衝撃
「実は、アンドレから夜会への招待状が届いた。
俺とエメリーヌ宛にな」
ヴィクトルは後ろ暗い様子で言った。
エメリーヌを婚約破棄したアンドレが、夜会に招待してきた。
招待の意図は推察できない。
「俺は別にアンドレと深い交流があるわけでもない。
それにエメリーヌだって奴と会いたくはないだろう」
「ええ、そうですね。なぜ招待状が?」
「わからん。詳細は何も書かれておらず、定型文が載せられているだけだ」
ヴィクトルが過剰に気遣っていた理由も頷ける。
これほど意味不明な招待状がくれば、不安に思うのも当然だ。
それにエメリーヌはアンドレに対してトラウマじみたモノを抱えている。
「俺としては別に行くのは構わない。だが、判断はエメリーヌに委ねよう。
お前が行くのならば俺も行くことにする」
ヴィクトルから招待状を見せてもらう。
そこに普段のアンドレからは想像もつかないような、
慇懃無礼とも言える文章が綴られていた。
彼がしきりに夜会を開いていることは知っている。
だがエメリーヌは一度たりとも招かれたことはなかった。
ヴィクトルのついでに招いたということなら納得できるが、そもそもヴィクトルもアンドレとは仲があまりよくない。
「うーん……何が狙いだと思いますか?」
ヴィクトルは首を横に振った。
彼もアンドレとは深い付き合いがないので、意図がわからない。
「考え得る理由は二つ。
ひとつは、ベランジェ公爵家と交流したいという点。ジュアット公爵領は我が領地に比べて鉱石の産出量が少ない。最近は不況だというし、貿易ルートを開拓したい可能性はある。だが、奴が領地のことを考えるとは思えんな。
もうひとつは……いや、これは言わないでおこう」
もうひとつの理由が気になったが、エメリーヌには到底思いつかない。
正直、行くのは怖い。
アンドレがどんな態度を取ってくるのかわからないのだ。
だが、同時に行ってみたくもある。
今はヴィクトルがついているし、無才だという評判も払拭された。
社交界に堂々と出ても恥ずかしくない。
「その、今のエメリーヌは……俺と婚約を結んだころとずいぶん違う。
俺としても鼻が高いほどの令嬢で、瑕疵ひとつない婚約者だ。何も恐れる必要はない……と言いたいが。どうしても怖いものはあるだろう」
「……」
これを乗り越えなければ、一生このままだ。
生涯にわたって過去のトラウマを引きずることになる。
貴族たちの前で婚約破棄され、惨めな思いをした経験を。
ヴィクトルの優しさには甘えてもいい。
だが、甘えてるばかりではなく……支える側にもなってあげたいのだ。
だから、つらい過去は乗り超えねばならない。
エメリーヌは逡巡の末に答えを出した。
「──招待を受けようと思います」
エメリーヌの強い頷きを見て、ヴィクトルは笑った。
「ふっ……いいだろう。
いつも通り振る舞うだけだ。心配はいらない」
「はい。落ち着いて臨みます」
今やアンドレは赤の他人。
臆する必要はない。
普通に貴族として交流し、話せばいいだけだ。
エメリーヌは覚悟を決めた。




