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神人類  作者: maow
第一章 
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第二十話 終わりの幕が上がる時

 全身に致命傷といえる深いダメージを受けたアキだが、最期の力を振り絞り、ロキに一太刀を浴びせようと決死の突撃を敢行。あと一歩でアキの振り下ろした刀身がロキを捉える寸前、ヨハネの翼頭首にして信正騎士団、最高幹部(ラウンズ)序列三位――オーディン・アースガルドが横槍を入れた。


ロキ:「オーディン、様」


 神器で心臓を貫かれ、息絶えたアキの死骸を近くの瓦礫に投げ捨てると、オーディンは右手の甲でロキの頬を思いっきり引っ叩いた。


オーディン:「この程度の相手に後れを取って、俺の計画に支障をきたすな」

ロキ:「…………申し訳、ありません」


 オーディンは心底辟易したように息を吐き捨て、ロキを自身の視界から外した。


ロキ:「オーディン様、最高幹部(ラウンズ)一位は――」


 つい先ほどまで戦闘をしていたはずなのだが、今ロキの前にいるオーディンの服は汚れ一つ、ほつれ一つない下ろし立てと見間違えるほどキレイだった。


オーディン:「俺があいつにてこずる訳ないだろ。すでに始末は済ませた」


 オーディンは今回の作戦の目的の一つであり標的の一人である信正騎士団の最高幹部(ラウンズ)序列一位にして現信正騎士団のトップでもあるシムルグ暗殺のため、シャラクを失い有象無象の集団と化したイエローモンキーの残党たちを瞬殺(粛清)した後すぐに信正騎士団極島支部に引き返した。


 今、信正騎士団極島支部の前にはグリーンベアのボス、グリズリー・トムと信正騎士団の最高幹部(ラウンズ)序列一位、シムルグ・ウインドの遺体が無造作に転がされている。


オーディン:「トールと連絡がとれない。恐らく、ペルセウスの仕業だろう」


 オーディンは手元の通信機器に視線を落としたまま、一切ロキの方に視線を寄越さず、次の指示を出した。


オーディン:「計画は順調に進んでいるが少しペース早めるぞ。お前は予定通り、例の場所に向かって待機していろ」

ロキ:「かしこまりました」


 ロキはオーディンに言われた通りに自身の神託――形の神託で自身の姿をどこにでもいるような優しそうな黒髪の青年に変え、その場を後にした。


オーディン:「………………………………そろそろ出てきたらどうだ」


 ロキがその場から離れてからしばらくして、オーディンは周囲に幾つもある瓦礫の山の一つに向かって声を掛けた。


???:「よくわかったな」


 オーディンの視線の先、瓦礫の裏側からマカミが姿を現した。


オーディン:「答えは出たのか」

マカミ:「ああ」


 マカミとオーディンが顔を会わせるのはこれが初めてではない。最後に会ったのは、マカミがイエローモンキーの団長――東洋洒落(とうようしゃらく)を分身諸共、地面から隆起させた影の棘で串刺しにしたとき。


 その時マカミはオーディンからある提案を持ち掛けられていた。


マカミ:「これが答えだ」


 オーディンがマカミに持ち掛けた提案は、信正騎士団の正騎士――天使優(あまつかゆう)の暗殺。オーディンはマカミにユウの暗殺に成功すれば二度とマカミの目の前には現れず、危害も加えない。一生遊んで暮らせるほどの多額の報奨金を与えると約束した。


 マカミはオーディンの纏う神意から、オーディンが自身よりもはるかに格上の相手であることを察していた。


 マカミがユウと親密な間柄であることはさしものオーディンも知らなかったが、マカミの性格とその実力についてはよく知っていた。


 マカミがオーディンに投げ渡したのは、白い布切れ。背中から羽を生やした少女のエンブレムが刺繍された、布を見て、オーディンはすべてを悟った。


オーディン:「そうか――」


 オーディンがマカミに渡された信正騎士団の正騎士が着る制服の切れ端に視線を落としたと同時にマカミは自身の影を媒介に黒い直剣を顕現、オーディンに斬りかかろうとしたがそれよりも早くオーディンは顕現させていた神器――グングニルの先端をマカミに向けた。


