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神人類  作者: maow
第二章
33/46

第三十三話 混沌の街

マカミ:(きりがないな)


 ロックたち同様、正気を失った旧人類たちの群れに襲われるマカミたち。


スノウ:(殺しちゃ、ダメ)

マカミ:(ダメ)


 マカミたちもまた、襲い掛かって来る旧人類たちを傷つけないよう、慎重に立ち回っていた。


ポセイドン:「ふんっ」


 ポセイドンは一番力加減のしやすい素手で、手錠で腕を繫がれたマカミとスノウは足業で旧人類の急所を突いて、次々に気絶させていった。


アッシュ:「うわっ」

ポセイドン:「アッシュっ」


 この場で唯一、非戦闘員であるアッシュは我を失った旧人類に襲われて早々、ポセイドンが身を隠させた。


 なるべく、アッシュの方に旧人類が行かないよう立ち回っていたマカミたちだったが、我を失った旧人類の一人がアッシュの存在に気づき、一目散に襲い掛かっていったのだ。


マカミ:「っ――」


 マカミは近くに置いてあったゴミ箱をアッシュに襲いかかる旧人類に向け、蹴り飛ばし、アッシュに襲いかかった旧人類を近くの建物の壁に吹き飛ばした。


 吹き飛ばされた旧人類は壁に激突し、そのまま意識を失った。


マカミ:「大丈夫かっ」


 繋がれたスノウと共にアッシュの無事を確認するマカミ。


 よく見ると膝に引っ掻かれた傷が――


マカミ:「ぐっ」


 スノウの背後から、何者かかが彼女に襲いかかった。


 それに気づいたマカミはスノウを守るため、投影実像で大きな盾を自身の影から具現化、何者かの拳を影で出来た大楯で受け止めた。


スノウ:「っ――」


 影越しに伝わる重い拳の一撃がマカミの全身を襲い、体中の骨を軋ませた。


マカミ:「…………てめぇ」


 重い一撃をなんとか持ちこたえたマカミの前にいたのは、一緒に我を忘れた旧人類たちと戦っていたはずのポセイドンだった。


 一瞬、「また裏切りか」と考えたマカミだが、ポセイドンの眼を見てその考えをすぐに捨てた。


 どう見ても正気の人間の眼ではない。まるで周りにうじゃうじゃいる旧人類たちと同じ…………


マカミ:(やるしかないか)


 スノウと繋がれた状態のまま、マカミは臨戦態勢を取った。そこへ――


ポセイドン:「ぐはっ」

マカミ:「…………お前」


 天使の化神化をして、この場に全速力で飛翔して来たヒカルが、我を失った仲間のポセイドンの頭を、勢いよく空中回転蹴りで蹴り飛ばした。


ヒカル:「何してるんだ、貴様ら」


 空中からマカミを見下ろすヒカル。


 その眼に、別れる前には宿していたはずの眼の奥の光が完全に消え失せていることにマカミは気づいた。


マカミ:(何かあったのか)


