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断罪と解放

一階、パーティー会場へと戻る。

エメリーヌとヴィクトルの後ろには、二人の手によって救出されたアラベルの姿があった。

ボロボロになったアラベルの姿を見て、貴族たちは何事かと顔を顰める。


怒りに滾るヴィクトル。

その横でエメリーヌはアラベルを必死に支えていた。


三人の様子を見て、真っ先に走ってきた者がいる。

彼女──パメラ・セルネは顔を蒼白にして立ち塞がった。

口をパクパクと動かし、何か言いたげにしている……が、言葉は出ないようで。

ヴィクトルは憤懣の籠った声色で尋ねた。


「パメラ嬢。心底失望したぞ。

 貴様の行いは……人倫にもとる、最悪のものだ」


底冷えするようなヴィクトルの声。

主催者セルネ公の娘であるパメラが、ベランジェ公爵に誹られている。

その状況だけで異常事態だと察するにはあまりある。

周囲の貴族たちは徐々に口を閉ざし、何事かと注目し始めた。


「なぜ、アラベル・アンリが……」

「当家の家庭教師を誘拐してくれるとは、いい度胸ではないか。どうやらパメラ嬢だけではなく、シャルロワ公とアンドレまで噛んでいるらしいな?」

「い、いいえ! アラベルはシャルロワ侯の家庭教師として招聘されたのです! つまり、誘拐された当時はヴィクトル公の臣下ではありませんわ!」

「なるほど。誘拐したことは認める、と」


パメラは咄嗟に口をつぐむ。

暗に誘拐したことを認めてしまい、彼女の顔はさらに青くなった。


「誘拐だと……?」

「セルネ公爵令嬢が?」

「まさか……そんなはずは」

「いや、だが自ら認めていたぞ」


様子を見ていた貴族たちも口々に囁き始める。

こうなっては拡散は止められない。


さらに仕返しと言わんばかりにアラベルが口を開いた。


「契約書によれば、アラベルがシャルロワ侯の家庭教師になるのは『シャルロワ家に到着してから』だった。アラベルはセルネ公爵領で誘拐されたから、誘拐された当時はまだヴィクトルの旦那の麾下にある。

 もちろん、契約書は残っているよ?」

「……だそうだ。つまり、貴様は俺の臣下を誘拐した。これはベランジェ家に対する宣戦布告と受け取っても構わないか?」

「い、いえ……」


まさか牢屋が暴かれ、アラベルが救出されるなど思ってもいなかったのだろう。

パメラは極度の混乱にあり、まともに会話ができそうにない。


「そして……アンドレはどこにいる」


ヴィクトルは周囲を見渡す。

遠巻きにこちらの様子を見ていたアンドレが緩慢な歩調でやってくる。

彼はアラベルの姿を見て、わずかに顔を歪めた。


「俺を呼んだか、ヴィクトル?」

「アンドレ。貴様はアラベルの誘拐をパメラ嬢に指示し、それを脅迫材料にしてベルナデット王女殿下に婚約を請求した。違うか?」


衝撃的な一言に、場が騒然となる。

王女に婚約を脅して迫ったなど、不敬罪に他ならない。

アンドレとベルナデットの婚約に疑問を抱いていた者が多いだけに、これが事実だとすれば大問題となる。


「何のことか理解しかねる。まさか俺と王女殿下の婚約をねたみ、くだらん虚構話を作りだすとはな。パメラ嬢もベルナデット王女殿下も、お前たちのようなホラ吹きに利用されて迷惑なことだ」


あくまでアンドレは白を切る様子だ。

こうなった以上、隠し通すしかないのだろう。


だがヴィクトルは追撃の手を緩めない。


「では、ベルナデット王女殿下にお尋ねしよう。殿下はどちらに?」

「彼女ならすでにパーティー会場を離れた。多忙な身だからな」


どこを見渡しても、ベルナデットの姿はない。

証人が隠されればわずかにヴィクトルたちの不利になる。

少なくとも、大勢の貴族の前でアンドレの非道を糾弾することはできなくなる。


これは勝ったといわんばかりに、パメラが反撃を始めた。


「いきなり誘拐だなんて仰って、驚いてしまいましたわ。ありがとうございます、アンドレ様。このままではヴィクトル公の口車に乗せられてしまうところでしたわ。

 さすが無情公爵、タチが悪い。エメリーヌ嬢も私とアンドレ様憎しで、そのような嘘をでっちあげるとは……」


卒業パーティー中に始まってしまった口論。

貴族たちは値踏みするような視線で言い合いを眺めていた。

この場合、どちらが真実を言っているのかわからない。


誘拐した旨を口走ったことから、パメラは限りなく黒なのだが……確たる証拠がない。

おまけに無情公爵の冷徹な印象も影響していた。

本当にアンドレとパメラを陥れるため、ヴィクトルが嘘をついているのではないか……と周囲の貴族が思い始めたころ。



「やあやあ、お待たせ!

