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神人類  作者: maow
第一章 
13/47

第十三話 偽りの仮面

 東洋洒落(とうようしゃらく)という男は、かなり恵まれた男だった。由緒正しき伝統芸能の家で育ち、才能にも恵まれ、人々が第二次人類大戦の残した爪痕に頭を抱える中、先祖が国の名誉国民という特権階級を得ていたがため、国がこんな状態でもシャラクは何不自由のない人生を送ってきていた。


 食べ物や金で困ったことはない。人間関係も、みんなシャラクを中心に動く。


 シャラクがするのはただ、シャラクの事を一切知らない赤の他人たちの前で、会ったこともない先祖たちが勝手に積み上げてきた無駄に重い看板を背負い、自分ではない誰かが作った脚本通りに、仮面を貼り付け、人々の前で踊り、歌い、自分ではない誰かをさも自分であるかのように演じるだけ。ただ、それだけ……


 それがシャラクにとって何にも耐えがたい苦痛だった。


 ある日、火の不始末で大きな火事が起こった。火元近くにいたシャラクは逃げ遅れ、辺り一帯炎に囲まれる中、辛くも上階の窓から家屋の外に出ることに成功した。


 その時見た、野次馬たちの自分――正確に言えば燃え上がる火事の炎、圧倒的恐怖を前に注がれる畏怖と憧憬がないまぜになった視線。


 それを全身で浴びた時、シャラクは家を出ることを決めた




│─\│/─│




 建物同士の間に出来た道というよりは隙間という表現が正しいような細道を、シャラクを先頭に後ろから付いていくマカミ。


 道自体は右に左にと一見入り組んでいるように見えるがその実、道が一本しかないためどんな方向音痴でも迷うことなく目的地にたどり着くことができる親切設計だった。


マカミ:「おい、まだか」

シャラク:「もうちょっと、もうちょっとで着きやすから、もうしばらく辛抱してくだせい旦那」


 歩くこと数分――ようやくマカミたちは目的地へと辿り着いた。


シャラク:「着きやしたぜ、旦那」

マカミ:「ここは――」


 二人が行きついたのは文字通り、後ろ以外の前方左右を建物の壁に囲まれた行き止まりの袋小路。こここそマカミ、ではなくシャラクの目的の場所。


シャラク:「ここが旦那の終着点でさぁ」


 シャラクは貼り付けていた笑顔の仮面を剥がすと同時に、こっそり手に隠し持っていた煙玉を地面に叩きつけた。甲高い破裂音と共に、白煙が瞬時に辺り一帯へ広がっていき、マカミの視界が白一色に染め上げられた。


マカミ:「煙幕か」


 わずかに見える視界の中、何かがマカミに向かって一直線に飛びかかって来た。


マカミ:「っ――(これは)」


 煙の中でてきたのは全身の茶色い毛に覆われた猿の怪物――シャラクの化神化した姿だった。


シャラク:「シャア」


 マカミは手に持った、影で作ったメスをシャラク目掛けて投げつけようとして――やめた。マカミは獣の鋭い爪をむき出しにして迫るシャラクをギリギリのタイミングでかわした。


 直後、左右からシャラクと全く同じ姿をした猿の怪物がマカミに向かって同じように爪をむき出しにして襲い掛かって来た。


マカミ;(分身の術か、それとも幻惑の類か。どちらにせよ一体は躱せるが、もう一体は無理だ。どうする――)


 マカミが下した決断は――


マカミ:「ぐっ――」


 最初の一体の攻撃を甘んじて受ける代わりにマカミは続けて襲い掛かって来る、もう一体の攻撃を躱した。


マカミ:(痛く、ない。傷も、できていない。やはり、幻惑の類か)

シャラク:「ほう、見抜いたか」


 シャラクの神の御業――三猿は自身と全く同じ、だが実体は持たない分身を二体生み出す。姿形はもちろん、神依で纏う神意の量や質も実体を持つ本体と全く同じ。視覚で分身と本体を判別するのはほぼ不可能。


