表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/36

ベランジェ公爵家へ

「な、何ということだ……」


書状を受け取った父、グザヴィエは顔を青くした。

わなわなと震える手。

額から滲む冷や汗。


そんな父の様子を見て、エメリーヌは説得を試みる。


「お父様。アンドレ様に婚約破棄された私が、このような良縁を結べたのは喜ばしいことです。

 これでフィネル家の家格も上がることかと……」


エメリーヌが役に立つにはこれしかないのだ。

令嬢魔法が使えない令嬢など、本来は見向きもされない。

婚姻が重要な貴族にとって、これは思わぬ好機だった。


「そうではない! エメリーヌ……嫌なら辞退しても良いのだぞ? 陛下になんとか交渉し、王命を取り下げていただくことも……」

「いえ。そんなことをすれば、ますますフィネル家の評判は落ちてしまいます。私に文句はありませんわ」


経済難に、才能のない娘。

後継ぎの兄も大した器ではなく、フィネル家は没落の一途をたどっていた。


エメリーヌが我慢することで多くの問題が解決されるのだ。

ならば、喜んで婚約を受け入れよう。


「だが、ヴィクトル公は……私も何度かお話したことがある。彼は本当に容赦がなく、王族相手にすら退くことを知らん。

 今回の王命も突っぱねるかもしれんぞ?」

「もしヴィクトル公が拒否すれば、私はそれまでです。二度と婚約者は見つからないでしょうし、諦めることにしますわ」


いっそ修道女にでもなってしまおうか。

もう貴族社会は疲れた。


いくら努力しても報われない世界。

すべてが魔法の才能で決まってしまう世界。

そんな社交に、エメリーヌは嫌気が差していた。


「……わかった。

 だが、もしも体罰や嫌がらせをベランジェ公爵家で受けたら、いつでも我が家に戻ってくるのだぞ? とりあえずヴィクトル公の返事を待とう」

「お父様……ありがとうございます」


ヴィクトルから嫌がらせを受ける可能性も、もちろん考えていた。

だが才能のないエメリーヌは、今まで何度も社交場で馬鹿にされてきた。

ゆえにストレス耐性もそれなりにある。

度が過ぎない不遇なら許容できると考えていた。


父の思いに感謝し、エメリーヌは自室に戻った。


 ***


数日後。

結局、ヴィクトルも王命を承諾したようだ。


「……」

「……」


エメリーヌとグザヴィエは黙して屋敷の前に立っていた。

先程連絡があり、領内にベランジェ公爵家の馬車が入ったと。

出迎えで待つ間、二人は緊張してひたすら沈黙していた。



やがて、遠方から馬車が見えてくる。

なだらかな道の上を走る白馬。

ベランジェ公爵家の家紋が入った、芸術品のように美しい馬車だ。


「お待たせいたしました。

 エメリーヌ・フィネル伯爵令嬢でよろしいでしょうか?」


馬車の御者が確認する。

エメリーヌは頷き、慣れた所作でカーテシーした。


「お初にお目にかかります。エメリーヌ・フィネルです。

 どうぞよろしくお願いいたします」


馬車の扉が開き、入るように促される。

グザヴィエは物憂げな視線でエメリーヌの背を押した。


「……気をつけるのだぞ」

「はい、行って参ります」


向かう先はベランジェ公爵領。

国の中でも随一の勢力を誇る地だ。


エメリーヌは緊張しつつも馬車に乗り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