 姉上を連れてきたよ!」


明朗な声が響き渡った。

人の波をかきわけてやってきた王子、クロード。

そして後の続くは最も求められていた人物……ベルナデット。


彼女の姿を見とがめた瞬間、アンドレが声を上げる。


「なっ、なぜ……!?」

「姉上を人目につかないよう、部屋に閉じ込めておくなんてな。こりゃ俺でもキレるよ、アンドレ。君の性格は昔から知ってるが、ここまでやるとは思わなかった」


ベルナデットはアラベルを見た瞬間、彼女の方角へ駆け出していく。

婚約者であるはずのアンドレには目もくれず。


「先生!」

「ベルナデット殿下! 無事でよかった……怪我はないかい?」

「先生こそ……こんなにやつれて。さぞお辛いことだったでしょう」


二人が抱き合う姿を見て、思わずエメリーヌは微笑んでしまう。

だが、眼前で鬼のような形相を浮かべているアンドレとパメラを前にして、その微笑はすぐに消え去った。


「クロードッ! 何のつもりだ!」

「いや、何のつもりって……姉上が部屋に閉じ込められてたから助けただけ。

 それよりも、姉上。恩師アラベルさんを人質に取られて、アンドレに婚約を迫られたってのは本当なのか? その言葉をいま、俺もみんなも求めてるみたいだけど」


クロードに問われてベルナデットは静かに頷いた。


「ええ。パメラ・セルネ公爵令嬢に囚われた私の恩師。アラベル先生を盾にして、私はアンドレ・ジュアット公爵令息に婚約を迫られました。

 しかし、婚約は破棄です。こうして先生を取り戻せたのですから」


ベルナデットの言葉により会場に激震が走る。

ヴィクトルの言葉はすべて事実だった。

あり得ないと思っていた横暴が、国を揺るがす凶行が事実だったのだ。

何よりも被害者であり、王族であるベルナデットが言うのだから間違いない。


「…………」


アンドレはわなわなと肩を震わせ、拳を握りしめる。

もはや言い繕いはできない。

どれだけ自分の正当性を主張しようが、詭弁になってしまうことは自明で。


諦観を胸にアンドレが嘆息したとき、隣のパメラが不意に動いた。


「エメリーヌ嬢! あんたのせいで!

 あんたが鍵を開けたのでしょう!?」


令嬢魔法の使い手であるパメラには理解できた。

アラベルを解放したのは……忌まわしきエメリーヌに違いないと。

何もかもがエメリーヌによって奪われた……そんな見当違いの憎悪を抱くパメラは、怒りの矛先を彼女へ向けた。


普段は優雅なパメラが鬼のような形相になり、喚き散らす。

誰もがその光景に当惑した。


ゆえに止められない。

令嬢魔法でナイフを作り出し、エメリーヌへ駆け出したパメラを。


「エメリーヌ!」


瞬間、エメリーヌの視界がぐらりと揺れる。

眼前にはヴィクトルの姿。


パメラが咄嗟に突き出したナイフは、ヴィクトルによって止められていた。

あと数秒反応が遅れていれば、怪我どころではすまなかった。


「どういうつもりだ、貴様……!」

「は、放しなさい!」

「俺のエメリーヌを傷つけることは許さん!」


力任せにヴィクトルはナイフを奪い取る。

パメラは突き飛ばされ、尻餅をついた。


「あ……ヴィクトル様……ありがとうございます」

「怪我はないか」

「はい、おかげさまで」


次々と衛兵がパメラを取り囲んでいく。

パーティーの主催者の娘であろうとも、殺人未遂は看過できない。


ようやく諸悪の根源が断たれたか……エメリーヌは胸を撫で下ろす。

せっかくの卒業パーティーを台無しにしてしまって貴族たちには申し訳ないが、これでベルナデットは解放された。

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