ワォォオオオオオオオオオオオオン


 ヒカルの登場直後、再びあの獣の叫び声が街中に響き渡った。


理性を失った旧人類:「…………」

ポセイドン、アッシュ:「…………」


 直後、理性を失った旧人類たちが撤退を始めた…………


スノウ:「敵が」

マカミ:「退いていく」


 ポセイドンもまた、自我を失ったアッシュを肩に乗せ、我を失った旧人類たちと共にその場から離脱した。


マカミ:「何が起こってるんだ」


 数秒後、先ほどの騒動(パニック)が嘘だったかのように、街を再び静寂が包み込んだ。




│─\│/─│




ギャング風の男:「がははは、いい眺めじゃわい」


 一瞬で混沌の渦中へと叩き落された極島の街を見下ろし、男は愉悦に浸っていた。破壊された街並みを肴にワインを飲む男に、仲間の包帯を巻いた男から通信が入った。


包帯を巻いた男:「そっちの様子はどうだ、ウェルフ」


 包帯を巻いた男にウェルフと呼ばれたギャング風の男。


ウェルフ:「順調じゃわい。歯ごたえがなさすぎて、物足りんぐらいじゃわ」

包帯を巻いた男:「ヨハネの翼との大戦で、この国の多くの正騎士が戦線から離脱したからな」


 今極島にいる正騎士たちは、ヨハネの翼大戦時、フユキと共に極島から避難村(シェルター)に避難した人々を護衛していた正騎士たち、のほんの一部。


 大半がフユキ同様、戦闘を得意としていない正騎士ばかり。


ウェルフ:「あの陰険眼鏡はどうした」

包帯を巻いた男:「フランケンは今、極島支部の支部長を足止め中だ。そこそこ、てこずってるようだな」

ウェルフ:「どうだかの。格下相手に時間いっぱいまでいたぶって遊んでおるのかもしれんぞ。あやつ、性格最悪じゃからの」


 そう言うとウェルフは手に持ったワインを一口、口に流し込んだ。


ウェルフ:「仕事の遅い陰険眼鏡と違ってこっちはもうほぼ任務完了じゃからのう。どれ、ちょっくら、儂が加勢してやろうかの」

包帯を巻いた男:「ダメだ」


 ウェルフの提案を、包帯を巻いた男は即座に切り捨てた。


包帯を巻いた男:「今回の任務、お前の能力が要になる」


 ウェルフの神託は狼の神託。


 傷をつけた相手を自身の手駒――人狼に変え、意のままに操ることが出来る。


 ウェルフは最初、手短な極島の人間を何人かを襲い、自身の人狼(手下)に変え、他の人間を襲うよう命令した。人狼と化した人間もウェルフ同様、傷をつけた相手を自身と同じ人狼に変える能力を有している。


包帯を巻いた男:「お前の役割は極島の街に混乱を起こし、俺たちの交渉が有利に進むようアシストすることだ」


 そうしてある程度、自身の手駒となる理性失き人間――人狼を増やしたウェルフは包帯を巻いた男の合図(連絡)を受け、一斉に人狼たちを凶暴化。街を破壊しろと命令を出した。


