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神人類  作者: maow
第一章 
11/50

第十一話 秘策2

 ユウたちがビル内に突入して一分が経過――


フユキ:「アキさん………………」


 心配そうにビルを見上げる視線の先、いまだ激しい戦闘音が鳴り響くビル最上階ではアキとサイカがブルーオルカ構成員たちを相手に圧倒していた。


アリサ:(もってあと数分といったころでしょうか)


 この時間停止の神の御業は、時を止める範囲が広ければ広いほど多くの神意を消費する。アリサの神意が尽きる前に立て籠もり犯たちを全員無力化できるかどうかが、人質を全員無傷で解放できるかどうかの分かれ目となる。


 現場にいる正騎士たちが全員、ユウたちの作戦成功を祈り、戦闘が続くオフィスビルを注視するなか、遠くで激しい爆発音が――


ドカーン


 違う場所でも立て続けに――


ドカーン、ドカーン


 計三か所、フユキたちがいる場所を中心に左右後方で突然大きな爆発が起こった。


シスター:「あわわわわわ」

ヴァルキューレ:「何事だ」


 突然の異常事態にアリサの従者たちは即座にアリサを護る態勢をとった。


極島支部の正騎士A:「た、大変です」


周囲を警備していた正騎士の内三人がそれぞれ別の方向から慌てた様子でフユキたちの元へとやってきた。


極島支部の正騎士B:「敵襲」

極島支部の正騎士C:「東、西、南それぞれでレッドバイソン、グリーンベア、イエローモンキーとみられる集団の襲撃発生」

フユキ:「何だって(グリーンベアにブルーオルカ、それにイエローモンキー、レッドバイソンまでヨハネの翼に関与していたなんて)」


 フユキたちを取り囲むように同時発生した敵襲。偶然なはずもなく――


フユキ:(アキさんがいないこのタイミング……まさか)


 ブルーオルカの、組織のトップが経営する会社に押し入り社員を人質に立てこもるという不可解な立て籠もり事件。その真の狙いは極島支部きっての実力者であるユウ、アキ、サイカ三人と他の極島支部正騎士たちとを分断することだった。


マーリン:「やられましたね。噂の、ヨハネの翼に」

ヴァルキューレ:「はめられたということか」


 今極島支部の主力メンバーはビル内でブルーオルカ構成員を相手に大立ち回りをしている。当然外の様子など気にしている余裕などない。


フユキ:「この状況、一体どうしたら――」


 特に現場指揮官であるアキの不在が痛い。


ヴァルキューレ:「何をしている」


 目の前の状況に困惑するフユキの尻をヴァルキューレが思いっきり引っ叩いた。


フユキ:「ヴァルキューレさん」

ヴァルキューレ:「あの女支部長に現場指揮を任されたのはお前だろ。そんなお前が部下の前で狼狽えてどうする」


 ヴァルキューレの叱咤にフユキはハッと我に返らされた。


ヴァルキューレ:「ここは私達に任せてお前は早く部下の元にいって指揮をとってやれ」

マーリン:「アリサには私たちが付いてますから」

シスター:「早くみなさんを安心させてあげてください」

フユキ:「………………みなさん」


 ヴァルキューレたちの言葉に背中を押され、フユキは覚悟を決めた。


フユキ:「わかりました。皆さんもお気をつけて」

ヴァルキューレ:「誰にモノを言ってる」


 そう言ってフユキは神の御業を使用中のアリサをヴァルキューレたちに任せ、アリサたちの元を離れた。向かったのはフユキたちがいる場所から一番近い――一際(ひときわ)激しい爆発が起こった東。レッドバイソンと交戦中のエリアである。


 イエローモンキー、グリーンベアと交戦中の西、南のエリアにはそれぞれメッセンジャーとなる正騎士に無理はせず、アキが戻るまでは命大事にの戦闘を心がけるよう伝令を出した。


