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神人類  作者: maow
第一章 
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第十六話 動き出した歯車


│─/│\─│




 信正騎士団極島支部から南西の位置にある神人類専用の留置所。そこに白昼堂々とある人物が侵入を果たしていた。


留置所の警備担当の正騎士A:「な、お前は」


バンッ


 侵入者を見つけた途端、警備を任されていた一人の正騎士が侵入者に胸を撃たれ、射殺された。


???:「ふふ」


 ここは罪を犯した神人類を一時的に勾留しておくための場所。短い間とはいえ、相手は生物の枠組みを超えた存在。当然、監視には同じ神人類である正騎士が担当しているのだが、ヨハネの翼との全面対決に備え、こちらの警備と監視に割ける人員は少ない。決戦当日は他の者たち同様、避難用村(シェルター)に移動させる案もあったが、主力の大半を対ヨハネの翼に当てる都合上、何かの拍子に彼らが暴れ始めた場合どう対応するのかという問題が解決できず却下。結局、牢屋に入れたまま、最低限の人数の正騎士で監視することになった。


留置所の警備担当の正騎士B:「な、なんだ何か大きな音が聞こえたぞ」

留置所の警備担当の正騎士C:「こっちだ」

バンッ、バンッ


 緊急事態を示す警報がけたたましく建物全体に鳴り響くが、警報を聞きつけ駆けつけた正騎士たちはことごとく、侵入者の凶弾に倒れていった。


 留置所内を自由気ままに闊歩していた侵入者はついに目的の場所である神人類たちが閉じ込められた牢屋が並ぶ部屋へと辿り着いた。


牢屋に捕まっている神人類:「な、なんだてめぇ」


 捕まった神人類たちは当然、侵入者と面識はない。警報が鳴っているため不測の事態が起こっていることだけはわかるが、囚人たちが現在の状況に困惑する中、侵入者は懐の中から、カイジが持っていた物と同じ、ルビーのような赤い石を取り出すとガスマスクを装着して、手の中のソレを握りつぶした。


 やがて牢屋に捕まっていた神人類たちは以前のカイジと同様、理性と引き換えに神意量を増大させ、留置所を脱獄した……………………


 留置所を任されていた正騎士たちは全員侵入者と脱獄した神人類たちに殺された。ただ一人、アキたちに状況を知らせるため仲間たちの協力によってなんとか逃がされた一人を除いて。


街を見回りしていた正騎士D:「どうした、何があった」

留置所の警備担当の正騎士E:「やられた」


 連絡手段を探しながら歩き回っていると偶然街をパトロールしている正騎士と出くわした。


留置所の警備担当の正騎士E:「東洋洒落(とうようしゃらく)だ。あいつが捕まってた神人類たちを解放して暴動を起こさせやがった。このことを、支部長に…………」


 唯一逃げ果せることに成功した彼だが、逃げる途中に腹部に重傷を負っており、すでに長くはない体であった。正騎士としての最後の使命を果たし、彼は息を引き取った。


 彼の話を聞いた正騎士はすぐさまアキに今の情報を通達した…………


 理性を失い、手当たり次第に街を破壊しながら、極島支部へ向かう脱走した神人類たち。意思無き烏合の衆たちを見下ろしながら、シャラクの皮をかぶった???――以前グリーンベアの兵士たちを使ってユウ暗殺を試みた女(ヨハネの翼頭首の側近)は口元を綻ばせた。


???:「ふふ、さあ、楽しいパーティの始まりですわよ」




│─\│/─│




 信正騎士団極島支部前で対峙する現信正騎士団トップ、最高幹部(ラウンズ)序列一位シムルグ・ウインドと元信正騎士団の最高幹部(ラウンズ)序列六位グリズリー・トム。


グリズリー:「知ってはいたが、まさかお前が信正騎士団の総大将とはな」

シムルグ:「役者不足ということなら甘んじて受け入れるよ」

グリズリー:「いや――」


 グリズリーが信正騎士団に在籍していた頃、直接の接点はあまりなかった二人だが、互いの事はよく風の噂で聞いていた。


 実力だけならグリズリーが信正騎士団を去る頃、すでにシムルグは最高幹部(ラウンズ)上位陣に匹敵するほどの力を有していた。ゆえにシムルグが今、信正騎士団のトップになっていること自体はさほど驚くことではない。だが――


グリズリー:「まさかお前が二代目(シュラ)の意志を継ぐとはな」


 グリズリーはシムルグという人間には確固たる信念や権力への強い執着が一切ない、いわゆる才能にこそ恵まれたがそれ以外はどこにでもいるありふれた青年だと思っていた。


 そんな彼が、今後の人類の行く末を決定する重要な立場といっても過言ではない信正騎士団のトップの座に就いているとういのが過去のシムルグしか知らないグリズリーには意外だった。


