見せかけの友好
「これはこれは。ヴィクトルにエメリーヌ……いや、フィネル伯爵令嬢。
よく招待に応じてくれた。ダメもとで送ってみたが……来てくれて嬉しいよ。ぜひくつろいでいってくれ」
アンドレは柔和な態度で二人を出迎えた。
想像していなかった態度にエメリーヌは狼狽える。
まるで小さいころ、親切に接してくれたアンドレのようだ。
彼が主催するパーティーには多くの貴族が来ている。
交流の幅はやはり広いようだ。
ヴィクトルは怪訝な様子でアンドレに尋ねる。
「俺たちを招いた理由を教えろ」
「特に深い理由はないさ。ただ、今後のことを考えると仲良くしておいた方がいいと思ってな。
それに……フィネル伯爵令嬢への謝罪という意味もある」
「私への……謝罪?」
エメリーヌに対する謝罪。
アンドレが今まで彼女にしてきたことを考えると、謝罪は受けてしかるべきだ。
才能がないことを知ってからの冷遇、婚約者を差し置いての夜遊び、そして公衆の面前での婚約破棄。
フィネル家の名誉はアンドレによって大きく傷ついた。
だが彼の性格を鑑みるに、素直に謝罪するとは思えない。
「ああ。俺はフィネル伯爵令嬢の婚約者でありながら、才能がないことを理由に冷たくあしらってきた。
だがヴィクトルと婚約を結んで以来、あなたは見事に才能を開花された。今後、フィネル伯爵令嬢の名は社交界で広まっていくことだろう。
俺があなたに失礼を働いたことも、名誉を傷つけたことも……どうか水に流して付き合っていただきたい。あのときはすまなかったな」
アンドレは微笑んで手を差し伸べた。
その手を取る気にはなれない。
婚約者としてエメリーヌは彼をよく見てきた。
だからこそわかる。
この表情は心を籠めたものではないと。
「寄るな。エメリーヌは俺の婚約者であり、お前のような薄情者に触れる資格はない。水に流すというのは被害者側が言うものだ」
「おいおい……せっかく仲直りしようってのに。無情公爵様のことだから仕方ないか」
ヴィクトルに遮られ、アンドレは不服そうだ。
だが大して気にしている様子もない。
エメリーヌはそんな彼を前にして萎縮していたが、ひとつ尋ねてみることにした。
「あの……アンドレ様の婚約者、パメラ様はどうされたのです? お姿が見えませんが」
「ああ、アレか。セルネ公爵令嬢との婚約は白紙にした。
王族に不敬を働くような令嬢とは婚姻できないのでね。新たな婚約者を迎えたんだ。今日の夜会で発表するから、楽しみに待っていてくれよ。それでは」
アンドレはあっさりと離縁を告げて笑った。
少しは後ろめたい様子でも見せるかと思ったが、まったく反省している気配はない。
やはり彼の心根は変わっていないようだ。
迂闊にアンドレと関わるのは危険。
たった一度の会話で、エメリーヌとヴィクトルは悟った。
「相変わらずだな。アンドレには極力関わらないようにしろ」
「心得ております。今は他の貴族の方々と交流を広げましょう」
「……」
周囲の貴族はクロードが開いた夜会とは異なり、利益目当ての者が多い。
令嬢魔法の才能が開けたエメリーヌとならば普通に交流してくれるだろう。
ヴィクトルは顔をしかめた。
やはり人と接するのは嫌いらしい。
ここはエメリーヌの出番だ。
「ヴィクトル様、あのご夫婦とかどうでしょうか?」
「ああ……デュクロ伯夫妻か。あまり交流はないが悪い評判も聞かないな」
「さあ、話しかけてみましょう!」
ぐいぐいとヴィクトルを引っ張っていく。
エメリーヌの婚約者としての立場は重い。
単純にお飾りとして振る舞うだけではなく、ヴィクトルの交流の幅を広げることも肝要だ。
エメリーヌに影響され、寡黙な彼も少しずつ……
本当に少しずつだが交流を広げていた。
***
「お集まりの皆さま、今日は俺の夜会に来てくれて感謝する」
夜会が始まってしばらく経った。
主催者のアンドレが壇上に立つと、貴族たちから拍手が起こった。
エメリーヌは不服ながらも拍手を。
ヴィクトルに至っては腕組して動きすらしなかった。
「楽しんでいただけているだろうか。
今日は皆さまに、俺の新たな婚約者を紹介したいと思う」
歓声が上がる。
恋愛事情に貴族たちは敏感だ。
すでにパメラと離縁した話を知っている人も多かった。
「さあ、上がってくれ」
アンドレの一声により、奥の方から一人の女性が歩いて来る。
やがてその女性は壇上に立った。
(えっ……!?)
エメリーヌは驚愕する。
なぜなら、その人物は……
「ベルナデット・ヴィヴィエですわ。
この度、アンドレ公爵令息の婚約者となりました」
ベルナデット第二王女。
かつてエメリーヌを救ってくれた王女だった。




