第十八話 新旧対決
信正騎士団極島支部前で対峙する現・最高幹部序列一位シムルグと元・最高幹部序列六位グリズリー。二人を取り囲むように砂塵が巻き上がり、まるで勝負が決するまでどこにも逃げることを許さない闘技場のように二人の周囲を砂が高速で回転していた。
二人は砂の牢獄の中に囚われた。
シムルグ:「そんなことしなくても僕は逃げも隠れもしないよ」
信正騎士団で元・最高幹部のグリズリーの神託は当然、シムルグも知っている。
砂の神託。その名の通り、神意を纏わせた砂を自由に操ることが出来る。
二人を閉じ込めている砂の闘技場はグリズリーの操る砂で作られた、砂塵の楼閣。
グリズリー:「余計な邪魔をされぬためだ。それにこれは標的を閉じ込めておくだけの者ではない」
周囲を高速で回転している砂の一部が突然、槍の先端のような形に集積してシムルグの背後から襲い掛かって来た。
シムルグ:「っ」
完璧にシムルグの虚を突いたグリズリーの砂の矢じりはシムルグの胸を貫く寸前で跡形もなく塵と化した。
グリズリー:(あれが噂に聞くシムルグの神の御業か)
球形防風陣。神意を纏わせた風を自身の周囲で高速で回転させ、敵の攻撃を防ぐ、シムルグの鉄壁の神の御業。
シムルグが授かった神託はアキやフユキと同じ、風の神託。中でもシムルグは風の信託者の完成形と言われるほど、神意を操ることに長けた神人類である。
グリズリー:(いくらやってもこれではなしのつぶてだな)
遠距離攻撃は無意味と悟ったグリズリーは神器――砂の時計を顕現させた。きっちり三分で落ちる、砂がたっぷり詰まった神器(砂時計)をグリズリーは目の前の地面に置いた。
シムルグ:「っ、地面が」
神器(砂時計)の砂が落ち始めると同時に砂時計の周囲一帯の地面がカチカチのコンクリートから流動性の高い砂漠のサラサラな砂に変化した。
シムルグの神器――砂上の時計。砂時計の砂が落ちきる三分間の間、周囲のあらゆる神意を纏っていない物質、つまり生物以外の全てを砂に変える。時計の砂が完全に落ちきると砂に変わった物質は時が戻ったようにすべて元に戻る。
シムルグの球形防風陣(神の御業)で砂による遠距離攻撃が無意味な以上、グリズリーがとる選択はただ一つ。
地面が突然サラサラの乾いた砂に変わり、足を取られるシムルグ。シムルグが体勢を崩した隙を見逃さず、グリズリーは一気にシムルグの元へ接敵した。
グリズリー:「お前に初代の代わりは無理だ」
グリズリーは砂に変わった地面の砂を操り、砂の戦斧を瞬時に造形。シムルグに斬りかかった。
シムルグ:「そんなこと、君に言われなくても分かってるよ」
シムルグに向かってグリズリーが戦斧を振り下ろした瞬間、シムルグも自身の神器――双風剣を顕現。神器と神意を纏わせた砂で固めた武具では当然、強度に雲泥の差が現れる。
シムルグの神器とグリズリーの戦斧がぶつかった瞬間、グリズリーの砂の戦斧がたちまち砂となって崩れ落ちた。
シムルグ:「っ――」
グリズリーの砂を固めた戦斧が元のサラサラの砂に変わり、シムルグの神器が空を切る。シムルグの神器をやり過ごした瞬間、グリズリーは再び砂を固め再びバトルアックスを造形。無防備なシムルグの胴体を両断しようと真一文字に戦斧を薙いだ。
グリズリー:(終わりだ)
完全にシムルグの虚を突き、グリズリーが先手を取った。
グリズリーの戦斧がシムルグの胴体を捉える直前、シムルグの体が動いた。
グリズリー:「ぐあっっ」
シムルグの周囲の風を操り風の吹く方向へ自身の体を素早く動かさせる神の御業――風向移動によりシムルグはグリズリーよりも早く神器――双風剣でグリズリーの胴体を深々と切り裂いた。
シムルグ:「僕が初代の代わりになれないのは分かっているよ。僕はポラリスの遺志を受け継いでここにいるんだ」
新旧・最高幹部同士の戦いは現序列一位シムルグに軍配が上がった。
グリズリー:「遺志、か…………本当にそれはポラリスの遺志なのか」
シムルグ:「それは一体どういう」
シムルグの問いに答えることなく、グリズリーはここで事切れた。代わりにシムルグへ迫る一人の人間の足音が――
シムルグ:「君は――」
足音の正体はヨハネの翼頭首――???だった。信正騎士団極島支部前で信正騎士団の最高幹部序列一位とヨハネの翼頭首は組織のトップとして初めての邂逅を果たした。
★★★
極島で一番標高の高い建造物――極島タワー。その最上階に位置する展望デッキを足場に一人の男が全身を強風に晒しながら戦場と化した極島の街を見下ろしていた。
金髪の男:「始まって早々、いきりなりクライマックスといった感じですね」
あちらこちらから聞こえる戦闘の音とあちらこちらで立つ戦火の煙に目を輝かせる金髪の男。昨夜、極島遊園地に忽然と現れた金髪の男はヨハネの翼と全く関係がない。ある意味、トウヤたちより危険な男である。
???:「みーつけた」
そこへ現れた、金髪の男と同じくらい危ない危険人物――命と命を賭けた戦いが大好きな戦闘狂。アリスを襲撃した刺客の少年――アッシュブロンドの少年が金髪の男を、視覚の外から襲撃して来た。
金髪の男:「あなたは」
稲妻の速度で背後から接敵、空中で身を捻り刺客の少年が振りかぶった神器を金髪の男は余裕たっぷりに避けた。
刺客の少年:「まさか本当にこんなところにいるなんてね。びっくりしちゃったよ」
ヨハネの翼からの刺客であるアッシュブロンドの少年は、ヨハネの翼頭首直々の命令で、この要注意人物である金髪の男を仕留める、もしくは足止めするため極島タワー展望デッキ上へとやってきた。
金髪の男の居場所を特定、予測したのはヨハネの翼頭首その人である。
金髪の男:「…………」
刺客の少年:「…………」
どうしてこうなったのかは分からなくともこれからどうなるのかはなんとなく察せられる。二人は互いに目を爛々と輝かせながら獰猛に笑った。
高度七百メートル、極島タワー展望デッキ上空で狂人対狂人の戦いが人知れず、開戦された。




