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神人類  作者: maow
第二章
35/50

第三十五話 君に捧ぐ、一刀

│─\│/─│




 時は戻り、現在。


 極島タワー、地上部。


 周囲を徘徊する百人近い人狼の中で最もヒカルの元へ向かわせてはいけない相手――ヒカルの仲間であるオカマの神人類――ポセイドン・アビスを地上に足止めしておくため、マカミはポセイドンと相対していた。


マカミ:(まるで人の形をした岩だな)


 マカミの目的はあくまで足止め。倒すことではない。


 全くといっていいほど手ごたえはなかったが、それでもマカミは自身の両腕両足を部分的に化神化させ、強化した脚力でかく乱しながら隙を突いてポセイドンを攻撃し続けた。


 ポセイドンは自身の神託――硬度の神託によりマカミが攻撃を仕掛けてきた自身の部位を瞬間的に最大硬度まで硬くして、マカミの攻撃のほとんどを無傷で防いでいた。


 何度もポセイドンに渾身の蹴りや打撃を放っているマカミだが、ポセイドンには全くと言っていいほどダメージはない。むしろ攻撃しているマカミの方が、ポセイドンを攻撃した反動でダメージを蓄積してしまっている。


 疲労といつまでたっても終わりが見えないこの状況にマカミの精神が削られ、ついにマカミの集中力が一瞬だが、切れた。


ポセイドン;「ふんっ」

マカミ:「ぐっ――」


 その隙(瞬間)をポセイドンが見逃すはずもなく、マカミの腹に強烈な正拳突き(一撃)をお見舞いした。


マカミ:「…………くそが」


 絶え間なく攻撃を加え続けていたマカミだが、ここでたまらず無意識にポセイドンから距離を取った。


 手数は圧倒的にマカミの方が上。だが、ポセイドンは息一つ乱れておらず、逆にマカミはすでにスタミナが底を尽きかけ、肩で息をしている状態。


 体が重く、全身のいたるところに鈍い痛みが走る。


 限界が、マカミのすぐそこまで迫って来ていた。


マカミ:「…………(チラッ)」


 ほんの一瞬、唯一この場で一緒に味方として戦っているスノウの方にマカミは視線を動かした。


スノウ:「っ――」


 スノウはマカミがポセイドンとの戦いに集中できるよう周囲にいる百人近い数の人狼の相手を一人でしていた。


 助太刀は期待できない。


パンッ


 マカミは自身の頬を強く叩くと、再び目の前にそびえ立つ強大な壁に向き直った。


 この壁は、一人でどうにかしなくてはいけない。


マカミは拳を強く握った。




★★★




ヒカル:「っ――」


 押し殺していた仲間への想いを吐き出すかのようにヒカルは一心不乱に光の剣を振るった。


ウェルフ:「ぐああああああああ」


 幾つもの斬撃がウェルフの化神化で得た強靭な肉体を斬り裂いていく。


 ヒカルの光の剣は光を凝集させたいわばレーザーのようなもの。生半可な硬さのモノなら、いとも容易く切断できるのだが、自身の肉体を神の神体(しんたい)へと変化させる――化神化によって神の体となったウェルフの肉の体を容易く両断することはできなかった。だが――


ヒカル:「っ――」


 一つ一つの傷は浅くとも、休みなく斬りつけていればいつかは――


ウェルフ:「調子に乗るなよ。クソガキガァアアアアアアアアアアアア」


 それで倒せるほど、共和国のトップ、四面楚歌(王水の側近)の一人――ウェルフは甘くなかった。


ヒカル:「っ――」


 突然、ヒカルの視界をまばゆい閃光が白一色に塗りつぶした。


ヒカル:「…………」


 突然の閃光に一瞬だが、視界を奪われたヒカル。


 視界が戻ると目の前にウェルフの姿はなく、ヒカルの背後に何者かの気配が――


ヒカル:「っ――」


 振り返ったヒカルの胸を獰猛な獣の爪が深々と切り裂いた。


ヒカル:「ぐっ」


 目の前には先ほどとは違い全身から、光を発するウェルフの姿が――


 続くウェルフの追撃を、ヒカルは光の剣でなんとか防いだ。


 直後、ウェルフの姿が再び、ヒカルの目の前から瞬時に消失した。


ヒカル:「――っ、一体どこに」


 再び、音もなくヒカルの背後に姿を現す、ウェルフ。


 今度はヒカルの背をウェルフは深々と切り裂いた。


ヒカル:「ぐっ――」


 ヒカルはあえてすぐに背後を振り向かずに背後にいるであろうウェルフから距離を取るため、翼を羽ばたかせた。


 器用に空中で回転して、ウェルフの方を向きながらバック飛行をするヒカルの目の前に、ウェルフは文字通り光の速度でヒカルの目の前に跳躍した。


ヒカル:(こいつ、自分の体を光の粒子に)


