1ー6. 来客
セルに主人公の座(役割)を譲って(押し付けて)から数日がったった。セルに合うとたびたび
「あ、あのーこの前の話は無しに……」
とかぼやかれたような気がしたが、聞こえない振りをしておいた。
この事について全く悪くないと思ってはいないが、攻略対象達に懐かれて、王妃とかになったら冒険(旅行)に行けなくなってしまう。冗談じゃない。
顔面蒼白になりながら前言撤回を試みるセルには悪いが、ここは一旦生贄になってもらう他ない。全面サポートはするし、主人公スキル利用して何かしら役に立てるだろう。
野望のためだ、しほんの少しだけ悪いなとは思うので全力で手伝うし見捨てないことは心に誓ったのであった。
『メガネ』が欲しい
最近こう思うようになってきた。リティスの記憶は役に立たないし、乙女ゲームについては調べられないし、調べ物のたびに往復2時間の図書館に行く訳にもいかない(メイドの仕事もあるし)。今となってはスマホが恋しいの。
この『異界』の正体に近い答えを知っていた『メガネ』なら乙女ゲームの攻略にも、調べ物も、欲しい情報をくれるのではないのか、と。決して面倒くさい訳ではないのだ。
『メガネ』は異世界攻略には必需品だと確信したので、その後セルの『メガネ』に『交渉』を持ちかける事にした。
セルの部屋に行くと、珍しい事に来客がいた。良質で煌びやかな服を着た男と執事服の男だ。見た感じだと2人とも中学生くらいだ。多分だが良質な服の男はセルの3人の兄の内の1人だ。執事服の方は私と同じ友達兼付き人なのだろう。タメ口でサラッと主君を馬鹿にするあたり2人の様子を見るからに上下関係は見受けられない。2人の関係は本当に友達であり対等なのだと感じた。
扉の前で突っ立っていた私に気付いたのか2人は席を立った。
「おや、お客様のようだね。じゃあ僕らはこの辺で」
気を使ってくれたのだろうか。そうならば尚更申し訳が立たない。私は直さま口を開いた。
「お気遣いありがとうございます。しかし後からきたのは私ですのでお気になさらないでください。失礼しました」
そう言って立ち去る事にした。
「丁度話終えたところだだから大丈夫だよ!」
いい人だ!だがここで、じゃあ邪魔するねん!なんて言える訳ないし。
「予告無しに来てしまったのは私の方なので」
取り敢えず引き下がってみた。
「予告無くきたのは僕らも同じだからウィンウィンだよ。それとレディーファースト!」
パチンッ!とセルの兄だと思わしきイケメンはウィンクをした。顔が良いのでその仕草がよく似合っている。こいつ攻略対象じゃないだろうなと疑ってしまうほどに。
「それならお言葉に甘えて……ありがとうございます」
「いえいえ。また来るね、セル」
そう言ってイケメンは部屋を出て行った。
「失礼した」
と、執事の人も続いた。
すれ違いぎわに『ギロッ』と睨まれたのは気のせいであろうか。
2人が立ち去った後私はセルに許可をとってイケメンの座っていたソファーに腰掛けた。取り敢えず気になっていた事をぶつけてみた。
「今の人、お兄さん?」
「うん。2番目の兄さんでレイゲスト・ローレン。レイ兄さんだ」
「やっぱり、じゃあ隣の執事は私と同じ……」
「そう。名前は確かシンクと言ってたな」
私の想像はあたっていた様だ。
「2人とも普段はシルヴェア学園の魔術科に通っているらしい。今は悪魔週間全学部連休だって」
へぇー。こっちでいうゴールデンウィークみたいな感じかな?
(悪魔週間とは一年の終わりである6月66日から1月1日までの期間である。長すぎてもはや週間ではない気がする)
「今は長男以外ここ(侯爵家)にいるみたいだ。7人兄妹ってすごくね!?」
「マジか……」
凄いな。内分けは『兄、姉、姉、兄、兄、セル、妹』姉2人は双子らしい。セルといいレイさんといい美しい人が多いな。
「じゃあ私達もシルヴェア学園に通うのか?」
「そうみたいだ。入学は10歳だったな。とは言っても前世とは暦が全然違うからな。」
そう、この世界は前世の世界と暦が全く違うのだ。これをセルに聞いた時は驚いたものだ。一日は長いし一月がくそ長いし違和感がありすぎた。
どうやら一年が666日で6月までしかなく、ひと月111日とのこと。さらに一日が66時間という(1分66秒)。前世は一日24時間で一年365日、1ヶ月28~31日、12ヶ月。……長すぎる。
「ん?今が一年の終わりなら入学まで後50日もないような……」
セルの一言で空気が固まった。
「うへぇ!?マジだ。どうする?」
「どうするって……乙女ゲームの攻略か……」
今にも逃げ出したいと顔に書いてあるぞセル。逃がさないけど。
「!?そもそも入学しないとか……だめだよな」
「だめだ」
良い訳ないだろ。攻略対象闇落ちするぞ。
「だよな……」
セルは悲しそうに言った。
「ん、そういえば入試みたいなのあるのか?」
気になったのでセルに聞いてみた。
「俺らは無いよ。一応貴族だし生まれた時から入学が決まっているらしい。一般入試はあるみたいだけど」
強制か。貴族セコいな……。ちなみに一般入試は筆記2割の実技8割とのことだ。頭悪くても力があれば入れる。まさに弱肉強食だよね。てか、それ知ってるなら入学しないという選択肢はないのでは?
「?私は貴族では無いが?」
「お父様の配慮でお付きの者として強制入学だとよ」
「だけど私らこっちの知識も魔術とかも使えなくないか。入試がないなら入学は大丈夫だけどその後やばくない?」
「それに関してはお父様が講師を付けてくれる。元から入学少し前に講師をつけるつもりだったらしい。俺からも頼んだけど大切な護衛としてリティスにも付けてくれるって」
「!マジで!今度会ってお礼を言わなきゃな。ありがとう」
驚いた。入学の手配もだけど講師までとは……使用人に対しての扱いではないな。
あまりにも待遇が良すぎて引っかかる。ただの優しさなら良いが何か企みがありそうだ。物語の筋書きにあるなら少しまずいな。確定したわけではないのでセルには言わない。今考えても意味がないので取り敢えず頭の隅に置いておく。考えすぎだと良いのだけど。
「攻略についてはまだ考えなくて良いよ。まだ先だろうし。入学するまではこちらの情報収集と魔術を極めようか」
今いろいろ考えても意味はない。主人公補正みたいなのがあるならなるようになるだろう。
「そうだな。ゲームの情報がないから今やれるのはそれだけだろ」
セルも賛同してくれ多様だし入学までは特訓しつつのんびりできそうだ。魔術の練習とかはちょっと楽しみだな。ファイアーとかアイスとかできるのかな。空飛んだりもの浮かせたりとか。などとこれからに想像を膨らませてみた。うふふあははとかニヤニヤしていたらセルに声をかけられた。
「そういやぁお前なんの用できたんだんだ?」
ハッ!?忘れてた……メガネの件完全に忘れてた!?良いよなんて軽々しく言ってくれる内容じゃないけど言わないよ
りマシだよね。私は交渉を試みた。
「えっと、メガネをください!!!!!」