 普段アキの背中に隠れ、影ながらその背中を支えている、青く未熟な正騎士の少年をヴァルキューレは静かに見送った。


マーリン:「何ですかヴァル、もしかして極島の彼の事気になってるんですか。駄目ですよあんな幼気(いたいけ)な少年を誑かしちゃ」

ヴァルキューレ:「な、何を言ってるんだ、マーリンッ」

シスター:「え、ヴァルキューレさんってそういう趣味だったんですか」

ヴァルキューレ:「そんなわけないだろ」


 冗談を言って、みんなの緊張感を和らげるマーリンだが、内心そこまで穏やかに居られる状況ではなかった。マーリンは敵の、今回の事件を裏で手引きした黒幕の真の狙いに気づいていた。


 マーリンだけではない、ヴァルキューレ、シスターも薄々敵の狙いが何なのか察しがついていた。


マーリン:(このタイミング。皆さん口にはしませんでしたが、ヨハネの翼の狙いは明らかに――)


 マーリンはほんの一瞬だけ、視線をアリサの方に動かした。


 この事件を裏で操っている黒幕、その真の標的は信正騎士団ナンバーツー、アリサの命だ。


シスター:「確かこの御業を使ってる間、アリサさんは外の様子を一切感知できなくなんですよね」

マーリン:「はい。この神の御業は、発動中、使用者であるアリサの時間も止めてしまうまさに諸刃の剣」

ヴァルキューレ:「この激しい戦闘音もアリサには全く伝わってないってことか」


 時間停止空間を展開している間、アリサ自身も時の止まった空間に囚われる。思考は動いているが、他の感覚器官はすべて機能停止に陥り、周囲の状況を一切認識することが出来なくなってしまう。いつまで空間を展開し続けるかは完全にアリサの直感による。


 そして恐らく、アリサは自分の限界ギリギリまでこの空間維持し続ける。人質を全員無事に解放するために。ヴァルキューレたちはそう確信していた。


ヴァルキューレ:「敵の狙いは十中八九アリサだ。どこから敵が攻撃してくるかわからない。気を張れ、シスター」

シスター:「は、はい。この身に代えてもアリサ様をお守りします」


 いくらアリサが無防備といえど、その周りがザルなわけはなく、周囲で包囲網を形成していた正騎士たちは多くが敵襲に対応するため離散したが、それでもここにいる三人は戦闘力だけなら支部長クラスの傑物。並みの相手なら息つく暇も与えず瞬殺なのだが………………当然、それは敵も想定済みの事。


 つまり今からここに来るのは敵の最大戦力。黒幕もしくはその側近である可能性が高い。


 三人はいつどこから敵が来てもいいように臨戦態勢を取りながらアリサの周囲を囲んだ。


 緊張感高まる中、周囲の戦闘は激化。


 爆発や崩壊の音に鼓膜が削られる中、敵は音速を超え、やって来た。


マーリン、ヴァルキューレ、シスター:「っ――」


 全員敵の気配こそ感じ取ることはできたが、反応して動くことが出来たのは三人の中で唯一、頭で考えるよりも先に体で動いたヴァルキューレだけだった。


 ヴァルキューレは敵の姿を視認するよりも早く、勘だけで自身の剣(神器)を振るった。


ヴァルキューレ:「青白い、光」


 アリサ目掛けて目にも留まらぬ速さで一直線に迫る青白い光をヴァルキューレの神器(剣)は寸分も狂いなく完全に捉えていた。


 剣に斬られる直前、青白い謎の光は軌道をわずかに逸らし、剣を避けそのまま勢いよく地面に激突した。


刺客:「あいたたた、思いっきり頭撃っちゃったよ」


 旧人類(普通の人間)ならまず助からない速度で地面に激突した敵の刺客だが、当然相手は旧人類(普通の人間)ではない。地面に激突した勢いで土煙が舞い上がる中、掠り傷一つしていない頭を押さえながら出てきたのは、小学生程の小柄な少年だった。


