第二十三話 残された骸
『ダーリンありがとう。大好きだよ』
マカミの腕の中、幸せそうな顔で深い眠りにつくユウ。彼女が目を覚ますことはもう、ない。
マカミ:「……………………」
今、マカミは温もりの残る彼女の体を抱きながらある場所に向かい歩いていた。
マカミに化神化した後の記憶はない。オーディンの神器――グングニルの光線により腹に大穴を開けられ、多量出血で意識を失いかける中、突如現れた謎の金髪男、ペルセウスに神器(金の鍵)――万能鍵を胸のちょうど中央部分に挿し込まれ、マカミは胸を文字通り開かれた。さらなる激痛に襲われ、マカミの意識はそこで途絶した。
再び意識を取り戻すと、ホテルで匿っているはずのユウが自身の腕の中で血まみれになりながら、二度と覚めない眠りについていた。
何がどうしてこうなったのか理解できないが、一つだけ確信していることがある。
ユウを殺したのはマカミだ
これからどうすればいいのかマカミには何もわからない。ユウの亡骸を前に呆然と立ち尽くすマカミの腕を見えない何かが引っ張った。マカミはユウを抱きしめたまま、自分を呼ぶナニモノかの元へ向かって歩き出した。
マカミ:「ここは…………」
不思議な何かに導かれマカミが辿り着いた先、そこは――マカミとユウが暮らしていた、二人の家だった。
マカミ:「…………開いている」
ヨハネの翼との決戦前日、睡眠薬で眠らせたユウを今と同じようにお姫様抱っこして家から連れ出した時、マカミは確かに鍵をかけて家から出た、はずだった。だが今、マカミとユウの家の鍵はかかっていなかった。
恐る恐る、扉を開けるマカミ。
扉の中はマカミがユウを連れ出した時のまま。一見すると何も変わっていないように見えた。マカミがユウと最後に会話をした場所、リビングの扉を開けるまでは。
スノウ:「っ――」
リビングに続く扉を開いたその先には、最後に見た時とは変わり果てた荒らされまくった部屋とその中央に立つスノウの姿だった。ユウとマカミが仲良く食事をとったり並んでソファに座りテレビを見ていた思い出のあるリビングは面影もなくなっていた。
マカミ「…………」
スノウ:「これは、その…………」
今は信正騎士団とヨハネの翼の全面戦争の真っ最中。この部屋はその余波を受けたのだろう。マカミはそう結論付けた。
マカミはもう心のそこからすべてがどうでもよくなってしまった。
マカミはユウの亡骸を無言でスノウに預け、部屋を見回した。
家具はもちろん、ユウがデートをしたときに思い出として買った物もすべて破壊された室内で、マカミは床に落ちた写真立てを拾い上げた。
そこに写っていたのは、この家を買って初めてこの家で撮ったユウとのマカミのツーショット写真。
ひびの入った写真立ての写真を見てマカミの脳裏に、ユウと最後にしたある約束を思い出した。
『これが終わったらデートしよう。ダーリンに私が守っているモノを見てもらいたいの』
マカミは落ちていた写真立てを元の、置いていた場所に戻した。
マカミ:「ユウを頼む」
そう言って、マカミは再び家を出た。
マカミ:「いってきます」
もうこの家(世界)にマカミにお帰りと言ってくれる者は誰もいない。