 化神化したウェルフの能力、体内に取り込んだ物質の性質を一時的にだが取り込み、模倣する――嘘擬態(フェイク・タトゥー)


 ウェルフはヒカルの攻撃を受けながらも、化神化により強化した自身の肉体に叩きつけられ少しずつ光(刃)こぼれを起こしていく光の剣の破片(残滓)を少しずつ、体内に取り込んでいた。


 ヒカルが自身の神意を纏わせ凝集させていた光の粒子。


 能力を発動させるのに十分な光の粒子を取り込んだウェルフは化神化した時のみ使える神の御業――嘘擬態(フェイク・タトゥー)を発動させ、自身の体を光の粒子と同じ性質に変換させた。


 この業により形勢は一気に逆転した。


ヒカル:「くそっ」


 ウェルフはヒカルの周囲を光の速さで移動し、かく乱。隙をついてはヒカルに向け、獰猛な爪を振り回し続けた。


ヒカル:「ぐっ――」

ウェルフ:「ガハハハ」


 わざと隙を見せ、渾身の一撃(カウンター)を狙っても自身を光の粒子に変えられるウェルフの光の速度にヒカルの速度(動き)が追いつかず、ヒカルは防戦一方の戦いを強いられた。


ウェルフ:「ガハハハハハハハ、さっきまでの威勢はどうした。ほれ、ほれ、ほれ、悔しかったらこの儂に一太刀浴びせて見ろ、クソガキ」


 すでに二か所、胸と背中に大きな傷を負っているヒカルだが、化神化により顕現した光の輪の自動回復能力のおかげで傷はすでに塞がっている。


 攻撃も、致命傷だけは受けないよう立ち回り、今のところは何とか拮抗を保てているが、それも時間の問題…………


 ヒカルはすでにマカミとの戦いで神意を大幅に消耗している。


ヒカル:「ぐっ…………(あの馬鹿、変な爪痕残しやがって)」


 ついに、ヒカルの神意が枯渇した。


剣(武器)を失い、傷を癒すことも出来なくなったヒカルはウェルフの猛攻を受け続け、ついに膝を地につけた。


 ヒカルの目の前では、ウェルフが獰猛な牙を剥きながら勝ち誇ったように笑っていた。




★★★




 極島タワー、地上部


 ウェルフの猛攻を受け、ヒカルが絶体絶命のピンチに追い込まれていた頃――マカミもまたポセイドンにあと一歩のところまで追い込まれていた。


マカミ:「はあ、はあ(コイツ…………見た目に反して戦い方は堅実そのものだな。隙がまるでない)」


 単純な肉弾戦――体術に関してはポセイドンの方がマカミより一枚も二枚も上手。


 それもそのはず、ポセイドンの体術の腕は信正騎士団内でも一二を争うほどの達人。


 あのオーディンやアリサでさえ、神の御業なしではポセイドンに勝てないほど、肉弾戦の実力者(エキスパート)なのである。


 体術で劣る以上、マカミがポセイドンに勝つためには、神の御業を上手く使う必要がある、のだが――


 ヒカル同様、マカミも先の戦いで神意を大幅に消耗している…………


 この状況を一振りで逆転するマカミの神の御業(切り札)――幻影模写。自身の影を素材に、神器の模造品(レプリカ)を生成して強力な神の御業の一撃を放つ。


 神意を大量に消費する神の御業だが、さすがのポセイドンでもマカミの――ユウの必殺の一撃を受けて、無事でいられるはずはない。


 正真正銘、マカミの最強にして最後の切り札。


マカミ:(一回だけならなんとかなるか)


 残り全ての神意を使えば、一回だけなら幻影模写を発動することはできる。だが、それで決めきれなければ、マカミはすべての神意を使い切り、神依をすることもできず、ポセイドンに敗北することになる。


マカミ:(チャンスは一度だけ――)


 失敗は許されない。


 マカミは再び、化神化させた腕でポセイドンに殴りかかった。


ポセイドン:「…………」


 マカミの息吐かせぬ連続パンチをポセイドンは顔色一つ変えず、容易に捌いてみせた。


マカミ:「くそっ」


 次に、マカミは化神化した足でポセイドンの周囲を移動して、かく乱。ポセイドンの死角からの攻撃を試みるが…………アッシュの能力――共鳴同調(シンクロニシティ)で実質、ポセイドンは今、視野が二倍になっている状態。


 目玉が四つある相手にマカミのかく乱戦法はほとんど意味を為さず――マカミの攻撃はすべてポセイドンに防がれた。


 そっと地面に膝と片手を付けるマカミ。


マカミ:「…………」


 万事休す…………そう思わせるのが、マカミの狙いだった。


アッシュ:「っ」

ポセイドン:「――っ」


 最初に気づいたのはポセイドンの肩に乗り、ポセイドンよりも高い場所でマカミを見下ろしていたアッシュだった。少し遅れて、アッシュと感覚を共有しているポセイドンがソレに気づいた。