シスター:「あの子が――」

ヴァルキューレ:「刺客」

マーリン:「恐らく敵の最高戦力の一人ですね」


 小柄な体格に似あう愛らしい顔立ちをしたアッシュブロンドの髪とエメラルド色の瞳をした刺客の少年。


マーリン:(容姿を見る限り極島の人という感じはしませんね。私やアリサと同じ、連合国出身の人でしょうか)


 連合国――第二次人類大戦を生き残った元・ヨーロッパの国々がまとまってできた新しい国の総称。


マーリン:「一応ご確認ですけど、あなたの狙いは」


 マーリンの問いに少年は無邪気な笑みを浮かべながら無言でアリサを指さした。


マーリン:「そうですか。では――」


 少年の目的を知り、マーリンは両の手を地面に付けた。


マーリン:「死んでください」


 クラウチングスタートする陸上選手のようにマーリンが触れた地面が突如抉れ、空中に浮かび上がった。


 マーリンの神託は浮遊の神託。自分の体とマーリンが触れた物ならどんなに重い物であっても宙に浮かせることが出来る。


 マーリンは浮かせた二つの直径三メートルの巨大なアスファルトの玉を刺客の少年に向け投げつけた。


少年:「うぉ、危ねっ」


 言葉とは裏腹に少年は余裕しゃくしゃくといった様子でマーリンが投げつけた大玉を躱した。少年に躱された大玉は二個とも地面に激突して、幾つもの破片となって砕けて散った。


少年:「やるね、じゃあ次は僕の番――」


反撃に打って出ようとする少年に、砕け散ったはずの大玉の破片が四方八方から襲い掛かった。


マーリン:「残念ですが、あなたに番が回ってくることはありませんよ」


 マーリンが地面の一部を浮かせて作った大玉を少年に向かって投げたのは、その大玉を少年にぶつけるためではなく、大玉を砕いていくつかの破片とするため。


 マーリンの浮遊の神託は手で触れた物を浮かす。つまり同時に浮かせられるのは基本自分の体を除き二つまでなのだが、例外がある。それは浮かせたものが何かしらの衝撃でバラバラに砕けてしまった場合、マーリンは砕けた破片すべてを一個のモノとして自由に操ることが出来る。


少年:(うへえ、すごい岩の嵐。何とか隙を見つけて、体制を――)

ヴァルキューレ:「お前に休む暇など与えると思うか」

少年:「わおっ」


 四方八方から縦横無尽に襲い掛かって来る、浮遊する破片。どうにか体勢を立て直そうとする少年をヴァルキューレが神器――唯一剣(ユニコーン)で追撃。少年に落ち着かせる暇を与えない。


 ヴァルキューレの攻撃を間一髪、自身を電子に変える神の御業――電光石火で回避。自身の電子化を解除したところを狙ってきたマーリンの破片攻撃を器用に空中で回転して躱したのだが――


シスター:「逃がしません」


 そこをさらにコングの神託を受け、可憐な聖女の姿から野性味あふれるゴリラへと自身の姿を化神化で変えたシスターが驚異的な跳躍力でもって少年を頭上から追撃。少年は地面に勢いよく叩きつけられた。間髪入れず、マーリンは残った破片を全て地面に叩きつけられた少年に向け、叩き込んだ。