 直後、神器(槍)の先から全てを消滅させる、白い光線が射出された。


マカミ:「っ――」


 オーディンは知っていた。記憶を失う前のマカミを。マカミが何の罪もない少女を殺せるような人間ではないことを。


オーディン:「やはり、お前には無理だったか」


 オーディンの光線によってマカミの剣は消失。すぐさまマカミは自身の右手に具現化させた影を纏わせた。


 前回会った際、オーディンの底知れぬ実力を本能で感じ取っていたマカミは真正面からオーディンと対峙するのではなく、不意を突きオーディンが真の実力を発揮する前に短気で決着をつけることを目論んだ。


 獣のような鉤爪で、オーディンの肉を引き裂こうと振るうマカミの右腕をオーディンは容易に躱し、アリサ同様、神器でマカミの胸を貫いた。


マカミ:「ぐっ――」

オーディン:「これで終わりだ」


 オーディンは再びグングニルの穂先より光線を発射。マカミの左胸に直径一メートル程度の大穴が開いた。




★★★




???:「ふにゃ」


 目を覚ますと、ユウは豪華な天井の下、ふかふかなベッドの上だった。


 ユウが寝かされていたのは極島一歴史のある最古のホテル――極島ホテル、その最上階。スイートルームの豪華なキングサイズのベッドでユウはちょうど丸一日、二十四時間ぐっすり熟睡していた。


???:「やっと、お目覚めのようね」


 ユウに声を掛けたのはベッドの隣で椅子に座りながらずっとユウの寝顔をつまらなそうな顔で眺めていた白髪の美女――マカミからスノウと呼ばれた少女。


ユウ:「君は――」


 状況が呑み込めないユウはとりあえずスノウに彼女の素性を聞き出そうとした――直後、外から大きな戦闘音がユウたちの耳へ届いた。




★★★




マカミ:「…………ぐっ」


 胸に大きな風穴を開けられ、血を流しながら倒れ伏すマカミ。そんなマカミをオーディンは憐れんだ目で見下ろしていた。


オーディン:「残念だが、これも人類が新たな時代(ステージ)に昇華するためだ。成仏してくれ」


 そう言ってオーディンはマカミの元から離れていった。


マカミ:「ま、まて」


 薄れていく意識の中、マカミは去り行くオーディンの背中に手を伸ばした。当然、マカミの手がオーディンに届くことはない。このままマカミは自身の影より深い闇の底へ落ちていく…………はずだった。


???:「どうやらぎりぎり間に合ったみたいですね」

オーディン、マカミ:「っ」


 いつの間にマカミの前に現れた金髪の男。つい先ほどまで極島タワーで少年――トールと激しい戦闘を繰り広げていた男である。


オーディン:「ペルセウス」


 オーディンにペルセウスと呼ばれた金髪の男は、何もない空間から自身の神器である金色の鍵を顕現させた。


ペルセウス:「ここで君に死んでもらうと少々こちらに不都合があるのでね」


 そう言うとペルセウスは神器の鍵をマカミの胸中央に挿し、九十度時計回りに神器(鍵)を回転させた。


マカミ:「ぐはっ」


 ペルセウスがカギを回した瞬間、マカミは腹と口から大量の出血をした。だが、ペルセウスは構わず、神器で開いたマカミの腹の中に、謎の赤い石を捻じ込んだ。


オーディン:「それは、ソロモンの石」


 オーディンがソロモンの石と呼んだのは、理性と引き換えに神意を増大させる謎の赤い石。それをマカミの体内に埋め込むと、ペルセウスは再び神器を今度は反時計回りに回転させ、マカミの腹を閉じた。


マカミ:「………………………………う、あ、ああああああああああああああああああああ」


 獣のような咆哮と共に、マカミの神意が跳ね上がっていく。同時に、マカミの影の色がより濃く深い漆黒に、面積も何十倍にも広がり具現化、マカミの体を呑み込んでしまった。


マカミ:「グァア…………」


 マカミを呑み込んだ影はそのまま巨大なスライムのように全身を蠢かし、やがて取り込んだ本体(マカミ)の抑えきれない衝動を具現化したように獰猛な黒い怪物へ自身の姿を変化させた。


 マカミは生まれて初めて完全な化神化を行った。


オーディン:「っ――」


 三者は同時に三様の行動をとった。


 力(神意)と引き換えに理性を失ったマカミは自身の本能に従い、この場で最も自身の脅威となる者に向け牙を剥いた。オーディンは自身の計画を進める上で最大の懸念点となるであろう障壁(イレギュラー)に向け槍の先端を向け、この場で唯一戦う理由のない部外者(招かれざる客)であるペルセウスは何もない空間に鍵を挿し、次元の隙間を開いた。


マカミ:「グラァアアアアアアアアアアアアアアアア」

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