一計
アンドレの夜会が開かれてから数日後。
エメリーヌはヴィクトルと共に客人を待っていた。
客人とはクロード王子のこと。
まだクロードは来ていない。
彼が来るまでの間、ここ数日で調べた情報をヴィクトルが共有する。
「……アンドレがなにゆえベルナデット王女と婚約を結んだのか、結論は出なかった。ただし不審な点もいくつか見られた」
「不審な点、ですか?」
エメリーヌとしても他の令嬢から話を聞いて調べていた。
だが情報は掴めず。
どうやらジュアット公爵家が婚約に関して、情報が漏洩しないように手回しをしているらしかった。
「俺が真っ先に手をつけたのは、アンドレのジュアット公爵家ではない。
元婚約者のセルネ公爵家だ。パメラ嬢におかしな動きがあったということだな。パメラ嬢がジュアット公爵家の使者と密会している様子を、斥候が持ち帰った」
パメラには興味がない。
そのような振る舞いをアンドレは見せていたのに、未だ交流があるようだ。
「斥候も密会で話された内容までは盗めなかったらしい。
ただ、シャルロワ侯お抱えの行商人も密会に参加していことは明らかになっている。だから何だという話だが」
シャルロワ侯。
どこか引っ掛かりのある家名だった。
エメリーヌは引っ掛かりの正体を明らかにするため、うんうんとうなって考える。
しかし、どうにも思い出せなかった。
どうしてシャルロワ侯という家名が気になるのだろう。
「すまない、待ったか?」
そのとき、クロードが客間の扉を開いて入ってきた。
彼はどこか疲れている様子で席に座る。
エメリーヌは疲労がよく取れる効能の茶を、茶会の魔法で淹れる。
「ああ、どうもエメリーヌ嬢。本当に助かるよ。
最近は忙しかったからね」
クロードはだらりと座って茶を飲む。
王族にしては不躾な態度だが、この場には三人しかいない。
ヴィクトルとクロードの仲を考えれば無礼講だ。
「それで、クロード。何かわかったのか?」
「んー……まず父上に話を聞いてみた。父上曰く、アンドレとの婚約は姉上自身が望んだことだそうだね。父上も反対したそうだが、押し切られたらしい。
姉上の元婚約者も、突然婚約破棄されてわけもわからぬまま。別に不仲ではなかったし、いい付き合いをしていたそうだが。
で、肝心の姉上は……何も答えちゃくれないよ。他の兄妹は姉上の婚約事情になんて興味ないし……困ったものだ」
ヴィクトルは端的にクロードの話をまとめる。
「要するに収穫ゼロということだな」
「ヴィクトル様……そこまではっきり言わなくても。クロード殿下もお忙しい身で調べてくださったのです」
「ははっ、まあヴィクトルの言うことは事実だから。そっちは何かわかったかい?」
先程までエメリーヌに聞かせていた話を、ヴィクトルは再び語る。
パメラがジュアット公爵家の使者、そしてシャルロワ侯爵家の商人と密会していたことを。
貴族の関係性は不明瞭。
裏でどんなつながりを持っているかわからない。
「へぇ……面白い情報だ」
思考しながら呟くクロード。
彼らの間に何か関わりはあっただろうか……と。
特にシャルロワ侯爵家が不気味だ。
特に二つの公爵家と仲はよくなかったはずだが。
「密会地はセルネ公爵領……どうにかして家の情報を……いや、待てよ?」
情報を集めるうち、クロードはずっと考えていた。
何かいい方策はないかと。
「──季節は春。なあ、ヴィクトル。
王立アカデミアの卒業は間近だったよな?」
「なんだ、藪から棒に。そうだが」
王立アカデミアといえば貴族ご用達の学園だ。
もちろんエメリーヌもかつて通学していた身。
そろそろ卒業の頃合いだが……脈略がない話だ。
クロードは何を言いたいのか……エメリーヌは考えてみた。
そしてひとつの結論に至る。
「……わかりましたわ! 王立アカデミアの卒業式は、毎年会場が変わりますが……例年の会場は王命によって公爵家から選ばれています。
今年の会場をセルネ公爵家にするということですか?」
「おお、エメリーヌ嬢は理解が早くて助かる! 頭のお堅いヴィクトルとは大違いだな!
王命としてセルネ公爵家を学園の卒業パーティー会場に指定する。俺から密偵を出し、式当日までに不審な人間の出入りがないかを監視して……色々と調べ上げようってわけだ」
卒業パーティーの騒ぎに乗じて、クロードはセルネ家に隠された秘密を調べようということらしい。
何かやましいことがあれば、卒業パーティーまでにセルネ家に動きがあるだろう。
何も動きがなければ家の中をパーティー中に調べればいいだけ。
「卒業パーティーには、学園への資金援助者であるヴィクトル、婚約者のエメリーヌ嬢を招致しよう。もちろん俺も行く。会場ではよろしく頼むよ」
クロードの提案に二人は頷いた。




