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神人類  作者: maow
第一章 
14/38

第十四話 開戦前日

サイカside


 信正騎士団トップ、最高幹部(ラウンズ)序列一位――シムルグ・ウインドによる緊急会見が極島全土に放送されて、二日後…………シムルグが宣言したヨハネの翼との開戦の日を翌日に控え、サイカは街の様子を一人見て回っていた。


サイカ:(なんか突然よく似た別の世界に飛ばされたみたいね)


 ユウとサイカは明日のヨハネの翼との決戦に備え、今日はアキより休暇――ではなく体を休める任務を与えられた。


 最悪の場合、明日が二人の人生最期の日になるかもしれない。悔いのないよう今日を過ごしてほしいというアキの優しさであった。


 ユウは今日一日、愛しのダーリンとお(うち)デートをして過ごすと言っていた。サイカも最初は家でのんびりだらだらと過ごしていたのだが、一人でいるとどうしても気になることがあり、心が休まらなかった。気分転換にと外へ出たサイカが見たのは人の姿が一切消えた見慣れた街の淋しい風景だった。


サイカ:(せっかくの休みだってのに人っ子一人いないわね。まあ、当然だけど)


 シムルグがヨハネの翼に大々的な宣戦布告をしてすぐに、極島全域に緊急避難命令が発令された。正騎士を除く、ほぼすべての人間が昨日の内に都心部から近くの避難用村(シェルター)へ避難を済ませ、今この辺りにいるのはサイカたち信正騎士団の正騎士とその関係者、もしくはヨハネの翼構成組織のように大手を振って日の下を歩けない訳ありの日陰者たちだけである。


サイカ:「以外と壊されてないわね」


 当てもなく歩いていたサイカがふらっとやって来たのは、信正騎士団とレッドバイソンが衝突したオフィス街の一角。突如奇襲を仕掛けてきたレッドバイソンの目的は力づくで信正騎士団の正騎士たちを潰すことではなく、少しでも標的であるアリサたちの元から正騎士の数を減らし、アリサたちを孤立させることだった。


 後からやってくる本命(刺客)の邪魔をさせないための露払い。


サイカ:(らしくないことしちゃって)


 同時に別方向から襲撃してきたグリーンベア、イエローモンキーは付かず離れずといった露骨なまでの足止め戦法をしてきたと、すべてが終わった後に現場に居合わせた正騎士たちがアキに報告をしていた。


 トウヤが(ヘッド)を務めるレッドバイソンはグリーンベアたちと違い、終始攻めの姿勢を貫いた。本気で正騎士たちをなぎ倒し、アリサたちの元までたどり着く勢いだった。途中、中々戦況が動かず業を煮やしたトウヤが代表同士の真剣勝負(タイマン)を提案。フユキとトウヤが小細工なしの殴り合いをすることになった。決着が着く前にアリサがやられてしまい、二人の勝負は引き分け。意気込みとは裏腹にレッドバイソンとぶつかった現場が一番、被害が少ない結果となった。


サイカ:(あの馬鹿)

???:「あれ、サイカさんじゃないですか」


 進入禁止を示す黄色いテープを前に佇むサイカを見かけ、???は声を掛けた。


サイカ:「フユキ」

フユキ:「どうしたんですか。サイカさんは今日休みのはずですよね」

サイカ:「そう、なんだけど。家にいてもあんまり落ち着かなくてね」

フユキ:「そう、ですか……そう、ですよね」


 明日のヨハネの翼との決戦、信正騎士団のトップ――シムルグの指示でアキは決戦に参加させる正騎士を少数選抜した。その精鋭部隊にユウとサイカは選ばれた。


フユキ:「僕は明日、街の皆さんが避難している避難用村(シェルター)の護衛任務です…………」


 フユキは明日のヨハネの翼殲滅チームに選ばれなかった。フユキが任命されたのは避難民のいる避難用村(シェルター)の防衛、その現場指揮である。


サイカ:「何落ち込んでるのよ。防衛だって立派な正騎士の任務でしょ。アキもあんただから(シェルター)現場指揮者(げんばリーダー)に任命したんでしょうし。この前みたいに敵が避難用村(シェルター)を襲撃して避難している人たちを人質にするかもしれないんだから、シャッキとしなさい」