包帯を巻いた男:「万が一お前がやられれば、俺たちの作戦が全て水の泡になる。一時の道楽で勝手なことはするな」


 包帯を巻いた男の小言をウェルフは顔から通信機器を離して、苦い顔で聞いていた。


ウェルフ:「わあった、わあった。みなまでいわんでもええわい。相変わらず頭の固い男じゃのう」

包帯を巻いた男:「ある程度極島の人間をお前の人狼(手駒)にできたのなら、お前は守りを固めてそこでじっと篭城(巣ごもり)していろ。後のことは俺たちが上手くやる」


 そう言って、包帯を巻いた男は通信を切った。


ウェルフ:「かっ、言われんでもすでに撤退の指示は出しとるわ」


 通信が切れると同時にウェルフは通信機器を後方に投げ捨てた。


ウェルフ:「相変わらず洒落の分からん男じゃのう」


 今、俺を護れという咆哮(命令)を聞いた人狼たちが街のあちこちからぞろぞろとウェルフのいる場所へと集まってきていた。


 その中には当然、ポセイドンとアッシュの姿も…………




│─\│/─│




ヒカル:「恐らく敵は四面楚歌の一人、ウェルフだな」

マカミ:「四面楚歌っ…………て、誰だ?」

スノウ:「?」


 頭上に?マークを浮かべる二人を見て、ヒカルは盛大にため息を吐いた。


ヒカル:「そこの馬鹿はともかく、お前は何度か聞いたことがあるだろう」


 ヒカルに視線を向けられ、スノウは首を傾げた。


 それを見て、ヒカルは再び大きく、ため息を吐いた。


ヒカル:「四面楚歌ってのは、共和国を統べる組織――九龍同盟の一の首、王水直属の配下――側近四人衆のことだ」

マカミ:「王水、共和国、四面楚歌」


 どれもマカミには聞き覚えのない単語だった。


スノウ:「確か、第二次人類大戦で居場所を失った移民たちが、まだかろうじて住むことのできた旧中華人民共和国の土地を違法に占拠してできた多民族国家だったわね」


 その成り立ちのせいで共和国は人口世界一位にも関わらず未だ他の国から正式な国として認められていない。


ヒカル:「ウェルフは狼の神託を授かった神人類で、傷をつけた相手を自分の意のままに操れる狼人間――人狼に変える能力を持つと言われている」

マカミ:「……言われている。確かじゃないのか」

ヒカル:「共和国は内部統制の激しい鎖国国家だ。共和国内部の情報はほとんど外に出回ってこない」


 共和国全土を海外から隔離しているわけではないが、他国に開放しているのは共和国のほんの一部の地域のみ。それ以外は他国の人間にとって禁足地。一歩でも足を踏み入れてしまえば、他国の人間であっても即逮捕・即死刑とされている。


ヒカル:「これは共和国に潜入している信正騎士団(うち)の情報部が手に入れた情報だ。信憑性は高い」


 その情報が正しければ、今この街で起こっている事態はその四面楚歌の一人――ウェルフの仕業ということで説明がつく。恐らく、ウェルフによって狼人間にさせられた人間たちもウェルフと同じように傷つけた相手を自分と同じ狼人間にする能力があるのだろう。


 自分と同じように相手も狂わせ、狂気を他者に感染・伝播させていく。まるで狂犬病か何かの感染症の様に


 ここで一つマカミに疑問が浮かんだ。


マカミ:「あのレインコートを着た子供――アッシュ、だったか…………あいつは確かに人狼の爪で傷をつけられた。だが、あのでかいオカマは人狼に傷をつけられてなかった。だが、あの子供と同じように人狼になった」


 ヒカルの言った情報が正しければ、ウェルフの能力は麻疹(はしか)や結核のように空気中を伝って感染者を増やしていくようなものではなく、血液感染のように直接相手の体内に感染源(菌)を入れて感染者を増やしていく能力のはずである。


 アッシュが人狼に攻撃され叫び声を上げた直後、マカミとスノウはすぐにアッシュの元に駆け寄った。その時、人狼につけられた傷を確認している。


 だが、ポセイドンが人狼の攻撃を受けた姿をマカミたちは見ていない。傷をつけられた様子もなかった。


 理性を失う対価に人狼が得る能力は二つ。傷をつけた相手を自分と同じ、理性無き獣(人狼)に変える能力。そして強制的にだが旧人類でも神意を纏う神依を発動させられるようになる能力。


 神依により多少身体能力は向上するが、人狼になった人間そのものの戦闘技術(スキル)は変わらない。


 ポセイドン渾身の一撃を具現化させた大楯(影)越しだがその身で受け、ポセイドンの実力をある程度だがマカミは把握していた。


マカミ:(手加減をしていたとはいえ、あれほどの実力者が戦闘の素人の攻撃を一度でも受けたとはとても思えない)


 傷をつけられていないポセイドンが人狼化した理由、ヒカルには心当たりがあった。


ヒカル:「それは恐らくアッシュの神託のせいだな」

マカミ:「アッシュの神託…………(あの子供も神人類だったのか)」

ヒカル:「アッシュの神託は共有の神託。アッシュは心を許し合った者同士の感覚を共有させることができる。当然、自分の感覚も――」


 アッシュの神の御業――共鳴同調(シンクロニシティ)


マカミ:「それであのオカマも人狼になったのか」


 厳密に言うと、アッシュと感覚を共有したせいでポセイドンは人狼と同じような状態――疑似人狼になったということだ。


ヒカル:「アッシュはまだ神依を常時、発動できない。不意を突かれて、心を乱したんだろうな」


 神意を纏っていないあらゆる攻撃から自身の身を護れる神依は神人類にとって基本のキとも言える技能だがその実、寝てる時など無意識下でも常時神依を発動できるようになるにはかなりの鍛錬を要する。


