アンドレの乱入
「おいおい……どういう了見だ、アンドレ?
招待した覚えはないが」
唐突な訪問者にクロードは頭を抱えた。
アンドレ・ジュアット公爵令息の登場だ。
彼がこうして夜会に乱入してくることは珍しくない。
「俺が来るのはいつものことだろう?
近くで夜会が開かれていれば、遊びに行くのが趣味だ」
エメリーヌと婚約を結んでいた時代も同様だった。
婚約者を放っておいて遊び回るのがアンドレだ。
そこでパメラとも知り合ったらしい。
普段のクロードなら、誰でも分け隔てなく接して歓迎する。
ただし、今は話が別だ。
アンドレを見ると辛い過去を想起する令嬢が来ているのだから。
アンドレの出現にヴィクトルは眉間に皺を寄せた。
「チッ……貴様が来るとはな」
「ああ、ヴィクトルか。お前が夜会に来るとは珍しいな。
そういえば……あの外れ令嬢の様子はどうだ?
お前が引き取ってくれたんだろう?」
あの外れ令嬢──確実にエメリーヌのことを指している。
ワインを飲みながら嘲笑するアンドレ。
ヴィクトルは限りない憤怒を覚え、今にも殴りかかりそうな勢いだった。
だが、ここは王子の御前。
乱闘騒ぎなど起こすべきではない。
それにアンドレは悪気なく言っているのだ。
残念ながら、『令嬢魔法が至上』という思想は多くの貴族の通念だ。
そのように教育を受けてきたのだから仕方ないとも言える。
エメリーヌを差別し、見下すことはアンドレにとって常識だった。
「貴様……我が婚約者を愚弄する気か?」
「はっはっ、怒るなって。
いつまでも婚約者が出来ないお前に、エメリーヌを当てがってやったことに感謝してほしいね」
「違う。エメリーヌを婚約者に選んだのは俺の意思だ。
それ以上の発言は侮辱と受け取る」
「はいはい。悪かったよ」
アンドレはワインを一気に飲み干し、グラスを置いた。
決してヴィクトルとアンドレは仲は良くない。
付き合い自体は幼少期からだが、性格が絶望的に合わないのだ。
堅実のヴィクトル。
楽観のアンドレ。
両者の価値観は大きく異なり、思想を受け入れ合うことはない。
「んー……いい感じの娘いないかな」
アンドレはぐるりと周囲を見渡す。
誰も彼に好意的な視線を送ってはいないが、そんなことには気づかない。
見目のいい令嬢を談笑にでも誘おうかと、見繕いを始めたところだ。
「悪いね、ヴィクトル。
もう少し気を遣うべきだった」
「いや、クロードのせいではない。
だが……俺たちは帰るぞ。エメリーヌはどこに?」
「二階だ。姉上に会いに行ったよ」
アンドレは招待客ではないが、仮にも公爵家。
クロードでも簡単に追い出すことはできない。
とにかくエメリーヌを引き合わせるわけにはいかないので、
ヴィクトルは裏口から二人で抜け出すつもりでいた。
だが、彼はアンドレの婚約者……パメラが来ていることを知らない。
ヴィクトルは急ぎ足で二階へ向かった。