ヴァルキューレ:「やったか」


 激しい攻撃で再び土煙が巻き上がる中、マーリンは晴れない視界の中を高速で動く青白い光――少年が電光石火(神の御業)で自身を電子化した姿を見逃さなかった。


マーリン:「来ます――気を付けて」


 マーリンの一言に二人はすぐさま臨戦態勢を取り直した。


 マーリンたちの臨戦態勢が整うと同時に土煙の中から少年(青白い光)が飛び出した。そのまま、マーリンたちに向かっていった。


 最初に少年が狙ったのは――この場で最古参の正騎士、マーリン。


ヴァルキューレ:「マーリン」

シスター:「マーリンさん」


 応戦の準備はしていたはずのマーリンだったが少年はマーリンの想定よりも遥かに速い速度で動き、攻撃した。


 マーリンは少年の神器、持ち手の長いハンマーで殴られ、近くに停めてあった車のドアに激突させられた。


少年:「よそ見してていいの」

ヴァルキューレ、シスター:「っ」


 ヴァルキューレとシスターのちょうど間で余裕のある笑みを浮かべる少年に向かいヴァルキューレは剣をシスターは自慢の太いコングの腕を振りかぶった。


 前後から同時に迫るヴァルキューレとシスターの攻撃を少年はぎりぎりまで引き付けて躱し、カウンターを試みた。次の狙いは、シスター。


少年:「やっぱり、一番最初に狙うのはその場で一番弱い奴からでしょ」


 シスターの頭を手に持った神器(ハンマー)で勝ち割ってやろうと腕に力を込めた瞬間、車のサイドドアが少年に向かって飛翔して来た。


少年:「よっ、と」


 直撃したかに見えたが、少年は飛来して来たドアを上手く体を捻って、華麗な身のこなしで衝撃を受け流してみせた。その隙に少年の頭を渾身の力で殴り潰そうと振り下ろされたシスターの腕を器用に足で挟み、そのまま化神化したコングの腕をあり得ない方向に向かって捻った。


シスター:「あああああああああ」

マーリン、ヴァルキューレ:「シスターっ」

シスター:「このっ」


 激痛に悲鳴を上げる中、シスターはあらん限りの力で腕に絡みつく少年を地面に叩きつけようとした。しかし、少年はそれよりも早くシスターから離れるとシスターの頭を神器(ハンマー)で撃ち抜いた。


シスター:「あ、アリサ、様」


 腕だけでなく首も直角に折られ、シスターは絶命した。


ヴァルキューレ:「……よくも」


 仲間を殺されヴァルキューレは激昂。怒りのまま少年に斬りかかろうとしたが、いままでの戦いぶりから冷静さを失った状態で勝てる相手でないと悟ったマーリンはヴァルキューレが少年を攻撃するよりも早く、浮遊させた車を少年に向かって投げつけ、ヴァルキューレの暴走を止めた。


マーリン:「落ち着きなさいヴァルっ」

少年:(味方の死体諸共――)


 少年は咄嗟に神器で投げつけられた車を直撃する寸前に地面に叩きつけた。その際ガソリンに引火し、車は大爆発したが少年は神依で無傷。シスターの死体は車と一緒に炎で焼かれることになった。


少年:「僕もよく頭のネジぶっ飛んでるて言われるんだけど。君も大概だね」


 再び地面に触れ、大穴を二つ開けたマーリンは先ほどよりも巨大な二つのアスファルトの塊と一緒に少年の遥か頭上へ浮遊。今度は地面ではなく、浮かせた大玉同士をぶつけて、無数の礫を生成した。


マーリン:「あなたと一緒にしないでください。こんな状況でも笑っていられる変態さん」


 今しがた自分を殺そうとした相手を、宙より殺意のこもった自身を見下ろす敵を少年は目を輝かせて、見上げていた。


マーリン:「言い残すことはそれだけですか。なら、とっととあの世にお()きなさい」


 少年に目掛け、投擲される無数の礫の嵐。


少年:「おっと――あらよ」


 少年は四方八方から襲いかかってくる礫を軽快な身のこなしで躱しながら、隙を見て襲い掛かって来る礫をマーリン目掛けてハンマーで打ち返した。


マーリン:(無駄なことを)


 打ち返した礫は空中で浮遊するマーリン目掛けて一直線に向かって行き、マーリンにぶつかる寸前で急停止。その後再び少年に向かって投石された。


少年:「あちゃー、やっぱ止められるか……それならっ――」


 少年は立て続けに、間髪入れずマーリンに向け、礫を打ち返した。


 それらすべての礫がマーリンに直撃する寸前、空中で急停止した。


少年:「これもだめかー」


 マーリンは再び、少年目掛けて空中で停止した礫を投げつけた。


 少年は目を爛々と輝かせていた。まるで初めてテレビゲームで遊ぶ子供のように。少年にとっては実害のないデジタルの戦いも実際に命を賭けた現実の戦いも変わらない。どちらも楽しい、娯楽でしかなかった。


