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神人類  作者: maow
第一章 
27/38

第二十七話 光と陰

第一部、最終話です

│─/│\─│




 極島から遠く離れた西の国。


 都心から離れた丘の上に一軒の教会があった。


藍色髪の少年:「オーディン兄ちゃん」


 皿洗いを終え、キッチンから出てきた金髪の少年に藍色髪の少年が抱き着いた。金髪の少年の顔を見るや否やうれしそうに抱き着いて、顔をお腹にこすりつける藍色髪の少年。金髪の少年はこの教会の子供たちの中で一番の年長者であり、藍色髪の少年は金髪の少年よりも年下だが、この二人にちゃんとした血のつながりはない。


 ここは、親に捨てられ社会に居場所のない子供たちを集め、養育している教会――オーディンが育った故郷。オーディンもまた教会にいる他の子どもたち同様、物心つく前に親に捨てられた孤児なのだった。


他の子どもたち:「オーディン兄ちゃんだっ」


 藍色髪の少年に続き、教会にいた他の子供たちも一斉に金髪少年(オーディン)の元へ集まって来た。


オーディン:「ちょ、おい、お前ら」

修道女:「あらあらオーディンは子供たちに大人気ね。うらやましいわ」


 その様子を、この教会唯一の大人である修道女(シスター)が微笑ましそうに見ていた。


 子供たちの中では一番年上であることもさることながら、勉学優秀、スポーツ万能、慎重は平均的だが顔もいい。おまけに性格も良く、年少者の面倒見もいいため、オーディンは教会の子供たちの人気者だった。


亜麻色髪の少女:「ねえ、オーディン兄ちゃん」


 服の左裾をちょんちょんと小刻みに引っ張られ、視線を動かすとオーディンの裾を掴みながらくりくりと大きな瞳でオーディンを見上げてくる亜麻色髪の少女の姿が……


 藍色髪の少年と並び、この子供たちの中でも一二を争うほどオーディンになついている亜麻色髪の少女。彼女が今から発する言葉が、現場を混沌の渦へと叩き落とすことになるとはこの時はオーディンですら誰も思っていなかった。


亜麻色髪の少女:「一緒にあそぼ」

オーディン、修道女:「っ」

子供たち:「っ――」


 少女の言葉に、他の子どもたちの目の色が変わった。


教会の子供A:「オーディン兄ちゃん今日は俺らとあそぼっ」

教会の子供B:「いやぁ、オーディン兄ちゃんは今日私たちとあそぶの」

教会の子供C:「僕も、僕も、オーディン兄ちゃんと遊びたい」


 決壊したダムの様に浴びせられる子供たちの無限耐久地獄(遊び)へのお誘い。四方八方から服を引っ張られ、よれよれだったオーディンの服がさらによれよれになりながら、オーディンはなんとか子供たちを傷つけずにこのお誘いをやり過ごせないか、揺れる視界の中、明晰な頭脳をフル回転させた…………結果――


オーディン:「ま、マザー」


 この教会で唯一の大人――教会の持ち主であり、捨てられていたオーディンを拾った修道女(シスター)――マザーに助けを求めた。


マザー:「…………」


 マザーはオーディンの救いを求める迷える子羊のような目線を受け――


マザー:「ニコッ(あきらめろ)」


 と笑うだけだった。


オーディン:(はくじょうものぉ)


 結局、子供たちのお誘いを断り切れなかったオーディンはこの後、頂点(天)に昇った陽が丘の向かい側にある山の麓に隠れるまで子供たちと遊ぶことになるのだった。




数週間後――




子供たち:「ぐす、ぐす、ぐす、ぐす」


 教会の前で泣きじゃくる子供たち。そんな子供たちを困った顔をしながら見る、オーディン。やがてオーディンは一人一人子供たちの頭を優しく撫でて回った。


マザー:「オーディン、本当にこれでよかったのですか」


 マザーの言葉にオーディンはそっと微笑み、頷いた。


オーディン:「はい。僕が頑張れば、この孤児院の経営状況も今よりだいぶよくなるはずですから」

マザー:「ですが…………」


 思わず喉から零れそうになった言葉をマザーはそっと押しとどめた。これ以上何か言うことはオーディンの思いやりと覚悟を無下にすることだと思ったからだ。オーディンはきっとすごく悩んで苦しんでこの決断を下したのだろうから、これ以上その決断に何かを言うのは親失格である。捨てられていたところを拾ってここまで一緒に生活してきた育ての親として――マザーは一言、


