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神人類  作者: maow
第二章
32/50

第三十二話 騒乱

 信正騎士団極島支部


サイカ:「ここは…………っ――」


 巻き上がる土煙に視界を埋め尽くされる中、サイカは一緒にこの空間に落ちたであろう今の相棒の姿を探した。


サイカ:「フユキ、フユキ大丈夫っ」

フユキ:「はいっ、僕は大丈夫です。ここは…………」


 偶然、部屋の中央近くに落下したフユキとサイカは声を頼りに無事、土煙が巻き上がる部屋の中で合流することに成功した。


 今サイカたちがいるのは、支部内に幾つもある普段は使われていない空き部屋。つい先ほどまでサイカたちがいた支部長室のちょうど真下に位置する部屋である。


フランシスコ:「くくく、なるほど、なるほど」


 換気口に吸い込まれ、室内の空気が入れ替わっていく――


 視界が晴れたサイカたちの目の前には室内を興味深げに見渡す共和国からの使者、フランシスコの姿があった。


フランシスコ:「支部の建物全体に大きな亀裂を入れるつもりで殴ったのですが、私の知力を五十割り振った筋力八十パンチでも床一枚を叩き割るのがやっとですか。さすが、信正騎士団の支部。()い建材を使っておりますな」


 目の前の敵(自分たち)よりも極島支部(建物)に使われている素材に興味を示すフランシスコ――その様子にサイカは心底イラッとした。


サイカ:「あなた、ただの使者じゃないわね」


 敵意溢れる視線をサイカに向けられてもフランシスコは飄々としたまま。フランシスコはサイカを自身の脅威と認識していなかった。


フランシスコ:「いいえ、使者ですよ。つい先ほどまでは。たった今、実力不足(部不相応)にもこの支部の新しい支部長となったクソ生意気なガキ(の命)を狙う刺客にジョブチェンジしましたけれどね」


 フランシスコの言葉にサイカの眉が一瞬、ピクッと動いた。


サイカ:「目的は何」


 サイカの問いにフランシスコはわざとらしくニヤッと笑って、サイカたちを嘲笑った。


フランシスコ:「答えるとお思いで」

サイカ:「っ――」


 ついに、サイカの怒りのボルテージが臨界点を突破した。


 フランシスコの言葉を聞いた瞬間、サイカは鬼化(化神化)。同時に金棒(神器)――鬼神棍棒も顕現させた。


フランシスコ:「辺鄙な島国とはいえ、さすがは信正騎士団の支部を任されるお方。そんじょそこらの雑魚(正騎士)とは一線を画しているようですね。そちらの方と違って」

フユキ:「っ」


 フランシスコは一瞬、フユキを見て、嘲笑した。


フランシスコ:「では私も筋力百(本気)でお相手させていただきましょう」


 そう言うと、肉が全く付いていないフランシスコのガリガリの体が見る見るうちに肥大化、三メートルある屈強な筋肉(肉)の怪物に自身の姿を変化(へんげ)させた。


フランシスコ:「ぶっつぶしてやる」

サイカ:「っ――」


 声まで野太く変化したフランシスコとサイカは真正面から、激突した。




★★★




包帯を巻いた男:「…………交渉は決裂ですか」

???:「当然だろう」


 フランシスコたちと共に極島に密入国した全身を包帯でぐるぐる巻きにした男は極島のとある場所で仕立ての良いスーツに身を包む強面の男と机を挟んで、対面していた。


包帯を巻いた男:「後悔しますよ」

強面の男:「いかなることがあっても、我が国がテロリスト(君たち)と取引することはない。たとえ、この命を失うことになるとしてもだ」

包帯を巻いた男:「そうですか…………」


 ただ者ではない雰囲気を纏ういかつい顔の男――極島の現トップ、井坂総理の返答を聞き、包帯を巻いた男は懐から通信機器を取り出した。


包帯を巻いた男:「やれ――」


 作戦開始の知らせを受け、通信相手の派手な服を着たギャング風の男は獰猛な笑みを浮かべながら、街全体に響くほどの獣の咆哮を発した。




│─/│\─│




 もう何度目になるか分からない、ヒカルとマカミの対決から一時間が経過。



 マカミとスノウは、右手と左手に神人類用の特殊な金属――エルザ愛用の細長い(サーベル)と同じ、神意を纏う金属――で造られた対神人類専用の手錠で繋がれ、ヒカルの仲間である屈強なオカマ――ポセイドンとレインコートを着た少年――アッシュと共にどこかへ連行されていた。


