渦巻く謎
唐突に訪れた衝撃。
誰もがその光景に息を呑んだ。
アンドレの婚約者として紹介されたベルナデット王女。
彼女は澄ました顔でカーテシーした。
「この度、俺……アンドレ・ジュアットはベルナデット第二王女と婚約を結ばせてもらった。
正式な発表は後日となるが、今日の夜会に招いた皆さまには特別に教えておこうと思ってな」
アンドレの弁舌に喝采が上がる。
貴族たちはそれぞれの祝福をアンドレとベルナデットに送っていた。
本心ではどう考えているだろうか。
どうして品行方正なベルナデット王女が、アンドレなんかの婚約者に……と落胆しているかもしれない。
しかし貴族は上辺で語るもの。
決して負の感情を表に出したりはしない。
エメリーヌの隣に立つヴィクトルを除いて。
「どういうことだ……」
彼は苦虫を噛み潰したような表情で立ち尽くしていた。
ベルナデット王女とは一定の交流があり、人となりを知っている。
だからこそ断言できた。
彼女はアンドレなどと婚約を結ぶ人間ではないと。
「ヴィクトル様、今は抑えましょう。後で詳しく調べてみる必要がありそうです」
エメリーヌの言葉にヴィクトルは思考を取り戻す。
そうだ、ここでアンドレを問い詰めるような真似をしては家格に関わる。
とりあえず表立っては婚約を祝福するべきだろう。
「エメリーヌ、助かった。お前の諫言がなければマズいことになっていた。
……だが、腑に落ちん。なぜこのような婚約が成立したのか」
アンドレの浮ついた悪評は広がっている。
そんな公爵令息との婚約を、ベルナデットの父である国王陛下が許すだろうか?
そもそも本人の意思に沿った婚約なのか?
何もかもがわからぬまま、夜会は進行した。
***
夜会を終え、それぞれの貴族は帰路に就く。
ヴィクトルは悩んでいた。
アンドレに詳細を聞きに行くべきか。
夜会中、ベルナデット王女にはそれとなく理由を尋ねてみようとした。
だが彼女は愛想笑いを浮かべるだけで返答する様子はなし。
隣には不安そうな顔のエメリーヌ。
彼女がベルナデットから受けた恩を考えれば、不安に思うのも当然だろう。
アンドレがどれだけ碌でもない人物か、彼女は身にしみて理解しているのだからなおさらだ。
「ヴィクトル、エメリーヌ嬢。ここにいたか」
屋敷の外で考え込む二人に、ふと声がかかった。
夜闇に紛れ、茂みから姿を現した貴公子。
第三王子クロード・ヴィヴィエである。
「クロード殿下! 殿下もいらしていたのですね」
「ああ。聞いたかい? 姉上がアンドレの婚約者に……だってさ。俺も今さっき、初めて聞いた情報だよ。
姉上や父上からは何も知らされていない」
クロードは沈鬱な様子で語った。
彼の心境は察するに余りある。
姉が突然、悪評極まりない色男と婚約を発表したのだから。
「……姉上はアンドレとの婚約を望んでいないはずなんだ。少なくとも俺はそう信じたい。
きっと何か裏があるんじゃないかと思う。ヴィクトル、エメリーヌ嬢……頼む! 君たちの力を貸してほしい。この一件の真実を明らかにしたいんだ」
逼迫した表情でクロードは懇願する。
彼の頼みを受けてヴィクトルは考え込んだ。
エメリーヌとしては協力一択だ。
だが、ヴィクトルとしては立場など色々と勘案しなければならないことがあるのだろう。
しばし考え、彼は答えを出した。
「……いいだろう。昔なじみのよしみでな。
ただしクロード、お前にも協力してもらうぞ」
「……! ありがとう!
もちろん俺も協力する。まずは姉上と父上、姉上の元婚約者に確認を取ってみようと思う。
ただ、額面通りの言葉しか返ってこないだろうから……詳らかにするべきは裏事情だな」
どうしてアンドレとベルナデットが婚約に至ったのか。
政治的な裏事情を探る必要がある。
ヴィクトルとエメリーヌは数日後にクロードとの密会を約束し、会場を去った。