フユキ:「それはそうですけど。僕もアキさんたちみたいに戦場の最前線で」

サイカ:「何バカなこと言ってんのよ。最悪、私達全員死んじゃう可能性だってあるのよ。その時、アキのいなくなった極島支部を誰が立て直すのよ」

フユキ:「わかってますよ。アキさんが最悪の場合も考えて僕を避難村(シェルター)の現場指揮を任せたことぐらい。でも…………」


 アキの配役意図はフユキも重々理解している。正直、非の打ち所がないほど堅い人選だと思った。でも、人の心はそう簡単に割り切れるものではない。


フユキ:「わかってたはずなんですけど、やっぱり僕って無力なんですね」

サイカ:「人生で一度もそう思ったことない人なんて、一人もいないわよ」


 サイカの脳裏に以前夜道で偶然再会したトウヤの顔が思い浮かんだ。


サイカ:「…………」

フユキ:「…………」


 気まずい時間が二人の間に流れたが、やがて――


サイカ:「だぁああああああああ、あれこれ考えたって仕方ないわ。フユキ、飲み行くわよ、飲みに」


 サイカは酒を飲むため、フユキの襟首を力強く本気で掴んだ。


フユキ:「え、ちょ、待っ、僕まだ仕事中――ていうか、こんな状態で空いてる飲み屋なんてありませんよ」

サイカ:「じゃあ、家飲みよ。家飲み。あんたん()の冷蔵庫、ビールぐらい入ってるでしょ」

フユキ:「そんなぁ」


 サイカに引きずられながら、二人は信正騎士団よりフユキに提供されたマンションの一室へと向かった。ちなみに、サイカの家に買いこんでいたビール類はすでに全てサイカが飲み干して空っぽにしてしまっていた。




ユウside


 ユウが多額の借金(ローン)をして買ったマカミとの愛の巣。


ユウ:「ふわぁあああ」


 昨日は夜遅くまでお楽しみだったユウは昼過ぎまでぐっすり熟睡していた。


ユウ:「あれ、ダーリン」


 一緒に寝ていたはずのマカミの姿が隣にない。ベッドから起き上がるとユウはかすかに物音がするリビングへ向かった。


 そこには目玉焼きと焼いたソーセージを乗せた皿を持つマカミの姿が――


マカミ:「起きたのか。もう少し待っててくれ。朝ごはん、というと怪しい時間だが、もう少しで食事の支度が済む」

ユウ:「朝ごはん、って私の」

マカミ:「当たり前だろ。厳密に言うと俺とお前の二人分だ」


 マカミの言葉を聞き、ユウはパァッと目を輝かせた。


ユウ:「ダーリンが作ってくれたの。嘘っ」

マカミ:「嘘じゃねえよ…………嫌、だったか」

ユウ:「ううん、うれしい。はやくダーリンの手料理食べたい」

マカミ:「お、おう」


 満面の笑みを浮かべるユウを見て、マカミは手に持った料理に視線を動かし、若干申し訳ない気持ちになった。マカミが冷蔵庫の余り物で作ったのは目玉焼きとソーセージ、フライパンで焼いたトースト。普段料理をしないマカミでも何とかまともに作れる簡素な料理。


 こう見えてもユウは料理がプロ並みに上手い。プロ級の料理上手にただ焼いただけの何の創意工夫もない原始人料理を見せて、がっかりしないか危惧していたマカミだが――

 

 それは杞憂であった。


ユウ:「うううううん、おいしいいいいいいいいいい」


 頬を押さえながらおいしそうに食べるユウを見て、マカミはホッと胸をなでおろした。味に関してはただ焼いただけなのでそれほど感動するような味ではないはずなのだが、ユウにとってはどんなご馳走よりも感動する料理だった。


 舌鼓を打つユウを見ながら、マカミも料理に手をつけた。


マカミ:(…………)


 久々に作ったマカミの手料理は今までユウが作ってくれたどんな料理と比べてもおいしくなく、可もなく不可もないという出来だった…………


 食事を終え、マカミはユウに食後の紅茶を注いだ。


ユウ:「外が静かだね」

マカミ:「そうだな」


 住宅街といっても多少は人の生活音がするものだが、今はこの世にユウとマカミ二人しかいないような錯覚を覚えてしまうほど、静寂に包まれていた


マカミ:「もう全員避難してるんだろ」


 シムルグの宣戦後、信正騎士団ともヨハネの翼とも関係のない大半の人間はすぐに近くの避難用村(シェルター)に避難しており、非戦闘員である信正騎士団の関係者や正騎士の家族もすでにそのほとんどが避難を完了している


