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神人類  作者: maow
番外編 少女A
40/50

過去編3 唐突な終わりと始まり

 未だに多くの人が行き交う、有名な広場。


???:「…………」

通行人A:「なにあれ」

通行人B:「坊さんじゃね、知らねぇけど」


 広場の名前にもなっている有名な犬の像の前で、編み笠を目深に被り、地面に座り込む僧侶のような恰好をした謎の男。


 明らかに異質な存在感を放つ男に近くを通りかかった者は概ね、男に奇異の視線を送りながらも関わりにならないよう一歩距離を保ったまま、通り過ぎていった。


 時々、物乞いの類であると勘違いした年配の通行人に金銭や食べ物を恵んでもらっていたが、男の目的は物乞いでも自分の信じる教えを多くの迷える子羊(者)たちへ布教することでもない。


 そもそも男は神を信じていない。男は無宗教だった。


少年A:「何やってるんだ、お前」


 犬の像の前で修行僧の真似事をする男に、黒髪の少年が声を掛けた。


編み笠を被った男:「…………見てわからぬか」

少年A:「わからねえから、聞いてるんだよ」


 心底呆れたという目で男を見下ろす少年。


編み笠を被った男:「変装だ。人目を避ける必要があるからな」

少年A:「余計目立ってるだろうが」


 男の目的は、今目の前にいる少年と秘密裏に会い、少年からあるモノを受け取る事。今の男の格好は明らかにTPOに適していなかった。


少年A:「ほらよ」


 少年は、男に手のひらサイズの黒く薄っぺらいナニかを放って渡した。


編み笠を被った男:「確かに」


 要件を終えると少年はすぐに、その場を後にしようとした。


編み笠を被った男:「待て」


 そそくさと立ち去ろうとする少年を男は呼び止めた。


少年A:「んだよ」


 男に呼び止められ、少年は明らかに不機嫌そうな顔で眉をひそめた。


 自分がここに居たことを誰にも記憶されたくない少年は、少しで早くこの時代錯誤な恰好をした男の傍を離れたかった。


編み笠を被った男:「貴殿は――どうしてこのようなことを」

少年A:「…………」


 男の問いに、少年はしばし無言で考え込み、


少年A:「お前には関係ないことだ」


 そう言って、少年はその場を後にした。




│─\│/─│




放課後


少女A:「はあ」


 ヤンキー二人組に一方的にとりつけられた約束は当然の如く無視して、少女は一人、自分の家に向かって歩いていた。


少女A:(今日は散々な一日だったな)


 ヤンキー二人組に絡まれたのはいつもと違う異例のことだったが、それ以外は特にいつもと変わらない、少女のいつもの日常だった。


少女A:(いつまで続くんだろう…………)


 突然、これまでの日々が次々に少女の脳裏にフラッシュバックしていき、少女は視線を下に落とした。


少女A:(こんな日々がずっと続くなら、もういっそのこと――)


 俯きながら歩く少女のすぐ隣、見知らぬ黒いバンがどこからともなく現れ、並走を始めた。


助手席に座る男A:「写真の娘で間違いなさそうですね」


 少女の隣を走る黒いバンの中には運転手を含め謎の男が四人。


 助手席に座る男の手には、隠し撮りされた少女の写真が握られている。


運転席に座る男B:「まだガキじゃねえか。こんなガキに一体何の用があるんだよ」

後部座席に座る男C:「俺は全然アリだけどね」

助手席に座る男A:「女なら誰でもいいんでしょ、君は」


 男たちはある人物に写真の少女を連れてくるよう依頼された組織の末端。


 いわゆる、裏社会の人間たちである。


運転席に座る男B:「んなことどうだっていいんだよ。とっとと仕事終わらせて、報酬もらってアジトに帰ろうぜ」

後部座席に座る男D:「…………いくぞ」


 少女に近い側の後部座席に座っていた男Dが、車から飛び出した。同時に運転手を除く他の男たちも車から飛び出し、少女に群がった。


少女A:「え、ちょ、なに、う、む――」


 男たちはいっせいに少女に襲いかかると、手際よく少女の目と口を布で塞ぎ、両腕を背中に回して縄で拘束――車の中に引きずり込んだ。


助手席に座る男A:「よし、全速で車をだせ」

運転席に座る男B:「オッケー」


 少女は、男たち四人組に誘拐された。


少女A:「むうううううううううううう」

後部座席に座る男C:「騒ぐな」


 少女が歩いていたのは、人通りの少ない細道。


 他にも学校から少女の家に帰るための道のり(ルート)はあるのだが、すれ違う人が少なくて済むこの細道を少女は好んで帰り道として使っていた。


運転席に座る謎の男B:「この通りを抜ければ、大通りだ。もう誰も俺たちに追いつけねえ」


 普段(いつも)なら、人通りの少ない細道で少女が誘拐される現場を目撃していた者は誰一人として、いなかっただろう。


 今日以外(いつも)、なら――


バンに乗っている男たち:「ぐあっ――」

少女A:「むっ」


 突然、アクセル全開で走る黒いバンが緊急停止した――いや、させられた。


助手席に座る男A:「な、なんだ」


 振り返ると、黒い髪の少年が背後に伸びた車の影の上に立ち、黒いシートが貼られたバックウインドウガラスをジッと凝視していた。


後部座席に座る男C:「あいつ、まさか」

後部座席に座る男D:「アクセルを全開にしろ」

運転席に座る男B:「もうやってる。でも、びくともしねえ」

後部座席に座る男D:「くそっ」


 後部座席に座っていた男Dはサイドガラスから身を乗り出すと、懐から一丁の黒い拳銃を取り出し、背後に立つ少年の額に向け、照準を合わせ、引き金を引いた。


バンッ


 男Dの放った弾丸は少年の額中央に見事命中、だが――


少年A:「…………」


 弾丸は少年の頭蓋骨を貫くことなく、勢いよく少年の後方へ弾き飛ばされていった。


 撃たれた少年は無傷。


後部座席に座る男D:「――っ、この、化け物がっ」


 少年は自身の影から、一振りの剣を具現化させると黒いバンのタイヤ目掛けて投げつけた。


後部座席に座る男C:「やられたっ」


 タイヤに少年が具現化させた影の剣が深々と刺さり、男たちの車はパンクさせられた。


少年A:「車ってのは不便な道具だよな。足が四本もあるのに、その内たった一本が使えなくなっただけで身動き一つとれなくなる。人間だったら、足全部切り飛ばされても、這って動けるのにな」


 走行機能を失ったバンにゆっくりと近づいていく少年。


後部座席に座る男D:「仕方ねえ――やるぞ、てめぇらっ」


 男たちは一斉に車から出ると、勝ち目がないと分かっていても少年に向かって、拳を振り上げ、襲い掛かった…………


ガコッ、バコッ、グシャッ、ドカンッ


少女A:「む、むう」


 急停車した衝撃で、少女は束の間、気を失っていた。


 気づくと、何者かが車のドアを無理やりこじ開ける音がして、少女は体を硬直させた。


少女A:(だ、だれ…………)


 固まる少女に、ドアをこじ開けた何者かは手を伸ばし、少女の目に巻かれた布を解いた。


少女A:「っ――」


 久しぶりの光に、顔をしかめる少女。


 やがて、光に慣れ視界を取り戻した少女の目の前には、中性的な顔をした黒髪の少年の姿が――


少年A:「大丈夫か、お前」


 これが少年と少女、二人の最初の出会いである。



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