シムルグ:「僕が継いだのは先代(ポラリス)の意志だよ」

グリズリー:「…………なるほど」


 シムルグの答えを聞き、グリズリーは得心した。


 アキが出動してから十分と少し。敵を制圧してからアキたちがシムルグの元へ戻ってくるのにはまだかなり時間がある。


 シムルグは気になっていたこと疑問をグリズリーに投げつけた。


シムルグ:「君こそ、どうして信正騎士団を辞めて、こんなテロリストの真似事みたいなことを」

グリズリー:「真似事、か…………お前にはそう見えているんだな」


 グリーンベア――グリズリー・トムが訴えていたのは戦場で戦った兵士たちの権利回復。具体的には戦場へ赴いた兵士たち全員、戦場で散った者に関してはその家族への高い報償金。兵士たちがすぐに社会復帰できるよう国からの手厚い支援。戦場で負った肉体的、精神的傷を癒すための治療費の無料化。そして戦場に赴いた兵士全員の名前を刻んだ石碑を国の重要な場所に建設すること。


グリズリー:「俺たちは本気だ」


 信正騎士団を辞める以前、最高幹部(ラウンズ)序列六位の席に着いていた頃、グリズリーは世界中を駆け回っていた。世界中を巻き込んだ大きな大戦、第二次人類大戦が終わり、世界は平和を取り戻した。だが、大戦の傷痕は確かに残ったまま。


 信正騎士団の正騎士たちはその傷跡が少しでも早く癒えるように、これ以上傷が広がらないように各地を駆けずり回っていた。


 グリズリーが回っていたのは、特に大戦で大きな被害を受けた地域ばかりだった。


グリズリー:「俺は世界中を回って、この世の不条理を見た」


 ある者はやっとの思いで帰って来た故郷の者たちに人殺しと罵られ、毎日石を投げられる生活。ある者は務めていた会社を一方的に解雇させられ、再就職もできずその日の食べる物にすら困る生活。ある者は戦場での日々がトラウマになり、毎日ありもしない幻にうなされながら自宅に引きこもる生活…………


グリズリー:「お国のため、ソコで暮らす民のため、命がけで戦った兵士たちが、なぜ護ろうとしたモノたちに虐げられなくてはいけない」


 命がけで戦ってきたはずの兵士たちが置かれている凄惨な現状を、感情をのせ訴えるグリズリーの姿にシムルグは少し驚いた。


 シムルグがイメージしていたグリズリーという男はいつも冷静沈着でその場その場に応じて的確な指示を出す、まさに冷血な司令官だった。


 今、目の前にいる男と人伝(ひとづて)に聞いていたグリズリー・トムという男の人物像があまりに違っていた。とても同一人物と思えなかった。


シムルグ:「そういう理不尽が世界中で蔓延しているのは知っている。信正騎士団も解消に向け各方面に働きかけてはいるが――」

グリズリー:「結果が伴わなければ意味などない」


 グリズリーの言葉にシムルグも同意を示した。


シムルグ:「その通りだ。いくら頑張ったところで、結果が伴わなければただの自己満足でしかない……だがそれは、結果に辿り着くまでの過程を軽んじていいことにはならない」


 シムルグの言葉にグリズリーは初めて明確な敵意を瞳に宿した。それは裏を返せばグリズリー自身も以前はシムルグと同じ考えであったことを意味している。


 グリーンベアという組織は確かに元軍人や自衛隊、民間の軍事組織に所属していた者で構成されているが、結成当初は決して武力で訴えるような過激派組織ではなかった。プラカードを掲げたデモや人が集まる場所での演説、兵士の権利回復を求める署名集めなど、法と規範を遵守し平和的に自分たちの主張を訴える組織だった。


 だが、いくら訴えても人々は聞く耳を持たず、どれだけ働きかけても政治機関は一向に動こうとはしない、何事もなかったように時間だけが流れていく…………日に日に積み上がっていく同士たちの無念の残滓がグリズリーの心を軋ませていった。


グリズリー:「そんなことはわかっている。だが過程にこだわり過ぎて、一体何人の兵士が無念の内に死んでいったと思っている。間違っていようが、望む結果を少しでも早く実現できるならば、俺は――過ちを選ぶ。」


 グリズリーの目にはたとえ自分の命を賭してでも責務を果たす、紛れもない真の戦士の覚悟が宿っていた。


 グリズリーの覚悟はシムルグにはっきりと伝わった。だからこそ、シムルグはグリズリーに聞いておかなければならなかった。ソノ覚悟を、信念を貫くことに迷いはないかと――たとえ、その答えがわかりきったものだとしても…………


シムルグ:「その果てに大量の犠牲が生まれることになったとしても」


 シムルグの言葉に、グリズリーは動揺することなく応えた。


グリズリー:「行動を起こした結果、理不尽な目に遭ってしまった者たちを犠牲者と呼び、何もせずこれからも理不尽な目に遭い続ける者たちを犠牲者と呼ばないのは、それもまた理不尽なことではないか」


 これ以上の対話は無意味であると二人は理解した。


シムルグ:「平行線だね」

グリズリー:「そうだな」


 両者は互いに譲れない想いを胸に、激突した。


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