ポセイドン:「ごめんなさいね、二人とも」

アッシュ:「痛くない」


マカミ、スノウ:「…………」


 ヒカルは極島支部の支部長に今回の騒ぎ(一件)について報告を、ロック・オクティ・エルザの三人娘は近くにあったスーパーで食料品の買い出しをするため、マカミたちとは離れていた。


 マカミを襲撃した際、ロックが『うちらのヒカル(リーダー)マカミ(あんた)に用がある』と言っていた。


 ヒカルがマカミにさせたいこと。


 記憶を失っているマカミには当然、皆目見当もつかない。だが恐らくその内容が碌なモノでないことはなんとなく察しがついていた。


 敵対する組織への潜入、戦場での敵部隊への特攻、輸入を禁止されている(ブツ)の密輸、爆弾などの危険物の処理…………


マカミ:「……………………」

スノウ:「無駄よ」


 腕にはめられた手錠をジッと凝視し考え込むマカミの耳元にスノウはそっと、口を寄せて言った。


スノウ:「それは神の御業で創られた、神意を纏う特別な金属。生半可な攻撃じゃ、びくともしないわ」

マカミ:「…………そうか」


 自力での逃亡が難しいとなると、マカミたちがこの危機的状況を脱するために残された手段はたった一つ――


マカミ:(こいつらとの話し合い(交渉)、か)


 マカミが大の苦手としている分野である…………


マカミ:「……(チラッ)」


 横目でポセイドンの顔を視ると、緊張で顔が強張り、ただでさえ破壊力のある顔がさらにその凶器性を増していた。


 出会った当初は、マカミを狙うヒカルから逃がそうとしたポセイドンだが、ヒカルがマカミたちと離れる直前、もしまた同じようなことをしたらマカミ(ソイツ)の足を片方斬り落とすと釘を刺されていた。


マカミ:(十中八九脅しだろうが…………)


 あいつならやりかねないという気持ちもわずかながら、マカミの中にはあった。


 それは隣を歩くポセイドンも同じ。


マカミ:(期待薄だな…………チラッ)

アッシュ:「…………」


 ポセイドンから視線を外すと灰色の髪をした少年、アッシュがマカミの顔をジーッと見上げていることに気づいた。


マカミ:「どうした」


 マカミに突然話しかけられ、慌ててポセイドンの背中に隠れたアッシュ。だが、しばらくしてポセイドンの背中から顔を出し、しばし眼を辺り一帯にキョロキョロさせた後、恐る恐る口を開いた。


アッシュ:「マカミ、兄ちゃん」

マカミ:(マカミ、兄ちゃん…………)


 今のマカミに兄弟がいたという記憶はない。突然、つい先ほど命懸けの死闘を繰り広げた敵の仲間の、年下の少年にお兄ちゃんと呼ばれ、マカミは少し困惑した。


アッシュ:「僕のこと、覚えてない」


 不安と期待が入り混じった表情でそう質問した少年にマカミは――


マカミ:「……………………」


困ったように眉を寄せた。


アッシュ:「…………」


 沈黙で応えるマカミに少年は視線と肩を落とした。


 落胆する少年の頭を、ポセイドンは優しい笑みを浮かべながらしばらく撫でた。


マカミ:(俺は一体こいつらの何だったんだ…………)