マカミ:(やはり、感覚を共有しているといっても多少、情報が伝達されるのに時間差(ラグ)があるようだな)


 マカミはポセイドンたちの前で体力を使い切り、為す術なく途方に暮れる哀れな敗北者の演技をした。


 マカミの真の狙いは自分の影に怪しまれずに触れること。


 二人の意識が自分に向いた瞬間、自身の影をポセイドンたちがすっぽり収まるように拡大・伸長させた。


 何かあると察したポセイドンは瞬時に全身を最大まで硬化、どんな事態にも対応できるよう身構えた。


ポセイドン、アッシュ:「…………」


 しかし、ポセイドンたちの身に何かが起こることはなかった。


 マカミがしたのは自身の神意を纏わせた影を操り、形を変えただけ…………ただ、それだけ。


 これなら、残り少ない神意を消費せず、ポセイドンたちに隙を作ることが出来る。


マカミ:(視覚が増えたことが、仇になったな)


ポセイドン:「っ――」


 数秒後、マカミの真の狙いに気づいたポセイドンだったが、もう遅い。


 一分の隙もなかったポセイドンにここで初めて、千載一遇の隙が生まれた。


マカミ:「…………」


 マカミは自身の化神化を解き、代わりに一振りの黒い剣を顕現させた。


 今は亡き、極島最強剣士の神の御業(一振り)――


マカミ:(一撃――)


 マカミがその業を発動させようとした、その瞬間…………とある光景がマカミの視界に突然映し出された。


 それは、会って間もない、初めて会った時からいけ好かないと思っていた、とある正騎士が獰猛な獣を前に膝をついている光景。


マカミ:「っ――」


 共有の神託を授かったアッシュは今、人狼になった影響で理性を失っている。本人も気づいていないが、アッシュは今、本人の意思に反して神の御業――共鳴同調(シンクロニシティ)を常時発動している状態になってしまっている。


 アッシュの共鳴同調(シンクロニシティ)は信頼し合っている者同士の感覚を互いに共有させる神の御業。


 普段の未熟なアッシュは、自分と信頼し合っている誰かの感覚を共有することしかできないが、暴走状態の今、一時的なら(自分以外の)信頼し合っている者同士の感覚を共有させることが出来るようになっている。


 ヒカルと違い、マカミにとってヒカルはついさっき会ったばかりの何となくいけ好かない赤の他人。信頼するしない以前の関係性。


 互いに信頼し合っていないとお互いの感覚を共有することはできないのだが――


 マカミは正真正銘最後の神の御業(一振り)を、遥か頭上にいる、初めて会ったはずなのにどことなく他人と思えない、いけ好かない赤の他人を助けるため、振り抜いた。




★★★




極島タワー、展望デッキ。


 神意が枯渇したヒカルにウェルフの獰猛な爪が襲いかかった。


ヒカル:(…………ここまでか)

ウェルフ:「がはははは、死ねぇえええええええええ」


 すでにヒカルに、神の御業を発動するだけの神意は残されていない。


 ヒカルにウェルフの攻撃を防ぐ術はもう、ない。


ヒカル:(すまない、エルザ、ロック、オクティ…………)


 ウェルフの獰猛な爪がヒカルの体を引き裂こうと肉薄する、その時――


ウェルフ:「ぐはっ――」


 ウェルフの背中を何者かが真一文字に一閃、斬り裂いた。


ウェルフ:(ば、ばかな)


 致命傷というほどではないが完全に意識外からの攻撃を受け、ウェルフの体と思考が一瞬、完全に停止した。


ヒカル:「っ」


 その隙に、ヒカルは背中に隠していた一振りの剣を抜き取り、ウェルフに斬りかかった。


ウェルフ:「っ――」


 少し遅れて剣を手に向かってくるヒカルを迎え撃とうとしたウェルフ、だが――それよりも早くヒカルの剣先がウェルフの喉元を捉えた。


ウェルフ:「ガッ」


 ヒカルは、ありったけの想いと体重を乗せ、エルザの愛剣(サーベル)を化神化したウェルフの喉元に深々と突き刺した。


ヒカル:「っ――」


 ウェルフの喉元に突き刺さったエルザの愛剣をヒカルは首から胴体に向け勢いよく、振り抜いた。


ウェルフ:「ガッ、ハッ――」


 体の中心部分を深々と切り裂かれ、四面楚歌の一人――ウェルフは天に滅されることになった。




★★★




 極島タワー、地上部。


 必殺の一撃をポセイドンではなく、突如頭の中に浮かび上がったビジョンの中のウェルフ目掛けて放ったマカミ。


 この一撃に神意を使い切ったマカミの眼前にポセイドンの拳が迫る――


スノウ:「っ――」

マカミ:(これまでか――)


 ポセイドンの最大限に硬化させられた拳がマカミの頭蓋骨を捉える直前――


マカミ:「………………」

ポセイドン:「………………あら」


ポセイドンの拳がマカミの目の前で突然、静止した…………



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