令嬢の価値
優雅な足取りでやってくるベルナデット王女。
王女の姿を見て、一同は一斉に頭を下げた。
「頭を上げて。エメリーヌ嬢、お怪我は?」
「いえ、ありませんわ。お気遣いいただきありがとうございます」
「そう……よかった」
まさか夜会でこんな騒ぎを起こすなど思っていなかった。
ベルナデットはいささか腹立たしい気持ちでパメラを見た。
元凶は間違いなくパメラだ。
振る舞いが完璧なエメリーヌが騒ぎの原因になるはずがない。
「パメラ嬢」
「王女殿下、ごきげんよう。
エメリーヌ嬢が私に無礼を働きまして……申し訳ございません」
「そう。あなたが手を出したのではなくて?」
「滅相もございません!
エメリーヌ嬢とヴィクトル様は私を悪者のように扱いますが、先に無礼を働いたのはエメリーヌ嬢。私が婚約者に愛されていない人間だ……などとおっしゃるので、少し怒っただけですの」
たしかにエメリーヌは寂しくはないのかと問うた。
だが、あれはどちらかと言えば同情に近い言葉だ。
パメラと少しでも関係性を改善しようとして話しかけた。
「私の言葉が気に障ったのならば謝罪します。
申し訳ございません」
「いや、エメリーヌ。謝る必要などない。
たとえ何を言われようが、暴力に走った時点で負けだ。
貴族として無闇に手を出すことはあり得ない」
ヴィクトルは完全にエメリーヌの肩を持っている。
彼女とパメラの性格を鑑みれば当然のことだった。
この諍いを収めるには、王女である自分が動くしかない。
ベルナデットはそう感じ取る。
「わかりました。……実は一連の流れを見ていたのです。
パメラ嬢、あなたはエメリーヌ嬢に令嬢魔法の才能がないから、貴族としての価値もない……そう考えているのですね?」
「な、なにか問題でも?
事実、令嬢魔法こそが令嬢の価値を図る尺度となっています。王女殿下もご存知のはずですわ」
ヴィクトルがギリ、と歯を噛みしめたのがわかる。
才能を振りかざして高慢に振る舞う貴族が気に入らないのだろう。
彼の育った環境を考えれば当然だ。
「たしかに、それは事実です。
ですから、パメラ嬢の言う絶対的な尺度……令嬢魔法の才能をもってエメリーヌ嬢の価値を証明しましょう」
「それはどういう……?」
困惑するパメラを差し置いてベルナデットは歩き出す。
向かう先は大広間。
クロード王子たちが談笑する場所だ。
「エメリーヌ嬢、ヴィクトル公、そしてパメラ嬢。
大広間まで御足労願います」
エメリーヌの表情は強張った。
大広間にはパメラの婚約者、アンドレがいるはずだ。
元婚約者として彼に尽くしてきたために、否が応にも逆らえない習性が身についてしまっている。
いざアンドレを前にして、エメリーヌは満足に振る舞える自信がなかった。
そんなエメリーヌの様子を見てベルナデットは笑う。
「大丈夫です……エメリーヌ嬢。
いま、あなたの前にいるのは誰ですか?
あなたを誰よりも理解してくれる殿方でしょう?」
顔を上げると、そこにはヴィクトルの険しい表情があった。
しかし彼はエメリーヌの方に視線を移すと、柔らかく笑う。
──ああ、そうだ。
自分には彼がいる。
アンドレなんかよりずっと頼もしい最大の理解者が。
なんとなく……だが、ベルナデットの狙いは察していた。
だから『その狙い』を実践するためにも緊張してはいられない。
「参りましょう、ヴィクトル様」
「ああ。行くぞ」
迷いなく歩き出す三人の後を、慌ててパメラが追う。
「ち、ちょっと待ちなさい!
まだ話は終わっていませんわ!」
彼女を無視して三人は大広間へ向かった。




