第十九話 道化の狂宴(パレード)
???:「あー、あー」
アキ:「まるでゾンビだな」
海外のB級ホラーのように人気のない街を徘徊する留置所から抜け出した神人類たち。
アキ:(報告では街を破壊しながら支部に向かって侵攻してきているということだったが)
その様子は普通ではなかった。
今アキの目の前にいる神人類たちはまるで理性が完全に蒸発してしまったように意思を全く感じさせない烏合の衆へと成り下がっていた。報告にあったような街を破壊しながら極島支部へ侵攻している様子は見られず、全員仕事で疲れ切ったサラリーマンのように街中を這う這うの体で歩いていた。
正騎士A:「支部長」
状況を呑み込めないアキの元へ一人の正騎士が事態の報告をするためにやって来た。
正騎士A:「留置所から脱走した神人類たちはしばらくの間、極島支部に向かって街を破壊しながら暴れまわっていたのですが、突然事切れたように暴れるのをやめて、今支部長が見ているようにただ極島支部に向かって歩くだけのゾンビ集団となっています」
アキ:「こうなった原因は」
正騎士A:「わかりません」
目の前にいる生気を感じさせない神人類たちの姿にアキは心当たりがあった。
以前アキたちと対峙したブルーオルカ・ナンバーツー、鮫肌海次。彼は実力で圧倒的に劣るアキとサイカの二人に対抗するため謎の赤い石を口にした。そして、自身の理性を犠牲に神意を大幅に増加させアキをあと一歩のところまで追い込んだ。あの後、アキたちに取り押さえられたカイジは病院に搬送される途中で突然、その生命活動を低下させ、現在では病院のベッドで数々の機械に繋がれ寝たきりの状態となっている。
アキ:(これが必要な努力を省いた代償か)
目の前の光景はあの謎の赤い石を使ったことによる副作用だとアキは推測していた。その推測は見事に的中していた。
正騎士A:「どうしましょうか支部長」
アキ:「…………」
正騎士Aの問いにアキは沈黙した。
正騎士A:「状況が状況ですし、彼らは元々罪人です。切り伏せたとしてもお咎めはないかと」
アキ:「そう、だな(それが一番確実で安全な方法だが…………)」
先日の、溝口海溝のオフィスビル前でのある出来事がアキの脳裏をよぎった。
『命に重いも軽いも、大事も、大事じゃないもない。命は、命なんだよ。この世にたった一つしかない。誰にとっても大切な、かけがえのない――たったひとつしかないものなんだよ』
それがアキの決断を鈍らせた。
???:「シャァッ」
決断に迷うアキを暴走した神人類――手足が鳥のかぎづめ、全身が羽毛に覆われた鳥の怪物が襲い掛かった。
正騎士A:「アキさん、危ない」
???:「ガアアアアアアアアアアア」
立て続けに、正騎士Aの声をかき消すように獣の様な雄たけびがアキたちがいる場所から少し離れた場所で上がった。
アキ:「っ――」
間一髪、鳥の怪物の鉤爪攻撃を躱したアキが目にしたのは理性を失い、廃人になった神人類たちとその周りを取り囲む正騎士たちに襲いかかる、もう一人の暴走した神人類――全身の皮膚をレンガのように硬化させたもう一体の化物の姿だった。
アキはすぐさま正騎士Aに指示を出した。
アキ:「ここは私が引き受ける。お前は向こうで暴れている神人類を他の正騎士たちと一緒にどうにか取り押さえてくれ」
正騎士A:「かしこまりました」
アキの指示を受け、正騎士Aはその場から駆け出した。鳥の怪物に無防備な背中を晒す正騎士A。
凶暴な野生動物に偶然出くわした時、背中を見せその場から逃走するのは悪手中の悪手。目を離さず、徐々に後方へと後ずさるのが定石。理性を代償にして神意を増加させた神人類はまさに余りある力に溺れた野生動物そのものである。
鳥の怪物:「シャァァ」
アキ:「――させるか」
正騎士Aの無防備な背中に向かって繰り出された鳥の怪物の空中からの鉤爪攻撃をアキは自身の神器で防いだ。
鳥の怪物の正体はトンビの神託を受けた、元快楽殺人者の神人類。自分が殺した人間を上空の高い場所に、モズの早贄のように吊るして自身の犯罪を誇示することに快感を覚えていた、変態である。
