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神人類  作者: maow
第二章
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第三十話 乱戦

マカミ:「こいつ、強い」


 両手に持ったサーベルで、息つく暇もなくマカミに斬撃を繰り出すエルザ。迫り来るいくつもの斬撃を、影を具現化させた剣――投影実像(神の御業)で創り出した直剣でなんとか捌いていたマカミ、だが――


ロック:「おらよっ」

マカミ:「っ――」


 エルザの剣に気を取られている隙を突き、ロックがマカミの横っ腹を引き裂こうと長い鉤爪で攻撃をしてきた。


 その攻撃を間一髪、躱すマカミ、だが――


 反撃で繰り出したマカミの剣は空を斬った。ロックはマカミに攻撃を繰り出した直後、軽やかなバックステップによりその場からすぐに離脱。近くの壁にヤモリのように張り付いた。そして再び、マカミにエルザの連続剣撃が襲いかかった。


 エルザの嵐のような連撃と合間合間に襲いかかるロックの周囲の建物の壁を利用した縦横無尽なヒットアンドアウェイのコンビネーションにマカミは徐々に追い詰められていった。


スノウ:「…………」

オクティ:「…………」


 激しい戦闘を繰り広げるマカミvsエルザ・ロックペアに対して静かに睨み合うスノウとオクティの二人。


オクティ:(この人すっごい見てくるな。もしかして私のこと好きなのかな)


 スノウがオクティから目を離さないのは先ほどオクティが見せた能力を警戒してのこと。


 タコの神託を授かったオクティは二足歩行できるタコの怪物に化神化することで二本の腕を失う代わりに八本のヌメヌメした触手と伸縮自在に伸び縮みできる上半身、そして自身の体を周囲の景色に同化させ、あたかも姿が消えたように錯覚させる――擬態能力を得ることが出来る。


 二対三という乱戦に近い状況で、オクティのこの能力が一番の脅威になると判断したスノウはエルザとロックの相手をマカミに任せ、自身はオクティの一挙手一投足に目を光らせることにしたのだ。


マカミ:「――しまっ」

ロック:「よっしゃっ」


 ここまでロックとエルザ二人を相手に一人で踏ん張っていたマカミだが、ついに、戦いの均衡が崩れた。


エルザ:(ここで、決めるっ)


 ずっと、エルザとロックどちらの動きにも対応できるよう二人が自分の視界に収まるよう立ちまわっていたマカミだが、今まで単調なヒットアンドアウェイ攻撃仕掛けてきたロックが突然、マカミに襲いかかる直前でその場にしゃがみこんだ――ロックはマカミにフェイントを仕掛けたのだ。


 マカミの意識が一瞬、エルザからフェイントを仕掛けたロックに集約。


 その一瞬の隙を逃さず、エルザはマカミの横をサッと通り過ぎていった。


スノウ:「っ――」


 エルザの狙いはマカミではなく、その背後でオクティと睨み合い無防備な背中を向ける彼女。


エルザ:「もらった」


 幾度も戦場を駆け抜け、研鑽されたエルザの直感が、この場で一番真っ先に排除すべき強者(脅威)が誰であるかを告げていた。


エルザ:「自分より弱い男に守ってもらって、お姫様気取りか貴様――」

スノウ:「…………」


 振り返ると眼前にはサーベルを高く掲げたエルザの姿が――


オクティ:(…………)


 スノウの視線が外れると同時に周囲の景色に擬態を始めるオクティ。


 迫るサーベルをじっと見つめるスノウ。


エルザ:「――ぐっ」


 あと数センチでスノウの額斜め上にサーベルの刃が届くという所で、エルザの体は完全に硬直させられた。


エルザ:(貴様っ)

マカミ:「…………」


 マカミの神の御業――影縫い。


 触れた(踏んだ)敵の影をその場に縫い付け、固定する。影を縫い付けられた相手は金縛りにあったように体を少しも動かせなくなる。


 以前、ユウの跡を付けていたトウヤに使用したのと同じ神の御業である。


ロック:「エルザっ」


 エルザが背後を取られ、慌ててマカミに襲いかかるロック。


マカミ、スノウ:「っ――」


 二人はほんの一瞬、互いに目を合わせるとすぐさま背後に振り返り――


 スノウは神の御業――魂燃焼(ソウルチャージ)により神器の角灯(ランタン)に保管していた魂の一部を消費、周囲の景色に溶け込んだ直後のオクティに向け神意の斬撃を放った。


オクティ:「――きゃっ」


 同時にマカミは背後から襲い掛かってくるロックの鋭い鉤爪攻撃を、身を屈めて躱し、すぐさまロックの無防備な腹に渾身の蹴りを放った。


ロック:「――ぐはっ」


 マカミとスノウは互いの瞳に映った自分の背後にいる敵の姿を視て、位置を確認。間髪入れず、攻撃に転じたのだ。


ロック:(どうして)

オクティ:(私たちの位置が)