ユウ:「ダーリンはいつ避難用村(シェルター)に移動するの」

マカミ:「これが終わったら、家を出るよ」

ユウ:「そう…………」


 お揃いのティーカップを手に持つマカミを見て、ユウは少し寂しそうな顔をした。これが最期の晩餐になる可能性があることをユウもわかっているのだ。


ユウ:「(うち)、大丈夫かな」

マカミ:「…………さあな」

ユウ:「今からでも入れる保険ってあるかな」

マカミ:「保険屋自体もうやってねえよ」


 名残惜しい気持ちはありながらも、ユウは残りわずかな紅茶を一息に飲み干した。ティーカップが空になった。


ユウ:「…………」


 空っぽになったティーカップを見つめるユウにマカミは切り出した。


マカミ:「そういえば、もう少しで一年になるよな」

ユウ:「何が」

マカミ:「何がって、それは、その…………」


 首をかしげるユウにマカミは若干赤くなった頬を掻きながら答えた。


マカミ:「俺たちが結婚して」

ユウ:「っ――」


 マカミの答えを聞き、ユウの頬もほんのり赤色に染まった。


ユウ:「覚えてたんだ」

マカミ:「……(コクン)」


 再び、二人の間に沈黙が流れる。


マカミ:「これが終わったら、一周年記念ってことで何かユウのしたいことしないか」

ユウ:「私のしたいこと」

マカミ:「何かないのか」


 しばらく考え込んだ後、ユウはあるお願いを口にした。


ユウ:「じゃあ、デートしよう。一日かけてあちこち街を見て回るの」

マカミ:「見て回るって、この辺りを」

ユウ:「そう」


 ユウの提案にマカミは少し怪訝な顔をした。


マカミ:「そんなの普段からしてるだろ」

ユウ:「それでもしたいの。ダーリンに、私たちが普段守ってるモノを見てもらいたいの」

マカミ:「そ、そうか」


 真っ直ぐなユウの目を見て、マカミは頷くしかなかった。


マカミ:「じゃあ、コレが終わったら一緒にこの街を見て回ろう」

ユウ:「うん」


 うれしそうに満面の笑みを浮かべるユウを見て、マカミは内に秘めていた決意を確固たるものにした。


マカミ:「そろそろだな」

ユウ:「うん…………そうだね――あれっ」


 時計を見て立ちあがるマカミ。それにつられ、マカミを見送ろうとユウも席を立ったのだが、立ち上がった瞬間にユウの視界がグラッと揺れた。


 全身に力が入らない。地震でもないのに焦点が揺れ、視界が定まらない。


 やがてユウは意識を失い、その場に倒れこんだ。


マカミ:「毒は神依で防げても、ただの睡眠薬は神依じゃ防げねぇんだよな」


 ユウの呑んだ紅茶の中に、マカミは多量の睡眠薬を入れていた。




アキside


 極島空港、そのロビーでアキは一人、とある人物たちの到着を待っていた。


アキ:(…………遅いな、もう到着していてもおかしくない時間のはずなんだが)


 事前に聞いていた到着時間からすでに三十分は経過している。相手は極島より遥か遠く、連合国から空の便でこの極島空港に向かうと連絡があった。迎えの飛行機を出そうかとアキが提案したが、このような大変な状況の渦中に不要な面倒はかけられないと断られた。


 普段は冷静沈着にステイクールを心がけているアキだが、今回は相手が相手である。さすがに椅子に腰かけてゆっくり相手の到着を待つほどの心の余裕は持てなかった。旅客はおろか職員すら誰もいない空港をアキは一人、落ち着きなく歩き回りながら何度も時間を確認していた。やがて――


集団の先頭を歩く長身の男:「いやぁ、すまないすまない。来る途中で敵の襲撃を受けてしまって――」

アキ:「っ、襲撃。皆さんのお体の方は大丈夫ですか」


 ようやく待ち合わせの場所に現れたのは、明日開戦するヨハネの翼との全面対決で本部より応援に駆けつけた信正騎士団最高幹部の序列上位勢。その先頭を歩く信正騎士団のトップ、シムルグのとんでもない発言にアキはいきなり面を食らわされた。