 そのことをマカミは分身が実体を持たぬ幻であることを視覚から得た情報ではなく、いつの間にか脳に刻まれていた知識を使って、推測した。


マカミ:「さすがに化神化した分身二体はやり過ぎだったな」


 一般的に最も神意を消費する神の御業が無から有を生み出す神器生成と自身を神の姿へ近づけさせる化神化の二つ。


 どちらの御業も使えるかどうかはその者の才能による部分が大半で、どれだけ修練をしても使えない者は一生習得できない。片方だけでも使えれば、その者は神人類としてかなりの才能(そしつ)があると言えるのだが、行使するにはかなり多くの神意量を消費する。そのため、これらを実戦でまともに使おうとするなら少なくとも平均以上の神意量を保有している必要があると言われている。


 マカミの見立てだと、シャラクの保有神意量は平均値を五十とした相対的評価で七十ほど。


 全身を化神化させたシャラクは、いわば自分の体すべてを神器に変えた存在と言い換えることもできる。


 そう仮定した場合、シャラクは全身フルでの完全な化神化と二つの神器生成を同時にしたことになる。あの信正騎士団ナンバーツー、アリサ・クラウンですらできないであろう芸当。とてもマカミが見立てたシャラクの神意量でできる業ではなかった。


 故にマカミは分身の正体を実体のない幻と予想。幻なら攻撃を受けても、傷を負うことはない。だが、分身と本体の区別はつかない。もしどちらかが本体であるなら、マカミの反撃を警戒して最初は分身に攻撃させるはずと考えたマカミは最初の一体の攻撃を受け、もう一体の攻撃を躱すことに注力した。


シャラク:「しょうがないだろ。分身一体じゃあんたに余裕で躱されておしまいなんだからさ」


 マカミに攻撃を躱されたシャラクは、通気性悪い細道で未だ煙立ち込める中、二体の分身体と共に建物の壁を利用して、マカミの周囲を高速で移動、かく乱を始めた。


 すでにマカミが攻撃を受けた分身体もどれなのか、マカミにはわからなくなってしまった。


マカミ:「…………」

シャラク:「シャシャ、どれが本体かお主にわかるかな」

マカミ:「…………」


 マカミは周囲を動き回るシャラクたちを目で追うのをやめた。


シャラク:(なるほど、そう来たか。やはりこいつ、戦いに慣れているな)


 本体と分身体の区別がつかないのだ。動き回るシャラクたちを目で追うことに意味はない。それよりも、いつどこで攻撃されても臨機応変に対応できる体勢をとっておくことが重要だとマカミは考えた。


 この状況、マカミは先手をシャラクに取られる。取らせるしかない。


 下手にマカミが動けば、そこをシャラクに狙われる危険がある。


 マカミの狙いはシャラクの攻撃をいなしてからのカウンター。


 シャラクとしては自分の攻撃がいなされないよう少しでもマカミの集中力を削っておきたいところ。サーカス団員がするような曲芸の動きで、マカミの集中力を少しでも削げないかと試みてみるが、効果はなかった。


シャラク:(全然こっち見ないな。それはそれで自身失くすぜ)


 相手を小馬鹿にするような動きをしてみたり、わざと隙が大きい動きをしてもマカミは動じず。


シャラク:(これ以上やっても無駄か。あんまり時間かけると逆にこっちが不利になるからな。仕方ない――)


 シャラクは仕掛けることを決めた。


シャラク:(東洋洒落(とうようしゃらく)、参る)

マカミ:(来るか)


 シャラクの仕掛けは単純明快。前方左右、背後からの分身体を利用した同時一斉攻撃。


マカミ:「っ――」


 マカミの視界、両端から迫る二体のシャラクと死角で姿こそ見えてはいないがその存在は背中からありありと感じるもう一体のシャラク。


 三体同時に攻撃はできない。三体のうちどれか一体を選び、攻撃するしかない。マカミが選んだのは――


マカミ:(何、だと)