『体には気を付けなさい』


 とだけ言って、オーディンをギュッと抱きしめた。


 ここで初めて、オーディンはマザーの目尻が少し赤らんでいることに気づいた。


『マザー、ありがとう』


 離れる直前、オーディンはそっとマザーの耳元で囁いた。


 マザーとの別れの抱擁(あいさつ)を終えると、藍色髪の少年と亜麻色髪の少女がオーディンの袖を両側から引っ張った。


藍色髪の少年:「行かないで、オーディン兄ちゃん」

オーディン:「ごめんな。でも俺頑張るから。お前らのために絶対立派な人間になってまた戻って来るから。それまで待っててくれ」

亜麻色髪の少女:「お手紙書くから絶対読んでね」

オーディン:「おう、絶対返事書くから、楽しみにして待ってろ」

孤児たち:「僕も」「私も」


 子供たちそれぞれとの別れの挨拶を終え、ついにオーディンは子供たちと教会に背を向けて歩き出した。


 オーディンの歩く方向の先には、黒塗りの長い車――


藍色髪の少年:「オーディン兄ちゃん頑張って」


 少年の言葉に、オーディンは振り返ることなく手を挙げて応えた。


 この日、孤児だったオーディンはある貴族の家に引き取られることになった。




│─\│/─│




 オーディンを引き取ったのはこの国でも有数の名家――アースガルド家。


「遅刻ですぞ…………家中の時計が遅れていた。言い訳無用。罰として、腕立て伏せ三百回」


 現アースガルド家当主は、歴代アースガルド家当主の中でも頭一つ抜けて優秀な男で様々な事業を手掛ける実業家――数多くの会社を経営している仕事人間なのだが恋愛はおろか、仕事に関係のない人間関係には全く興味のない男だった。


「坊ちゃま、なんですかその言葉遣いは」


 そんな男が孤児であるオーディンを養子として迎え入れた理由はただ一つ――その方がどこぞの女と子供を作るより効率的だと思ったからである。


「この程度の問題にいつまで時間をかけているのですか」


 どこぞの家の女をもらって子を為すより、すでに生まれた孤児の中から才能のある子供を引き取って英才教育させた方が面倒な人間関係を作らず、高確率で優秀な跡取りを手に入れることが出来る。


「休憩時間はとっくに終わりましたよ。今から三時間ノンストップで特別講師によるお勉強です」


 アースガルド家に養子として迎え入れられたオーディンを待っていたのは、教会での子供たちとの地獄の永久機関(遊び)を遥かに超える、笑えない地獄の日々だった。


「由緒正しきアースガルド家の跡取りがこの程度でへばってどうしましょうか。明日は今日よりもさらにハードですぞ、覚悟しておきなされ」


 そんな日々をオーディンは一年耐え抜いた。教会の、みんなのために………………………………


 オーディンがアースガルド家にやってきてから一年以上が経過したある日、久々にオーディンは現アースガルド家当主、戸籍上はオーディンの父親にあたる男と食事を共にした。


アースガルド家当主:「来月はいよいよお前を社交界でお披露目する。分かってはいると思うが、アースガルド家の跡取りとして失敗は許されない。恥ずかしくないようにしておきなさい」

オーディン:「わかりましたお父様」


 唐突に告げられた、社交界への参加。


 それはつまり、オーディンをアースガルド家の次期当主として他の家に紹介するということ。


 オーディンは正式にアースガルド家の跡取りとして認められたのである。


アースガルド家執事:「ほほほ、いよいよ坊ちゃまも社交界デビューですか。月日が過ぎるのは早いですな」

オーディン:(よしっ)


 オーディンは内心でガッツポーズを取った。


オーディン:(これであいつらとまた会える)