 化神化していたおかげで致命傷こそ避けられた二人だが、深いダメージを負って戦闘不能。


エルザ:「ぐっ、この」


 二人が意識を失い、マカミの拘束を外そうと必死に身じろぐエルザだが、体はびくともしない。


 それもそのはず、なぜならエルザは――


マカミ:「無駄だ。旧人類のお前じゃいくらもがいても、それを解くことはできない」

エルザ:「っ――(気づいていたのか)」


 マカミやロックたちと違い、神人類ではなかった。




★★★




 信正騎士団極島支部支部長室。


フランシスコ:「いかがですか、私たちの提案は……信正騎士団極島支部支部長の鬼島彩夏(きじまさいか)さん」


 突然の来訪者であるフランシスコの話を机に肘をつき、話を最後まで聞いたサイカは…………


サイカ:「…………」


 机に肘をついたまま。


フユキ:「いかがもなにも、こんな提案受け入れられるわけないでしょ」


 いつまでも口を開かないサイカに代わって、フユキが口を開いた。


フランシスコ:「どうしてですか、どちらにとっても利のある提案だと思うのですが」

サイカ:「…………あなたが共和国の人間だからよ」


 ここでようやく、サイカが口を開いた。


サイカ:「共和国は国際的には国として認められていない。勝手に自分たちの土地を国と称して活動しているだけの、不法国家よ」


 第二次人類大戦前と違い、今なお国として体を保てているのは世界全土で五ヵ国。旧日本――極島。英独仏――三ヵ国が手を取り合ってできた連合国。大戦前は世界のトップを走っていた大国――合衆国。アフリカの無法地帯をまとめ上げできた、この世界唯一の独裁国家――帝国。そして極島の隣、九つの民族が同盟を結んで建設された一大多民族国家――共和国。


 この内、帝国と共和国の二つは国際的に認められていない。


フランシスコ:「人の数は連合国や合衆国より多いですよ」

サイカ:「でもそのほとんどが旧中華外からやってきた不法移民たちでしょ」


 共和国の代表が主張している共和国の領土、そのすべてがかつて世界で最も多くの国民を抱えていた国、旧中華の領土。


 だが今、共和国を形成している民族たちの大半は旧中華の人間ではない。大半が国を滅ぼされ、生きていける安寧の地を求め、流れ着いた流浪の民である。


フランシスコ:「国を追われたかわいそうな人たちです」

サイカ:「その人たちを国から追い出そうと躍起になってたのはどこのだれだったかしら」


 安寧の地を求めやってきた亡国の民たちを、自身の土地を占領しに来た侵略者と認定して実力行使で排除して来たのが以前の、(共和国の)国家元首。


 この行いが非人道的とみなされ、共和国は未だちゃんとした国としての承認を受けていない。


フランシスコ:「その行いに心を痛めた我々の王は他の民族の長たちと結託して当時の政権を打倒、今の共和国に建設し直したのです」


 その元・国家元首を打倒するため、共和国と対立していた八つの民族と現在共和国の礎となる九龍同盟(くーろんどうめい)を結び、現共和国の代表――九龍同盟のリーダーとして君臨しているのが今サイカの目の前にいる白衣の男が仕えている男。


サイカ:「ものはいいようね」

フユキ:「…………」


 共和国の使者(フランシスコ)がいる手前、顔には出さなかったがフユキは内心驚いていた。見るからに政治や歴史に無関心そうなサイカが共和国の成り立ちや、共和国が国際的に今どのような立場に置かれているかを知っていたことに…………


フユキ:(ちゃんと勉強してるんだな)


 実際、勉強していたのはユウの方で、サイカはその受け売り。


 信正騎士団に入隊する際の試験勉強も、サイカはユウに教えてもらっていた。


フランシスコ:「で、お答えの方は」

サイカ:「さっきから何度も言っているはずだけど。ちゃんと言わないとわからないのかしら」


 フランシスコがサイカたちに持ち掛けてきた話を要約すると、先の大戦で多くの正騎士を失い治安を維持できなくなった極島に再び国を平定するための戦力、つまり神人類(兵隊)を共和国が無利子・無担保・無期限に貸すというもの。


フランシスコ:「悪くない話だと思うんですがね」

サイカ:「どこが――」


 応援(協力)といえば聞こえはいいが、要は自国の兵士を他国に送り込むための口実作り。極島の治安維持活動にもちろん協力してくれるのだろうが、いざ極島を再び平定した後、おずおずと応援に来た兵士たちが共和国(本国)に帰還するとは思えない。


彼らの目的は極島の治安を取り戻した後、何かと理由を付け極島に自国の兵士たちを居座り続けさせ事実上、極島を実行支配すること。


 当然、飲める話ではない。


フランシスコ:「残念です――せっかく友好的にお話を進めようと思ったのですが。どうやら極島の新しい支部長さんは少々お(つむ)が弱い方のようで」


 交渉が決裂し、フランシスコは性根を(あらわ)にした。


サイカ:「あら、私こう見えて結構石頭なんだけど。よかったら試してみる」


 目には目を、挑発には挑発で返すのが元・不良集団(レッドバイソン)(ヘッド)――鬼島彩夏の流儀。


フランシスコ:「そうですね――ぜひっ」


 フランシスコは掛けていた眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げた後、見るからに華奢な拳を勢いよく地面に向かって振り下ろした――直後、支部長室全体に幾つもの亀裂が走り、支部長室の地面(床)が崩壊した。



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