表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/36

エメリーヌの言葉

極度の緊張の中でもエメリーヌはやりきった。

今までにないくらい集中し、みごと匙を完成させたのだ。


刃物(カトラリー)の魔法を使い始めて二週間。

ここまで見事な物を作れる令嬢は、ほとんどいないだろう。


光を受けてきらめくスプーン。

ベルナデットが提示した物とまったく同じ……いや、それ以上の出来の匙が完成した。


「……さすがだ、エメリーヌ。

 お前の努力の賜物だな」


真っ先に称賛を浴びせたのはヴィクトルだった。

大勢の貴族が驚愕に沈黙する中、彼は素直に褒めた。

無情公爵が他人を讃える……それは軽く衝撃を与える光景で。


「へえ、すごいね。これでエメリーヌ嬢が令嬢魔法の才能があることは証明されたわけだ」


クロードは愉快そうに笑う。

彼とて幼いころからエメリーヌの様子は見てきた。

だからこそ、彼女の努力が実を結んだことは嬉しい。


「嘘よ……何か仕掛けがあるんだわ!

 あのエメリーヌ嬢が……!」


パメラは強引に匙を奪い、まじまじと観察する。

どう足掻いても下手とは言えない出来だ。

異常だった。

まさかエメリーヌは才能を隠していたのか?


冷や汗を浮かべるパメラをよそに、エメリーヌは語る。


「ありがとうございます。たしかに私はアラベル様やヴィクトル様に支えられ、令嬢魔法が使えるようになりました。もちろん誇らしいことです。

 ただ……これだけを誇りにしたくはないのです」


そうだ。

自分が誇るべきモノは、魔法の能力よりもあるはずだ。

ここで魔法の能力を振りかざせば、ほとんどの貴族たちと同じになってしまう。


「貴族として誇るべきは才能の有無ではなく、貴族として民を守る姿勢……そして努力する姿勢ではないでしょうか。

 私はこんなものを誇るより、ヴィクトル様に寄り添いたいと思います。貴族としての価値が変わるよう、私も尽力していきたいと思います」


エメリーヌの言葉に拍手が起こった。

クロードをはじめ、この夜会の貴族は彼女に共感できる人ばかりだ。

完璧な振る舞いを見せたエメリーヌ。

そんな彼女にヴィクトルが囁く。


「よくやった。お前の意思、しかと感じ取ったぞ」

「はい、ヴィクトル様が心の支えになってくれて……失敗せずに魔法を使えました!」


仲睦まじく喜ぶエメリーヌたち。

そんな貴族たちの中でパメラは孤立していた。

どうしてこうなったのか。


今、エメリーヌは令嬢魔法は令嬢の価値ではないと述べた。

だからパメラ自慢の魔法の腕前も役に立たず。

無様な心持で震えていた。


「チッ……なんで私がこんな目に……!

 アンドレ様……」


周囲を見渡す。

貴族の中で仏頂面で佇むアンドレの姿が見えた。

彼は退屈そうに柱に寄りかかっている。


パメラは咄嗟に抜け出し、アンドレのもとに駆け寄った。


「帰りましょう。くだらない。

 エメリーヌ嬢ったら、評価ほしさに不正までしたみたいですわ」

「……無様だ」

「は?」


開口一番、アンドレは告げた。

注がれる冷ややかな視線。

今までに向けられていた慈愛に満ちた目ではない。

思わずパメラは身震いした。


「俺が忌み嫌うもの。それは恥だ。

 令嬢魔法の使えないエメリーヌ、王族の前で醜態をさらすパメラ。

 本当に無能ばかりだな」

「そ、そんなこと言わなくとも……」

「婚約は破棄だ。王女殿下に不敬を働くような令嬢とは付き合いたくない。

 もう俺の視界に入るなよ。新しい婚約者はすでに迎えているんだ」


そう吐き捨て、アンドレはそっと去って行く。

二人のやりとりは貴族たちの興奮で、誰にも聞こえていなかった。


失意に沈むパメラと去りゆくアンドレ。

ただ一人、ヴィクトルは険しい視線でその様子を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