エメリーヌの言葉
極度の緊張の中でもエメリーヌはやりきった。
今までにないくらい集中し、みごと匙を完成させたのだ。
刃物の魔法を使い始めて二週間。
ここまで見事な物を作れる令嬢は、ほとんどいないだろう。
光を受けてきらめくスプーン。
ベルナデットが提示した物とまったく同じ……いや、それ以上の出来の匙が完成した。
「……さすがだ、エメリーヌ。
お前の努力の賜物だな」
真っ先に称賛を浴びせたのはヴィクトルだった。
大勢の貴族が驚愕に沈黙する中、彼は素直に褒めた。
無情公爵が他人を讃える……それは軽く衝撃を与える光景で。
「へえ、すごいね。これでエメリーヌ嬢が令嬢魔法の才能があることは証明されたわけだ」
クロードは愉快そうに笑う。
彼とて幼いころからエメリーヌの様子は見てきた。
だからこそ、彼女の努力が実を結んだことは嬉しい。
「嘘よ……何か仕掛けがあるんだわ!
あのエメリーヌ嬢が……!」
パメラは強引に匙を奪い、まじまじと観察する。
どう足掻いても下手とは言えない出来だ。
異常だった。
まさかエメリーヌは才能を隠していたのか?
冷や汗を浮かべるパメラをよそに、エメリーヌは語る。
「ありがとうございます。たしかに私はアラベル様やヴィクトル様に支えられ、令嬢魔法が使えるようになりました。もちろん誇らしいことです。
ただ……これだけを誇りにしたくはないのです」
そうだ。
自分が誇るべきモノは、魔法の能力よりもあるはずだ。
ここで魔法の能力を振りかざせば、ほとんどの貴族たちと同じになってしまう。
「貴族として誇るべきは才能の有無ではなく、貴族として民を守る姿勢……そして努力する姿勢ではないでしょうか。
私はこんなものを誇るより、ヴィクトル様に寄り添いたいと思います。貴族としての価値が変わるよう、私も尽力していきたいと思います」
エメリーヌの言葉に拍手が起こった。
クロードをはじめ、この夜会の貴族は彼女に共感できる人ばかりだ。
完璧な振る舞いを見せたエメリーヌ。
そんな彼女にヴィクトルが囁く。
「よくやった。お前の意思、しかと感じ取ったぞ」
「はい、ヴィクトル様が心の支えになってくれて……失敗せずに魔法を使えました!」
仲睦まじく喜ぶエメリーヌたち。
そんな貴族たちの中でパメラは孤立していた。
どうしてこうなったのか。
今、エメリーヌは令嬢魔法は令嬢の価値ではないと述べた。
だからパメラ自慢の魔法の腕前も役に立たず。
無様な心持で震えていた。
「チッ……なんで私がこんな目に……!
アンドレ様……」
周囲を見渡す。
貴族の中で仏頂面で佇むアンドレの姿が見えた。
彼は退屈そうに柱に寄りかかっている。
パメラは咄嗟に抜け出し、アンドレのもとに駆け寄った。
「帰りましょう。くだらない。
エメリーヌ嬢ったら、評価ほしさに不正までしたみたいですわ」
「……無様だ」
「は?」
開口一番、アンドレは告げた。
注がれる冷ややかな視線。
今までに向けられていた慈愛に満ちた目ではない。
思わずパメラは身震いした。
「俺が忌み嫌うもの。それは恥だ。
令嬢魔法の使えないエメリーヌ、王族の前で醜態をさらすパメラ。
本当に無能ばかりだな」
「そ、そんなこと言わなくとも……」
「婚約は破棄だ。王女殿下に不敬を働くような令嬢とは付き合いたくない。
もう俺の視界に入るなよ。新しい婚約者はすでに迎えているんだ」
そう吐き捨て、アンドレはそっと去って行く。
二人のやりとりは貴族たちの興奮で、誰にも聞こえていなかった。
失意に沈むパメラと去りゆくアンドレ。
ただ一人、ヴィクトルは険しい視線でその様子を見ていた。




