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言葉

「まあ、不敬罪だな。パメラにアンドレ……二人ともずいぶん舐めた真似をしてくれたもんだ。あとはヴィクトルの臣下を監禁したという罪もあるし、姉上を脅迫したという罪もある。

 シャルロワ侯はこの場にいないが、彼も後ほど捕縛させてもらおう」


クロードはパメラとアンドレ、二人に告げる。

すっかり二人の顔色は青くなっていた。

どう言い繕っても罪は拭えないだろう。


「さて、皆! せっかくの卒業パーティーを暗い雰囲気にしてすまないね!

 ここからは再開する! ぜひ楽しんでいってくれ!」


クロードは高らかに宣言した。

貴族たちはどこか盛り上がりを見せている。

目の前でエメリーヌとヴィクトルが刺されかけたというのに、王女が脅迫された事実が明らかになったというのに……彼らは喧しい。

貴族とはそういう生き物、噂話やゴシップが大好きな性質なのだ。


社交界でも悪評高いアンドレとパメラの捕縛……貴族たちを盛り上がらせるには充分だった。


「悪いけどヴィクトル、エメリーヌ嬢は一緒に来てほしい。姉上とアラベル殿はお疲れだろうから休んでくれ」


そう言うと、クロードは衛兵と共に別室へ向かって行った。

アンドレとパメラは露骨にこちらを睨みながら連行されていく。


「本当に……大変な人たちですね。まさか王族を脅迫するとは」

「下賤な連中だ。関わりたくはないが、最後まで責任をもって処断しなければな」


エメリーヌたちは嘆息しつつクロードに続いた。


 ***


さて、別室でパメラは開口一番に言った。


「ちょっと! ここはセルネ公爵家ですよ!?

 私が捕らえられるのはおかしいのではなくて!?」

「あのさ、パメラ嬢。領地ってのは王家が与えるもんだ。王族である俺が命じれば、領地内で君を捕まえることもできるさ」


クロードは呆れた様子で対話を試みる。

パメラは納得せずに喚き続けている。

一方、アンドレはずっと黙ったまま腕を組んでいた。


「あの……クロード殿下。私に、パメラ嬢と話をさせてくださいませんか?」

「ん……いいけど。大丈夫かい?」

「エメリーヌ。先程のように刺そうとしてくるかもしれん。パメラに関わるのはやめておけ」


ヴィクトルは心底エメリーヌを心配しているようだ。

だが、話さねばならないことがあるのだ。

どうしてもひとつだけ。


「ヴィクトル様、心配してくださってありがとうございます。パメラ様は手を縛られていますし、大丈夫ですわ。

 でも……ヴィクトル様がご心配なら、そばにいてください」


そう言うと、ヴィクトルは無言でエメリーヌの隣に立った。

何があっても彼女を守れるように。


接近したエメリーヌをパメラは睨みつける。

だが、エメリーヌは柔和な表情で接した。


「あの、パメラ様。私はアンドレ様の元婚約者として、あなたがアンドレ様を慕っていることは理解していました。たびたびアンドレ様と遊んでいましたし、私に辛辣な言葉を浴びせていましたものね。

 きっと令嬢魔法の才能がない私が、公爵令息の婚約者なのが気に食わなかったのでしょう」

「……で? そうだけど?

 だから何?」

「令嬢の価値は、才能にはないと思います」


きっぱりと言いきったエメリーヌに、パメラは目を丸くした。

いつか言おうと思っていた言葉だ。

別にパメラだけに伝えたいわけではない。

貴族全員に、この言葉を届けたかった。


「貴族の役目は、民を守ることですわ。令嬢魔法って一見して綺麗ですよね。豪華なドレス、カップ、ダンス……とても美しい。

 だけど、それは外面的な価値しか伴わないのです。民を守ることには何の役にも立ちません。もちろん、努力できる範囲で自分は綺麗にしたいですけれど……一番大切なことを、社交界は勘違いしているように思うのです」


ヴィクトルは隣でエメリーヌの言葉に深く聴き入った。

そうだ、彼女の言葉こそヴィクトルの本懐。

これほどまでに彼の理想に沿う令嬢がいるだろうか。


「な……」


パメラは言葉が出なかった。

自分の常識を否定されたのに、反論が出てこない。

民を守ることは貴族の責務で、令嬢魔法云々は二の次。

頭では理解していても、ずっと目を逸らしていたから。


そのとき、はじめて沈黙しているアンドレが動いた。



「……すばらしい! エメリーヌ、その心意気はお前しか持てないな」

「アンドレ様……? 急にどうされたのです?」

「いやなに、お前の心根に感心したのだよ。そうだな……ああ、わかった。

 ──お前を俺の婚約者に戻してやる。だから罪を不問としろ」


耳を疑った。

彼は何を言っているのだろう、と。

その場にいた誰もが同じ感想を抱く。


「どういうことでしょう?」

「そのままの意味さ。お前は俺によりを戻してほしいのだろう?

 そんな堅物の無情公爵なんぞより、俺の方がお前を笑わせてやれる。だから俺とエメリーヌ、二人の将来のためにも罪を不問とし……」

「ふざけないでくださいまし」


ぴしゃりと言い放つ。

エメリーヌの語気には強い怒りが籠っていた。

彼女はアンドレの要求にはさして怒っていない。

問題なのは『そんな堅物の無情公爵なんぞより』というフレーズ。

これが彼女の怒りを呼び起こした。


「私はあなたを毛ほども愛していません。一度も愛していると言ってくれなかった婚約者を、どうして愛することができましょうか。

 私の婚約者はただおひとり、ヴィクトル様だけです。彼は私を心の底から愛してくださいます。だから私も彼を心の底から愛しています」


すぐ近くにヴィクトルがいるというのに、愛を思いきり告げてしまった。

数秒後にハッとなったエメリーヌだが、もう手遅れ。

彼女の耳は真っ赤に染まる。



……と同時。

彼女がぐいと抱き寄せられた。

ヴィクトルの温かい腕の中に抱擁されている。


「ああ……その、なんだ。人前でこういう惚気は好まないのだが。

 エメリーヌの言葉を聞いて、俺はひどく嬉しかった。

 ──ありがとう」


ありがとう。

ああ、やはり彼は無情なんかではないのだと。

そうエメリーヌは痛感した。


ちょっと感情表現が苦手だけれど、誰よりも人を思いやるのがヴィクトルだ。

エメリーヌはとうの昔に本質を見抜いていた。


「ば、馬鹿な……俺を選ばないと後悔することになるぞ!?」

「ちょっとアンドレ様!? なんでエメリーヌなんかに……」

「パメラ、お前は黙っていろ!」


手足を縛られた状態でパメラとアンドレが言い合いを始めてしまった。

まったく、本当に成長の芽がない二人だ。


彼らの様子を見かねてクロードが言い放つ。


「ま、そういうわけだ。この罪人二名は王都まで連行するよ。

 処断は決まり次第、君たちに連絡する。エメリーヌ嬢とヴィクトル、二人のおかげで姉上は解放された。本当に……ありがとう」


ヴィクトルとエメリーヌは微笑んで頷く。

結果的にすべてが上手くいった。

卒業パーティーを乱してしまったのは少し申し訳ないが……社交界に渦巻く悪の芽を少しでもなくすことができた。


「さて、帰るぞ。俺たちのベランジェ家にな」

「はい。ヴィクトル様」


エメリーヌはヴィクトルと腕を組み、その場を後にした。

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