信正騎士団に逮捕された当時は背中から翼を生やして、上空に高く飛ぶことしかできなかった――滑空もできずただ異次元の高さの垂直ジャンプができるだけの男だったのだが謎の赤い石の影響で神意量が跳ね上がったおかげで全身を鳥の怪物に化神化できるようになった。
アキ:「貴様の相手は私だ」
トンビの怪物:「…………」
化神化により空中を自由に動けるようになった脱走神人類はアキの周囲を悠然と滑空しながら、アキの様子を伺っていた。
それに対しアキはその場から一歩も動かず、自身の周囲を飛び回るトンビの怪物に全意識を集中させていた。
アキ:(勝負は一瞬――)
アキの直感通り、トンビの怪物は死角となるアキの背後から全力全速の攻撃を仕掛けてきた。
アキ:「っ」
トンビの怪物:「ギャッ」
トンビの化神化を果たして得た足の先の獰猛な鉤爪がアキを捉える寸前、アキは振り返りざまに自身の刀身が一メートルある刀の神器――新風を鞘から抜いた。
アキ:「構――」
最速にしてアキ唯一の神の御業――周囲の風を操り極限まで加速された神速の居合――構射太刀が繰り出される寸前、トンビの怪物は空中で急停止、ギリギリ新風の間合いの外で止まることに成功した。
トンビの怪物:「シャァ」
必殺の間合いから外れ、トンビの怪物は自身の勝利を確信し、獰猛に笑った。
アキの必殺の居合――構射太刀はその神速の速さゆえに途中で発動を止めることが出来ない。この一刀に全身全霊を注ぐ御業である。
アキ:「射太刀ッ」
アキが刀を振り抜いた瞬間、風の刃が発生。
トンビの怪物:「ギャッ――」
アキ必殺の居合は風の逃げ道がない室内で使えば局地的台風を発生させるが、開けた場所で使えば風の斬撃を飛ばすことが出来る。
トンビの怪物が自身の勝利を確信したのも束の間、ありとあらゆる物を切り裂く風の刃がトンビの怪物を一刀両断した。
アキ:「こっちは片付いたな。次は――」
正騎士B:「うわああああああああああああああ」
アキがトンビの怪物との死闘を終えた直後、少し離れた場所ではもう一人の意識を保ってはいるが理性を失った怪物――硬度の神託を受けた神人類が最後に立っていた極島支部の正騎士を殴り飛ばし、近くの壁に勢いよく激突させた。
殴り飛ばされた正騎士は首と頭をあり得ない角度に曲げ、二度と起き上がることはなかった。
その神人類と同じ、牢獄から脱走して廃人となってしまった神人類たちもすでに戦いの余波で全員物言わぬ残骸へと成り果てていた。
破壊の限りを尽くしてもなお腕を振り回し、暴力を振りまくその姿はまさに第二次人類大戦直後の極島を混迷へと陥れた悪しき神人類の姿そのものであった。
アキは、静かに歩き出した。
以前、謎の赤い石で自身を強化した鮫肌海次と戦闘した時のアキには迷いがあった。ユウには現実を見ろだの、優先する命の順位を間違えるななどと信正騎士団の支部長としてもっともらしいことを言いはしたが、本当はアキもそこまで割り切ることはできていなかった。
ユウが止めてくれた時、ほんの少しだけアキは心の片隅でホッとしていた。
アキ:(ユウ、すまない。やはり私は、お前のようにはなれないようだ)
あの時とは違う。
アキは明確な殺意(覚悟)を宿し、鞘に収めた神器の柄にそっと手を乗せ、近づいた。
アキ:「許せ。お前たちの無念は私が背負っていく」
悪しき神人類:「っ――」
破壊することに夢中で自身の強大化した力に溺れていた彼が目の前に立つアキの存在に気づいた時には、すでに全て終わっていた。
アキは、破壊を続ける神人類の目の前に立つと躊躇なく、鞘に収めた神器(刀)を力の限り振り抜いた。
アキ:「構射太刀」
音すら追い抜くアキの、渾身の居合は全身をレンガのように硬くした悪しき神人類の胴体を真っ二つにいとも容易く両断した。
信正騎士団極島支部から南西部で起きた脱走神人類たちによる暴動は、甚大な被害を出しながらも極島支部支部長、最高幹部序列十二位――高宮秋の活躍で無事鎮圧された………………………………
???:「アキさん」
しばらくその場で佇むアキによく知った声が掛けられた。
アキ:「フユキ」
振り返ると、極島の人々が身を寄せ合っている避難用村の防衛をしているはずのフユキが駆けつけてきた。
アキ:「どうしてお前がここに。お前には避難用村の防衛指揮を任せたはずだが」