 自身の目的であるアースガルド家の跡取りとして認められるまで、オーディンは教会の子供たちには絶対会わないと自身に制約を課していた。


 マザーや子供たちの顔を見てしまえば、自身の覚悟が揺らいでしまうかもしれなかったからだ。


 何度も心が折れそうになったオーディンだが、見事目的を達成した。


オーディン:「…………」

アースガルド家当主:「…………」


 オーディンがアースガルド家の次期当主として認められためでたい食事の席は厳かに、静粛な雰囲気のまま終わりを迎えた。


 屋敷のメイドが空になった皿を片づけ始める中、一人のメイドが執事にあるモノをそっと渡した。


アースガルド家執事:「おや――」

アースガルド家当主:「どうした」

アースガルド家執事:「…………」


 長年アースガルド家の執事を務める老爺(ろうや)は、ソレを丸めて近くに置いてあったゴミ箱に投げ捨てた。


アースガルド家執事:「いえ、なにも」


 それはオーディンのいた、教会の子供たちが書いた手紙だった…………




一か月後




 正式にオーディンがアースガルド家の次期当主として認められる、社交界デュー当日。オーディンの元へ一本の電話が入った。


 それは一年以上ぶりに聞く、育ての親――マザーからの連絡だった。


オーディン:「ウィルがいなくなった」


 教会の人間で唯一オーディンの事情を知るマザーは、邪魔にならないようオーディンに連絡をとることを避けていた。そんなマザーがオーディンに電話をしてきた。


 内容は、ウィル――オーディンに良くなついていた藍色髪の少年が教会から姿を消した。


マザー:「朝起きたら枕元に書き置きがあって」


 今朝起きたら突然ウィルの姿が消えており、いつもウィルが寝ている蒲団の枕元に『オーディン兄ちゃんに会いにいってくる』と書かれた紙が置いてあった。


マザー:「そちらにウィルは行っていませんか」

オーディン:「いや…………」


 ウィルが姿を消してからすでに十二時間以上。


 ウィルはオーディンがアースガルド家に引き取られたことは知っているが、アースガルド家がどこにあるのかは知らない。


オーディン:(ただ道に迷っている可能性もあるけど…………)


 マザーの話を聞き、オーディンはすぐに自分でウィルを探しに行こうとした。そこへ――


アースガルド家当主:「どこに行こうとしている」


 アースガルド家の現当主が現れた。


アースガルド家当主:「今日はお前の大事な社交界でのお披露目の日だぞ」

オーディン:「お父様、実は」


 オーディンはアースガルド家当主に事情を説明した。今日の社交界を欠席して、行方不明のウィルを探しに行くために。


アースガルド家当主:「そうか…………」

オーディン:「お父様、すみませんが僕は――」


 オーディンの話を聞き、アースガルド家当主は――


アースガルド家当主:「そんなことは警察に任せておけ」

オーディン:「えっ」


 オーディンに社交界への参加を優先させた。


アースガルド家当主:「お前にはお前の役目があるだろう」

オーディン:「でもウィルは僕の、大事な僕の家族なんです」


 オーディンの必死の訴えも、アースガルド家当主の耳に届くことはなかった。


アースガルド家当主:「忘れたのか、オーディン。お前を我がアースガルド家の養子として迎え入れる際に交わした約束を」

オーディン:「そ、それは」


 オーディンにはアースガルド家当主の意向に逆らえない理由があった。


 オーディンがアースガルド家に養子として引き取られる際に当主と交わした約束――オーディンがアースガルド家の養子である期間中、アースガルド家はオーディンがいた教会に毎月多額の寄付をする。しかし、オーディンがアースガルド家の次期当主としてふさわしくないと判断された時は即、養子縁組を解除。オーディンは元の教会に戻され、寄付も打ち切られる。


アースガルド家の当主:「この冬、教会の子供たちはようやく暖房器具で体を温めることができるようになったのだろ。我が家からの寄付が途絶えれば子供たちはまた極寒の冬で体を震わせることになるぞ」


 オーディンがいた教会の収入は国からの補助と善意の寄付のみ。どちらもわずかな金額でしかない。今、アースガルド家からの寄付が途絶えれば、教会の子供たちは再び極貧の生活に逆戻り。


アースガルド家の当主:「人探しは警察の仕事だ。お前はお前の役目を果たせ」


 子供たちの世話で毎日忙しいマザーにどこか余所に働きに出ていく時間的余裕も体力的余裕もない。内職を始めたとしても、まだ幼い子供たちが稼げる額などたかだかしれている。


