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神人類  作者: maow
第一章 
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第十五話 終焉を告げる足音――開戦

アキ:「…………静かですね」

シムルグ:「静かだね」

エンペラー:「ふわぁ」


 シムルグが会見で予告したヨハネの翼との全面対決当日――日付が変わって九時間が経過。未だ極島の街は静寂に包まれていた。


オーディン:「嵐の前の静けさ、ですかね」

アキ:「今のところ見回りしている正騎士たちから特に変わった報告はありません」


 アキたちがいるのは極島支部内にある会議室。ここに今、信正騎士団の最高幹部であるラウンズの序列一位、三位、五位、六位が集まっている。アキが選抜した極島支部の精鋭正騎士たちは現在、街中を、目を光らせながら巡回(パトロール)している。異変があればすぐアキたちがいる会議室の緊急用通信機器に連絡、最高幹部(ラウンズ)の誰かが現場へ向かう手筈となっている。


エンペラー:「それにしてもよく敵さんたちは今の今までシムの言う事守って信正騎士団(うちら)に攻撃してこなかったよね」

アボット:「ほっほっ、確かにそうですな。私なら敵の大将の言うことなど無視して、準備が整い次第一気呵成に攻め込みますがな」


 エンペラーたちの言う通り、シムルグがヨハネの翼に対して行った宣戦布告は一方的なもので、彼らにとっては寝耳に水の話。守る道理も義務も一切ない。敵(ヨハネの翼)サイドからすればコレを逆手にとって信正騎士団(相手)を出し抜くのが定石のように思えるが――ここまでの段取りを中心となって考えたオーディンには確信があった。


オーディン:「アキさんから受けた彼ら――ヨハネの翼に関する報告から推察するに、彼らの戦力は信正騎士団には遠く及びません」

エンペラー:「でもそれでうちの二番手(アリサちゃん)はやられちゃったんでしょ」

オーディン:「はい。しかし、それは敵が我らを超えるほど強大であることを示しているのではなく、敵の中に数人、最高幹部(ラウンズ)に匹敵するほどの手練れがいるというだけの話なんです」

エンペラー:「だけって、あんた」

アボット:「つまり、敵全体として見れば大したことないが、敵一人一人をつぶさに見れば我らが頭首の首に爪を突きたてる猛者がわずかなれど、一人二人いるということですな」


 アキを含め、大半の人間は対ヨハネの翼において最も警戒しなければならないのは交わるはずのなかった四つの裏組織を束ねたことによる人間(敵)の集中――物量にあると思い込んでいた。


 だがシムルグの右腕――参謀オーディンの考えは違った。対ヨハネの翼において最も警戒せねばならないのはその数ではなく個々の人の質。敵の中には最高幹部(ラウンズ)とまともに勝負できるほどの怪物がごくわずかだがいる。ヨハネの翼はその怪物どもを隠すためのただの(カモフラージュ)でしかない、というのがオーディンの導き出した答えだった。


オーディン:「組織力で劣る彼らが僕たちに勝つにはその数人の手練れたちをこちらの主力、つまり最高幹部(僕たち)に上手く当てる必要があるんです」

エンペラー:「それ、自分で言うんだ」

アボット:「ほっほっ」

シムルグ、アキ:「…………(苦笑)」

オーディン:「おっほん」


 何とも言えない雰囲気になってしまった会議室の空気をオーディンは無理やり咳払いで脇に退かし、話を元に戻した。


オーディン:「そのために必要なのが緻密な作戦と念密な準備です」


 ここでオーディンはわざと間を空け、会議室にいる全員に考える時間を与えた。答えはすでに提示した。後は今までの話をどう結びつけるかだけだ……………………オーディンの意図を察し、全員が思考を巡らせる中、アボットがいち早く答えに辿り着いた。


アボット:「それが三日だった、ということですね」

オーディン:「そういうことです」

アキ:「…………あの会見での開戦宣告」


 遅れてアキたちもその答えに辿り着いた。


アキ:「わざわざ敵に三日の猶予を与えたのはあえて敵が我々に対抗できるようにするための時間を与えるためだったんですね。敵が散り散りになって国外へ逃亡したり、自暴自棄になって暴れ出したりしないように」