フユキ:「アキさんが例の暴走した神人類と戦っているって聞いて、心配で、いてもたってもいられず――」
アキ:「…………そうか…………」
フユキは切羽詰まった様子で今しがた自分が来た方向を指さして走り出した。
フユキ:「アキさん。あっちにまだ一人脱走した神人類が」
アキ:「何っ」
フユキ:「こっちです」
フユキの後を追い、アキも走り出した。
極島支部とは反対側、道と呼べるかどうか怪しい細道を何度か通り抜けた先、アキたちは誰もいない大通りに出た。
アキ:「フユキ、どこに敵が――」
フユキ?:「…………」
アキの問にフユキは答えず。後ろにいるアキの方へフユキが振り返った瞬間、フユキ?は何もない空間から二丁の短銃――銃身が真っ白な短銃と真っ黒な短銃を顕現させ、銃身が白の短銃の銃口をアキへと向けた。
フユキ?がニヤッと笑い、白い短銃の引き金を引く刹那――アキも自身の神器を顕現させフユキ?の首目掛けて刀を鞘から引き抜いた。
フユキ?:「っ――」
間一髪、アキの居合切りを躱したフユキ?は追撃せず、アキから距離を取った。
???:「相棒相手でも一切容赦なし。さすがは冷徹な鉄仮面で有名な極島支部の支部長さんですね」
フユキの姿かたちをした???相手にアキはいつでも構射太刀(神の御業)を撃てるよう腰を低くして臨戦態勢をとった。
アキ:「フユキが護るべき避難民たちをほうって私の元へ来るわけないだろ。貴様、何者だ」
???:「きひひひひひひひひひひ」
気色の悪い笑い声を上げながら???は自身の神託――形の神託でフユキの姿へ変えていた自身の容姿を元に戻した。
アキ:「それがお前の正体か」
露になった???の正体。長い紫色の髪にトパーズ色の瞳。派手な黒色のドレスに身を包むのは、以前グリーンベアの兵士たちを使い、ユウを暗殺しようとした謎の女だった。
謎の女:「きひひひひひひひ、お初にお目にかかります。私はヨハネの翼頭首の直属の側近、ロキと申します。どうぞ、お見知りおきを」
ロキは品の良さを感じさせる所作でもって、恭しくアキに頭を下げた。
刀の鞘に手を置き、敵意むき出しに臨戦態勢をとるアキに対し、ロキは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の笑みでニッコリ、嫌味たっぷりに笑って見せた。
アキ:「貴様らの目的はなんだ」
ロキ:「目的、ですか…………」
アキの問いにロキはあごに人差し指を当て、しばらくの間考えるそぶりをした後に純粋無垢な幼子のような顔であっけらかんと言った。
ロキ:「さあ、なんでしょう。よくわかりません」
アキ:「なんだと」
ふざけているのか、と一瞬我を忘れて怒りに身を任せてしまいそうになったアキだが、違う。ロキは何一つ嘘などついていない。
ロキは本当にある人物の――ヨハネの翼頭首の言葉に従っているだけ…………
まだ出会って数分、素顔を知ってからは一分も経っていないが、そこらへんの外面だけの凡庸な主君に従う頭の軽い女には見えない。むしろロキは主君を欺き、利用し、骨の髄までしゃぶりつくす傾国の悪女のようにしたたかな女だと感じていた。
そんな女が訳も知らされずただ純朴に従う、ヨハネの翼頭首。
アキ:(それだけ、ヨハネの翼頭首は大物ということか)
ロキは再び、アキに向かって銃口を向けた。
パン、パン
思考を読んだかのように、アキの意識がロキではなくその背後にいるヨハネの翼頭首に向けられた一瞬の隙を突き、放たれた二つの銃弾。アキはそれらを間一髪、体を左右に動かして回避。すぐさま意識を目の前にいる女に戻した。
アキ:(敵の武器は古式の短銃二つ。弾の威力と速度はそれほどだが、二弾目を発砲する際、次弾争点する素振りが一切なかった。恐らく、奴の神器(銃)は連射可能なフルオート式――)
ロキの持つ二丁の神器(短銃)――ゲリ・フレキは周囲の空気を取り込み、銃内部で弾丸を生成する。そのため理論上は半永久的に連射が可能。
バン、バン、バン、バン
少しでもロキとの距離を縮めようと前に出るアキと連射しながら後方に跳び、アキとの距離を保ち続けるロキ。
拮抗していたが、徐々にアキがロキとの距離を縮めていった。
