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婚約

馬車に揺られ、しばらくの時が経った。

乗り心地は快適だ。

エメリーヌが今まで乗っていた馬車とは違い、疲労の蓄積度が段違い。


景色を車窓から眺めているだけで、時はあっという間に過ぎ去っていった。

気づけば馬車は止まっている。


「お待たせしました。到着です」


馬車を降りると、眼前には圧巻の光景が広がっていた。

白亜の城が聳え立っている。


花々が咲き乱れる大庭園、飛沫を上げる噴水。

庭園の隅では庭師がせっせと動き回っている。

ずっと延びる道の先に、威容を示す城があった。


「こちらへ。ご足労願います」

「は、はい!」


エメリーヌは言われるがまま歩き出す。

桁違いの規模に冷静さを欠いていたが、振る舞いには気をつけなければならない。


粗相があれば、さらに家格を落としてしまうことになる。

婚約も破棄されてしまうかもしれない。

彼女は慎重な振る舞いをしようと、自分に言い聞かせた。


 ***


城内を歩き、客室の前に立つ。


「こちらに旦那様……ヴィクトル公爵がいらっしゃいます

 準備はよろしいですか?」

「はい。問題ありませんわ」


客室の扉が開かれる。

エメリーヌは震えを抑えて入室した。


「──来たか」


視線の先、真正面のソファに座る美青年。

輝きを持つ銀色の髪。

鋭く冷たい紫紺の瞳。


驚くほど整った顔立ちを持つ公爵。

『無情公爵』──ヴィクトル・ベランジェである。


彼の視線を受けて、エメリーヌの心臓が跳ねた。

だが、振る舞いは完璧に。

それが淑女として躾けられたマナーだった。


「エメリーヌ・フィネルと申します。

 お久しぶりです、ヴィクトル公」

「……座れ」


ヴィクトルは挨拶に頷き、淡々と着席を促した。

エメリーヌはヴィクトルの正面に座る。


「アラベル、茶を」

「はーい」


傍に控えていたアラベルという女性使用人が、ティーカップに魔力を籠める。

すると琥珀色の液体が注がれた。


本来ならば紅茶を注ぐのはエメリーヌの役割だ。

だがヴィクトルは彼女の非才を知って使用人に茶を注がせたのだろう。


「改めて、俺がヴィクトル・ベランジェだ。

 陛下の王命により、お前と婚約を結ぶことになった」

「はい。私のような出来損ないを引き取っていただき、ありがとうございます」


瞬間、ヴィクトルの眉間に皺が寄る。

その反応を見てエメリーヌの肩がびくりと震えた。


「……ふん、まあいい。王命に従い、貴様と婚約を結ぶ。

 周囲の連中もそろそろ結婚しろとうるさいからな」


ヴィクトルは若手ながらすさまじく有能。

夭逝した親に代わり、今や公爵として領地を管理している。

彼が急速に国内での地位を確立し、傾いていた領地を立て直したことは有名だ。


そんな有能な人間なのだから、世継ぎを残せと言われるのも頷ける。

しかし、その相手がエメリーヌとは。

自分でもヴィクトルの相手に相応しいとは思えなかった。


「だが、エメリーヌ嬢。あくまでこれは表面上の婚約。

 俺はお前と愛を育むつもりはない。今のうちに婚約を取り消したければ、俺が国王と話し合って婚約を白紙に戻すが……どうだ?」


ヴィクトルは試すように問うた。

父からも同様のことを言われたが、エメリーヌの覚悟は揺るがない。

自分の役目は理解していたから。


「いいえ、問題ありませんわ。婚約を謹んでお受けいたします。

 これから、どうぞよろしくお願いいたします」


エメリーヌの毅然とした返答。

意外な言葉にヴィクトルは困惑した。


ヴィクトルは自分の悪評と、そして愛想のなさを理解している。

だからこそ婚約者が出来ないのだと。


いったん紅茶を飲み、ヴィクトルは思考する。

どうして自分のような人間と結婚したいのか……と。

それは当然、貴族間の関係性もあるのだろう。


しかしながら、相手の人間性は何よりも重視すべき側面だとヴィクトルは考えていた。

結婚生活に最も求められるのは相手への理解。

相手を理解する態度を見せないヴィクトルが好まれないのは当然だ。


「……わからん。まあ、お前が構わないのならば良い。

 詳しい話は後程するとしよう」


ヴィクトルが鈴を鳴らすと、使用人がやってくる。


「エメリーヌ嬢。お前の侍女として、このナタリー・マリオットを用意した。好きに使ってやってくれ。

 ナタリー、部屋へ案内を」

「承知しました。エメリーヌ様、こちらへどうぞ」


ナタリーと呼ばれる侍女に案内され、エメリーヌは退室する。

去り際に礼をすると、ヴィクトルは軽く視線を向けて頷いた。


ひとまず婚約はまとまった。

エメリーヌは安堵してナタリーに続いた。

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