 アキの言葉にオーディンは口元をふっと緩ませ、応えた。


 通常の敵であれば時間など与えず、一気呵成に攻め滅ぼしてしまうのが上策。だが、今回の敵は実体の掴めていない裏組織の連合。下手に刺激してしまえば何をしでかすかわからない上、組織の全容は今もなおあやふやなまま。


 もしアキたちが本気でヨハネの翼を根本から壊滅させようと思うなら敵自ら全軍で攻撃を仕掛けてもらう必要があった。


 シムルグはいわば敵を釣るためのエサ。普段なら遠い異国の地で厳重な警備体制で護られている敵の大将――信正騎士団の序列一位が手の届く場所にやってきている。その大将を討つための作戦も準備をする時間も十全にあるのだとしたら、この戦い……乗らざるを得ない。敵(ヨハネの翼)サイドから見れば、信正騎士団を潰す千載一遇のチャンス。たとえそれがどんなに怪しくとも飛びついてしまうのが人間の性である。


 さらにもう一つ、オーディンが開戦までに猶予を与えたのには理由があった。


オーディン:「それだけあれば余裕をもって極島にいる人たちを近くの避難用村(シェルター)に避難させられますしね」


 オーディンは敵組織を釣るために必要な時間と極島の住民たちを避難用村(シェルター)に避難させるための時間、その両方を考慮して三日という最短日数(最適解)を導き出したのである。


アキ:「そこまで考えて…………」

アボット:「ほっほっ、さすがは我らの参謀様といったところですかな」

アキ:(これがシムルグを信正騎士団三代目頭首にした男の手腕か……)


 ただ一つオーディンのこの作戦には欠点がある。それは――


ピロロロロロロロロロロロ


 突然街をパトロールしていた正騎士たちからアキたちのいる会議室へ緊急の連絡が入った。


街を見回りしていた正騎士A:「支部長、大変です。北東一キロメートルの地点でグリーンベアの兵たちが極島支部へ向け、隊列を為して進軍しています」

街を見回りしていた正騎士B:「こちら北西八百メートルの地点ではレッドバイソンと思しき集団が極東支部に向け一心不乱に暴走行為を始めました。集団としての統一性はありませんが、異常な進行スピードです。このままだと一時間も経たずにそちらへ到達すると思われます」

アキ:「敵の二つの組織が同時に――」

シムルグ:「ついに始まったようだね」


 敵は万全の準備をした状態で自分たちに攻め込んでくるということである。


アボット:「はてさて、ではこのままここに居るのも退屈ですし、そろそろ外の空気でも吸いに行かせていただきましょうか。行きますよ、エンペラーさん」

エンペラー:「ええ、私もぉ」

シムルグ:「頼んだ、二人とも」


 二人は特にシムルグからの指示も受けず、自分の判断で出動した。


ピロロロロロロ


 再び街をパトロールしていた正騎士たちから緊急の連絡。


街を見回りしていた正騎士C:「南東方向から三百メートル地点、イエローモンキーと見られる集団を発見」

アキ:「イエローモンキー…………」


 応戦に向かおうとしたアキよりも早く、オーディンが椅子から立ちあがり、名乗りを上げた。


オーディン:「ここは僕が行きましょう」

アキ:「し、しかし」

オーディン:「アキさんはこの極島支部の支部長。いわば現場監督のようなものです。現場監督がいなくなれば、現場の指揮系統が乱れます。ここは僕が行くのが適任です」


 オーディンの説明にシムルグは深く頷いた。


シムルグ:「頼む」


 これで残ったのは信正騎士団の総大将であるシムルグとこの支部の支部長であるアキのみ。


アキ:「この状況――」


 先日起きたアリサ襲撃事件。フユキから聞いた自分たちが溝口海溝のビルに突入した後に起きた事件の一連の流れがアキの頭の中でフラッシュバックした。


アキ:(似ている)