 少年はしばらくマーリンの礫による破片攻撃を躱しながら、どうやって空中に浮かぶマーリンを倒すか思案を巡らせていた。やがて――


少年:(いいこと思いついた)


 少年は不敵にニヤリと無邪気に笑った。


 少年は再び、マーリン目掛けて礫を打ち返した。


 何個も、何個も…………


ヴァルキューレ:「一体何を――」


 マーリンの邪魔にならないよう、距離を取って戦況を見守っていたヴァルキューレだったが少年の何かを企んでいそうな意味深な行動に警戒心を高めた。


 少年が何かしようとすればその隙を突き、いつでも少年に斬りかかれるよう、構えるヴァルキューレ。


マーリン:(いくら破片を打ち返しても無駄だと分かっているのに、何を――)


 少年が何かを企んでいるのはわかっているが、マーリンは礫による攻撃を続けた。少年に反撃の隙を与えないようにしたのである。


少年:「ふんっ」


 少年は、最後に全力で礫をマーリン目掛けて打ち返すと、最初にマーリンがしたように両手を地面に付け、クラウチングスタートの構えをとり、全身を青白く光らせた。


 神の御業――電光石火を発動する構えである。


ヴァルキューレ:「っ――」


 不穏な雰囲気を感じたヴァルキューレが少年目掛けて、剣(神器)を手に突貫した。だが――ヴァルキューレの剣が届くよりも早く、少年は自身の体を電子に変えその場から消えた。


マーリン:「っ――」

ヴァルキューレ:「マーリンっ」


 マーリン目掛けて、電子の体で突貫する少年。


マーリン:(やはりそうきましたか。ですが)


 少年の動きを読んでいたマーリンは咄嗟に自分の体を横にスライドさせた。


 青白い稲妻がつい今しがたマーリンがいた場所を通過し、マーリンのすぐそばで少年の体が元に戻った。


 空中では少年一番の強みである機動力を使えない。


マーリン:「それは悪手でしたね」


 今空中にはマーリンたちを取り囲むように礫が、トールの打ち返した礫が空中で静止している。少年は空中で無防備。マーリンは停止させている礫を少年目掛けて投擲しようと腕を振りあげた――しかし、


少年:「それはどうかな」


 それよりも早く少年は空中で停止していた礫を足場にして連続で、神の御業――電光石火を発動。マーリンのすぐ目の前に少年は高速で移動した。


マーリン:「っ」

ヴァルキューレ:「マーリンっ」

少年:「これで、チェックメイトだね」


 少年は、器用に空中で身をよじらせてマーリンの頭蓋骨目掛けて神器(ハンマー)を振った。


 迫るハンマーを前にマーリンは浮遊を解除。自由になった両手で迫るハンマーを受け流した。


 少年は盛大に空中でハンマーを空振りした。


 少年のハンマーが空を切った直後、マーリンは空中で本当に無防備になった少年の腹に五発のパンチをぶち込み、最後に顎目掛けて渾身のはっけいを繰り出した。


少年:「ぐはっ」


 華奢な容姿からは想像もできないが実はマーリンはアリサに対人戦闘を教えた師範の一人であり、素手の戦闘においては信正騎士団の中でもマーリンに勝てる者は数えるほどしかいないほどの実力者だった。