ロキ:(さすがですね、もう適応してきましたか)
あと一歩、踏み込むことができればロキがアキの刀(神器)の間合いに入るところで、ロキは不敵に笑った。
バァンッ
先ほどとは打って変わって重厚性の増した破裂音。
アキ:「っ――くっ」
同時に眼前へと迫る、威力も弾速も桁違いの銃弾。
アキはそれを何とか自身の神器で受け止め、軌道を逸らすことに成功したが同時に足もその場に止めさせられた。
ロキ:「きひひひ、惜しかったですわ」
いつの間にかロキの手には白いマスケット銃が握られていた。
アキ:(あれは、奴の新しい神器か)
ゲリ・フレキ――二丁の神器(銃)を束ね、顕現させたロキの新たな神器――ヨルムンガンド。
ロキは滑らかな手つきで、神器に次弾を装填した。
再びアキにヨルムンガンドの、銀の弾丸が牙をむこうとしていた。
アキ:(かわすのは無理だ、ならば――)
アキは必殺の一撃である神の御業を繰り出すため、居合の体勢をとった。
自動で弾が生成されるゲリ・フレキと違い、ヨルムンガンドに装填する弾はロキ自ら一発一発装填しなければならない。その分威力と弾速は比較にならないほどだが、ゲリ・フレキと違いヨルムンガンドは連射することができない。
足を止められたとはいえ、ロキはまだアキからそこまで離れてはいない。この一発さえ凌げれば、ロキが次の弾を装填するまでに近づいて、ロキの首を、命を絶つことが出来る。
アキ:(この一刀に全てを賭ける)
構射太刀さえ発動できれば、風の斬撃を飛ばし、迫る銃弾はおろか奥にいるロキにも致命に近いダメージを与えることができるが、神の御業はゲームなどの必殺技よろしく、発動するためにわずかだが神意を練るための時間を要する。
数秒、早い者では一秒ほどの時間ではあるが、絶えず銃弾迫る現状ではその一秒が命取りになる。
アキが居合の構えを取ったのはこれが一番馴染んでいるから――
アキ:「っ――」
バァンッ
ロキが引き金を引いてから刀を振り抜いたのでは間に合わない。ほぼ同時でもロキの弾が先にアキの体を貫く。アキが鞘に納めた刀を引き抜こうと動き始めたのは、ロキの引き金にかかった指が動き始めるほんの少し前だった。
ただの山勘。
だが、そのアキの直感は物の見事に的中していた。
アキ;(よし――)
神依で強化されたアキの動体視力が、アキの勝ちを告げていた。あともう少しでアキの抜き放った居合の一撃が空中をジャイロ回転して迫るロキの銃弾の側面を捉え、あらぬ方向に銃弾を弾き飛ばす。そして、ロキが次の弾を込める前に距離を詰め一太刀浴びせれば、アキの勝利である。
パチンッ
だが、アキの一太刀が迫り来る弾丸に届くよりも早くロキは指を弾いて、神の御業を解除した。
それは神器を顕現させている時だけ使える神の御業――弾丸錬成。あらゆる物質を素材にして銀の弾丸を生成する神の御業。本来は神器に込める弾を生成する業なのだが、この業はロキの意思一つで解除することができる。
御業が解除されれば当然、銀の弾丸は元となった物質に戻る。
力に呑まれ我を忘れて街を破壊して回った暴走神人類たちが残した破壊の爪痕――そこら中にある瓦礫の山を弾の素材に生成した銀の弾丸は、御業を解除すれば当然――
アキ:「――ぐあ」
アキの振り抜いた刀が、ロキの弾丸を捉える寸前、ロキは自身の神の御業を解除。弾は元のコンクリートやアスファルトの破片に戻り、アキの全身を貫いた。
アキ:「…………」
全身に開いた無数の穴から大量の血を流しながら立ち尽くすアキ。
ロキ:「…………」
それを見て、ロキは口元を緩ませた。
ロキ:「無事、作戦成功ですかね」
………………………………………………………………薄れていく意識の中で、これまでのアキの人生がエンドロールのように脳裏を駆け巡っていった。
