第0話 少女の最期
(…パチッ…パチパチッ……パチパチッ…)
不思議な音で目を覚ました。
なんの音だろうか?
枕元に置いてある、デジタルの目覚まし時計を確認する。0時10分。
「…かっ……りん…かっ…りんかっ…」
階下の寝室から、両親が自分の名前を呼んでいる声が微かに聞こえる。
こんな深夜に一体どうしたと言うのだろうか。
眠い目を擦りながらベッドから降りる。
扉に近づくと、謎の音がより大きく聞こえてきた。すると、パチパチッという乾いた音だけでなく、ゴウゴウという音がしていることにも気がついた。
(何か、部屋が熱いような)
そんなことを思いながら扉を開く。
直後視界に飛び込んできたものは深夜の暗闇ではなく、鮮やかな赤、橙の炎に彩られた世界であった。
(え、なにこれ…)
と同時に、大量の煙が部屋に入り込んできた。
(っ!)
[家が燃えている]
それを理解するのに、時間はかからなかった。
なんで?
そんなことはどうでもいい。
とにかく、どうにかして此処から逃げなければ。
「どうしよう…」
両親は来ない。
それどころか、自分の名前を呼ぶ声もいつのまにか聞こえなくなっていた。
焦り
幼いながらに、彼女は全力で頭を働かせた。
下に降りて逃げるのは難しいだろう。
勢いを増す炎と煙によって1メートル先でさえ視認は難しい。
後方を振り返る。
そこには窓があった。
部屋は2階に位置しているが、窓から地表までは3メートルほどであろうか。
(っ、)
多少の怪我は覚悟しなければならない。
まぁ、死ぬこと以外はかすり傷だ。
死なない可能性があるならば、なんでもいい。
(窓から逃げ出そう)
そして少女は窓から飛び降り、逃げることができなかった。
少女は、窓が唯一の脱出口だと直感で理解した。
その直後、強烈な眩暈に襲われた。
(気持ち悪い 頭が痛い 吐きそうだ)
少女が目を覚ます前から家は燃え続けていた。
彼女は煙を吸い過ぎてしまった。
少女はその場で倒れ込んだ。
もう身体も動かない。
痺れたような感覚だ。
彼女は自分が死ぬのだと理解した。
「うぅ……おとぅさぁん…おかぁさぁん…誰かぁ…助けて」
意識が朦朧とする中で、少女が振り絞って出した声は、燃え盛る炎の音に掻き消された。
彼女の声は、誰の耳にも届くことはなかった。
「…る…か……」
少女は意識を失った。