 オーディンに選択の余地などなかった。


オーディン:「……………………わかりました」


 オーディンがどれだけ優秀な人間でも、所詮は子供。金も権力も社会的信用すらない子供が社会でできることは何も、ない


 後日、警察からマザーにある連絡が入った。貧困層の集まるスラム街で五歳ぐらいの少年が腹にナイフを刺されたまま捨てられていたと…………




│─\│/─│




オーディン:「…………貴様」


 マカミの放ったユウの神の御業――一撃確絶は絶対支配領域(パーフェクトルーム)中のオーディンの片目を切り裂き、発動すれば勝利確実、勝利を約束するといっても過言ではない最強の神の御業、絶対支配領域(パーフェクトルーム)を打ち破った。


オーディン:(…………ふざけるな、どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって)


 目の前で立ちふさがるマカミの他に、オーディンの脳裏に余計な茶々を入れてきたペルセウス、そのペルセウスを足止めしきれなかったトール、格下(アキ)相手にあわやというところまで追いつめられたロキの姿がよぎった。


 普段冷静沈着なオーディンが、珍しく感情を露に苛立っていた。


オーディン:「っ――」

マカミ:「――っ」


 オーディンはマカミに止めを刺すべく、マカミの目の前に瞬間転移(ワープ)した。


オーディン:「死ねっ」


 オーディンは先ほどよりもさらに速い、全力の突きを繰り出した。それを捌こうとマカミは感覚がほとんどなくなった手に力を込め、ユウの剣を再び振るった…………


オーディン:「なぜだ。なぜ、まだ倒れないんだ」

マカミ:「オーディン、お前…………」


 だが、マカミはオーディンの全力の突きを受けても倒れることはなかった。


オーディン:(一度俺の攻撃を受けて、読まれているのか)


 確かに、オーディンの攻撃を何度か受けてある程度オーディンの攻撃に慣れていたのはある。だが、それ以上にオーディンの攻撃があまりにも単調で真っすぐだったのが大きい。


 精彩を欠いた力に任せただけの連続突きだったおかげで、マカミは満身創痍の体でも何とか致命傷を避けやり過ごすことができた。


 オーディンは自分でも気づいていなかったのだが、ソロモンの石を使った副作用で普段よりも感情的になっていた。


オーディン:「くそ」


 業を煮やしたオーディンはグングニルの穂先にエネルギーを集中、再び光線を放とうとした。そこへマカミはユウの追想剣を模した黒い直剣を突き刺した。


 影と光、決して交わることのない二つが交わったことで集約させていた(エネルギー)が拒絶反応を起こし、その場で暴発した。


オーディン、マカミ:「ぐっ」


 二人は爆発の光に包み込まれ、互いに反対方向に吹き飛ばされた。


オーディン:「くっ」

マカミ:「…………」


 よろよろの体でも立ちあがるオーディンとかろうじて意識はあるが、体が限界を迎え立ち上がれないマカミ。


 オーディンは這う這うの体を引きずりながらマカミへ近づいていった。


オーディン:(どうしてこうなった)


 オーディンの脳裏に信正騎士団入隊後の記憶がフラッシュバックした。


オーディン:(人類を次の段階(ステージ)に昇華させる。そのために俺はすべてを捧げて――)


