はじめての大舞台
よし、ついにだ。
僕はこの夏、はじめて大舞台で声を響かせる。
あの日から待ち望んでいた夏が来た。少しばかり暑いが、そんなことは大して気にならない。
この数年間の努力がついに実を結ぶ、そう思う気持ちのほうが勝っている。
まだ早朝で聴衆は少ないが、昨日の夜から準備は始めている。もう既に準備万端だ。そろそろ歌い始めても良い頃かもしれない。
きっと僕の声に惹かれて多くの聴衆が集まるに違いない。そう思えるほどに自信がある。
もう我慢できない。そろそろ始めようではないか。
僕はステージの真ん中に向かった。全身に緊張が走る。
大きく一回、深呼吸をしたあと、僕は大きな声で歌い出した。
空気を震わすこの感覚、このためにここまで頑張ってきたのだと強く実感する。
しかしその瞬間、大きな音と共に辺りが暗くなった。
「やったー! パパ! セミ捕まえたよ」