 実際、信正騎士団でも神依を常時発動できない者はそれなりの数いる。


 マカミやスノウ、ユウは当然できるのだが…………


マカミ:「ん――」


 ここでまた一つ、マカミはある事に引っかかった。


マカミ:「なら何でお前は(疑似)人狼になってないんだ」


 ヒカルの話が本当なら、ヒカルもポセイドン同様、疑似人狼になっていないとおかしい。神依を纏っていれば、神の御業であっても、その影響を最小限もしくは完全に無効にすることもできる。


 ウェルフの、傷をつけた相手を人狼にする能力も神依を纏ってさえいれば人狼にならずに済むとマカミたちは予想している。


 あの時、アッシュが人狼になってしまったのは不意を突かれ、神依を解いてしまったからだ。だが、あの時、ポセイドンはしっかり神依を発動していた。


 それはマカミが自身の目でしっかりと視認していた。


 なのに、ポセイドンはアッシュや極島の旧人類たちと同じ(厳密に言うとそれによく似た疑似)人狼と化した。


 ヒカルの言う通り、それがアッシュの御業の影響であるとするなら、(神依を常時発動している)ヒカルもアッシュの神の御業でポセイドンと同じ疑似人狼になっていないとおかしいのだが…………


ヒカル:「俺はアッシュと感覚を共有することができない」

マカミ:「え、それってつまり…………」


 アッシュの神の御業――共鳴同調(シンクロニシティ)は互いに信頼し合っている者同士でなければ感覚を共有させることが出来ない。つまり、アッシュが心の底から信用している相手とアッシュの事を心の底から信用している相手でないとアッシュと互いに感覚を共有することができないのだ。


 ヒカルとアッシュは互いに感覚を共有することができない。それが意味することはつまり――


スノウ:「ふ」


 思わず、噴きだしてしまったスノウをヒカルは睨みつけた。


ヒカル:「これ以上この話はするな、いいな」

マカミ:「お、おう」


 ヒカルの圧に押され、この話はここで終わりとなった。


 そこへ、とある人物からヒカルの元へ連絡が入った。


ヒカル:「俺だ…………そうか、わかった」


 しばらくの間、ヒカルはここにはいない誰かと通信機越しに話をした。


ヒカル:「敵の、親玉(ウェルフ)の居場所が分かった」

マカミ:「何」


 通話を切るとすぐ、ヒカルはマカミとスノウを繫ぐ手錠を外し、ある場所に向かって歩き出した。


 目的地を言わず、すたすたと歩くヒカルの後をマカミたちも追いかけたのだが、ずっと気になっていたある事をヒカルに問いかけた。


マカミ:「あいつらはどうしたんだ」

ヒカル:「…………」


 マカミの言うあいつらとは、ポセイドンたちと同じヒカルたちの仲間の三人娘、ロック・オクティ・エルザのこと。買い出しに行くと別れてから、三人娘たちの姿をマカミたちは見ていない。てっきり、ヒカルと一緒にいると思っていたのだが…………


ヒカル:「あいつらは来ない。戦線離脱だ」

マカミ:(戦線離脱…………負傷でもしたのか)


 ヒカルの言葉を聞き、マカミはこれ以上、このことについて深く考えるのをやめた。


マカミ:「…………そうか」


 ほんの一瞬見えたヒカルの顔――先ほどと変わらず感情の読み取れないクールで無機質な顔の瞳の奥に宿った強い不穏な感情、その正体を会って間もないマカミが突き止めようとすることはなかった。


 ヒカルが通話の相手から聞いた、この騒動の元凶――四面楚歌の一人ウェルフが根城としているであろう場所は、この国で一番高い塔の天辺――極島タワーの展望デッキだった。



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