表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神人類  作者: maow
第二章
31/38

第三十一話 光陰

マカミ:「…………お前、そんなこともできるんだな」

スノウ:「ただの応急処置よ」


 マカミの神の御業――影縫いで全身を硬直させたエルザをロープで近くにあった信号機に縛りあげている間、スノウは意識を失ったロックとオクティの二人に触れ、彼女ら自身の神意を消費して、マカミたちとの戦闘で負った傷を治癒させていた。


マカミ:「さてと、じゃあ聞かせてもらおうか。どうして俺たちを襲ったんだ」

エルザ:「…………」


 マカミの問いにエルザはそっぽを向いて答えを拒否。


マカミ:「俺をリーダーの所に連れていくと言っていたな。お前たちのリーダーは何者だ」

エルザ:「…………言いたくない」

マカミ:(子供かよ)


 このままでは埒が明かないと考えたマカミはスノウの耳にそっと口を寄せた。


スノウ:「っ」

マカミ:「相手が旧人類でも、その神の御業(傷を治癒する業)は使えるのか」


 マカミが耳元に近づくと少しだけ、スノウの耳と頬が朱色に染まった。


スノウ:「…………使えるわよ。治す対象に神意が宿ってさえいれば」


 神意は、生物であれば量の多い少ないはあれ、虫にも植物にも宿っている。


マカミ:「そうか――(なら、指一本ぐらい折っても大丈夫そうだな)」


 正直、その程度で口を割るような相手には見えないが――現状、エルザの口を割る以外にマカミたちを狙う敵の正体を掴む糸口がない。


マカミ:(あまり気乗りはしないがな)


 再び、エルザへと近づくマカミ。そこへ――


???:「あらあら、あんなに息まいて出ていったのに逆に捕まっちゃうなんて情けない。あんたたちそれでもシュラ隊の構成員(メンバー)なの」


 見るからにごつい、屈強な体をした水色髪のオカマがマカミたちの前に現れた。


マカミ:(何だ、この変態)

スノウ:「あなたは――」


 白昼堂々現れた全身インパクトしかないオカマを見て、心の底からドン引きするマカミと目を見開いて驚くスノウ。


エルザ:「私たちはシュラ隊じゃなくてヒカル隊だ」


 スノウとオカマには以前、面識があるといった様子だった。


マカミ:「…………知り合いか」

スノウ:「……ええ、残念なことにね」


 めまいを抑えるかのようにこめかみに手を当てるスノウ。


マカミ:(俺も)


 そんなスノウを見ながら、無言で自身を指さしたマカミにスノウはコクンッを頷いた。


マカミ:「…………」


 マカミもまた自身の額に手を当てた。


オカマ:「久しぶりね。マカミちゃん、スノウちゃん。元気そうでお姉ちゃん、うれしいわ」

マカミ:「…………(おねえ、ちゃん)」


 化物だろっ、という言葉が思い浮かんではすぐにマカミの心の中で消失した。


 無防備に近づいてくるオカマを最大限、警戒するマカミ。


オカマ:「まだ記憶は戻っていないのね」


 対して、オカマは心の底からマカミを心配している眼でマカミを見た後すぐに、マカミとスノウに切羽詰まった声で言った。


オカマ:「二人とも早くここから逃げてちょうだい。あの子が来る前にっ、はやくっ――」

マカミ、スノウ:「っ――」


 突然の事に驚き、固まるマカミ。そんな二人をオカマは無理やりこの場から離れさせようとした。


オカマ:「あなたたちをもうこんな戦いに巻き込みたくないの。お願いだから何も言わず、お姉ちゃんの言う事聞いてちょうだい」

ロック:「ポー姉、一体何を」

オクティ:「ポーさん」


 意識を取り戻したロックとオクティが慌てて、オカマの暴走を止めようとしたが、まだ二人の体は動けるような状態ではない。スノウは彼女ら二人が再び自分たちに襲いかかってこないよう最低限の治癒(処置)しかしていなかったのだ。