 渾身の腹パンを五発受け、地上に落下する少年。その先には落ちてくる少年を一刀両断しようと剣を構えるヴァルキューレ。


少年:「…………」


 冷めた目で自身を見下ろすマーリンを見て、少年はニヤッと笑った。


マーリン:「っ――しまっ」


 気づいた時には時すでに遅かった。少年は落下する直前、手に持っていたハンマーを器用に回転させて、空中に放り投げていた。


 ちょうどマーリンの死角から頭目掛けてブーメランのように戻ってくるように――


 空中を回転してきたハンマーはマーリンの頭蓋骨を砕き、少年の手の中へ戻った。太陽に翼を焼かれた天使のように、マーリンは静かにその場から地面に向かい自由落下を始めた。


 同様に少年も重力にひかれ地面へと着地。


少年:「後は、君だけだね」

ヴァルキューレ:「………………貴様」


 少年が着地して数秒後、物言わなくなったマーリンの死体が地面に激突した。


 残ったのはヴァルキューレのみ。


 ヴァルキューレはありったけの神意を消費して額から真っすぐな一本の角と背中から真っ白な鳥の羽を生やした、化神化である。ヴァルキューレが授かった神託は天馬の神託。


 少年はヴァルキューレが化神化を終えるまで攻撃せずただその場で待った。状況は優位であっても時間的猶予がないのは変わらないはずなのだが、少年はヴァルキューレの全力を受けたうえで完膚なきまでに叩き潰そうとしていた。


 完全無欠な勝利を少年は目指したのだ。


少年、ヴァルキューレ:「………………」


 合図はない。衝突は突然だった。


 ヴァルキューレが額から生やした水色の角はサイカが生やす角と同じ力の結晶。全身に力の源のような不思議な何かを流し込み、身体能力を飛躍的に向上させる。背中から生やした白鳥のような純白な翼はマーリンのように空中を飛翔することこそできないが地上を縦横無尽に素早く移動することを可能にする。


 ヴァルキューレは少年の周りを高速で移動しながら神器――唯一剣(ユニコーン)を振るった。四方から押し寄せる、怒りと憎しみの乗せた斬撃、それらを少年は笑みを浮かべながらすべてさばいてみせた。


ヴァルキューレ:(こいつ、やはり、強い)


 少年がただのテロリストでないことはヴァルキューレもわかっていた。信正騎士団の中でも最高幹部(ラウンズ)を除けば一般正騎士の中でトップレベルの実力を持つヴァルキューレと同じか、もしかしたらそれ以上の力を少年は有している。


 だからこそ、この少年――この敵の刺客はここで仕留めておく必要がある。ヴァルキューレは覚悟を決めた。


ヴァルキューレ:「こうなったら………………」

少年:(攻め方を変えた)


 今までの、敵の急所を的確に突く息つかせぬ連撃から敵に攻撃はかわされる前提で、ある場所に敵を誘導するための息つかせぬ連撃にヴァルキューレは攻め方を変えた。


 ヴァルキューレに何かしらの意図がある事は少年にもわかっていたが、次々から次に押し寄せる剣戟に考える暇(時間)を与えられなかった。


少年:「うおっ」


 やがて、少年はヴァルキューレの思惑通り、マーリンが開けた地面の大穴に足を取られ中へと落ちた。


ヴァルキューレ:(今だ――)


 ヴァルキューレはすぐさま穴の中の少年との距離を詰めた。追撃を警戒してハンマーで防御の構えをとる少年。


 ようやく明確な隙を見せた少年に対しヴァルキューレは剣を突き立てることはせず、手にした神器を天に向かって高らかと掲げた。


 剣が強い輝きを発し始める。


 ヴァルキューレの透き通る水晶のような淡い水色の神器――唯一剣(ユニコーン)は顕現してからずっと自動で周囲の物質を吸収して(エネルギー)に変える自動蓄積(オートチャージ)という神の御業を発動し続けていた。


