ユウ:「っ――」


 空腹に音を上げたユウの腹の虫が、この無言の時間に終わりを告げた。


 ユウの名誉のために補足しておくと、神依の発動と維持にはかなりの体力を消耗する。神依の発動に慣れていなければなおのこと。


 ユウのかわいらしいお腹の音を聞き、マカミはフッと笑みを漏らした。


マカミ:「ここであれこれ考えてても埒が明かない」


 結局、マカミは情報屋からの連絡を待つことにした。


マカミ:「たまにはホテルのレストランで飯にするか」

ユウ:「っ――賛成っ」


 ユウを狙う組織の構成員やマカミを追うヒカルの目に付かないよう、極力部屋から出ず、食事も近くのコンビニで買ってきていたマカミだが、たまには気分転換にとホテルのレストランで食事をとることを提案した。


 マカミの提案にユウは目を輝かせ、賛同した。


 ユウは早速、部屋を出る準備(したく)を始めた。


マカミ:「お前、外に出る度に、その恰好になるのか」


 マカミと一緒にいる時は髪を黒く染める以外はほぼ素顔(スッピン)のユウだが、外に出る時はいつものダサい学校指定の赤ジャージのズボンを履き、外国人コメディアンもびっくりのダサい黒縁の眼鏡を掛け、白いマフラーで口元を隠していた。


 絵に描いたような芋臭い田舎学生、爆誕である。


ユウ:「何か、問題でも」

マカミ:「いや…………」


 この変装のせいで誰も気づいていないが、ユウは実は、そこら辺のファッション雑誌に載っているモデルよりも遥かに整った容姿をしている。


 美人にもかわいい系にも見える顔立ち。


 そんなユウが素の状態で外に出れば、当然ユウのことを良くない眼で視る男たちがかなりの数いるのは想像に難くない。


マカミ:(お前も大変だな)


 ユウの支度が終わり、ようやく二人はホテルの部屋を出た。




★★★




 都心部近郊、人気が全くない寂れた場所にそびえ建つ、廃墟。


小柄な男:「…………」


 廃墟最深部、他より一回り以上広い部屋の最奥で白いメッシュの入った緑髪の小柄な男が、机に短い(といっても男の小柄な体格から考えればそこまで短いわけではない)足を乗せ手にした書類に目を通していた。


 彼こそゴブリンの頭目、緑川小妖(みどりかわしょうよう)、その人である。


大柄な男:「失礼します」


 部屋の扉を礼儀正しくノックしてショウヨウのいる部屋へと入って来たのはショウヨウの右腕兼ボディガードを務める大柄な男。


 男の手には、一枚の紙きれが…………


大柄な男:「例の依頼の進捗状況についてご報告です」


 例の依頼――今ショウヨウたちが関わっている中で最も重要、つまり成功報酬が最も高い案件の進捗状況について書かれた一枚の紙を大柄な男はショウヨウに手渡した。


ショウヨウ:「これは…………」


 手渡された紙を見て、ショウヨウは眉間に皺を寄せた。


ショウヨウ:「たかだか中学生のガキ一人誘拐してくるのに、一体どれだけ手間をかけているんだ」

大柄な男:「申し訳ありません。どうやら、標的と同年代ぐらいの神人類が護衛を買って出ているようでして」

ショウヨウ:「標的と同じ神人類」


 神人類という単語を聞き、ショウヨウの眉間の皺がより深く刻まれた。


大柄な男:「恐らくですか、信正騎士団の正騎士と思われます」

ショウヨウ:「ち、軍人は民事不介入だろうが」

大柄な男:「一応、体裁上は普通の民間組織という扱いですから」

ショウヨウ:「戦争で金を稼いでる奴らのどこか、民間人なんだ」


 標的である中学生は神人類だが、未熟。


 神人類としては、はっきり言って旧人類とほぼ同じ、素人(トーシーロー)


ショウヨウ:「(神人類である点を除いて、ただの中学生である天使優(あまつかゆう)を誘拐してその身柄を引き渡すだけ。それだけで巨額な大金が手に入る、ボロい依頼のはずだったのに、まさか信正騎士団の正騎士が出張って来るとは…………)おかげで依頼達成のハードルが急激に跳ね上がったな」


ピロロロロロロロロ


 ショウヨウの内ポケットから突然、着信を告げるアラーム音が鳴り響いた。


ショウヨウ:「ちっ」


 ここ最近、毎日鳴る通信機器の着信音にショウヨウは思いっきり舌を打ちつけた。


大柄な男:「お電話です」

ショウヨウ:「わかってる」


 通信相手は、例の依頼の依頼主。


 ショウヨウはため息を一つ吐いた後、内ポケットから通信機器を取り出した。


???:「例の子は手に入った」

ショウヨウ:「いえ、それが…………」


 ショウヨウは現在の依頼の進捗状況について、依頼主に報告した。


 その間、依頼主は通信越しでも分かるほどに、至極つまらなそうにショウヨウの話を聞いていた。


???:「タイムリミットは今日の午後まで。もし失敗すれば、その時は――わかっていますね」

ショウヨウ:「それは、もちろん。はい、はい…………それでは」


 通信を切り、ショウヨウは再び大きなため息を吐いた。


大柄な男:「いかがしましょうか」

ショウヨウ:「いかがといわれても…………」


 ショウヨウは今自分が座る椅子の背もたれに全体重をかけると、視線を腐りかけの天井に向けた。


ショウヨウ:「(どういう経緯(いきさつ)かはわからないが、正騎士がボディガードに付いてる以上真正面から標的を攫ってくるのは現実的じゃない。成功確率が高いのは敵の隙を突いて奇襲することだが、一体どうやって――)」