エルザ:「…………もう遅い」


 エルザの視線の先には、マカミたちの方へ向かってゆっくり歩いてくるレインコートを着た少年と金髪の青年の姿が――


オカマ:「…………ヒカル」

ヒカル:「少しの間だけ目を閉じてろ、アッシュ。俺が良いって言うまで、目を開けるな」

アッシュ:「うん、わかった」


 オカマにヒカルと呼ばれた金髪の青年は悠然とした足取りでポセイドンの元まで歩いていくと、隣を歩いていたレインコートを着た少年――アッシュに目を瞑らせた。


 そして――


オカマ:「ぐはっ」


 マカミたちを逃がそうとしていたオカマの、ピシッとセットされた頭を力いっぱいに蹴り飛ばした。


ヒカル:「ポー、俺はこの馬鹿を、引きずってでも俺の前に連れて来いと命令したはずだ。なのに、どうして呑気に談笑なんかしているんだ。お前の能力があれば、こいつらをこの場に足止めしておくことぐらい簡単なはずだろう」

アッシュ:「ポーさん」


 感情を感じさせない瞳で蹴り飛ばしたオカマの仲間――ポセイドンを見下ろすヒカル。


ポセイドン:「でもヒカルちゃん、マカミちゃんたちはもう正騎士じゃないのよ」


 対してポセイドンは自分よりも一回り以上小さい(体格的にも年齢的にも)青年にすがるように目を潤ませて懇願した。


マカミ:(俺たちが――正騎士?)

ヒカル:「関係ない」


ポセイドンの願いをあっさり切り捨て、ヒカルはマカミの方に向かって歩いていった。


ヒカル:「久しぶりだな」

マカミ:「…………」


 身に覚えがないという顔をするマカミを見て、ヒカルはふんっと鼻を鳴らした。


ヒカル:「まだ記憶は戻っていないのか…………まあ、いい。俺と一緒に来てもらおう。お前に拒否権はない」

マカミ:「――断る」


 ヒカルの申し出を、今度はマカミが瞬時に切り捨てた。


マカミ:「――っ」


 直後、マカミの腹をヒカルは渾身の力で殴った。


マカミ:「ぐはっ」


 突然の腹パンッにマカミはその場で崩れ落ちた。


 続けて、ポセイドン同様にヒカルはマカミの頭を蹴り飛ばした。


スノウ:「っ――」


 建物の壁に勢いよく全身を叩きつけられるマカミ。


 神依で全身覆っていたため、壁に激突したダメージ事態はゼロだが、ヒカルの神意を纏わせた蹴りは的確にマカミの脳を揺らし、マカミの意識を一瞬だが途絶させた。


 ヒカルに向け、臨戦態勢をとるスノウ。


 だが、すでにヒカルの姿はスノウの前にはなく――


マカミ:「…………っ」


 時間にしてほんの数瞬。


 一秒にも満たない意識の喪失後、開けたマカミの視界にはつい先ほどまで地上にいたはずのヒカルの姿が――その背中には白鳥を思わせる美しい(ふた)つの翼が顕現していた。


 ヒカルの授かった神託は――光の神託。


スノウ:「危ないっ――」


 ヒカルの両手に握られた光の剣――文字通り神意を纏わせた光の粒子を束ねて造られた剣を見て、スノウは神器の角灯(ランタン)に閉じ込められた魂を消費――魂燃焼(ソウルチャージ)により神意の斬撃をマカミの眼前にいるヒカルに向かって放とうとした。


 しかし――


スノウ:「っ――」


 突然、足元の地面が硬さを失い、スノウはバランスを崩した。


 それでもなんとかヒカルに向かい斬撃を放ったスノウだが、突然バランスを崩された影響で照準がずれ、ヒカルの背中に生えた翼をわずかにかすめ、神意の斬撃は遥か彼方の空へと消えていった。


 先ほどまでただのアスファルトだったはずの足場が硬さを失い、底なし沼のようにスノウの足を十センチほど飲み込んで、再びその硬さを取り戻した。


ポセイドン:「ごめんなさいね。でもあなた達にはできるだけ傷ついてほしくないの。悪いけど、そこで大人しくしててくれるかしら」


 これが硬度の神託を受けたポセイドンの神の御業。


 手で触れた物の硬度を自在に変えることが出来る。


 ポセイドンは両手で足元の地面に触れ、周囲の地面の硬度を瞬時に下げて、液状化させた。


 辺りを見渡してみると、神の御業を発動させたポセイドンの両腕両足だけでなく、地面に転がされていたロックたちの半身、周囲にあった建物も十センチほどだが地面に埋没していた。