 神器(剣)は顕現してからずっとその刀身に変換したエネルギーを溜め込んでいる。


 そのエネルギーを今、ヴァルキューレは今この場で一気に解放しようとしていた。


 自爆覚悟の大爆発である。


ヴァルキューレ:「死ねぇええええええええええええええええ」


 神器にため込んだエネルギーを解き放った瞬間、視覚(色)が、聴覚(音)が………………この世のありとあらゆるすべてを吹き飛ばしてしまうほどの超大爆発が起こった。


ヴァルキューレ:「………………」


 爆心地の中心にヴァルキューレの姿はなく、ヴァルキューレだったモノはすべて爆発により跡形もなく消滅してしまっていた。


少年:「ふぅ、危なかった」


 ヴァルキューレの、相打ち覚悟の大爆発によりさらに広げられた大穴の中で一人、少年は盾に身を隠し、爆発から生き残った。


 少年の神器の名はミョルニル。その場その場で状況に合った武具に姿形を変えることが出来る。


 少年はヴァルキューレが神器の力を解放した瞬間、自身の神器をハンマーから自分の体を覆って余りあるほどの大楯に変え、ヴァルキューレの自爆覚悟の大爆発から身を護ったのである。


少年:「さてと。取り巻きは倒したし、後は――」

???:「マーリンたちをやったのは貴様か」


 少年を襲った強い怒りと圧倒的強者の風格。ヴァルキューレたちとの戦闘中、ずっと消えなかった少年の笑みがここではじめて完全に消失した。


危険を察知し、咄嗟に盾を構えて防御しようとした少年だが、それよりも早くアリサが神器(Exカリバー)で少年の左腕を斬り捨てた。


少年:「く、この」


 腕を斬られた痛みも意に介さず、アリサに反撃の蹴りを見舞おうとした少年の視界からアリサが突然消失。頭を狙った回し飛び蹴りは空を切り、背後からアリサの強烈な蹴りを喰らった。


少年:「ぐわっ(何が――)」


 先ほどとは打って変わってアリサ相手に少年は防戦一方。少年の攻撃はアリサに一切当たらず、アリサの攻撃はすべて少年にクリーンヒットした。


少年:「攻撃が全然当たらない」


 この状況がアリサの神の御業によって作られた状況なのは少年もわかっている。だが、一体どんな御業(トリック)を使っているのかがわからない。


少年:(時の神託関係の業を使ってるんだろうけど………………)


 ユウたちと同じく、少年も今自身の体を普段以上に厚い神意で覆っている。それもユウたちより何倍も厚めに。


少年:(時間停止(タイムストップ)みたいな相手に干渉する系じゃない。他の何か)


 少年は最高幹部(ラウンズ)であるアリサやアキに匹敵するほどの神意量を持っている。信正騎士団序列二位のアリサであっても、神意で少年に干渉することはできない。


少年:「(てか、神託の相性悪すぎ。ここは一旦離れて――)


 時間停止の神の御業の使用でアリサの神意がすでに残りわずかであることは少年もわかっている。


 持久戦に持ち込めば必ず残りの神意量の差で勝てる。


 そう踏んだ少年は神器を大楯から再びハンマーに変え、アリサに向かって投げつけた。


アリサ:「っ――」


 それを悠然と躱すアリサ。


 少年の想定通り。少年は自身を電子に変え、わずかにできた隙を電光石火で駆け抜け、アリサから遠ざかろうとした。だが――


アリサ:「逃がすと思ったか」

少年:「うそでしょっ」


 少年は完全にアリサの虚を突いた。自身を電子に変えた少年はアリサの脇を光とほとんど変わらない速度で通り過ぎた。


 少年の電光石火(神の御業)は速すぎるあまり移動中急な方向転換が出来ないという弱点(デメリット)を持つが言い換えればそれは、使用者本人でさえも制御不能な程速いスピードで動けるということでもある。


 空気より硬いモノにぶつかれば電子化は強制的に解除されるが、電子化した少年に速さで追いつくのはほぼ不可能。一瞬でも道を開ければ最後、駆け抜けられてしまう。


 少年は一度、アリサの隙を突き、横をすり抜けた。だがすぐさまアリサは少年の行く先に回り込み、少年の前に立ちはだかった。


 アリサは光とほぼ同じ速度で動ける少年に追いつくどころか、さらに一歩先の未来に先回りしたのだ。少年は目の前で起こった出来事に驚き、そして……笑った。


少年:(かかった)