 マカミは背後より迫るシャラクに向かって、メスを投げつけた。結果、メスは背後から迫るシャラクの額中央に命中、その後貫通。シャラクの幻影は跡形もなく消失した。


 マカミが攻撃したのはシャラクの分身体だった。


 これまでの戦いからマカミが命懸けの戦いに慣れているのはわかっている。ならば当然、敵の視界に入る前方左右と死角になる後方、どこから攻撃を仕掛けるのが一番良いか、そしてどこから攻撃するシャラクが本体である可能性が一番高いか、マカミなら一秒もかからず直感的に理解するとシャラクは読んだ。読んだうえで、シャラクはさらにその先をいった。


シャラク:「かかったな、あの世でクマとツルに詫びな」


 マカミは今シャラク本体と分身体に背を向けている。今から投影実像で新しい武器を影から作り出しても、間に合わない。シャラクを攻撃する前にシャラクの化神化した爪に体をズタズタに引き裂かれてしまう。


 マカミはサッと、その場で身をかがめた。


シャラク:「は、無駄だ。今更そんなことしたところで俺様の爪はすでにてめぇを捉えて――はっ」


 シャラクの魔の手がマカミに届く直前、地面から黒い棘がいくつも飛び出してきてシャラクの分身体ごと二体のシャラクの体を串刺しにした。


シャラク:「な、なんで」


 何が起こったのか理解できず、呆然とするシャラクにマカミは答えを告げた。


マカミ:「俺の神託は陰の神託。影を自在に具現化したりできるんだ」

シャラク:「影を自由に――ってことは、これは…………」


 シャラクの視線の先、しゃがんだマカミの指先は地面に映る影に触れていた。シャラクを貫いているのはマカミが形を変え具現化した、影。


 シャラクはマカミの影に止めを刺されたのだ…………


マカミ:「ボスのところまで連れてってもらうつもりだったが、これじゃどうしようもないな」


 マカミはユウに付けていたカラス――投影実像で作り出した真っ黒な鳥――から多数の異様な神意の流れ、神依で自身を守っている神人類の存在を感知し、現場であるこの街に徒歩でやって来た。


 シャラクと遭遇したのは本当にただの偶然だったのだが、遊園地でユウを狙っていた奴らの関係者であると直感し、ユウの命を狙う黒幕に会いに行こうとしたのが、失敗に終わった。


マカミ:(ボスにつながりそうな物は何も持ってないな。置いてきた奴らの死体を漁っても恐らく無駄足だろう)


 未だシャラクの煙玉により辺り一帯、白煙が立ち込んでいる。マカミたち入ってきた細い通路の入り口では今、煙たちが外の広い世界を求めてモクモクと湧き出ている。不振がった正騎士や警察が突入してくる前にその場を去ろうとしたマカミの元に、ある一人の神人類がやって来た


???:「久しぶりだな」

マカミ:「お前は――」


 マカミが振り向いた先、白い煙の中からマカミに話しかけてきた人物こそ、マカミの探していた人物――ヨハネの翼頭首その人だった。


???:「極島に来ているとは聞いていたが。まさかまたお前と再会することになるとはな」


 煙の中より、マカミの前に姿を現したヨハネの翼頭首。予定とはだいぶ違う形となったが、マカミは会いたかった人物と対面することに成功した。




│─\│/─│




 場所は変わり、極島より遥か遠く――昔、英国(イギリス)と呼ばれた国が領地としていた現連合国の中心部にそびえ立つ潔白の塔。かつて世界中で暴威を振るった悪しき神人類たちと死闘を繰り広げた正騎士たちの総本山――信正騎士団本部。


 その最上階にある天上の間。


 信正騎士団の最高幹部、ラウンズの中でたった一人、全正騎士の頂点に君臨する最上位の序列一位の席に座る者が普段事務作業をして、よく机の書類に顔をうずめている天上の間の厳かな扉を一人の正騎士がノックした。