 あの時も、ヨハネの翼はいきなり標的であるアリサを狙わずに、まず周囲の正騎士たちを減らしてから刺客をアリサたちの元へ向かわせた。


アキ:(もし今回も敵が同じ手を使ってくるのだとしたら)


ピロロロロロロ


アキ:「来たか――」


 今日三度目の緊急連絡。


街を見回りしていた正騎士D:「支部長大変です」

アキ:「どうした」


 アキは街を見回りしていた正騎士からの連絡に応じると同時にいつどこからでも敵の刺客が責めてきてもいいように、自身の神器――刀身が一メートルある長い刀――新風を顕現させた。


街を見回りしていた正騎士D:「たった今、極島支部南西にある神人類専用の留置所で暴動が起きたと連絡があり、捕らえていた神人類たちの一部が脱走して街を破壊しながら支部の方に向かっているそうです」

アキ:「なん、だとっ」


 神人類を収容するための刑務所は別に存在する。信正騎士団極島支部南西部にあるのは一時的に神人類の犯罪者を収容しておくための留置所。通常の犯罪者とは異なり、神意を多少でも操れる神人類ならただの鉄格子など容易に破壊して抜けることが出来る。そのため、その留置所には神人類でも破壊できない特殊な加工を施した牢屋が配備されているのだが…………


アキ:(よりにもよってこのタイミングで)


 中からは決して破壊することが出来ない牢屋の中にいる神人類たちが脱走した。それが意味することはつまり――


アキ:「まさかっ」

シムルグ:「敵の、奥の手だろうね」


 外から何者かが留置所を襲撃し、牢屋の中にいた犯罪者たちを野に放った。そして、その何者かは現在の状況から鑑みるに、ヨハネの翼の関係者とみてまず間違いない。


シムルグ:「アキ、僕の方は構わないから、行ってくれ」

アキ:「し、しかし――」

街を見回りしていた正騎士D:「留置所で看守をしていた正騎士の話によると暴動を起こした神人類たちは皆、神意が急激には増長し代わりに理性を失ったように手当たり次第に暴れ始めたと」

アキ:「っ――」


 アキの脳裏にブルーオルカ・ナンバーツー、鮫肌海次(さめはだかいじ)の顔が浮かんだ。先日アキたちと対峙したカイジは赤い宝石のような何かを口に含み、自身の強化を放った。通常では起こり得ない神意量の爆発的増加という奇跡(ドーピング)に近い強化を果たしたカイジだったがその代償にカイジは理性を失い、アキたちに敗れた今、意識を失ったまま病院のベットで長い眠りについている。


 もし、カイジの時と同じような事例が留置所にいた多くの犯罪者(神人類)たちの身にも起こっているのだとしたら、このまま放置しておくわけにはいかない。


 だが、これはあからさまな罠である。


 最高幹部(ラウンズ)を離れ離れにさせるための。


アキ:(いま私がここを離れてしまったら、シムが――)

シムルグ:「アキ、これは信正騎士団トップとしての命令として聞いてほしい。行きなさい」

アキ:「…………かしこまりました」


 迷うアキの背中をシムルグは押し、送り出した。留置所から脱走した神人類たちの元へアキは向かかうため、アキも会議室を後にした……………………アキが会議室を出てしばらくして、シムルグはおもむろに待機場所である会議室を出るとそのまま極島支部建物外に出た。


シムルグ:「待っていたよ」


 誰もいなくなった信正騎士団極島支部の前に立つ一人の人物。その人物を見てほんの一瞬だがシムルグの周囲を懐かしい風が吹いた。


シムルグ:「久しぶりだね。やっぱり僕の元に来るのは君だったか。トム」


 シムルグの命を狙ってやってきたヨハネの翼の刺客――グリーンベアの総隊長、グリズリー・トム。彼はシムルグが最高幹部(ラウンズ)の序列一位になる前まで最高幹部(ラウンズ)の序列六位の席に座っていた――元信正騎士団の正騎士である。

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