 少年の視線の先には、アリサの気を逸らすため投げたハンマーがブーメランの要領で今アリサの後頭部目掛けて戻って来ている。


 少年は、自分(少年)自身をおとりにした。


 どういう仕掛けかはわからないが、アリサが自身より早く動けるのは今までの戦いですでに理解している。だがいくら早く動けようとも、虚を突いてしまえば関係ない。


 少年の狙い通り、戻って来たハンマーがアリサの頭を打ちつける直前、アリサは視覚から迫り来るハンマーを振り返ることもせず、片手で器用にペン回しの要領でハンマーの勢いを殺し、掴んだ(キャッチした)。


少年:「まじ――」


 そして電流になった少年を少年の神器(ハンマー)で思いっきり殴り飛ばした。


少年:「ぐあっ」


 致命傷に限りなく近いダメージを受け、少年は地面に大の字になって倒れた。もう全身、体のどこにも力が入らない。


アリサ:「私の質問に答えろ。さもなければ――」


 アリサは神器の剣先を少年の首に突き付け、尋問を開始した。


アリサ:「お前がヨハネの翼のリーダーか」

少年:「………………違う」

アリサ:「目の前のビルで起こってる立て籠り事件。これは私を誘い出すための罠か」

少年:「………………イエス」


 意外にも、少年はアリサの質問に正直に答えた。最後の質問を除いては………………


アリサ:「お前たちの目的は」

少年:「………………」

アリサ:「お前たちの、目的はっ」

少年:「………………ぐあっ」


 腕を失った左肩に剣を突き刺されても、少年はこの質問だけには答えなかった。答えなかったのではない。この質問に少年は答えることが出来なかったのだ。


アリサ:「お前たちのボスは、一体何の目的があってこんなことをしているんだ」


 少年はその質問の答えを知らなかった。答えない少年の代わりに今しがたその場に現れた第三の人物がアリサの質問に答えた。


???:「時代を進め、人類を新たな上の時代(ステージ)へと昇華させる。愚か者どもが少しでもましな人間になれるよう俺たちが人類全体を導き、管理する――それが俺たちの目的だ」

アリサ:「っ、お前は」


 背後からアリサの質問に答えた謎の人物の正体を知り、アリサは身も心も停止させた。


???:「久しぶりだね、アリサ」


 ???――事件の黒幕にしてヨハネの翼の頭首、その正体はアリサのよく知る人物だった。


 真実を知り驚くアリサに???は一瞬、親愛の籠った笑みを見せると、手にした神器をアリサの胸に向かって突きだした。


アリサ:「っ――」

オーディン:「ほう、これを躱すか」


 間一髪、最小限の動きで???の攻撃を躱したアリサだが――


アリサ:「な、に…………」


 躱したはずの神器がアリサの胸を背後から貫いた。


オーディン:「君とは互いに良好な関係を築けたかもしれなかったのに、残念だよ。巡り合わせが悪かった」

アリサ:「どうして、お前がっ――」


アリサの言葉には応えず、???はアリサの胸に刺した神器を引き抜いた。


 わずかに重心を動かし、致命傷(心臓)を避けたアリサに止めを刺すため、再び???は胸を突き刺そうと神器を構えた。そこへ――


ユウ:「アリサ――」

アリサ:「ゆ、ユウ………………」


 立て籠もり犯の制圧が終わり、外へ出たユウたちは変わり果てた街の姿を見てすぐにアリサたちの元へ駆けつけた。


???:「行くぞ」


 今はまだ自分の正体を知られるわけにはいかない。


 近づいてくるユウたちの足音を聞き、???はアリサに止めを刺さず、少年と共にその場を去ることを決めた。アリサは心配そうな顔で自分の元へ走って来るユウの顔を最後に、意識を失った。

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