スノウ:「…………」


 硬さを戻した地面は、スノウの足をがっちり固定しており、びくともしない。


 両足を動かせなければ、スノウは自身の身長よりも長い得物である神器を上手く取り回すことができない。


 スノウはマカミたちの戦いをこのまま地上で見守る事しかできなくなってしまった。


マカミ:「くっ」


 二振りの剣を手に眼前へと迫ったヒカルに対し、マカミは咄嗟に自身の影から一振りの剣を顕現して応戦しようとした。


ヒカル:「無駄だ、お前の弱点は全部把握している」


 マカミの影の剣とヒカルの光の剣が激突、その瞬間――ヒカルは自身の光の剣を爆ぜさせた。


 ヒカルは自身の光の剣を構成する光の粒子を周囲に拡散させ、辺り一帯を照らした。まばゆい光に二人が包まれると同時に、マカミの影の剣が跡形もなく消失した。


 マカミの投影実像は影を具現化させる神の御業。強い光に照らされれば影は当然、かき消される。それは具現化された影も同じこと。


 影を消され、無防備になったマカミ目掛けて、残ったもう一振りの剣をヒカルは振り上げた。


 ヒカルにマカミを殺す意思はない。ヒカルはマカミに何か用があると言った。


 ヒカルはマカミが死なない程度に、だが二度と自分に逆らおうなどと思わないように深い(トラウマ)を植え付けるため、マカミの左目に目掛け剣を振り下ろした。


 ヒカルの剣先がマカミの左眼球を捉える直前、マカミは背中にこっそり隠していた剣を引き抜き、ヒカルの左眼を斬り裂いた。


ロック、オクティ:「ふぃはぁるるるるるっ(ヒカルルルルル)」

エルザ:(あれは、私の――)


 エルザを拘束する際、取り上げたエルザの神意を纏う剣――神人類を傷つけられる剣をマカミは一振りくすね、自分の背中に隠していた。


 あとで調べるために。


 武器としての有用性を評価したのではなく、自然と神意を纏う剣というものに個人的に興味が湧いたのだ。


 マカミの隠していたエルザの剣に左眼を斬られたヒカルはそれでもなお、光の剣をマカミに向かって振り下ろした。それをマカミはエルザの剣で受け止めた。


ヒカル:「少しはやるようになったようだな。だが――」

マカミ:「何っ」


 ヒカルは頭上に光の輪を顕現させた。同時にマカミに斬り裂かれたヒカルの左眼がたちまち修復された。


 ヒカルの化神化――天使の化神化。空中を自在に移動できる白い羽と傷を癒す白い輪を顕現させる。


マカミ:「このっ」


 力づくでヒカルとの鍔迫り合いを制し、再びヒカルに向け、エルザの剣を振るうマカミ。


 ヒカルはあえてソレを無防備(ノーガード)で受けた。


 確かな手ごたえと共に斬り裂かれるヒカルの体。どう見ても致命傷と見える深い傷だが、ヒカルの光の輪により、その傷はたちまちの内に回復していった。


マカミ:「――っ」


 その後、再び戦いはマカミの防戦一方に。


スノウ:「…………」

ポセイドン:「…………」


 徐々に、ヒカルに追い詰められていくマカミを心配そうに見つめるスノウ。


 頭上で、かつての仲間同士が本気で真剣勝負(殺し合い)をする様に心を痛めるポセイドン。


ポセイドン:(もうやめて、マカミちゃん。マカミちゃんじゃヒカルちゃんには勝てないわ)


 記憶を失う以前のマカミを知っているポセイドンは、嫌というほど目にしたことがある。


 記憶を失う以前のマカミが何度もヒカルと真剣勝負をして、ぼろ雑巾になるほどヒカルに叩きのめされていた現場(事実)を。


マカミは一度もヒカルに勝ったことがなかった。


マカミ:「――くっ」

ヒカル:「無駄だ」


 マカミの神の御業――投影実像はヒカルに完全に封殺されている。マカミが投影実像で影を具現化させるとすぐさまヒカルは周囲の光の粒子を手の平に集め、拡散――周囲を照らし具現化させた影を消失させた。