本部の正騎士:「失礼します」


 「どうぞ」という聞きなれた声を聞いてから中へと入った、鮮やかな黄色の髪が特徴的な正騎士の青年。


 部屋に入ると青年より一回り大きい体をした緑色の髪をした若い男が、人当たりの良い柔和な笑顔を浮かべて青年を迎えた。


信正騎士団のトップ:「今日はまたどうしたんだい…………なんていうのはさすがに呑気がすぎるかな。オーディン」


 彼こそ、信正騎士団の頂点に君臨する最高幹部(ラウンズ)の序列一位――シムルグ・ウインドである。


オーディン:「もうすでに聞き及んでいるとは思いますが、アリサが、最高幹部(ラウンズ)序列二位、アリサ・クラウンが何者かの襲撃に遭い、敗れました」


 部屋に入って来た正騎士の青年は信正騎士団トップの右腕にして側近。最高幹部(ラウンズ)序列三位――オーディン・アースガルドである。


シムルグ:「その情報を君の口から聞けて良かった。おかげで半信半疑だった情報が今確証に変わったよ。アリサが敵にやられたのは、やっぱり間違いないんだね」


 目には目を、歯には歯を、神人類(力)には神人類(力)をということで国際的に活動を認められている対神人類組織である信正騎士団のナンバーツーが敵の襲撃を受け、戦闘不能にさせられた。


 これは信正騎士団の根幹を揺るがす極めて重大な事件である。


オーディン:「このことはすでに世界中に伝播しており、各国要人はもちろんその国の多くの人々から置かれている信正騎士団支部に今回の件について問い合わせが殺到しております」

シムルグ:「やっと明るい将来を見据えられるようになってきた矢先の出来事だからね、また同じことが繰り返さないかみんな不安なんだろう」


 アリサの身に起こったことはすでに信正騎士団内部はおろか世界全土に知れ渡っている。同時に根も葉もない嘘情報も多く流布されており、現在情報が錯そうしている状態だ。故にアリサが正体不明の敵に襲撃され敗れたという情報も真偽はっきりしない状況であったのだが…………


 シムルグが最も信を置く部下であるオーディンからの報告を受け、事が真実であると知った信正騎士団のトップは神妙な顔をしながら机の上に両肘をついた。


シムルグ:「まさか、あのアリサが…………敵は我々の想像をはるかに超えて、強大ということか」


 アキが本部より応援を要請するため報告したヨハネの翼に関する情報はシムルグの耳にも入っていた。信正騎士団に対抗するため、神人類関連の組織が他の神人類関連の組織を吸収合併、傘下に加えたり、一時的に同盟を結んだりすることは珍しい話ではない。


 ヨハネの翼を壊滅させるためオーディンが応援にアリサを指名した際は少し戦力が過剰すぎるのではないかと小言を口にしたのだが…………


オーディン:「アリサは現在極島の病院で治療中。予断を許さない状況が続いているようです」

シムルグ:(敵が極東の島国出身の組織からなる連合だからと、甘く見過ぎていた。敵の戦力を完全に見誤った)

オーディン:「今回の一件で信正騎士団の信用はかなり失墜しました。失った信用を回復するためにも事件の早期解決が望まれます」

シムルグ:「そうだね」


 悔やんだところで、過去はどうにもならない。信正騎士団は対神人類の要にして人災に等しい荒ぶる神人類たちから人々を守る最後の防波堤。


 傷つけられた信正騎士団の看板ももちろん大事だが、ヨハネの翼をこのまま放置すれば、同調して今まで信正騎士団に抑圧され大人しくしていた神人類関連の組織も派手に動き始めるかもしれない。


シムルグ:(もしそんなことになれば、最悪第二次人類大戦の再来…………)


 第三次人類大戦の始まり。


そんな未来を訪れさせないため、シムルグは覚悟を決めた。


シムルグ:「オーディン、今すぐ序列六位以上の最高幹部(ラウンズ)全員に招集をかけてくれ。それと緊急会見の用意も」

オーディン:「かしこまりました」

シムルグ:「三日後、ヨハネの翼と全面対決を行う」


 この日の午後、極島全土にある映像が生放送で流された。それはシムルグが緊急で開いた会見のライブ映像。シムルグは今回の事件の元凶、ヨハネの翼に対し、三日後極島で信正騎士団の威信をかけた全面戦争を行うと宣戦布告をした。


 二度と同じ悲劇を繰り返さないため、第三次人類大戦を起こさせないためにシムルグはヨハネの翼を徹底的に潰すことを決めた。

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