 オーディンの脳裏に、カラード、ラドン、サイト、アキ、シムルグの顔が浮かぶ。


オーディン:「止まるわけにはいかないんだ」

マカミ:「…………」


 覚悟を決め、マカミの目の前で神器を振り上げるオーディンの顔を見て、マカミは一言呟いた。


マカミ:「もうやめろ」


 マカミの言葉に、オーディンは振り下ろした神器を途中で止めた。


マカミ:「自分を痛めつけて悲しみを癒すのは」


 マカミは立ちあがった。


オーディン:「お前に何が分かる」

マカミ:「…………」


 立ちあがったマカミを見て、オーディンは声を震わせながら途中で止めた神器を再び構え直した。


オーディン:「お前に俺の、何がわかるっ」


 マカミに向かい、オーディンは槍を繰り出した。


マカミ:「わかるよ」


 それをマカミは神意を纏わせただけの左腕で受け止めた。


マカミ:「俺もお前と同じ気持ちだからな」


 マカミは残ったもう片方の腕で、オーディンの顔を殴り飛ばした。




│─/│\─│




 教会の近くに建てられた簡素な墓――亡くなったウィルを弔うための墓の前で子供たちは泣いていた。


子供たち:「ぐす、ぐす」


 その姿をオーディンは後ろで静かに見つめていた…………


 ウィルを誘拐したのはスラム街を根城にしている街のごろつきたち三人。普段は他の街でカツアゲや窃盗を繰り返しているのだが、あの日はたまたまアースガルド家の場所を人に尋ねて回るウィルと出会ってしまい、ウィルをアースガルド家の関係者の富裕層の子供と勘違いして身代金目的で誘拐したそうだ。


 結局、ウィルが富裕層どころか親にも見捨てられた孤児とわかると犯人たちは誘拐の事実を隠ぺいするために顔を見られたウィルを殺してスラム街のゴミ捨て場に捨てた。


 その後、たまたまその辺りを自分のテリトリーにしていたホームレスの通報でウィルの遺体は発見されることになった。


 マザーの通報を受けた警察は、ウィルが親のいないいなくなっても誰も騒ぎ立てない孤児ということでマザーから聞き取ったウィルの特徴を何枚も同じような紙が張られている署内の掲示板に貼り付けるだけで、本格的な捜査を何も行わなかった。


 いつまでたっても戻らないウィルを心配してマザーが警察署へ訴えに行っても、忙しい、時間がないと取り合ってくれなかった。


 ゴロツキたちの犯行が発覚したのは後日富裕層の屋敷で行った窃盗の件での、余罪追及で発覚したことである。


オーディン:「…………」

マザー:「オーディン…………」


 マザーはオーディンに何か言葉を掛けようとした。しかし、何と言葉を掛ければよいのかマザーには分からなかった。


 そうこうしている内にウィルのお墓の前で泣きじゃくる子供たちの中の一人が後ろに離れて立つオーディンの元へ赤くなった目をこすりながら歩いてきた。


亜麻色髪の少女:「オーディン兄ちゃんの嘘つきっ」

マザー:「ウェイン」


 ウェイン――ウィルと同じくらい、子供たちの中でも特にオーディンになついていた亜麻色髪の少女である。


 ウェインはオーディンに言葉の刃を投げつけた。


ウェイン:「どうしてお手紙書いたのにお返事してくれなかったの」

→アースガルド家の執事が勉強以外の事に目が行かないよう子供たちの手紙を秘密裏に握りつぶしていたから

ウェイン:「どうしてウィルがいなくなった時一緒に探してくれなかったの」

→アースガルド家からの教会への寄付を打ち切らせないため

ウェイン:「どうして………………どうして、ずっと会いに来てくれなかったの」

→………………………………


 ウェインの言葉をオーディンは全て無言で受け止めた。


 受け止めて――ただ受け止めただけだった。


オーディン:「ウェイン…………」

ウェイン:「オーディン兄ちゃんなんて大っ嫌い。もう二度とお顔見せないで」

子供たち:「…………」


 他の子供たちにもオーディンとウェインの会話は聞こえている。聞こえたうえでみんな、二人の間に入ってこないようにしている。


 はっきり口にはしないが、子供たちも概ねウェインと同じ意見なのだろうとオーディンは推考した。


オーディン:「わかったよ、ウェイン」


 オーディンはウェインの頭にそっと手を置いた。


オーディン:「僕はもうみんなの前に現れない」

ウェイン:「えっ」


 顔を見上げるウェインにオーディンは同じ目線になるよう膝を折ってしゃがんだ。


オーディン:「でもこれだけは知ってておいてほしい」


 どこか寂しげな顔で優しくウェインに笑いかけるオーディン。


『俺はずっとお前たち――家族の幸せを願っている』


 そう言ってオーディンはもう一度、ウェインの頭を撫でて立ちあがった。


ウェイン:「オーディン、兄ちゃん」


 そしてオーディンは子供たちに背を向け、歩き出した。


ウェイン:「まっ、まって――」


もうウェインの声がオーディンに届くことはない。


 オーディンは二度と振り返ることなく、この日を境に子供たちの前から姿を消した。


 アースガルド家に戻る途中、オーディンは頭の中で今回の事件がなぜ起きたのか、頭の中で事件を詳細(つぶさ)に分析していた。


・もしウィルが普通の家の子として生まれていれば

→俺なんかと関わらずに今も平凡で幸せな人生を送れていたかもしれない

・もし警察官が孤児の誘拐事件でもちゃんとした捜査をしてくれていれば

→ゴロツキたちに殺される前にウィルを見つけることが出来ていたかもしれない

・そもそも今回のごろつきたちのような――子供を誘拐して金を得ようとする下賤な者がこの世に誰一人もいなければ

→ウィルは殺されずに済んだ


オーディン:(この社会(世)は完璧ではない)