総理大臣も輩出したことのある由緒正しき政治家の家系に生まれたアキは、政治家である父の跡を継ぐため、幼いころから寝る間も与えられず骨の髄まで人の上に立つための帝王学をみっちり叩き込まれた。おかげでアキは高校を卒業するまでの間、一度も挫折や敗北を味わったことがなかった。卒業後アキは進学を選ばず、信正騎士団に入団を選んだ。理由は、後に父の跡を継いで政治家になった時の経歴作り。神人類として他者より多くの神意量を保有していたアキは正騎士として才能があった。それに普通に大学に行ってそのまま大学院を卒業するよりも、信正騎士団で五年ほど正騎士として入団していたほうが社会的に得られる信用が高かったのだ。アキは見事、信正騎士団の入団試験をトップの成績で合格した。絵に描いたようなアキの負けなしのエリート人生はこれからも続くように思われた。ユウに出会うまでは…………
アキ:(ユウ…………)
初めて味わった、敗北と挫折。正騎士としての実力もさることながら、ユウの自分に正直で真っすぐな生き方は、アキが憧れ、夢見た生き方そのものだった。すべてのしがらみを捨て、彼女のように自由に、真っすぐに生きられたら…………アキは何度も思いを馳せては、一人で胸を躍らせ、無理だと何度も自分に言い聞かせた。結局アキは、一歩を踏み出す勇気がでなかった。アキはいつもユウのことをまぶしく見ていた。
アキ:「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
普段の凛としたアキから想像もつかない野蛮な咆哮。
ロキ:「っ――」
その場から離れようとしていたアキに背中を向けていたロキは、刀を振り上げ襲い掛かって来るアキに一瞬体を硬直、すぐさま神器をヨルムンガンドからゲリ・フレキに分解してアキに向かって連射した。
バン、バン、バン、バン
頭を狙って撃ったつもりだが、鬼気迫るアキの気迫にロキの照準がぶれた。
いくら体に銃弾を受けても、アキが止まることはない。
アキ:「おおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ついにアキが刀の間合いまで接近した。
ロキ:「しまっ――」
ロキにアキの攻撃を防ぐ方法はない。アキの血まみれの刀が振り下ろされる直前――
アキ:「がっ、はっ」
アキの胸を、金の槍が貫いた。
アキ:「お、お前は――」
振り返るとそこには、アリサに重傷を負わせた、今回の敵の大将。ヨハネの翼頭首がいた。
ヨハネの翼頭首:「こんな相手に何を手間取っている、ロキ」
ヨハネの翼頭首はアキの胸を貫くとそのまま物言わなくなったアキの体を近くの瓦礫の山に投げ捨てた。
高宮秋の意識はここで完全に、途切れた。
ロキ:「お、オーディン、様」
ロキの目の前にはヨハネの翼頭首――信正騎士団の最高幹部序列三位、オーディン・アースガルドの姿がそこにあった。
★★★
極島タワー、展望ラウンジ上部ではアリサを襲撃した刺客の少年――ロキと同じヨハネの翼頭首オーディン・アースガルドの右腕、トールと戦場と化した極島の地に突如現れた謎の金髪男の激しい戦闘が繰り広げられていた。
トール:「よっ」
自身を電子化する神の御業――電光石火でトールは金髪男の周囲を光の速度で動き回ってかく乱。死角から金髪男の頭目掛けて回し蹴りを繰り出した。
金髪男はそれを余裕の笑みで躱した。
すぐさまトールは蹴りの勢いを利用して地面に着地、金髪男の足を狙って神器を振るった。
トール:「あらよっ」
それを、金髪男は笑みを崩さず後方に跳んで躱した。
金髪男:「はやいですね」
トール:「これも避けるんだ」
高度七百メートルで行われる命懸けの戦い。一瞬の油断が即、死につながる極限の戦いの最中にも関わらず、二人は心の底から楽しそうに笑っていた。
金髪男:「中々楽しい余興でしたが、そろそろお暇させてもらわなければならないようです」
そう言いながら金髪男は自身の腕に巻いた見るからに高そうな時計を見た。
トール:「何言ってんの、楽しいのはこれからでしょ」
光の速度で、金髪男目掛けて突貫するトール。電子化したトールの姿は金髪男には光の点にしか見えず、瞬き一回した後にはすでに目の前で神器のハンマーを振りかぶって自身の頭を叩き潰そうとするトールの姿が目の前にあるだろうと想像して、金髪男は何もない空間から自身の神器――金色に輝く鍵を顕現させた。
金髪男:「残念ですが、君にはここで退場してもらいます」
金髪男は虚空より顕現させた自身の神器(鍵)を自身に突撃してくるトールに向かって突き出した。そして、鍵を横に回した…………