神父の格好をしたガタイのいい大男:「ほっほっ、心配ご無用。この通りピンピンしておりますぞ」

眠そうな顔の小柄な少女:「私たちを誰だと思ってるの」


 シムルグの背後より従者のように連れられ現れた二人もまた信正騎士団の最高幹部。神父の格好をした大男が最高幹部(ラウンズ)の序列五位――アボット・チャーチュ。気だるげそうな顔でうつらうつら頭を前後に揺らしているのが最高幹部(ラウンズ)序列六位――エンペラー・シャトン。


シムルグ:「敵自体はそれほど大したことなかったんだけど。襲撃して来た人数が多くて、後処理がね」

アボット:「恐らく我らと敵対してる共和国からの刺客でしょうな。全員拘束して、信正騎士団本部に送りつけてやりましたぞ」

エンペラー:「人数さえそろえれば私たちに勝てると思ったんでしょうね、舐めすぎ」

アキ:「はあ……何はともあれみなさんご無事で何よりです」


 一通り到着したシムルグたちの顔を見渡し、アキは首をかしげた。


アキ:「いらしたのはお三人方だけですか」


 アキが聞いていた話では最高幹部(ラウンズ)の上位勢、そのほとんどが対ヨハネの翼のためここ極島に集まるということだったが…………


シムルグ:「いや、もう一人来ているよ。ただ長旅で少し酔ってしまったようでね。もうすぐトイレから戻って来るんじゃないかな」

エンペラー:「情けない」

アボット:「ほほ、まあまあ、誰にでも苦手なものはあるものです」


 そうこうしているうちに本部より駆けつけた最高幹部(ラウンズ)の最後の一人、黄色い髪をした青年が小走りでアキたちの元へやってきた。


黄色い髪の青年:「お待たせしましたぁ」

シムルグ:「こっちだよ、オーディン」

アキ:「彼が――」


 極島空港到着直後すぐに体調不良でトイレに向かった青年――最高幹部(ラウンズ)序列三位、オーディン・アースガルド。


アキ:(最高幹部(ラウンズ)序列一位、シムルグ・ウインドの右腕)

オーディン:「初めましてミス・アキ・タカミヤ」

アキ:「こちらこそミスター・オーディン」


 互いに手を交わすオーディンとアキ。


アキ;(シムルグの後ろ盾で最高幹部(ラウンズ)の席を射止めたという噂もあったがどうやら噂は所詮噂だったようだな)


 友好的な笑みを浮かべながらアキと握手をするオーディン。だがアキはひしひしと感じていた、強者のみが発するオーラとも呼べる独特な雰囲気を目の前の青年から…………


シムルグ:「さて、挨拶も済んだことだし早速、信正騎士団の極島支部に向かうとしようか」


 最高幹部(ラウンズ)の席は全部で十二。その内序列七位から十二位までは各支部に支部長として配属される。六位より上の上位勢は基本信正騎士団本部で待機。有事の際に世界各国どこでも駆けつける、いわば信正騎士団の最終秘密兵器である。


 人の身でありながら兵器と呼称されるほど神人類の中でも絶大な力を持った六人の内、四人が一つの組織――厳密に言うと四つの組織を一つに束ねた連合組織を潰すため極島の地に集結した。




???side


???:「この国に来るのも久しぶりですね。以前に来たのはいつぐらい前のことでしたっけ」


 誰もいない深夜の遊園地――極島遊園地(きょくとうアミューズメントパーク)に???は降り立った。


???:「移転したとは聞いておりましたがまさか、支部跡地に遊園地が建設されているとは驚きですね」


 時刻は二十三時五十九分。ヨハネの翼との決戦前夜。


 先日起こったユウ暗殺事件で襲撃者のラドンが暗殺者とは思えぬほどの大立ち回りをしたせいで一部施設が大きく破損。施設復旧のため現在も閉園中の園内に現れた???は真っ暗な辺りを見渡し、そして上を見上げた。


???:「世界の端に位置する東の島国とはいえ、やはりかの星はどこでもキレイに輝いているんですね」


 夜空を唯一照らす一番星。電源が落とされた園内でも、昔と変わらず夜闇の中で一際キラキラ輝くその星を???はどこか悲し気な顔をしながら見上げていた。


???:「いよいよ明日ですか、はてさてどうなることやら」


 時間が一分進み、ヨハネの翼との全面対決当日。生活音はおろか物音一つしない静寂の中、極島は開戦の日を迎えることとなった。



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