 縦横無尽に空中を飛翔し、四方八方からの攻撃を仕掛けるヒカル。それに対しマカミも建物の壁や屋根を足場に三次元(立体)的な動きで応戦するが――


 マカミが使える手札(武器)は神依で強化した身体能力とエルザからこっそりくすねたエルザの愛剣、二つだけ。


 以前のマカミしか知らないヒカルとポセイドンはそう、思い込んでいた。


マカミ:「…………」


 マカミは自身の両腕と両足を獣の、陰の四肢へと変化(へんげ)させた。


 すぐ様顕現した影を消そうとマカミに迫るヒカル。


マカミ:「っ」


 手の平に集めた光の粒子をマカミの目の前で拡散、周囲をまばゆい光が包み込んだ。


 二人の影が強い光にかき消される中、マカミの四肢に纏った影だけは残ったまま。どんなに強いまばゆい光にもかき消されることはなかった。


ヒカル:「何っ」


 マカミの具現化させた陰の鉤爪がヒカルの胸を深々と切り裂いた。


ポセイドン:「ヒカルちゃんっ」

ヒカル:(すべての影をかき消したはずなのに消えなかった…………この影はまさかっ)


 影を具現化させる神の御業――投影実像は影そのものを照らされれば実態を失い消失する。当然、その影を照らす光もまた神意を纏っている必要はあるが、ヒカルとマカミの神託の相性はマカミにとってまさに最悪。水と油である。


 今まで一度もマカミがヒカルに勝てなかった最たる理由がコレだ。


 だが、光の神託を受けたヒカルの光であっても照らすことのできない、確固たる深い、深淵の陰がこの世には存在する。


ヒカル:「っ――」


 マカミに深い傷を負わされ、距離を取ろうとしたヒカルにマカミは跳躍して接近、先ほどまでとは比べ物にならないスピードで追撃をした。


ヒカル:(こいついつの間に、俺と同じ、化神化なんてできるようになっていたんだ)


 ソロモンの石で神意量を爆発的に増強させていない今のマカミの神意量では完全な化神化――全身をあの、陰の狼に神化させることはできない。だが部分的に、自分の腕と足だけを化神化させることなら、今のマカミが宿す神意量でも十分に可能(できる)


再び、マカミはヒカルの胸を切り裂いた。


ヒカル:「この――」


 初撃(一撃)、二撃をくらい、三撃目――


 たまらずヒカルはマカミに白い翼を生やした背を向け、自身の体を護った。


 ヒカルの自動回復は化神化により顕現した頭の光の輪が、自身の神意を消費して自動で行われる。オーディンの絶対支配領域(パーフェクトルーム)に肩を並べるほど最強クラスの神の御業だが、無敵ではない。


 神意さえ枯渇しなければどんな深い傷も癒せる能力だが、傷が塞がるまでには多少の時間を要する(ラグがある)。傷が塞がる前に連続で攻撃をくらい致命に達する、もしくは即死級の一撃をくらえば傷は塞がったとしても命は落としたまま。


 死の底から蘇る神の御業は今のところ確認されていない。


バサッアア


 マカミの三撃目がヒカルの白く美しい天使の翼を深く切り裂き、辺り一帯に天使の羽を散らせた。


ヒカル:「調子に乗るな」


 ヒカルは器用に空中で回転(ターン)するとマカミの側頭部めがけて空中回転蹴りを放った。


マカミ:「ぐっ――」


 (神託の)相性最悪、防戦一方な戦いでようやく掴んだ好機(チャンス)。ここを逃せば、もう勝ち目はないと悟ったマカミは脳震盪で揺らぐ視界の中、必死にヒカルに向かって手を伸ばした…………だが――


マカミ:「がっ、はっ」


 すかさずヒカルはマカミの化神化した両腕に向かって光の剣を投擲した。


 投擲された光の剣に両腕を貫かれ、地面に勢いよく叩きつけられるマカミ。光の剣は腕だけでなく、マカミが叩きつけられた地面も穿ち、マカミの両腕を地面に固定した。


 ヒカルは立て続けに二本の光の剣を化神化したマカミの両足に向かって、投げつけ…………悠然とマカミの目の前に降り立った。


ヒカル:「俺の勝ちだ」


 両手両足を光の剣で貫かれ、地面に磔にされるマカミ。


 マカミは記憶を失う前と同様、ヒカルに再び敗北した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