 その時、ショウヨウのいる部屋に、先ほどは全く別の――侵入者を知らせる警告(アラーム)音がけたたましく鳴り響いた。


 すぐさま背もたれから体を離し、ショウヨウは近くのモニターを操作し始めた。


ショウヨウ:「こいつは――」


 モニターに映し出されたのは建物内にいくつも仕掛けられた監視カメラのライブ映像。その内の一つに警告(アラーム)音の元凶――先ほど、マカミと会っていた情報屋の男――侵入者の姿がはっきりと映し出されていた。


ショウヨウ:「どうやら、俺たちにもツキが回って来たみたいだな」


 ショウヨウは静かに、口角を上げた…………




│─\│/─│




マカミ:「さすが、高いだけあってコンビニの飯の何倍もうまかったな」

ユウ:「…………おいしかった」


 食事を終え、自分たちの部屋に戻る途中――


ブーン


 マカミの通信機器が突然、振動を始めた。


マカミ:「うん――っ」


 通信機器の画面を見て、マカミは眉をひそめた


マカミ:「悪い、急用ができた。お前は部屋で休んでおいてくれ」

ユウ:「うん、わかった」


 そう言って、部屋に戻るユウの隣を無言で歩くマカミ。


ユウ:「何でついてくるの」

マカミ:「…………」


 ユウの問いに、マカミは質問の意図がわからないというように首を傾げた。


ユウ:「急用ができたんじゃないの」

マカミ:「ああ、そうだ」


 そう言いながらもユウと一緒に部屋に向かって歩くマカミ。


ユウ:「早く用事を済ませに行ったら」


 ユウのこの問いにマカミは至極当然のような顔で答えた。


マカミ:「狙われてるお前を放って行くわけないだろ。用事を済ませに行くのはお前を部屋まで送ってからだ」

ユウ:「っ――」


 マカミの答えを聞き、ユウはほんのり赤くなった顔を俯かせた。


ユウ:「…………」

マカミ:「…………」


 その後、二人は一言も会話することなく部屋へと戻っていった。


マカミ:「念のため、置いておくか」


 ユウを部屋まで送った後、部屋を離れる直前、部屋の前でマカミは自身の神の御業――投影実像であるモノを自身の影を使って具現化させた。


 先ほどマカミの通信機器の画面に映し出されたのはメールの題名。


 差出人は今朝方会った裏社会の情報屋の男。


 着信したメールの題名にはゴブリンのヤサを突き止めたと書かれており、本文には詳しい話は今朝会った時と同じ場所で話すとだけ書かれていた。


 マカミはユウを部屋に残し、情報屋との待ち合わせ場所に向かって歩き出した。




★★★




情報屋の男:「こ、これで、いいんですよね」

ショウヨウ:「ああ、上出来だ」


 椅子に縛り付けられ、媚びへつらうようにショウヨウを上目遣いで見上げる情報屋の男。


 頭からは血を流し、顔は何倍にも腫れている。


情報屋の男:「じゃ、じゃあ、早く俺を解放してくれ」

ショウヨウ:「ああ、もちろん。そういう約束だからな」


 そう言うとショウヨウは情報屋の男の体の中に手を突っ込み、一枚の羊皮紙を取り出した。


 ユウやマカミと同じく、ショウヨウもまた次世代型の人類――神人類の一人だった。


神託は――契約の神託。


 ショウヨウが男の体内から取り出した羊皮紙には情報屋の男の名前とショウヨウの名前、二人が取り交わした契約(約束)の内容とその成功報酬、そして依頼の対価が記載されていた。


 依頼内容:嘘の情報を正騎士に流し、ユウを孤立させる

 成功報酬:今の絶望的な状況からの解放

 対価:命


ショウヨウの神の御業――病める時も健やかなる時も(オーダーメイド)。


 神の御業で顕現した羊皮紙――契約書に記載された依頼を遂行できなかった場合、もしくは依頼を完遂したにもかかわらずに報酬を支払わなかった場合、事前に取り決めていた対価が強制的に徴収される。


 一週間前、ユウを連れ去って自分の前に連れて来いと契約を交わし、失敗した誘拐犯(男)たちと同じように。例外はない。


 ショウヨウは今まで、命以外のモノを対価に記載したことがない。


ショウヨウ:「約束は死んでも守る。相手が誰であってもな。それがこの組織の掟だ。今すぐにお前を、この地獄から解放してやるよ」

情報屋の男:「そ、それじゃ――っ」


 見事、依頼を果たした情報屋の男にショウヨウは成功報酬を払った。


バンッ


 ショウヨウは男の額を、懐から取り出した拳銃で躊躇なく撃ち抜いた。


ショウヨウ:「この世という名の、地獄からな」


 ショウヨウは契約書の内容通り、情報屋の男に成功報酬を支払った…………



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