第二十四話 託された想い
信正騎士団極島支部――会議室。
オーディン:「…………」
オーディンは一人、行方をくらませたマカミに刺し損ねた止めを刺すため、極島にいる正騎士たちから目撃情報が上がるのを会議室にあるモニターを見ながら待っていた。
モニターに映し出される映像は信正騎士団が独自に、正騎士の任務遂行の手助けとなるため極島のあちこちに密かに仕掛けられた監視カメラの映像。
未だマカミの姿も目撃情報もオーディンの元には届けられていない。
オーディン:(最後の最後に、あの馬鹿のせいで作戦を修正する羽目になってしまった)
当初の計画では、信正騎士団と対立する裏組織を結成後、唯一自身と対抗できる信正騎士団、最高幹部序列二位アリサを排除すると共にアリサの失脚をエサに序列一位シムルグをおびき出し、シムルグを暗殺。そして、側近(自身の駒)であるロキとトールをオーディン自身の手で、シムルグ暗殺の真の主犯として始末することでオーディンは労せず、空いた信正騎士団のトップ、最高幹部序列一位の席に秩序と平和の象徴である信正騎士団のトップを殺めた大罪人を正義の名の下に屠った正義の体現者として座る。
人々はオーディンを、人類の未来を護った英雄として崇め奉るだろう。そうなればオーディンはこの世界の舵を手にしたも同じ。
シムルグの暗殺まではオーディンの計画通り進んでいた。マカミがユウに止めを刺せず、自身を裏切るであろうことも含めて。
天使優というオーディンでも完全には御しきれない変数を今回の戦場から遠ざけてくればそれで良かった。マカミはオーディンの目論見通り、ちゃんとその役目を果たしてくれていた。
唯一のオーディンの誤算は目の前にペルセウスが現れたこと。
オーディンは予め、今回の作戦に支障をきたしそうな要注意人物をリストアップしていた。天使優、ペルセウスもそのリストの中に入っていたのだが、監視していた要注意人物の動向が数日前から完全に掴めなくなってしまった。
元々、神出鬼没の厄介者。オーディンは今回の作戦にペルセウスが乱入してくるのではと事前に予期し、ペルセウスが現れそうな場所にトールを向かわせたのだが――
オーディン:(どうしてこうも他人という生き物はどいつもこいつも使えないやつらなんだ)
結局最後の詰めをする直前にペルセウスはオーディンの前に現れた。
オーディン:(トールなら足止めぐらいできると思っていたが、計算が甘かったか)
街の黒い獣――暴走したマカミが放たれた。
オーディン:(多少の痛手は覚悟で、止めを刺しておくべきだったが)
ペルセウスにドーピングアイテムであるソロモンの石を埋め込まれたマカミは目の前にいた、一番神意量の多いオーディンに向かって飛びかかった。
その時、オーディンには二つの選択肢があった。
マカミの攻撃を受けながら神器の光線でマカミの頭を撃ち抜く方法とマカミの攻撃をいなし、追撃されないよう威嚇射撃を行う方法。
オーディンは後者を選んだ。
オーディンはその選択をしたことを間違いだったのではと後悔しそうになったがすぐに首を横に振った。
オーディン:(いや、あの場にはペルセウスもいた。ペルセウスに俺と直接対峙する意思があったかどうかは定かではないが、下手にあいつの前で隙(背)を見せるのは得策ではない)
結局、オーディンはペルセウスとの戦いで消息不明となったトールではなく、ソロモンの石で暴走したマカミとロキを今回の主犯に仕立て上げることに作戦を変更した。
オーディン:(多少、筋道を変えることになったが、どのみちあいつは始末する予定だったんだ。結末は何も変わらない)
以前、オーディンはマカミとイエローモンキーの頭目、シャラクと繋がりがあるのではとマカミに示唆される状況で再会している。
生かしておく理由はどこにもない。
オーディン:(これだけ探しているのに尻尾一つつかめないとは。マカミの奴一体どこに身を隠しているんだ)
この第二次人類大戦を彷彿とさせる盛大な茶番が終わるまでにマカミの息の根を止めておくことは当初の予定通りなのだが、マカミの消息は未だもって不明のまま。
オーディン:(まさか、すでにどこか人目の付かない場所で野垂れ死んでいるのか)
ペルセウスにソロモンの石を埋め込まれる前、すでにマカミはオーディンより腹に深い傷を負っていた。ソロモンの石で増幅できるのは神意のみ。失った肉や臓器、血は戻らない。
だとするとオーディンは再びこの劇(茶番)の着地点(台本)を修正する必要が出てくる。
オーディン:(一度ロキに連絡するか)
当然だが、トールとロキは今回の作戦でオーディンが自分たちを切り捨てようとしていることは知らない。
