表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

江戸怪奇譚集

隣の鰹

作者: 大野 錦

 お久しぶりです。

 今年は(も)花粉症がヒドいです。

 

 どうにかならないんですかね。

隣の鰹



 初鰹を「粋」として、江戸の人々が珍重していたのは、有名である。

 尤も、本当に初物として入手できるのは、極めて限られていた人たちだが。

 大半の庶民は、大体現在の六月から七月の値段が落ちる頃になって、漸く手の出る物である。

 また、鰹の薬味は、当時は芥子(からし)をつけて食すのが一般的だった。


 文政の終わり頃。

 とある長屋の夫婦が(現在の)八月も半ばも過ぎてから、如何にか安価な鰹を手に入れた。

 魚屋にて、夫が鰹を購入し、妻は芥子の用意をする。


 夫婦は大喜びして、初鰹を堪能したが、次の日に彼らが働く商家の番頭がこう言って、小馬鹿にした。

 彼は(現在の)四月の初めには、もう既に大金を払って食べていた。

 上司であるこの番頭は、煙草好きで、煙管を常に持っている。


「お前ぇさんらが喰ったのは、隣の鰹だよ。今頃喰って、満足するたぁなぁ」


「何ですかい。でも何とも口に広がる旨味が有りましたぜぃ」


「だから、其れが隣の鰹なんだよ。初鰹ってのは、さっぱりとした味がするもんなんだ」


 隣の鰹と聞いて、全く不可解な夫婦だったが、以降この夫婦はこの味が忘れられず、毎年(現在の)八月や九月に入ってからの鰹を、「初鰹」として食べていたのだった。



 「隣の鰹とは、全く奇妙な話だねぇ」、とこの本来の語り部の江戸時代の生まれの老婆は語り終えたが、聞き手の私の高祖父は珍しく調べて、次の様な補足を記していた。


「恐らく、この夫婦が味わっていたのは、戻り鰹の事だろう。『隣の鰹』とは、戻り鰹を意味していると思われる。そう言う意味では、初秋に戻り鰹を食べていたのだから、彼らは『戻り初鰹』を堪能していたのだ」


 そう、日本で獲れる主な鰹とは、太平洋側を黒潮に乗って、春に九州南部から北上し、夏に本州の最北端に達し、其処で親潮とぶつかるためUターンして、また南下する季節的な回遊魚である。

 つまり、隣を逆方向に泳いでいる訳だ。

 南下する鰹は脂が乗り、春に獲れる物とは、また異なる美味である。

 因みに鰹は「夏」が季語だ。


 其の様な訳で、当の番頭は「隣の鰹」と呼んで、小馬鹿にしたのだろう。 

 だが、味が良ければ、「初物」や「粋」など、如何でも好い事では無いか?


隣の鰹 了

 この投稿日前の夕食に、初鰹食べました!


 1000字以内のショートショートを作ってみたかったので、チャレンジしてみました。

 推理物で小話やるのは、ちょっと変ですかね。


 っていうか、秋の歴史のテーマが「食事」のなので、そっちで投稿したほうがよかったような。


 ちなみに夏のホラーは書き上げていて、秋の歴史に今現在悪戦苦闘中です。


 なんか、本文より、前書きと後書きの方が文字数が多くなってそうですね。

 次の投稿予定は夏のホラーなので、よろしくお願いします。


【読んで下さった方へ】

・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。

・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■これらは発表済みの作品のリンクになります。お時間がありましたら、よろしくお願いいたします!

【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
[良い点] 勉強になりました。さっぱりしたカツオが食べたくなりますね。
[良い点] 冒頭の一文からして、かなりの書き手の方だとお見受け致す。 初鰹を題材に、春の推理に持ってくるとは、豊かな感性ですね。 初物七十五日とは言いますが、あいにく僕は鰹には苦い思い出があります。 …
[良い点] 鰹節について勉強になりました。 幼少の頃、親戚の家でカンナ付きの木箱で削らせてもらって、味見をした覚えがあります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