 法もまだまだ未熟。制度にも多くの穴がある。


オーディン:(完璧な人間などこの世にはいない)


 誰もが失敗し、過ちを犯す。そしてまた同じ過ちを他の誰かが繰り返し犯す。


オーディン:(だからこそ誰かがやらなければならない。完璧に限りなく近い存在――神に最も近い人類の中の誰かが、人類を新たな時代(ステージ)へと昇華させなければならない。さもなければ、また同じ悲劇が繰り返される)


 己が私利私欲を満たすために罪を犯した者には二度と罪を犯さそうと思わないような厳しい罰を、人を見た目や生まれで判断しないようすべての人類(者)に高等な教育を受けさせ、この世の全ての子供たちが飢えや寒空に震えないよう手厚い支援を受けさせる。


 そんな夢のような世界を実現させるためには、その世界に少しでも人類を近づけさせるには――すべてを意のままに動かせるほど圧倒的な力が必要である。


オーディン:(ウィルと同じ悲劇を繰り返さないため、あいつらが笑って生きられる世界にするためなら俺は――)


 すべてを失った自分だからこそ歩ける茨の道。


 これが後に神に最も近い神人類と言われるオーディン・アースガルドの原点である。




│─\│/─│




『もうやめろ。自分を痛めつけて悲しみを癒すのは』


 マカミに殴り飛ばされ、オーディンは地面に倒れ込んだ。一瞬、教会の子供たちとマザーの笑っている顔が浮かび、そして消えていった。


 忘れていた、思い出そうとしてもあの時の、悲しい、泣きじゃくる子供たちと今にも泣きだしてしまいそうなマザーの顔しか浮かばず、思い出すことが出来なかった、あの頃の、楽しかった頃の記憶。


オーディン:「……………………」


 久しぶりに思い出した、教会の子供たちと捨てられていた自分を拾ってくれたマザーの優しい笑顔と共にオーディンはしばし、深い闇の中へと沈んでいった…………




│─\│/─│




ペルセウス:「いやあ、まさかまさかの結末でしたね」

オーディン:「…………ペルセウス」


 倒れるオーディンの元に軽薄な笑みを浮かべながらペルセウスは現れた。


ペルセウス:「彼にはまだ釣り餌という役目がありましたからね。本来なら助けなければいけなかったのですが、あまりにもおもしろそうでしたので、つい…………ですがまさかあなたを打ち負かしてしまうとは」


 ペルセウスの登場にオーディンは顔をしかめた。


オーディン:「貴様と話すことは何もない。やるならとっとやれ」


 オーディンの言葉にペルセウスは子供のように無邪気に笑った。


ペルセウス:「ふふふ、さすがは最高幹部(ラウンズ)序列三位。素晴らしい覚悟です。それでは――」


 ペルセウスはオーディンの額に神器を挿し込んだ。




│─\│/─│




 マカミは一人、ふらつく足取りである場所に向かって歩き出した。


マカミ:「…………」


 マカミが辿り着いたのは、ある公園。ユウとマカミが初めて出会った思い出の場所。


 マカミは公園中央にある一本の桜の木に背中を預け、そして――


マカミ:「お前の勝ちだ」


 そっと瞼を閉じた………………………………………………………………



第二部は投稿予定日は――未定、です


第一部は書き終えるまで約一年かかったので、一年後ぐらいに第二部をまとめて投稿したいとは思っているのですが、黒よりの本業があり、中々時間が…………


他の事に浮気してるかもしれないので、時間はかかると思いますが長い目で待っていただけたらと思います。


とりまこの話はこれで完結ということで、

高評価、ブクマ、感想などで応援していただけると幸いです。

それでは次回まで、しばしのお別れを――



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