???:「ワォォオオオオオオオオオオオン」


 突如街中に響き渡る、獣の咆哮。


少年:ビクッ

マカミ:「何だ」

ポセイドン:「っ…………」


 聞いた者すべての、全身の毛を逆立たせる獰猛な獣の咆哮にマカミとスノウ、ポセイドン――三人の警戒レベルが瞬時に最高レベルにまで跳ね上がった。


マカミ、スノウ、ポセイドン:「………………………………」


 すぐさま三人はアッシュを中心に、アッシュを護るよう、互いに背中合わせになり周囲を警戒する態勢を取った。


ポセイドン:「二人とも、何か変わったところはない」

スノウ:「何も」

マカミ:「こっちもだ」


 一見街の様子は何も変わっていないように見える。だが、この場の全員、肌で感じていた。


 得体のしれない悪意が極島の街全体を鷲掴みにし、狂気の爪を突きたてているのを。


 これは嵐の前の静けさであると――


バリィンッ


 突然、一人の男が店のショーウィンドウを破り三人の目の前に姿を現せた。


男:「う、う…………」


 男は頭を押さえながら覚束ない足取りでふらふらと三人の方へ歩ていき、そして――


男:「ウガァァアアアアアアアアアア」


 獰猛な声を上げ、襲い掛かって来た。


アッシュ:「ポーさん、後ろっ」


 気付くとポセイドンの正面だけでなく、マカミの正面とスノウの正面(左右)、そしてアッシュの正面(背後)からも目を血走らせた男たちがマカミたちに牙を剥けてきた。




★★★




ロック:「どうなってんだこりゃ」


 買い出しを終え、ロックたちスーパーを出るとそこには今までどこに隠れていたのかと思うほど大勢の――催眠にかかっているように全身を脱力させた人たちが街中を徘徊していた。


近くを徘徊していた人:「アッ」


 近くを徘徊していた、あきらかに正気を失った一人がスーパーを出たロックたちを見つけた。


近くを徘徊していた人:「ウガァァァァ」


 一人が襲い掛かると、釣られて周囲にいた他の者たちも一斉にロックたちへ襲い掛かった…………


オクティ:「うわぁあああん、敵が多すぎて、手が足りません」

ロック:「てめぇはいっぱい手があんだろうが。気張れっ」


 突然起こったこの騒乱(パニック)に、それでも正騎士としてなんとか襲い掛かってくる人々をいなすロックたち。


 だが、あまりにも人数(物量)に差がありすぎた。


エルザ:「まずいな」


 おかしくなっているとはいえ、相手は極島に住む旧人類。厳密にいえば先の大戦で近くの避難村(シェルター)に避難することができなかった、公にすることができない事情を抱えた訳アリの者たちなのだが、護るべき対象であることは変わらない。


 死なない程度の強い衝撃を与えて、襲い掛かって来る旧人類たちの意識を刈り取ってきたロックたちだが…………


エルザ:「そろそろ限界だな」


 圧倒的な人数差に加え、微妙な力加減を強いられるこの状況に、ロックたちは徐々に追い詰められていった。


エルザ:(どこかにこの状況を引き起こした元凶がいるはず。どうにかしてソイツの居場所が分かれば――)


エルザの脳裏に先ほどスーパーで買い物中に聞いた獣の雄たけびのような叫び声が思い浮かんだ。


エルザ:「っ、しまっ――」


 その瞬間エルザの意識が目の前の戦場から自身の記憶の方へ離れてしまい、視界の外から迫った攻撃に反応が遅れてしまった。


 背後から襲いかかって来た男の爪がエルザの頬を掠めた。


エルザ:「…………」

ロック:「エルザっ」

オクティ:「エルザさん」


 周囲の我を忘れた旧人類たちを力尽くで薙ぎ払い、ロックとオクティはエルザの元へ駆け寄った。


 エルザは自身の意識が徐々に白く塗りつぶされていく感覚に、心の底から震えた。


???:「エルザっ」


 そこへ、街の異変を感じ取ったヒカルが化神化した天使の姿で空中を翔け、エルザたちの元へ駆けつけた。


エルザ:「ひ、か、る」


 普段のクールなヒカルからは想像もできない、慌てふためいた顔(表情)…………それが、エルザの見た、最期のヒカルの姿だった。


 エルザの瞳から涙が一粒、零れ落ちた。



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