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証明

大広間にやってきた王女に、多くの貴族は驚愕した。

ベルナデットの弟のクロードは困惑した様子で尋ねる。


「姉上……夜会には出てこないように約束しただろう?

 それにヴィクトルとエメリーヌ嬢も……裏口から帰るんじゃなかったか?」


アンドレはそんな様子を興味深そうに見ていた。

思っていたよりもヴィクトルとエメリーヌの距離感が近い。

ヴィクトルのことだから、建前の婚約者など無下に扱っているだろう……そうアンドレは踏んでいたのだが。

どうやら意外と大切にしているらしい。


ベルナデットに続くヴィクトルとエメリーヌ。

そして三人の後をさらに追って、慌ただしくパメラが駆けてきた。


「おいおい……何事だ?」

「ごめんなさいね、クロード。

 少し夜会をお借りします」


ベルナデットは弟に断りを入れ、あえて目立つように振る舞う。

貴族たちの衆目を集めて中央に立った。


「みなさま、少しよろしいかしら?

 先程、色々と複雑な言い合いがありまして……ここにお集まりのみなさまは、エメリーヌ嬢が令嬢魔法の才能がないゆえに婚約破棄されたことをご存知ですよね」


ベルナデットの問いに周囲の貴族は頷いた。

夜会の参加者は才能に重きを置かず、貴族としての姿勢を評価する者が多い。

ヴィクトルを招くにあたり、クロードはそうした傾向の貴族たちを集めたのだ。


だからこそエメリーヌが婚約破棄された場面を、印象的に記憶している者が多かった。


アンドレとパメラが非道な理由で振る舞いを見せたことも。

この夜会の参加者の記憶には深く刻まれている。


「つい先程、パメラ嬢はこう言いました。

 『令嬢魔法こそが令嬢の価値を図る尺度である』──と。

 間違いありませんわね?」

「ええ。だからこそエメリーヌ嬢は婚約破棄されたのです。

 貴族の間では珍しくないことでしょう」


残念ながら破談される貴族は多い。

幼少期に婚約を結んだものの、才能が開花しなかった者がほとんど。

もっともエメリーヌのように、大勢の前でこれ見よがしに婚約破棄される事例はかなり珍しいが。


「言質は取りました。

 ……こちらはつい先程、エメリーヌ嬢が作った匙です」


ベルナデットは銀の匙を取り出す。

瞬間、エメリーヌの心臓が跳ねた。

覚悟はしていたが、いざ自分が注目の的にされると思うと気が滅入る。


テーブルに置かれた匙。

クロードは歩み寄って輝く匙を手に取った。


「これは……本当にエメリーヌ嬢が?

 才能がない令嬢の魔法とは思えないぞ……!?」


クロードは驚くべき事実を知るとともに、周囲の貴族を引き寄せる。

最初は引け目を感じていた貴族たちも徐々にクロードに寄っていく。


「これは……見事な光沢だ……」

「無才と言われたエメリーヌ嬢が……?」

「ウチで雇っている刃物(カトラリー)の専門よりも巧いぞ」

「エメリーヌ嬢の専門は茶会(ティータイム)だったはずでは?」


称賛、疑念、困惑。

様々な感情が口々に発された。

集まった貴族の中に、遠巻きに様子を見るアンドレの顔も見える。


異常な事態に震えるエメリーヌ。

そっと温かいものが彼女の手に触れた。

見上げると、ヴィクトルが静かに佇んでいる。

彼の横顔を見るだけで……やはり勇気が湧いてくるものだ。


「嘘よ! たった数週間で、そこまで上手くなるわけがありません!

 ベルナデット王女殿下……私を糾弾するために、わざわざ偽の食器まで用意したのですか!? さすがの私も黙っていられませんわ!」


パメラが声を張り上げる。

そうだ、この時点では判断できない。

本当にベルナデットがエメリーヌを立てるために偽装した可能性がある。


それだけエメリーヌの成長は規格外のものであった。

周囲の貴族も信用半分、疑い半分。

これを確実な信用とするためには。


エメリーヌにはすでに答えがわかっていた。

彼女はヴィクトルに頷き、一歩踏み出す。


「行ってこい、エメリーヌ」

「はい。今この瞬間に……私が作ります。

 これと同じ質の匙を、いえ……これ以上の質の物を。

 それで納得いただけるでしょう」


自分の実力を証明すればいい。

ベルナデット一人を前にするのと、アンドレやパメラを前にするのとでは緊張の度合いが違う。


だが緊張など。

ヴィクトルがいてくれるのだから掻き消せる。

誰よりも自分を理解し、接してくれる婚約者のために。


エメリーヌは魔力を籠めた。


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