第三十六話 布石
信正騎士団、極島支部。
サイカ:「はあ、はあ」
激闘を終え、倒れ込むサイカの目の前にある壁には巨大な大穴が開いていた…………
│─/│\─│
サイカ:「く――」
フランケンの猛攻をなんとか紙一重で捌き続けていたサイカだが、ついに体が限界を迎えた。
サイカ:「っ」
圧倒的な力の差を体術と小刻みな体の動き――重心移動と巧みな神器の操術で埋めていたサイカだが、激しい戦闘に体が追いつけなくなり、一瞬だが足が止まった。
そこへ、フランケン渾身の一撃が襲いかかる――
サイカ:「ぐっ――」
フランケン渾身の一撃をサイカは紙一重のタイミングで自身の神器――鬼神棍棒で受け止めることに成功した。だが、拳の勢いには勝てず、サイカは再び、体を壁に強く打ちつけた。
フランケン:「ゲへへへへ」
気色悪い笑みを浮かべながら、床に倒れるサイカに近づいてくるフランケン。
サイカ:(く、もう――)
どうにかその場から動こうとするサイカだが、体はもう動こうとしなかった。
神依のおかげで壁に叩きつけられたダメージこそゼロなサイカだが、衝撃までは神依で防げず、サイカの体は壁に叩きつけられた衝撃で一時、完全に硬直してしまった。
サイカ:「…………」
絶体絶命の状況の中、突然――
ピロロロロロロロロロ
フランケンの懐から通信を知らせる電子音が鳴った。
フランケン:「誰ですか、こっちは今からがいいところなんですが」
フランケンはサイカに止めを刺すことよりも電話に出ることを優先し、自身の能力を元に戻した。
フランケン:「そうですか」
しばらくの間、フランケンは黙って相手の話を聞くと、すぐに通話を切り、通信機器を再び懐に戻した。
フランケン:「誠に残念なのですが、撤退の命令が下りました。ここでお別れのようです」
サイカ:「ま、まて…………」
そう言うと、フランケンはもう一度自身の筋力を百になるよう自身の能力を割り振り、目の前の壁に力いっぱい拳を叩きつけた。
フランケン:「それでは――」
そう言うと、フランケンは一度サイカに満面の――嫌味増し増しの笑みを向けると、がら空きの無防備な背中を悠然とサイカに向けながら、今しがた開けた大穴を潜って信正騎士団極島支部を後にした。
★★★
極島のどこかにある、秘密の部屋。
包帯を巻いた男:「…………」
極島タワー周囲の様子を映す、通信機器の液晶には今、ウェルフが倒されたことで元に戻った旧人類たちの姿がはっきりと映し出されていた。
井坂総理:「どうやら、君たちの作戦は失敗に終わったようだね」
井坂の挑発を、包帯を巻いた男は聞き流した。
自分たちの作戦が狂わされたことよりも今一番包帯を巻いた男が気になっているのは、画面に映る謎の神人類(二人)。
包帯を巻いた男:(何者だこいつら)
マカミとスノウ。
百人近い人狼を一人で相手取った大鎌の神器を持つ銀髪の女と信正騎士団でも一二を争う腕っぷしの持ち主、ポセイドンとぎりぎりだが互角に渡り合い、一杯食わせた影を操る灰色の髪の男。
包帯を巻いた男:(表沙汰にされていない、信正騎士団の秘密兵器(懐刀)か何かか)
ある程度有名な、自分たちの脅威となりうる正騎士の情報は全て把握している包帯を巻いた男だったが、映像に移る二人の神人類の情報は聞いたことがない。
包帯を巻いた男:「…………」
しばし、考え込む包帯を巻いた男だったが、すぐに首を横に振った。
井坂総理:「これで君たちの作戦は失敗した。おとなしく、投降しなさい」
その時、机に置いていた包帯を巻いた男の通信機器が音を鳴らした。
包帯を巻いた男:「俺だ――ああ、そうか、わかった」
通話を切ると包帯を巻いた男は再び視線を井坂に戻した。
包帯を巻いた男:「申し訳ありませんが、そろそろ引き上げさせてもらいますよ」
井坂総理:「逃げるのか」
井坂の問いに、包帯を巻いた男は顔色一つ変えず、答えた。
包帯を巻いた男:「いいえ――すでにこちらの目的は達成されましたので」
そして、包帯を巻いた男は井坂に向け、手を伸ばした。
│─/│\─│
極島の街にある、とある病院から一人の患者が秘密裏に極島空港へ向け搬送されていた。
救急隊員A:「はやくこの方を極島空港へ。もしものことがあれば、この国はおろか世界がまたあの凄惨な時代に逆戻りすることになるぞ」
人気の全くない極島の街を、法定速度を優に超えるスピードで走行する救急車両。
映画の撮影であるかのように街中を爆走する救急車の前に突然――???が現れた。
救急隊員A:「危ないっ」
突如現れた???――黒のチャイナ服を着た、黒髪の女は手に持った武器――モーニングスターで、自身に向け猛スピードで迫る救急車両を車両ごと殴り飛ばした。
救急隊員A:「うわぁあ」
チャイナ服の女に吹き飛ばされた車両はそのまま宙を舞い、地面に激突して大破。
チャイナ服の女:「…………」
燃え上がる車の中から、チャイナ服の女は目的のソレを見つけ出した。
チャイナ服の女:「見つけた」
アリサ:「…………」
チャイナ服の女――四面楚歌の目的は先の大戦で深手を負い未だ眠りにつく信正騎士団最高幹部の序列二位――シムルグ亡き今信正騎士団の実質的トップであるアリサ・クラウンの身柄を拉致(確保)することだった。