ロキは今、オーディンの言いつけを守って、所定の位置で待機している。
下手に情報を与えて、自分が捨て駒にされようとしていることを知られれば面倒な事になると考えたオーディンはロキにマカミが暴走した件について詳細な情報を与えていなかった。しかし、街の正騎士たちにマカミの情報を集めさせてからすでに一時間が経過。その間、マカミの動向は一向に掴めず。これ以上何の情報も与えず待ちぼうけをさせればさすがに怪しむ。自身への疑念がある一定以上になる前にと、オーディンは通信機器に手を伸ばした。
オーディン:「っ――」
そこで、オーディンの目の前にモニターに灰色の髪をした男――マカミの姿が映し出された。
マカミは正面から堂々と信正騎士団極島支部に向かって歩いてきていた。
オーディンもまた通信機器、ではなく自身の神器を手に、会議室を後にした。
★★★
マカミ:「よお」
オーディン:(腹の傷が塞がっている)
腹に深い致命傷を負っていたはずのマカミだが、オーディンの目の前に現れたマカミに傷はなく、跡形もなく消失していた。
オーディン:「何をしに来た」
信正騎士団極島支部前、グリズリー・トムとシムルグそしてシムルグとオーディンが戦ったこの場所でマカミとオーディンは再び邂逅した。
マカミ:「何をしに、か」
オーディンの言葉に、マカミはふっと笑った。嘲笑というより自嘲の笑みで返すマカミにオーディンは眉間に皺を寄せた。
オーディン:「まさか話せば許してくれるなんて思ってないだろう」
マカミ:「許す、お前が、まさか」
オーディン:「お前、記憶が――」
一瞬、マカミの失われた記憶を戻ったのかと思ったが、違った。
マカミ:「話をしに来た」
マカミがここに来たのは、命乞いをするためでもオーディンの行いを非難するためでもない。マカミがここに来たのは目の前の男、オーディンを見定めるため。
マカミ:「お前の目的はなんだ」
オーディン:「目的…………」
マカミの言う目的というのが一体何に対して言っているのか、オーディンはしばらく考え込んだ後、今回起こった一連の事件――なぜシムルグたちを裏切ったのかを答えた。
オーディン:「今回のこの作戦の事について言ってるなら、俺が名実ともにこの信正騎士団のトップに立つためだ」
オーディンの真の目的、この世界の舵(実権)をその手中に収めること。
オーディン:「ここでお前を今回の事件の主犯として仕留めれば、俺は一躍英雄だ。世界全土がこの俺を世界の次期リーダーとして認める。そうすれば俺がこの世界を、人類皆を正しき方向へ導くとこが出来る」
マカミ:「正しい道」
オーディンが狙ったのは信正騎士団のトップの席だけではなかった。最高幹部序列一位の席はあくまでおまけでしかない。オーディンが本当にほしかったのは世界を動かす影響力。
英雄の座であった。
マカミ:「そのためにお前は今回の事件を起こし、多くの死傷者を出したのか」
マカミの言葉に、オーディンは静かに頷いた。
オーディン:「大事を為すためには必要な犠牲だ。仕方がない」
オーディンの言葉に嘘偽りはない。する必要もない。
マカミ:「…………」
オーディン:「何か変革をしようとして理不尽に奪われていった命を犠牲というならば、変化を恐れ何もしないままこの世の不条理にすり潰されていく命もまた同じ犠牲だろ」
少し前にグリーンベアのリーダー、グリズリー・トムも同じようなことを言っていた。
オーディンの言葉はある側面では正しい。
オーディン:「俺がこの世界の実権を握り、この世界を導けば、必ず人類の未来はよくなる。不条理に命を奪われていった者たちも、よりよい未来のためにその命を散らせたとなれば、あの世で報われることだろうよ」
マカミもオーディンの言葉は理解できる。だが――
マカミ:「お前の考えはわかった」
マカミは自身の影から一振りの剣を顕現させた。
マカミ:「やはりお前はあいつとは違う」
マカミがここに来た理由、それはオーディンの真意を知る事。もしオーディンの真意がユウと同じならば、マカミはオーディンに黙って始末されるつもりだった。
それがユウの願いを叶えることにもなると――だがやはり違った。
今聞いたオーディンの主張から読み取れるオーディンの理想とこれまで見てきた天使優という正騎士が目指していた理想は決して同じものではない。
同じ明るい未来を目指してる者であったとしても、オーディンの言う、明るい未来のためなら、どれだけ命が理不尽に散らされても構わないというその主張は、ユウの理想と相容れない。相容れていいモノではない。
マカミ:「俺はあいつのために、お前と戦う」
マカミはユウの理想(想い)を守るため、オーディンと戦う決意を固めた。




